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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第68話



クロスベル市からの脱出を成功させたロイド達は追手が来ていない事を確認すると一旦休憩する為に立ち止まった。



~東クロスベル街道~



「はあはあ………さすがにここまで追って来る気配はないな。」

「フウ。ようやく一息つけるわね。」

街道へと行く橋の途中で立ち止まったロイドは息を切らせた後、一息ついたレンと共に安堵の表情でクロスベル市を見つめ

「ええ………課長達のおかげでしょうね。」

「………無事だといいんですけど。」

「今は女神に祈るしかねぇな………」

「……あの二人ならきっと大丈夫よ。」

エリィは疲れた表情で呟き、セルゲイとダドリーを心配しているティオとランディにルフィナが声をかけた。



「……………キーア、シズクちゃん。大丈夫か?」

「は、はい。」

「キーアもへいきだよー。えへへ、みんなとはじめて会った時みたいだねー。」

ルフィナの言葉に頷いたロイドに声をかけられたキーアはシズクと共に頷いた後無邪気笑顔をロイド達に見せた。

「はは……そうだな。」

「あの競売会からまだ一月ちょっとかよ………」

「ちょっと信じられませんね………」

「フフ、一ヵ月ちょっとで状況がこんなに変わるなんてその時は誰も想像できなかったでしょうね。」

「うふふ、あの夜は今でも印象に残っているとっても面白い夜だったわね♪」

「ふふっ………―――さてと。このまま街道に出るとして。先にタングラム門に連絡する?」

「ああ、頼む。繋がりにくかったらノエル曹長の方でもいいだろう。」

キーアの言葉を聞いた仲間達がそれぞれ和んでいる中エリィの提案にロイドは頷いた。



「ええ、わかったわ。」

ロイドの指示に頷いたエリィはエニグマを通信モードにして通信を開始したが誰も出なかった。

「………話し中みたい………」

「無理もねぇ………相当、混乱してんだろ。」

「しばらく通信は繋がりにくいかもしれませんね。」

「仕方ないわ。直接ノエルさんの方に―――」

ランディとティオの推測を聞いたエリィが通信をやめて、別の所に通信をしようとしたその時!

「グルルル………」

ツァイトはロイド達の前に出て唸りだした!

「なんだ………!?」

「おい、まさか………」

「!?しまった……!」

「警備隊ばかりに追いかけられていたから、”もう片方の存在”を忘れていたわね……」

それを見たロイドは戸惑い、ある事を察したランディとルフィナは血相を変え、レンが疲れた表情で溜息を吐いたその時なんとロイド達の目の前にマフィア達や軍用犬達が現れた!



「ルバーチェ……!?」

「病院を襲撃したのとは別働隊みたいですね………」

「300人近い大所帯だ。他にもいるとは思ったが……」

「ここは突破するしか道はなさそうね………」

「うふふ、ちょっと数は多いけどレンとルフィナお姉さんなら一瞬で終わるわね♪」

「油断は禁物……と言いたい所だけど冗談抜きで速攻でケリをつけるわよ……!」

マフィア達との戦いが避けられない事を悟ったロイド達はそれぞれ武器を構えた。

「キーア、シズクちゃん。出来るだけ下がっててくれ。」

「………うんっ………!」

「は、はいっ……!」

そしてロイドの指示に頷いたキーアとシズクはロイド達から出来るだけ離れ

「「……………………」」

虚ろな目をしたマフィア達はロイド達に襲い掛かって来た!



「二の型・改――――裏疾風!双牙!!」

ロイド達に襲い掛かって来たマフィア達だったがレンの電光石火の連続攻撃を受けると怯み

「行け――――インフィニティスパロー!!」

「グルルル……ガウッ!!」

マフィア達が怯むとレンと戦術リンクを結んでいるルフィナが続けて法剣の刃を飛び回らせて追撃し、その間にツァイトも電光石火の速さで次々と追撃した。

「ロイドさん、行きます!」

「いつでも来い!」

「お嬢、頼んだ!」

「頼まれましょう!」

「「Ωストライク!!」」

「「ライアットスター!!」」

そこにロイドとティオ、ランディとエリィがそれぞれ協力技(コンビクラフト)を叩き込み、ロイド達のコンビクラフトによるダメージに耐えきれなくなった軍用犬達は消滅し、マフィア達は戦闘不能になると共に気を失って地面に倒れた!



「よっしゃ、何とか切り抜けられたか!」

「みんな、このまま街道に―――」

戦闘終了後、ランディは明るい表情をし、ロイドがエリィ達に指示をしようとしたその時、なんとルバーチェが使っている運搬車が来て、次々とマフィア達が降りてロイド達に向かって来た!

「……な……」

「チッ……さすがにアレは無理だな………!仕方ねぇ、一度街に戻って旧市街あたりにでも………」

それを見たロイドは驚き、ランディは舌打ちをして提案しかけたが

「あ………」

「!!」

何かの気配に気付いたティオとレンが振り向くと、なんとクロスベル市方面から警備隊員達が現れ、ロイド達に向かって来た!

「くっ………!」

「そ、そんな……」

「絶対絶命ってやつか……」

「うふふ、レン達の腕が試される状況ね。」

「二人を覆うような陣形で自分達の背中をキーアちゃんとシズクちゃんに向けて戦うように心がけて!」

次々と近づいて来る警備隊員達を見たロイド達が唇をかみしめている中レンは不敵な笑みを浮かべ、ルフィナは周囲の敵を警戒しながらロイド達に指示をした。

「むむっ……!」

「………お、お父さん……」

一方キーアは自分達を包囲しているマフィア達を睨み、シズクは不安そうな表情をした。

(くっ……何とかこの子達だけでも……!)

そしてロイドが最悪キーアとシズクだけでも逃がす為の方法を考え込んだその時車らしものが近づいて来る音が聞こえた。



「あれは………!?」

「車がもう一台………!?」

音に気付いたロイドとティオがエリィ達と共に街道の方面を見つめるとそこから豪華な車が次々と駐車してある運搬車を避け、マフィア達に突進し、突進して来た車に気付いたマフィア達は回避をし、そしてロイド達の目の前で停車した!

「このリムジンは……ディーター総裁の!?」

車を見たロイドが驚いたその時、車のドアが開いてマリアベルが出てきてロイド達に指示をした。

「さあ!早くお乗りなさい!」

「ベル………!」

「マリアベルさん!?」

マリアベルの登場にエリィは明るい表情をし、ロイドは驚いた。

「話は後だ!とにかく乗りたまえ!」

その時車からディーター総裁の声が聞こえ

「は、はい!キーア、乗り込むぞ!」

「うんっ!」

「シズクちゃん、掴まれ!」

「は、はいっ!」

声を聞いたロイドとランディはキーアとシズクを抱き上げて車に乗り込み、エリィ達は牽制攻撃を行った後車に乗り込み、ツァイトは素早い動きでの屋根に乗った。そしてロイド達が乗ったリムジンは警備隊員達の銃撃を受けても平気の様子でクロスベル市に向かい始めた。



「ルバーチェのみならず警備隊までもか………」

「………何というか……とんでもない状況ですわね。」

ロイド達から話を聞いた車を運転するディーター総裁と隣に座っているマリアベルは疲れた表情で溜息を吐いた。

「………ええ。正直、悪夢を見ている気分です。」

「ところで、おじさまたちはどうしてあんなタイミングで?」

「ああ、共和国での商談があってその帰りだったんだが………タングラム門を超えたあたりでマフィア達の襲撃を受けてね。何とか振り切って街に辿り着いたら君達が襲われていたというわけさ。」

「そうだったんですか……」

「いや~。マジで助かったッスよ。この車、もしかして防弾ッスか?」

ディーター総裁の話を聞いたエリィは頷き、ランディは嬉しそうな表情をした後尋ねた。



「ああ、特注品でね。ガラスも防弾だから簡単には破れないはずさ。」

「ラインフォルト社製の最新の防弾リムジンですね。」

「なるほどねぇ……」

「うふふ、さすがIBCのトップが所有している車だけあって、ただの車じゃないわね♪」

「まあ、国際銀行のトップは様々な存在に狙われている立場でもあるのだから、そのくらいはするでしょうね………」

「でも、さすがに砲撃までは耐えられないでしょうし………―――お父様。このままIBCに戻っては?」

「ああ、そのつもりだよ。彼らも疲れているだろうからゆっくりと休んでもらおう。」

「そんな、これ以上、ご迷惑をおかけする訳には……」

「その、お気持ちはとても嬉しいのですけど………」

ディーター総裁達がIBCに匿おうとしている事にロイドは驚き、エリィは申し訳なさそうな表情をして断ろうとしたが

「エリィ。水臭いことを言わないで頂戴。」

マリアベルは笑顔で答えた。



「IBCのゲートは特殊合金製だ。簡単に破られる事はないだろう。それにIBC総裁としてクロスベルの治安については無関心でいられない………できれば、詳しい事情を君達から聞かせて欲しいんだ。」

「ディーターおじさま………」

「………わかりました。ご迷惑をおかけします。」

「うふふ、決まりですわね。」

ロイドが自分達の提案を受け入れる事を決めた事にマリアベルが口元に笑みを浮かべたその時

「「………………………」」

キーアとシズクはうとうとしていた。

「2人とも……なんだか眠そうだな?」

「えー………?キーアねむくないよー。」

「だ、大丈夫です………」

「無理もないわ。もう10時近くだし………」

「あれだけの修羅場に付きあわせちまったからなぁ。」

「むしろ、危機的な状況に混乱せずに落ち着いていた事を褒めるべきね。」

「二人とも将来は大物になるでしょうね♪」

「うふふ、IBCに着いたらベッドを用意しておきましょう。」

「よし、そうと決まればせいぜい飛ばすとしようか!」

その後ロイド達を乗せたリムジンはIBCに向かった。



同日、22:00――――



その後IBCに到着したロイド達はキーアとシズクをマリアベルの私室のベッドに寝かせて、総裁室でディーター総裁とマリアベルに事情を説明した。



~IBC~



「……………………………」

「………お父様……………」

事情を聞いて重々しい様子を纏って黙って考え込んでいるディーター総裁をマリアベルは真剣な表情で見つめていた。

「―――現状で判明している事は確証があるわけではありません。いずれきちんとした証拠を揃える必要があると思いますが………」

「ああ………君達の立場ならそうだろう。………だが私は………今、大きな失望感を感じている。その”教団”の残党とやらの罪深さはもちろんだが………そんな連中に付け込まれ、ここまでの事態を引き起こした愚か者たちには心底呆れ果てたよ。」

「………はい。」

重々しい様子を纏って語るディーター総裁の言葉にロイドは頷いた。



「私とて、クロスベルの状況が難しいものであるのはわかっている。ルバーチェのような存在や議員や役人たちの腐敗についてもある程度は仕方ないと諦めていたが………どうやら私はとんだ愚か者だったようだ。」

「……おじさま………」

「そうですわね………IBCは少なからず、クロスベルの政界に影響力がある。お父様は今まで、あえて中立であろうとしていましたけど………」

「その怠惰が今回の事態を引き起こす一因にもなったようだ。………すまない。お詫びのしようもないくらいだ。」

「そ、そんな。」

「いや、さすがにそれは気にしすぎじゃないッスか?」

「実際、権限や責任があるわけでもないですし………」

「…………………」

(ガイの話ではガイが殺害されかける事になった事件の”犯人”の共謀者はあの二人もその人物達だとの話だけど………)

マリアベルの話に続けた後謝るディーター総裁にロイド達がそれぞれ恐れ多いといった様子で答えている中レンとルフィナは真剣な表情で二人を見つめていた。



「いや、時の政権に対して財界がある程度働きかけるのは本来は常識的なことだろう。………それ以前に、私にもクロスベルを愛する市民の一人という自負があったはずだ。だが忙しさにかまけ……その愛郷心も薄れていたらしい。」

「……………………………」

「……それは私達市民、一人一人がそうだったと思います。」

ディーター総裁の話を聞いたロイドは複雑そうな表情で黙り込み、エリィは疲れた表情で溜息を吐いて答えた。

「ああ………いずれにせよ、ここで愚痴っていても仕方ない。この事態を解決するために我がIBCは総力をもって君達に協力させてもらおう。」

「総裁……ありがとうございます。」

「とても………心強いです。」

「……ご協力、感謝します。」

ディーター総裁の申し出を聞いたロイドとエリィ、ルフィナはそれぞれお礼の言葉を口にした。



「といっても、この状況は如何ともしがたいですわね。警察本部やタングラム門とも連絡が途絶しているのだったかしら?」

「はい……何度か連絡してみたんですが。」

「………何らかの理由で通信妨害がかかっているようです。導力ネットワークによる連絡を試すことはできないんでしょうか?」

「………どうやら何者かによってジオフロントの導力ケーブルが遮断されているらしいですわね。何とか迂回ルートを確保すれば通信網を回復できると思いますが……」

「ならば技術スタッフに最優先にやらせたまえ。警察本部、タングラム門、遊撃士協会との連絡は勿論だが……市内の各端末との連絡も取れればさらに状況も掴めるようになるだろう。」

「わかりましたわ。」

ディーター総裁の指示にマリアベルは頷いた。

「そして………もう一つの心配はキーア君か。」

「はい………操られた警備隊が俺達を執拗に追った目的はキーアの可能性が高いと思います。」

「実際、俺達に発砲した時はほとんど威嚇射撃だったしな。一方、しんがりの課長たちには容赦なく撃ってきてたみてぇだ。」

「キーアは決して傷つけずに身柄を奪い取れ……そんな風に操られているのかもしれませんね。」

「そんなめんどくさい命令をしているという事は、ヨアヒムはキーアをそれだけ重要視しているのでしょうね。」

ディーター総裁の言葉にロイド、ランディ、ティオとレンはそれぞれ答えた。



「まあ、あれだけ可愛かったら攫いたく気持ちもわかりますけど。ヨアヒムといったかしら?随分、不気味な男みたいですわね。」

「いや………正直、彼が何を考えているのかはっきりとした事はわからないんです。何のためにキーアが必要なのか………白いファイルの最後にあった写真がどこで撮ったものなのか……」

「………そもそもキーアちゃんがどうしてあの競売会の場にいたのかそれすらもわかっていないの。あの子の記憶が戻っていたら手掛かりにはなったんでしょうけど……」

「なるほど………歯がゆいですわね。」

「いずれにせよ、これだけの事態を引き起こしたと思われる人物だ。恐ろしく危険な男であるのは間違いないと思った方がいいだろう。君達をこのビルに匿ったのは簡単には特定できないだろうが………万が一の事はあり得る。」

「……はい。」

「そうッスね………」

ディーター総裁の予測にロイドとランディは真剣な表情で頷いた。



「各所との連絡などは引き続き、IBCのスタッフにやらせておく。キーア君達も休んだことだし、君達も少し休憩したまえ。それともベッドを用意しようか?」

「いや………それは遠慮しておきます。それより、このビルの中で補給できる場所はないですか?少々、装備が心許なくて………」

「確かにさっきはいきなり襲撃されたからなぁ。」

「それなら、1階のカウンターで各種のサービスが受けられるよう取り計らっておこう。各メーカーの支社もあるので武器の融通も利くかもしれない。」

「エプスタイン財団も入ってますから工房機能も使えるでしょうし………緊急時の備えもしていますから食糧なども融通できるはずですわ。」

「なるほど………」

「確かに何でも揃いそうな勢いですね……」

「いや、さすがは天下のIBCビルだぜ。」

「………ご配慮、感謝します。それでは少しの間、休憩させていただきます。」

その後ロイド達はいったん解散してそれぞれ休憩を始めた――――――
 
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