『八神はやて』は舞い降りた
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第5章 汝平和を欲さば戦に備えよ
第43話 会議は踊る、されど進める
前書き
・頑張って書きました
「ごめん、ディオドラ・アスタロト殺しちゃった」
てへ、と可愛いいしぐさをしながら、とんでもないことを言い放った少女の名は八神はやて。英雄ではないがその実力を誰もが認める英雄派の幹部である。
はやては今日もかわいいな、と俺はすべてを許してしまいそうになる。だがその発言はいただけない。
「おいおい、はやて、そいつを使って今度のレーティング・ゲームに殴り込むんだろ? いいのかよ。曹操も何かいってくれよ」
呆れたようにヘラクレスが口を挟む。珍しくまともなこと言っているな。お前も何か言えって? 今日もはやてはかわいいな、としかいえんよ。
だが、確かに計画に支障が出るのも問題だ。理由はなんだい?
「それはね、曹操。ボクのお父さんを悪くいったからさ」
笑顔で言うが、その眼は嗤っていない。それどころかおどろおどろしい空気を解き放っている。この空気知ってる。アーシアが時折放つアレだ。はやてファザコンだしな。ジャンヌが、それなら仕方ないね。と賛同している。ジャンヌもファザコンだしな。
「だめだ。曹操が使い物にならん。一応そのときの状況を教えてもらえるか?」
「ゲオルグのいうとおりだね。一応説明すると――――」
よく晴れた日のうららかな午後、華やかな庭園で、ボクは屑やろうと向かい合っていた。人好きのする綺麗な笑顔をする貴公子――反吐が出るほどの――が、ボクに問いかける。
「話があるって、なんだい、はやてさん」
「それはね、アスタロトさん。貴方がボクの母を狙っていたときいてね」
「!?」
その瞬間、封時結界を張ると、転移魔法陣を展開して周囲をヴォルケンリッターが囲む。あとは、簡単だった。狼狽するアスタロトと真心こめてOHANASHIした。やつは、母を狙っていたが、父に邪魔されたそうだ。アーシアを狙い、わざと悪魔を治療させた。ボクとアーシアの同時攻略を楽しみにしていたらしい。あっそ。
ボクによる拷問を受けたディオドラが死ぬことを許されたのは3日後だった。泣きながら殺してくれ、というものだから、殺してやった。慈悲深いだろ?
ディオドラの眷属や使用人は、解放した。旧魔王派の仕業に見せかけたので、仇討ちをしようと内訌を盛り上げてくれている。彼女たちも被害者だが、ディオドラによって『洗脳』されており、どうしようもできなかった。だから、不和の種となるよう利用した。いっそ始末された方が、彼女たちは幸せだったのかもしれない。
――――そんな説明をしたところ、曹操が全面的に隠ぺいに協力してくれた。旧魔王派をうまく抑えてくれた。ちょっと見直した。お礼に家に招待したらめちゃくちゃ喜んでいた。ちょろい。
◆
「おいおい、勘弁してくれよ」
側近のシェムハザから報告を受けて、堕天使総督アザゼルは渋面を作った。
先日、魔王サーゼクス主催のパーティーが禍の団に襲撃され、こっぴどくやられたらしいと聞いてはいた。同盟を結んだばかりとはいえ、殺し合いをした仲だ。
ざまあないな、恩着せがましく支援の手を差し出してやろう。と、その程度に思っていたのだが。
被害の詳細を聞くと青ざめた。竜王タンニーンを筆頭に親魔王派の悪魔たちが多数死傷したのだ。これでは、恩を売る、売らないの問題ではない。
「悪魔側の大失態ですね。いい気味です――総督? お加減が優れないようですが」
「ばかやろう! いい気味なもんか。駒王協定は三大勢力の力の均衡のもと締結した砂上の楼閣なんだぜ? いま悪魔陣営が弱体したらどうなると思う」
「……間違いなく主戦派が動き出しますね」
くそったれがッ! 悪態をついてアザゼルは机をたたきつけた。嘲笑していたシェムハザも事態の深刻さを理解したのか厳しい表情をしている。
「事前にコカビエルたち主戦派の力を落としておいたとはいえ……こりゃあ、荒れるぜ」
「総督、主戦派の一部は禍の団に出奔しております。妙な動きをしないか監視を強化いたします。それと、中立派への根回しもお任せを」
「ありがとよ、シェムハザ。頼りになる側近を持てて幸せだぜ。だが、禍の団の情報はもっと手に入らねえのか?」
「光栄です。禍の団については天使陣営、悪魔陣営と情報を共有する方向で調整を進めています。しばしお待ちを」
アザゼルは満足気に頷くと、事態の収拾に動き始める。
◆
「――――以上が、被害の状況になります」
「先に報告は受けていたが、ひでえもんだな」
「悪魔側の警備はどうなっているのですか? むざむざ侵入を許すなどと」
好き放題言われていますね。グレイフィアは思う。だが、仕方ないとも。
悪魔側の被害は目を覆いたくなるほどだった。竜王タンニーンを失い、サーゼクスを支援していた上級悪魔を数名失った。これも痛いが、それ以上にサーゼクスを支持していた若手の革新派の中級悪魔を多数失ったのも痛い。政権内部の重鎮と将来の重鎮を一挙に失ったのだ。
これを悪魔側の失態と言わずして何と言おう。
「アザゼルとミカエルの言はもっともだ。そして、二人からの支援に心から感謝する」
魔王サーゼクス・ルシファーは深く頭を下げた。モニターの二人は一瞬目を丸くしたものの、無言で頷いた。そんな夫の姿をみて、グレイフィアは胸を痛める。
襲撃を受けたとき、グレイフィアはアインハルトの放った衝撃波により運悪く負傷してしまったのだ。直接切り込まれるのを危惧した――正確には妻であるグレイフィアが襲われるのを――サーゼクスは、その場にとどまることを選んだ。
結果的に二度目の襲撃は杞憂に終わったが、積極的に打って出なかったのが裏目に出ている。弱腰にみえたのだ。
派閥を失い弱腰な魔王など誰からも支持されない。そこで、手を打ったのが、堕天使と天使からの「支援」だった。
「ま、乗り掛かった舟だ。このままむざむざ沈めるわけにはいかねえんだよ」
「いま悪魔に倒れられては困ります。せっかく結んだ和平を反故にするつもりですか?」
「それでも助かった。いまや私は天使と堕天使の侵略を単身防いだ『英雄』だからな」
『支援』とは、いわゆるヤラセだ。天使と堕天使が連合して国境に兵を集結する。そこに魔王が単身乗り込んで撤退させる。事情を知らない者がみれば、確かにサーゼクスは英雄かもしれない。そして、皮肉る。
「それに、反故にするのは我々悪魔ではなく、天使と堕天使の強硬派だろう」
嫌そうな顔をするアザゼルとミカエルだが、言葉を返さないのが事実を物語っている。
咳払いを一つすると、アザゼルはこれからが本題だ、と前置きしてから尋ねた。
「禍の団の情報は集まってるのか?」
「正直芳しくない。いまわかっているのは、旧魔王派、英雄派、ヴァーリ・チームなどの派閥に分かれていること。数では旧魔王派が、質ではヴァーリ・チームが、その両方をもつのが英雄派だということと、一部の主要なメンバーくらいだな」
「こちらも報告を受けています。ヴァーリ・ルシファーの戦力についてはアザゼルからも報告を受けています。問題は英雄派ですね。曹操、ジャンヌ・ダルク、ヘラクレス、ゲオルグそして―――――アインハルト・ストラトス」
アインハルト・ストラトス。竜王タンニーンを完封できるほどの実力者。英雄派に属しているが、何の英雄なのか見当もつかない。そもそも英雄ですらないのかもしれない無名の実力者。銀髪オッドアイで言動を含めて中二病くさい痛々しいやつ。
情報が錯綜していて疑心暗鬼になっている。彼女は悪魔だったとか、堕天使だったとか、もともと天使だったとか。ナメック星人で願いをかなえてくれるだとか。レッドリボン軍が秘匿していた人造人間だとか。彼女の扱いを中心に会議は進み――踊る。
もともと敵同士。薄氷を踏むような協定は、徐々にひび割れ、理念は歪んでいく。会議は踊る――無理に前へと進みながら。その先の共存共栄を信じて。全面戦争の先にある滅亡という未来がちらつくのだから。どんなに無様であろうと。踊りながらも進むしかないのだ。
―――――計画通り。どこかで風の癒し手が薄く嗤った。
後書き
・ディオドラ・アスタロト
まさかの出番すらなし。
自作自演によって聖女を堕落させ虜にする。趣味の悪い悪魔。原作と違い特にいいところもなくはやてに殺された。無茶しやがって……。
・アインハルト・ストラトス
「古代ベルカ」「覇王流」といったキーワードから何の英雄なのか必死になって調べています。シャマルさんが面白がって偽情報をばらまいてます。
・会議は踊る、されど進まず
メッテルニヒ、かわいいよメッテルニヒ
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