STARDUST∮FLAMEHAZE
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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#6
戦慄の侵入者 ~Emerald Etrange~
【1】
その日、目覚めの一服の後、早朝のシャワーを浴び、
愛用の学ランに袖を通して朝食の間に足を踏み入れた空条 承太郎は、
表情にこそ現さないがスタンドも月までブッ飛ぶような衝撃を受けた。
「Good-Morninge! 承太郎!」
テーブル前、チェスナット・ブラウンのガウン姿で優雅に新聞を広げ、
太陽のように明るい声を上げながらこちらを見る祖父の真向かいに、
「おはよう。遅かったわね」
綺麗に糊付けされた “自分の学生服と同色の”
クロムグリーンのセーラー服にその身を包んだシャナが座っていた。
凛々しい顔立ちを引き締め、腰の下まである長く艶やかな髪を背に流し、
堂々と胸を張って承太郎を見つめている。
朝食はもうすませたらしく、テーブルの上には
何故か異様に甘い匂いのする緑茶が置かれていた。
腰掛けた椅子の脇に置かれている真新しい学生鞄には、
油性ペンで達筆に書かれた 『空条 シャナ』 というネームプレートが貼られている。
「あら? おはよう承太郎。どう? 似合ってるでしょう?
シャナちゃんの制服。まるで昔の私みたいだわ」
湯飲みと急須の置かれたお盆を運びながら、緩やかな笑顔でうっとりと
しているホリィを承太郎は一瞥すると、訝しげな表情でシャナへと向き直った。
「何でテメーが、“オレの学校の制服” 着てやがる……?」
「おまえを狙う奴らを釣るには、やっぱりその近くにいた方がイイ、
って予め3人で相談してたの。ま、私もこういう場所には滅多にいかないから
見物がてら、ってとこ」
怪訝な視線でこちらを見る承太郎に、素っ気なくシャナは言って
スカートの中で足を組み直した。
「彼女はお前の従兄弟という事になっておる。
そのつもりで頼むぞ承太郎。新しい学校で不慣れな事も多いだろう。
色々と世話を焼いてやりなさい」
いつのまにか湯気の立つ湯飲みを持って傍にいたジョセフが、
快活に笑い肩を叩いた。
「ボケたか? クソジジイ。昨日、日本に来たばっかでンな事出来るわけねーだろ。
大体こいつはどう見ても17にはみえねーぜ。
どう贔屓目に見ても中坊、ヘタすりゃあ幼稚園児にみえる」
神速で飛んでくる中身の入った湯飲みをスタープラチナが上半身だけ
飛び出して受け止めた、承太郎は学帽の鍔を摘む。
「可能なのだ。我が『自在法』を行使すればな」
シャナの胸元で銀鎖に繋がれたペンダント、アラストールが答えた。
「貴様も昨日、代替物、トーチが消滅する所をみただろう。
それはつまり、世界の存在に「空白」が出来るという事だ。
そこに存在の力を操る術、『自在法』を用いれば己が存在を
その空白に“割り込ませる”事も可能。最も過度の干渉は世界の存在の
歪みを増長させる事になる故、この子を貴様の「縁戚」という事にしたのだ。
それが歪みを最小限に食い止める方法だからな」
「つまり、オレの学校で消えたヤツと “立場を挿げ替えた” ってことか?
便利なモンだな。」
承太郎は半信半疑ながらも剣呑な瞳でアラストールを見る。
昨日の、破壊された街を「修復」したシャナの「能力」を見ていなければ
とても信じられない話だが、今は“そういうモノ”だと納得するしかない。
アラストールがそう言うのだからそうなのだろう。
その声の重みと感じられる荘厳な雰囲気からウソやデタラメ、
ましてやくだらない冗談を言うような男 (?) でない事は類推出来る。
「フン、オレぁもう行くぜ。朝メシはいらねぇ」
そう言い捨て緩やかな陽光で充たされた部屋から出ていこうとする承太郎を
淑女の優しい声が呼び止める。
「あ、ちょっとお待ちなさい。承太郎」
そう言って満面の笑顔で彼の母親
(最も二人並ぶと少し歳の離れた姉弟にしか見えないが)
空条 ホリィが最愛の息子にそっと歩み寄る。
「ハイ♪ いってらっしゃいのキスよ♪ チュッ♪」
「この女~。いい加減に子離れしやがれ……!」
まるで恋人同士のように朝から(一方的に)睦み合う母と子。
その間でハァ、と嘆息するシャナの下で、
ムゥ、とアラストールが少し強い口調で呻いた。
【2】
穏やかな春の陽光が木々を照らし、小鳥達の囀りが閑静な住宅街に木霊する。
その清涼な朝の空気の中を、承太郎とシャナは肩を並べて (?) 歩いていた。
出る家も行き先も同じなので必然的に一緒に登校する事になる。
件の如くお互いに無言。
歩幅の大きい承太郎に、小柄なシャナが汗をかくこともなく
普通についてきているのが奇妙と言えば奇妙であったが、
それを除けば一応は同じ学校に通う同級生同士が一緒に登校しているように、
相当無理すれば見えない事もない。
まぁ「自在法」の影響下ではあまり関係のない話だが。
早朝の澄んだ空気の中に、承太郎の香水とシャナの洗い髪の
残り香が混ざって靡く。
襟元から垂れ下がった黄金の鎖と胸元のペンダントを繋ぐ
銀鎖の擦れる音も、絡まり合って和音を奏でた。
一羽の燕が、身を翻して二人の前を横切る。
その瞬間、だった。
「あぁッッ!! 承太郎だわ!!」
友人と共に登校中の、女生徒の一人が突如黄色い歓声をあげる。
「えッ!? 承太郎ッ!?」
その声を起爆剤として、登校途中の女生徒達が数十人まとめて一斉に振り向く。
「ほんとだ!承太郎!」
「おはよう承太郎!」
「おはよう承太郎!」
「おはよう承太郎!」
「おはよう承太郎!」
「おはよう承太郎!」
若々しい少女達の歓声はまるで核分裂の連鎖反応の如く、
ネズミ算式に夥しく増殖していった。
「……」
明るいそれらの声とは裏腹に、承太郎は苦々しげに学帽の鍔で目元を覆い
小さく舌打ちする。
瞬く間に承太郎とシャナは数十人の女生徒達に取り囲まれ、
周囲に可憐な少女の環が出来上がった。
思春期特有の少女達から発せられる、柔らかく甘い果実のような芳香。
どれも標準レベルを軽くクリアする、愛くるしい容貌の美少女達だ。
「承太郎? 4日も学校休んで何してたの? まさかまたケンカ?」
シンプルだが品のある茶色いストレートヘアの女生徒が優しい声で
彼にそう尋ね、そしてさりげなく承太郎の腕に自分の腕を絡める。
「……」
即座に承太郎は、鋭い眼光でその女生徒を一瞥した。
それに連れたのか隣で同様に何故かシャナも。
「ちょっとあなた! 何いきなり承太郎にすりついてんのよッ!
馴れ馴れしいのよ! はなれなさいよ!!」
二人の中に割って入った、長いポニーテールの女生徒が
ムッとした表情で組まれた腕を引き剥がす。
「なによ」
「そっちこそなによ」
その二人の女生徒はいきなり火花が散るような強い視線で睨み合い、
そして大声で口喧嘩を始めた。
「……」
「……」
承太郎とシャナの歩く速度が速まる。
「あれ? この子、誰?」
ボーイッシュなショートカットの女生徒がようやく承太郎の隣で歩く、
シャナの存在に気づいた。
数日振りに見た彼の存在で最高にハイになっていたのか、
その隣を歩く長い艶やかな黒髪を携えた凛々しい瞳の美少女の存在は
“見えていなかったらしい”
「やぁ~ん。ちっちゃくてカワイイ~~♪ 人形みた~い」
「あなた見ない顔ね? もしかして転校生?」
「何年何組? クラブは何に入るの?」
「どこに住んでるの? 帰りは電車?」
「そのペンダント良いデザインね? どこで買ったの?」
「――ッッ!!」
これら矢継ぎ早の質問の嵐に、シャナは先程の承太郎同様
目元を伏せて奥歯をギリッと軋らせる。
「でも、ちょっと待って。空条君の「隣」で一緒に登校してるって事、は……」
先程の黒髪の女生徒が宥めるように周囲にそう促す。
空条 承太郎の隣で一緒に登校する事。
それは学園に通う多くの女生徒達の夢であり、
その彼の傍らは彼女達にとって殆ど「聖域」
或いは「天国」にも等しき場所であった。
その神聖な「場所」に見ず知らずの美少女がいきなりちょこんといるのだから、
彼女達にとってはまさに青天の霹靂、驚天動地の出来事である。
「もしかして……まさか……承太郎の “彼女” ッッ!!??」
「!」
ゼロコンマ一秒の誤差も無く一つになった女生徒達の驚愕。
響き渡った少女達の声に、周囲が一瞬静寂に包まれる。
シャナは何故か自分でも意外なほどに衝撃を受け、ハッと息を呑んだ。
承太郎の目元は学帽の鍔で目深に覆われているので、その表情は伺えない。
渇いた風が一迅、女生徒達の前を通り抜けた。
まるで嵐の前の静けさの如く……
そし、て。
「ええ~~!? ウソでしょう!?」
「確かにカワイイけど承太郎の趣味とは違うわよぉ~!」
「もしかして承太郎ってマニア!?」
「もう普通の女の子なんか飽きちゃって、ロリとかに目覚めちゃったの!?」
「イヤァ~~ン! JOJO!」
爆発的に弾けた。
周囲の姦しい少女達の騒ぎに正比例して承太郎とシャナの額に、
青筋がびしびしと音を立てて浮かびあがる。
やがて、それは、臨界を超え……
「やかましい!! うっとーしいぜッ! てめえらッッ!!」
「うるさいうるさいうるさい!! どっかに消えてッ! おまえたちッッ!!」
凄みに満ちた怒声があがったのはほぼ同時だった。
その声に周囲は一瞬静まり返るが、すぐに。
「キャー♪ あたしに言ったのよ!」
「あたしよおー!」
「何言ってるの私よー!」
と、装いも新たにはしゃぎだした。
……誠に、いつの時代も恋する乙女は無敵である。
大名行列よろしく、後ろに女生徒達の群れを引き連れて
通学路を歩く承太郎とシャナ。
各々幸福を絵に描いたような満面の笑顔で付いてくる女生徒達を
シャナは一瞥すると、
「大した慕われようね? おまえ。
毎日こう? どこの「皇族」かと思ったわ」
皮肉たっぷりに言った。
「ほざきやがれ! ウットーしいだけだッ!」
世のモテない男達が、集団自殺引き起こしそうな暴言を
承太郎は学帽で目元を覆いながら苦々しく吐き捨てる。
「それは同感。全く馴れ馴れしいったらありゃしないわ、コイツら」
シャナはキツイ目つきで後ろを睨め付けた。
(うむ。構成を維持する力が、ちと甘かったようだな。
まだ存在の「定着」には至っていないらしい。
或いはあの娘共の「情動」がソレを上回った、か……)
シャナの胸元でアラストールが心中で小さく呟く。
このとき。
その数多くの女生徒達を隠れ蓑にして、
その更に背後から一つの昏い影が迫っていた事に、
このとき二人は気づいていない。
【3】
視界に、神社の赤い大きな鳥居が見えてきた。
その先にある石階段を片手をポケットに突っ込んだまま降りる承太郎、
脇を両手で学生鞄を携えたシャナも同様のペースで共に降りる。
二人の足が、13段目に掛かった。
そのとき、だった。
「!!」
「!?」
突如、全身を劈く怖気。
次いで、激痛。
ズァッッッッッヴァァァァァァァァァ―――――――ッッッッ!!!!
承太郎の左足膝下の部分が、まるで真空のカマイタチにでも
あったかのように突如ザックリと切れた。
「なに、イッ!?」
苦痛で身体能力機構の幾つかが強制キャンセルされ、
体幹のバランスを崩し大きく仰け反る承太郎。
そしてその長身の身体が不可思議な力で引き上げられ、
見えない糸で操られたマリオネットのように宙へと浮き上がり、
やがて地球の重力に引っ張られて落下していく。
「承太郎ッ!」
シャナは反射的に小さく可憐な手の先を伸ばすが長さがまるで足りない。
「きゃああああぁぁぁ――――――――――!!
承太郎ォォォ――――――ッッ!?」
たくさんの少女達の絶叫が背後で上がったのはその後だった。
「チィッ!」
素早く肩から伸びたスタープラチナの腕が傍にあった杉の木の枝を掴んだ。
弾力で枝が大きく撓み、やがて荷重を支えきれず圧し折れる。
承太郎は首筋を傷つけないように身を屈め、杉の葉と枝とをクッションにしながら、
眼下に在る石畳との激突に供えて肉付きの良い肩口をその接触面に向けた。
「ぐぅッッ!?」
身を捩るような衝撃。
大量の呼気が意図せずに喉の奥から吐き出される。
「た……た……たいへんよ―――――ッ! 承太郎が石段から落ちたわ―――――ッ!」
ようやく、目の前の現実を認識した女生徒達が一斉に承太郎の元へと駆け出した。
その少女達の中には、余りのショックで石畳の上にヘタリ込んでしまった者や、
友人の腕の中で意識を失ってしまった者までいる。
「……」
シャナは、承太郎が落ちた石段の上で静止していた。
鮮血の滴る不安定な足場で付近を見渡し、周囲を警戒している。
その少女を一瞥した後、ようやく承太郎は自分の足の負傷を確認した。
どうやら骨までは達していないようだが、皮膚が真っ二つに断ち切られ、
バックリとその内部の肉が裂けている。
生々しい傷口から、大量の血液が流れ出していた。
(左足のヒザが切れてやがる……ッ! 木の枝? イヤ違うッ!
“落ちる前に” 切れていた。あの時、石段の中から緑色に光るナニカが見えた。
ソレに足を切られ、そしてその後見えない力で襟首引っ掴まれて
ブン投げられたんだ)
「……」
早朝の「惨劇」が起こった神社の石段最上部から、
野次馬と化して殺到する無数の生徒達。
それに紛れ、冷ややかな視線で承太郎を見下ろす一人の少年がいた。
しかしその中性的な風貌と知性に磨かれた怜悧な瞳、
年齢に似合わない清廉な雰囲気から厳密には
少年という呼び方は似つかわしくない。
長身だがまるで女性と見紛うような細身の躰、
滑らかなラインに密着した裾の長いバレルコートのような学生服。
黄楊の櫛に含まれる油が浸透して鈍く煌めく茶色の髪。
長い襟足の耳元で、果実をモチーフにしたデザインのイヤリングが揺れていた。
(フッ……なかなか鋭いヤツだな……頸動脈をカッ斬ってやるつもりだったが、
寸前に幽波紋を使って身体を捻り、「着弾地点」を変えたか……
ソレにあの 『幽波紋』 のパワーとスピード、そして精密動作性……
“アノ御方” が始末しろというのも無理はない……
しかし……ボクの『幽波紋』の敵ではない……)
その個性的な学生服に身を包んだ細身の美男子の躰から、
仄かなライムオイルの芳香と共に、煌めく翡翠の燐光に包まれた
人型のナニカが流動的な「音」を伴って抜け出して来る。
(このボク……花京院 典明のスタンド……
『法皇の緑』 の敵では、な……)
心中でそう呟いた花京院は、己の狩るべき 「標的」 をその頭上から
冷たい視線で一瞥し、そしてスタンドと共に人混みに紛れ姿を消した。
【4】
「大丈夫!?承太郎!!」
「大丈夫!?承太郎!!」
「大丈夫!?承太郎!!」
「大丈夫!?承太郎!!」
「大丈夫!?承太郎!!」
「大丈夫!?承太郎!!」
女生徒達は一様に同じ台詞で承太郎の元へと駆け寄る。
「来るなッッ!!」
鋭く叫ぶ承太郎。
「ッッ!!」
しかし女生徒達は一瞬怯んだものの、すぐに集まって承太郎を取り囲んだ。
「大丈夫? 承太郎。良かったわ。後15㎝ずれてたら石段に頭をぶつける所だったわ」
「この石段はよく事故が起こるのよ。明日から私と手を繋いでおりましょうネ。承太郎」
心配そうな顔と大惨事ならなかった事への安堵の表情で、
交互に自分を潤んだ瞳で見つめる女生徒達。
「くっ……!」
もし自分の傍にいれば、今度はこの女生徒達がさっきの「攻撃」に巻き込まれる。
「チッ!」
短く舌打ちすると、承太郎は立ち上がり目の前の林に向けて疾走を開始した。
無理に動かした為、傷口から血が噴き出したが無視した。
「あ! どこに行くの!? 承太郎! 病院に行かなきゃダメよッ!」
追ってこようとする女生徒達に承太郎は素早く振り返り、そして叫ぶ。
「いいかッ! ついてくんじゃあねー! オレの言うことが聞けねぇのかッ!
先公にオレは遅れるって言っとけ! 頼んだぜッ!」
出来るだけ端的に早口で、承太郎は自分に追いすがってこようとする女生徒達
にそう告げ、再び彼女達に背を向けて林に向かって駆ける。
振り返る事は、もうなかった。
「……」
女生徒達は、ポカンとした表情でその場に立ち止まっていた。
アノ承太郎が「頼む」と言った。
“自分に頼み事をしてくれた”
背後で湧き上がる少女達の黄色い嬌声を聞きながら承太郎は走った。
ちなみにその日、承太郎の通っている学園の職員室が、
始業前に駆け込んでくる多数の女生徒達でパニック状態になったのは余談である。
【5】
草の踏みしむ音。
木の葉のざわめき。
神社の山裾にある林の中を疾走しながら、その永い血統で培われた
承太郎の鋭敏な頭脳は既に「戦闘の思考」を開始していた。
(今のは間違いなくスタンドによる攻撃だ。『グゼノトモガラ』
とかいうヤツらじゃあねー。「感覚」で「判別」出来るようになった。
オレの脚が切れただけで吹き飛ばなかった事からすると、
パワーはそんなに強くねぇ。【遠隔操作型】のスタンドだな……)
無数の石塔がそびえる、開けた空間に出ると承太郎は立ち止まった。
高ぶった気分を落ち着かせる為、凝ったデザインで知られる
愛用の煙草を取り出し、細長いソレを一本銜えて火を点ける。
形の良い口唇の隙間から紫煙が細く吹き出された。
「なら、「本体」を探し出して叩きのめせばすむ話だな。どこにいやがる?
どっかでオレを見てるはずだ。遠隔操作のスタンドは、
スタンドに「眼」がついてねーってジジイが言ってやがった」
平静を取り戻した表情で承太郎は呟く。
「!」
不意に、右方向から強烈な気配と視線を感じた。
身構えて咄嗟に出現させたスタープラチナに戦闘態勢を執らせるが
すぐにその必要がない事に気づく。
そこにいたのは、燃えるような紅い髪と瞳を携えた少女。
シャナだった。
どこから取り出したのか黒寂びたコートをその身に纏い、
髪と瞳は件の如く焼けた鉄のように紅く染まっている。
手には、戦慄の美を流す大太刀、贄殿遮那が握られていた。
「不意打ちを食らったわりには、随分余裕じゃない」
そう言って凛々しい双眸でこちらを見る。
「やれやれ。オメーか? シャナ。 敵は “オレを” 狙ってきた。
わざわざ付き合う必要はねーんだぜ」
「うるさいうるさいうるさい! 勘違いしないでッ!
おまえを攻撃してきたヤツを捕らえて、『紅世の徒』の事を洗いざらい吐かせるのッ!」
何故か顔を真っ赤にしてそう叫ぶ、相変わらずの少女に承太郎は微笑を滲ませる。
「フッ……なら勝手にしな。敵は遠隔操作型のスタンドだ。今どっかに潜んで
こっちの隙を伺ってやがる。こういう場合は「本体」を見つけだして叩くのが
一番手っ取り早い。この林のどっかにいるはずだ。見つけだしてブッた斬れ」
「指図するなッ!」
反発したがシャナは足裏を爆散させると、瞬時にその場から飛び去った。
木立の間に紅い影が見える、高い場所の方が見通しが利いて「本体」を見つけ易いから
木の上に昇ったのだろう。
「さて、シャナのヤツは動きながら本体を探す。
オレはここで待ちながら本体を探す。
つまり、ハサミ討ちの形になるな……」
紫煙と共に承太郎はそう呟く。
やがて根本まで灰になった煙草を指先で弾いた。
そして二本目を口に銜えようと制服の内ポケットにその手を忍ばせた刹那。
「あ、あの、空条、君?」
唐突な、声。
承太郎が振り向いたその先に、控えめな印象の少女が真っ赤になった顔を
両手に抱えた学生鞄に伏せて立っていた。
「!」
渇いた風が、草叢を揺らす。
気流が、静寂に舞い踊る。
その少女との邂逅により。
彼。
空条 承太郎の。
日常崩壊の序曲は、音も無くその幕を上げた。
←To Be Continued……
『後書き』
はいどうもこんにちは。
女に守られるより共に戦う方がずっと良い。
逆に強がって一人で戦おうとするのはもっとイイ、
というのは前に書いたので割愛しますが、最後に出てきたこの娘
最初は別に何も感じなかったのですが(そりゃもう見事なまでに)
読み進めるごとに「なんかヤな女だなこいつ・・・・('A`)」という
想いが積み重なってきて、味方である池を糾弾した時にソレは確信に変わりました。
「内気な女の子」と「内気である自分に酔っている女」は
似ているようで全然違います。
そしてダメ男やDV男に引っかかる、
引っかかり続けるダメ女の典型例は圧倒的に後者です。
本当に内気な娘は、普段の生活に別段ストレスを感じてはいません。
少々理不尽な事があっても自分はこうだから仕方ないと
割り切って(ある意味「覚悟」して)いるため心の負担にならないのです。
(逆に庇護欲をそそって(まともな)男が寄ってくるでしょう)
しかしソレとは逆、「内気な自分に酔っている女」は話が別です。
当然本来の自分と違った自分を演じているだけ、偽っているだけなのですから
己の「本心」と「乖離」が生じそれは凄まじい精神の過負荷になります。
当たり前です「出来もしない事を無理やりやろうとし」
その事実に気付いてないわけですから、その溜まった「抑圧」と「鬱積」は
ある日突然『爆発』します。そしてソレが向かう「対象」は
その自分を追い詰めた「ダメ男」に向かうのではなく、
自分を守ろうとしてくれた「家族や友人」に向かうのです。
まさに「アンタなんかに何が解るの! 私はこれで良いの!」
というわけです。
ケースが違いますが某カルト宗教団体(という名のテロ組織)
に洗脳された者も同じようなリアクションを取るそうです。
・・・・まぁあんな○○の主人公を「正当化」するためだけに、
生け贄に捧げられる池に同情が禁じ得ないという処ですが
(まともな人なら「なんで池が悪人扱いされるの?」と言った所でしょう)
主人公のアレは無論、原作の「彼女」も初期の山岸 結花子嬢と同様
まともな女ではないわけです。
正に、
???『君には「敵意」がない、敵意もなければ悪気もないし、
誰にも迷惑なんかかけてないと思っている。
自分を「被害者」だと思っているし、他人に無関心なくせに
「いつか誰かが助けてくれる」と望んでいる」
それこそ正に『悪よりもっと悪い』【最悪】と呼ばれるモノであり、
「他人を不幸に巻き込んで道連れにする」【真の邪悪】と判断するに
充分な事象であったと想います。
まぁ、「一見ちっぽけだが実はとても邪悪」
ダメ男とダメ女、【最悪同士】とてもお似合いだったんでしょうなぁ~・・・・('A`)
『守る事も出来ぬのに恋をする男、そんな男を選んだ女、
どちらも悪いのだ』by山口 貴由
PS なので「彼女」に関しては徹底的にメスを入れます。
味方に『敵』がいるんじゃおちおち『旅』も続けられません。
ソレにしてもやっぱ池が可哀想過ぎる・・・・(T-T)
どうかまともな女の子見つけて幸せになってくれ・・・・('A`)
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