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孤立無援

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10部分:第十章


第十章

 その光を指差してだ。バルボンが言った。
「おい、ゴールだぜ」
「ああ、かなり先だけれどな」
「遂に見えてきたな」
「やっとだな」
「そうだよ。あの光をくぐればな」
 その時にだとだ。バルボンは目を輝かせて仲間達に話した。
「俺達はやっとこの洞穴から出られるんだよ」
「そして助かるか助からないか」
「それがはっきりするな」
「いよいよな」
「ああ、だから行こうぜ」
 バルボンの目は輝いたままだ。そのうえでの言葉だった。
「あの光の先にな」
「よし、じゃあ行くか」
「あともう少しだ」
「それならな」
 三人も目を輝かせてだ。その光に向かった。確かに先にあるものはわからない。しかしだ。
 それでも彼等は光の先を目指した。光は一歩ごとに大きくなり遂には四人が充分くぐれるだけの大きさになった。そして目の前にそれがあった。
 その光の前でだ。四人は互いに顔を見合わせた。そしてだ。
 意を決し合いだ。こう言い合ったのだった。
「じゃあいいな」
「ああ、いいぜ」
「今からな」
「光をくぐるぜ」
 四人で言い合いだ。そのうえでだった。
 四人で一斉にその白い光に向かって足を踏み入れて。一気にくぐった。そして彼等が出て来た世界は。
「あれっ、何だ?兵隊さんか?」
「上陸の訓練でもしてたのかね」
「何か急に出て来たな」
「道に迷ったのかしら」
 そこはビーチだった。青い空と海、そして白い砂浜に嫌になる位に眩しい太陽。その中に水着の美女や逞しい男達がいる。その彼等を見てだ。
 バルボンがだ。こう仲間達に言った。
「ここ、マイアミだぜ」
「おい、ベトナムじゃないのかよ」
「何でマイアミなんだよ」
「いや、ここはマイアミだよ」
 バルボンは周囲を見回しながらだ。嘘だと言う仲間達にまた言った。
「何しろ俺はここの生まれだからな。わかるんだよ」
「って御前マイアミ出身だったのかよ」
「初耳だぜ」
「マイアミ出身のキューバ系なんだよ」
 それがバルボンだというのだ。
「このビーチなんざガキの頃からずっと遊んでるさ。だからな」
「わかるってのか」
「そうなんだな」
「ああ、間違いなくマイアミだよ」
 彼はまた言った。
「ここはな」
「そうなのか。じゃあ俺達は助かったんだな」
「アメリカに戻れたんだからな」
 マニエルとジョーンズは首を傾げさせながら言った。
「とりあえずはな」
「そうなったんだな」
「みたいだな。それにしてもな」 
 日差しを浴びてその中でだ。バーグマンはうんざりとした顔になった。そしてだ。
 彼は仲間達、とりわけバルボンにだ。こう言ったのだった。
「暑くないか、ここは」
「だってよ。ここマイアミだぜ」
 バルボンはあっさりとだ。バーグマンに返した。
「マイアミだったらな」
「暑くて当然っていうんだな」
「リトルハバナだからな」
 キューバの首都の名前がだ。そのままマイアミの通称になっている。キューバは言うまでもなく常夏の楽園だ。ただしそのキューバとアメリカは仇敵の関係になっている。
 そのキューバとほぼ同じ熱帯、マイアミは実際に亜熱帯だがそれ故にだとだ。バルボンはバーグマンに返す。
「暑いのも当然だろ」
「そうなるんだな」
「ああ、そうだよ」
 笑ってだ。バルボンはバーグマンに返した。そしてだ。
 彼はあらためてだ。仲間達に言ったのだった。
「それでな。どうする?」
「これからか」
「これからのことか」
「ああ。どうするんだよ」
 アメリカに帰ることはできた。しかしだ。
 ここはベトナムではない。戦場ではない。だから仲間達に尋ねたのである。
「まさかここで泳ぐ訳にもいかないだろ」
「泳ぎたいけれどな」
 ジョーンズは水着の美女達が泳ぐマリンブルーの見事な海を見ながら呟いた。
「けれどそれはな」
「ああ、残念だけれどな」
 仮にもベトナムにいて戦っていた。それならだった。
 バルボンはジョーンズにこのことを言ってだ。そしてだった。
 こうだ。仲間達に言ったのだった。
「近くに俺が志願した海兵隊のベースがあるぜ」
「じゃあそこに行ってか」
「詳しい話をするか」
「ああ、そうしようぜ」
 こう仲間達に言ったのである。
「それでいいな」
「そうだな。助かったことは助かったけれどな」
「俺達は戦場にいないといけないしな」
「それじゃあな」
 三人もバルボンの言葉に頷いた。例え助かったにしてもだ。
 戦場に戻らなければならない。だからこその言葉だった。
「ベースに行って詳しい話をしてな」
「それでベトナムに戻るか」
「死ぬかも知れない場所にな」
「地獄から天国に来てまた地獄だな」
 バルボンは水着の美女達の見事なスタイルを観察しながら苦笑いになった。
 そしてそのうえでだ。仲間達にまた声をかけた。
「じゃあ案内するぜ。ベースまでな」
「ああ、頼むぜ」
「それじゃあな」
 こうしてだった。彼等はだ。
 四人でベースに向かって洞穴の話をした。それを聞いてだ。
 ベースの海兵隊員達は誰もが信じられなかった。嘘だと思った。
 しかし彼等の所属と階級氏名を聞きそれと照合してだ。その話を信じざるを得なかった。そのうえで彼等はベトナムに戻りまた戦場に赴いたのだった。また余談だが彼等のいた洞穴に入ったベトコンの者達はすぐに行き止まりに辿り着き引き返した。そうなったのだ。
 この奇妙な話は実際に残っている。ベトナムで起こった奇妙な話だ。この話はにわかには信じられるものではない。
 だが戦争が終わり戻って来た四人は今も証言しておりそのうえアメリカ海兵隊の記録に非公式ながら残っている。事実なのは間違いない話である。あまりにも奇妙だが面白い話であるのでここに紹介させてもらう。


孤立無援   完


                   2012・3・5
 
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