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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第5章 汝平和を欲さば戦に備えよ
  第44話 撲殺天使

 
前書き
・あんまり進みません
 

 
目まぐるしい夏休みが終わり、2学期になった。久々の登校、学友に笑顔で挨拶しながら学び舎へ向かうのだが――――。


「ごきげんよう、はやて様」
「……ごきげんよう」


なぜ、みんなボクへのあいさつが、ごきげんよう、なのだろうか。よそでは普通に挨拶してるのに。なんとなく疎外感を感じる。いつものこととはいえ、少々物悲しい。駒王学園三大お姉さまの肩書は伊達ではなかった。と、そこに。


「はやてさん、おはようございます!」
「おはよう、アーシア」


 やっと普通に挨拶された。思わずほっと笑みをこぼすと、嬉しそうな顔をしていたアーシアがいた。うちのアーシアは天使やでえ。や、抱きつくくらいならいいけれど、匂いをかぐのは勘弁して欲しい。
 すーはーと匂いを嗅ぐアーシアが子犬みたいでかわいい、と思えるようになった自分はもうダメかもしれない。その実態は子犬どころか獰猛な肉食獣なんだがな。


ひそひそ声が聞こえる。さすがですお姉さまとか、百合百合しいとか。ファンがアーシアに危害を加えないか心配だったけれども、アーシアはとてもかわいがられていた。ボクらは公認カップルらしい。
 シャマルの仕業だろう。百戦錬磨の参謀たる彼女にかかれば、情報操作などお手の物だ。こういうときには頼りになる。 


「そういえば、はやてさんのクラスに転校生がくるそうですね」
「ああ、そうらしいね」
「…………浮気しちゃだめですよ?」


 ぼそりとアーシアが何か呟いたが、風に吹かれて聞こえなかった。なんかものすごい鳥肌がたったけれど。





 「転校してきました紫藤イリナです! ――――異教徒ども! ともに主を称え、正しい信仰を世界に教え広めていきましょう!」


 笑顔でぶっ飛んだ自己紹介をするのは紫藤イリナという少女だった。かつて聖剣使いとして駒王町にやってきてグレモリー眷属たちと共闘したことが懐かしい。


教室の生徒が苦笑するにとどめているのは、彼女の明るいキャラクターのせいだろうか。
宗教に抵抗感が強いこの国においてここまで露骨な信仰心を示す彼女の姿は、かえって清々しく感じられたらしい。騒々しいのがきたなあ、というのはクラスの一致した見解だったが。


 兵藤一誠は幼馴染の変わらぬ姿に不安とも安心ともにつかない感情を覚えていた。さて、質問攻めにあいつつ彼女は一誠と幼馴染だとばらす。そのとき嫌悪感ではなく羨まし気に黄色い悲鳴が上がったのは、彼にとって意外だった。
 リアスに相応しい男になるために大変身した一誠の人気は思いのほか高かったらしい。エロ仲間からは血の涙を流しそうな目に射抜かれたのはご愛敬だ。


そんな風に教室でひと騒動起こした後、放課後にオカルト研究部の部室にきた。イリナの歓迎会をするためだ。
部室にはいつものグレモリー眷属のメンバーに加えて、ソーナ・シトリーたち生徒会のメンバーと顧問のアザゼルの姿があった。


「紫藤イリナさん、貴女の着任を心から歓迎するわ」


 にこやかにリアスが音頭をとると、歓迎ムードに包まれる。イリナは天使陣営のサポート役として、この駒王町に常駐することになったらしい。一番の心配事は、かつて敵対したアーシアとの関係だったのだが―――。


「アーシアちゃん、あの時はごめんね!」
「いえ、何も気にしていません……素晴らしい出会いもありましたし」
「久しぶりだな、イリナ、ちょっとはその石頭もよくなったか。そして、私からも改めてアーシアに謝罪しよう」


 イリナ、ゼノヴィア、アーシアの三人で抱きつきながら再会を祝い、謝罪し合った。妙なしこりが残らずよかったと、心からリアスは思う。美少女が抱き合うのは絵になるな、と一誠は思っていたら、隣のリアスに足を踏まれた。気に恐ろしくは女の勘である。


 その後、しばし歓談となったが、ひたすら主を褒めたたえるイリナの相変わらずの信仰心に一同は不安を覚える。代表してアザゼルが問うた。


「イリナ、お前、『聖書に記されし神』の死亡を知らないのか?」
「……てますよ」
「え?」
「知ってますよおおおおおおおおおおぉおおお! 天にまします我らの父があぁあああああああ――――」
「お、おい、落ち着け」
「はい、落ち着きました」
「えらくあっさり落ち着いたな!?」
「あれは発作のようなものです――――知らされた日には、七日七晩ほど泣きはらしましたから」


 信仰心が強いのは知っていたが、やはり周囲はドン引きですぅ、していた。いや、同じ神を信奉していたゼノヴィアは気持ちが分かるらしく、うんうんと頷いていた。


しかし、同じく教会陣営だったアーシアは、全くの無関心だった。疑問に思ったのかイリナはアーシアに詰め寄り――――八神はやて教を布教されそうになった。
どちらの神? が優れているのかという信仰談義になり、イリナとはやてが幼馴染だと知ったアーシアがうらやまけしからん! と地団駄を踏んだりしていた。そんなアーシアの変わり様にイリナは目を疑っていた。


(誰だこいつ)


 悪魔に洗脳されているのではないか。と本気で疑っていたイリナだったが、アーシアの話を聞くにつれ、同情的になっていった。八神はやてはかわいそうだな、と。
 恋は盲目という。もともと純粋で思い込みやすいアーシアはそれが顕著なのだろう。盲目的に神を信じるイリナは自分を棚に上げて思った。
 恋……そう考えて、イリナは無意識に一誠と目があった。慌てて目をそらした。自分でもそれがなぜかわからない。


「八神さんも来れればよかったんだけれどね」
「一誠のいう通りなんだがな。誘ってはみたが行かない、と即答だったよ」
「アザゼル先生が嫌われているからじゃないですか?」
「う、まあ、な」


 なぜかはやてはアザゼルを嫌っている。表だって何か言うわけではないが、明らかに避けていた。こんないい男を避けるなんてよお、とアザゼルは愚痴る。が、一誠はなんとなく嫌な予感がしていたが、口に出すことはなかった。





「イッセー君、変わった?」


 イメチェンってやつだろうか。それとも、遅めの高校デビュー? コカビエル事件で共闘した時も違和感があったが、いまはそれがもっとすごい。
 さわやか風のイケメンになったのだ。もともと面はよかったのだが、あふれだすエロパワーがすべてを台無しにしていた。残念な隠れイケメンだったのである。
 それがどうしたことか。


「そうかな。うん、変わろうと努力しているんだ。もしいい方向に変わっているとしたら、努力した甲斐があったかな」
「そ、そう」


 やはり爽やかだ。意識していないのだろうが、歯をキラリと輝かすあたりが心憎い。思わず心臓がドキリとしたのは何なのだろうか。恋などしたことないイリナにはその正体が分からなかった。
 イッセーとは幼馴染だといったら、クラスの女子たちから質問攻めにあった。昔のイッセーの話だが、エロガキだったとしかいえない。むしろ、イリナの方が、何があったのか聞きたいくらいだった。


リアス・グレモリーと付き合いだしてから大変身したらしい。羨まし気に語る女子生徒とたちをみて、恋人ができると人は変わるんだな、と他人事のように思った。これで、イッセーの家に下宿することになったといったら、どれほどの騒ぎになるのだろうか。


イッセーの家に同居することに不満はない。幼馴染だということもあるが、個人的にイッセーの変貌に好感をもっている。彼を変えたリアス・グレモリーには感謝したいほどだ。
けれども、なぜか胸がチクリと傷んだ。
 

「はい! 二人三脚にイッセー君と参加します!」


 教室で、元気よくイリナは発言した。体育祭の出し物への参加希望を募っていたのだが、開口一番いきなりの発言に、イッセーは驚いた。そんな話聞いていない、と。
イリナの方をみやると、満面の笑みを返された。まあ、唯一の昔からの知り合いなのだし、仕方ないか、とイッセーは得心する。イッセー狙いの女性徒も、イリナの明るいキャラクターに苦笑いするにとどめた。このあたりは、イリナの人徳のなせる業なのかもしれない。


 そして、放課後、イッセーたちが部室に行くと、アザゼルとリアスが深刻な顔をしていた。
どうしたのか、と尋ねると、レーティングゲームの対戦相手決まったという。


「あれ? ディオドラ・アスタロトとやると聞いていたのですが」
「やつは行方不明になった。まったく、踏み台としてはちょうどよかったんだがな。で、新しい奴が問題でな」
「アザゼル先生の言うとおりね―――サイオラーグ・バアル、彼が次の相手よ」


 リアスの発言に部室は騒然となった。





「はい! 二人三脚にイッセー君と参加します!」


 紫藤イリナは相変わらず元気だ。うれしいような悲しいような。……敵対したら倒す覚悟はできてるけれど。
 しかし兵藤一誠は人気あるなあ。このクラスだけでも一誠狙いの女性徒を数人知っている。はやてお姉さま、とかいいながら恋愛相談してくる。前世も今世も恋人いない経験=年齢なボクにはキツイ。


 というか、ボクの理想はお父さんのようなかっこいい男性だ。と、力説したら微笑ましい目で見られた。残念だが、ボクはファザコンじゃない。ボクの理想に合致する相手が世界に一人しかいなかっただけに過ぎない。


「お姉さまは何に参加されますの?」
「うーん、借り物競争かな」


 無難な返事をするが、去年の光景がよみがえる。借り物競争に出たら、お題が「眼鏡」だった。なんだ、簡単じゃないか。と思ったのがいけなかった。大声で「眼鏡をかけている人」と呼んだらわらわらと眼鏡女子が駆け寄ってきて収集がつかなくなってしまった。
女性徒の人波にアタックされたのは、いまでもちょっとしたトラウマものだ。レースは、結局、棄権扱いになった。


 このとき、松田、元浜、兵藤一誠の変態3人組が羨ましそうな目でみていたな。あんなに仲良かった三人はいまや、女性徒に囲まれる兵藤一誠。親の仇でも見るのかのようににらむつける松田と元浜。どうしで差がついたのか……慢心、環境の違い。
 元通り仲良くしたい兵藤一誠にとっては頭の痛い問題だろう。


 紫藤イリナと兵藤一誠が幼馴染と知ったクラスメイト(女子+変態)たちの行動が気がかかりだったが、うまく溶け込めているようだ。
 あ、嫉妬のあまり松田が紫藤イリナにルパンダイブした。すぐに応戦されて手近にあった金属バットで、ぶっ飛ばされてる。紫藤イリナ……恐ろしい子。


 で、当然ボクとも幼馴染だということがバレる。質問攻めになりそうだったボクは、紫藤イリナにその場を任せてさっさと帰った。
 昔のことを思い出すのは……辛いから。


 次の日登校したら紫藤イリナのあだ名が、『撲殺天使』になっていた。なんでさ。 
 

 
後書き
・撲殺天使イリナちゃん
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~

・胸キュンなイリナ
ISSEIさんマジパネェ。

・ファザコン
はやてはファザコンではありません。愛した人間がたまたまお父さんだっただけです byはやて

・三大お姉さま
原作のリアス、ソーナに加えてはやての三人。

・借り物競争
女子高だった駒王学園は女子比率が圧倒的。はやては特に女子人気が高い。ヅカ的な感じで人気がある。眼鏡を持った人と一緒にゴールしなくてはいけないせいで悲劇が起こった。もう、ゴールしてもいいよね? とは、はやての談。

・松田、元浜
一誠とつるんでいたエロ仲間。変態。ISSEIさんになってからは疎遠になった。
ISSEIさんは元通りの関係になりたいが、人の嫉妬は醜かった。

・なんでさ
EMIYAの口癖。想定の範囲外の出来事が起こったときに使おう。 
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