魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第五話 ライトニング
新しい部隊、新しい設備、新しい仲間。
期待と不安を胸に、アスカは機動六課へとやってきた。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
outside
機動六課発足式前日の夕方、アスカは六課隊舎の前にいた。
「す、すげぇ……」
その建物を見上げて、アスカは感嘆のため息……と言うか、尻込みした。
「マジか……中古の払下げって聞いてたけど、まるで新築だぜ」
キョロキョロしながら、アスカは受付で自室の鍵をもらい寮へと足を向ける。
男女合同の建屋らしく、さすがに居住区は別れているが食堂や休憩室などは共同らしい。
(何て言うか……099の隊舎とは天と地だ。あそこは、一匹見かけたら三十匹はいるヤツラの巣窟だったからな)
新品の匂いのする廊下を移動して、アスカは割り当てられた部屋にたどり着く。
「ここか」
ドアの前には、表札のように自分の名前と、同室者の名前が表示されている。
「エリオ・モンディアル……」
何となしに同室者の名前を読み上げて、アスカは部屋の中へ入る。
まだ同室者は到着していないらしく、部屋には誰もいなかった。
部屋は八畳程あり、二段ベットと机が二つ、共同クローゼットと冷蔵庫にテレビが備え付けられていた。
「……なんだ、この豪華な設備は。099だったら、この広さなら六人部屋だぞ」
ソワソワと落ち着かないアスカは、とりあえず気を鎮めようとベッドに腰を掛けた。
アスカが落ち着かないのも無理はない。
099部隊の隊舎やら設備はとにかくボロボロで、それが当たり前の環境で生活をしていたのだ。
小ぎれいな隊舎に、少しばかりビビっても仕方がない。
座ったものの、キョロキョロと落ち着かないアスカ。自室なのに挙動不審である。
その時、コンコンとドアがノックされた。
「は、はい、どうぞ」
ちょっとドモってアスカが答えると、ドアが開いて10歳くらいの赤毛の男の子が入ってきた。
「失礼します。アスカ・ザイオン二等陸士でしょうか?」
赤毛の少年がアスカに尋ねてくる。
「ああ、そうだけど、君は?」
「ボクは……いえ、自分はエリオ・モンディアル三等陸士です。本日よりザイオン二士と同室となります。よろしくお願いします」
ピッと敬礼するエリオと名乗った少年。
(マジ?)
同僚と呼ぶには、あまりにも幼いエリオを見て面食らうアスカ。
それでも、一呼吸置いてアスカも直立不動で敬礼を返した。
「アスカ・ザイオン二等陸士です。こちらこそ、よろしくお願いします」
丁寧に言った後、ニッと笑ってアスカは右手を出した。
「堅苦しい挨拶はこれくらいにしよう、エリオ。アスカって呼んでくれ」
一瞬戸惑ったものの、差し出された手を満面の笑みで取るエリオ。
「はい!よろしくお願いします、アスカさん!」
(さん付けか。まあ、いいか)
随分としっかりしたお子さまだな、自分はこれくらいの年齢の時は、かなりやさぐれいたのにな、と思うアスカだった。
「エリオは何歳なんだ?実は見かけより歳喰ってるとか?」
アスカは疑問に思った事を口にしたみた。
管理局、油断していると外見通りの年齢じゃない○リババアがいたりするので危険である。
「そんな事はないですよ。ボクは十歳です。アスカさんは何歳なんですか?」
エリオは笑いながら答え、逆にアスカに質問してきた。
「オレか?オレは16歳だ。よく見かけよりも幼く見えるらしいけどな」
困ったもんだよ、とアスカは肩を竦める。
「ボクから見れば、充分大人だと思いますよ」
「ん、そうか」
そう言われてちょっと嬉しくなるアスカ。笑ってエリオの頭をグリグリと撫でる。
エリオも嬉しそうに撫でられるがままにしていた。
「ところで、エリオはフロントメンバーなのか?」
アスカはまさかな、と思いながら聞いてみる。
「はい!コールサインはライトニング3。ポジションはガードウイングです」
当たり前のようにエリオが答える。
「え……ライトニングって事は、オレと同じチームか?ライトニング5だ」
マジか?とエリオを見ると、笑顔で頷いた。
「アスカさんと同じチームですね、よろしくお願いします」
「……おう、こっちこそよろしくな」
完全に毒気が抜かれたような、ポカンとした表情になるアスカ。
(訳ありか、天才か。10歳で入局とはね、高町一尉並かよ)
まいったね、とは思いはしたものの、顔には出さずに取り留めのない会話を続ける。
初めて出会った者同士、色々と話しているうちに時刻は夜の7時になった。
「メシでも食いに行こうか?食堂はもう使えるらしいから」
エリオを食堂へと誘ったが、彼は少し気まずそうにアスカを見た。
「あの……ここの食堂でなんですけど、実はこれから保護者の方と食事をする約束をしていて……」
申し訳なさそうに言うエリオ。
「ああ、そうなんだ。別にオレに気を使う事はないから行ってこいよ」
気にすんな、と言ってからアスカはエリオの言葉に引っかかった。
「保護者の方?どう言う事だ?」
普通なら、お母さんとかお父さんとか言うだろうに。
思わず聞き返してしまったアスカ。
「あ……いや、その……ボクを引き取って育ててくれた方ですので」
少し言いにくそうに、だがはっきりとエリオは答えた。
「……そうか、悪い、余計な事を聞いたな。ゴメン」
「いえ!いいんです。アスカさんは悪くないですよ!」
慌ててフォローするエリオ。そんなエリオを見て、少しだけ救われた気持ちになるアスカ。
「ありがとな。ところで、保護者って、女の人か?」
「え?はい、そうですけど?」
その答えを聞いて、アスカはしゃがんでエリオと目線を合わせた。
「じゃあ、その人はエリオの《お母さん》だな。だったら、保護者の方なんて言うより、ボクのお母さんですって言った方が喜ぶんじゃないか?」
アスカはポンポンとエリオの頭を軽く叩き、そうだろ?と笑う。
「そうですね……きっとその方が喜んでくれると思います…けど、その…お姉さんのような人でもあるし…照れくさいと言いますか…」
アスカの言わんとした意味を理解したエリオだったが、ちょっと困ったように、はにかんだ笑みを浮かべる。
「まあ、無理にとは言わないけど、チョットずつやていけばいいさ」
そう言ってアスカは時計に目を向ける。7時を少し過ぎている。
「もう行った方がいいんじゃないか?オレはいいから、行ってこいよ」
アスカはエリオを促した。
「はい、じゃあ行ってきます」
エリオはそう言ってドアを開こうとした。が、そのまま固まった様に何かを考え込んでいる。
「?」
どうしたんだろとアスカはエリオの背中を見る。その時、エリオが振り返った。
「アスカさん。もしよろしければ、一緒に行きませんか?」
振り返ったエリオがアスカを誘う。
「オレなんか行ってどうするよ?親子水入らずの方がいいだろ?」
遠慮するよ、と手を振るアスカ。
「同室の人ですって紹介したいんです。アスカさん、凄く良い人だから」
ぜひ、とエリオが押す。
ちょっと顔を赤らめるアスカ。
「まあ、どのみち食わないといけないからな…じゃあ、ご一緒しますか!」
「はい!」
アスカが一緒に行くことになり、エリオは嬉しそうに笑った。
食堂について、エリオから保護者を紹介されたアスカは金縛りにあったかのように固まった。
「こちら、同室のアスカさんです。アスカさん、保護者のフェイトさんです」
ヒョイ
紹介されたと同時にアスカはエリオを小脇に抱えると、一旦食堂から避難した。
そして、食堂の入り口付近でエリオの両肩を掴んでカクンカクンと激しく揺らした。
「エ、エ、エ、エリオくぅん!?お前の保護者ってハラオウン執務官だったの?じゃあ先に言ってよ!超大物じゃない!ナニ?お前オレを心臓発作でコロコロするつもりだったの??!!」
カクカクカク!
激しくエリオを揺らして動揺しまくるアスカ。
アスカにとって、準備運動なしで寒中水泳したぐらいの衝撃度だったらしい。
「ご、ご、ご、ゴメンなななさぁいい!と、と、止めてくださあい、アスカさぁあん!!」
アスカが落ち着くまでの1分間、エリオを激しく揺すぶられたままだった。
「失礼しました。十二分に取り乱しまして……」
ようやく落ち着きを取り戻したアスカは、フラフラのエリオを引っ張ってきてフェイトに敬礼した。
「うん……すごい動揺していたみたいだけど、大丈夫?」
ビックリした顔でアスカとエリオを見るフェイト。
「自信はありません」
敬礼のまま答えるアスカ。全然大丈夫じゃないみたいだ。
「と、とにかく座ろうか」
何に動揺しているかわからなかったが、フェイトは二人にイスを勧める。
イスに座ろうとした時、アスカはフェイトの隣にピンクの髪をした女の子がいることに気づいた。歳は、エリオと同じくらいか?
「あの、ハラオウン執務官。コッチの子は?」
アスカに見つめられ、少女は恥ずかしそうに身を縮こませる。
「うん、紹介するね。この子は、キャロ。エリオと同じで私が保護者をしているの」
「は、初めまして。キャロ・ル・ルシエです」
キャロが顔を赤くして、小さい声で自己紹介をする。
(緊張しているののかな?)
アスカはそう思い、立ち上がってキャロの前まで歩いた。
そして、しゃがんでキャロと視線を合わせる。
「初めまして。アスカ・ザイオンです。よろしくな、キャロ」
ニッと笑って右手を差し出す。
「え……あ、はい、よろしくお願いします」
少し驚いたようだったが、キャロはすぐにアスカと握手をした。
「うん、よろしく」
アスカがそう言うと、キャロも笑って、はい、と答えた。
バサッ
キャロと握手をしたアスカは、何かが羽ばたくような音を耳にした。
「え?」
「キュル?」
キャロの後ろから、小さな白い生き物が飛び出してきた。
「えぇ!竜か?」
その生き物を見て、思わず声を上げてしまうアスカ。竜は不思議そうにアスカを見ている。
「はい。この子はフリードリヒ。フリードって呼んで上げてください」
キャロがチビ竜を紹介した。
「お、おう…よろしくな、フリード」
(今日は驚く事ばかりだ)
苦笑するしかないアスカ。
「とにかく、食事にしますか」
小さい同僚に竜。今までにない事の連続だったので、とりあえず落ち着きたいアスカは、配膳列に並ぼうと提案する。
が、そこでもまた度肝を抜かれる事となる。
「……えーと、エリオさん?その大皿に積まれている物はなんですか?」
文字通り山と盛られたパスタを見て、アスカは思わず敬語で質問した。
フェイトと二人で運ぶ、超大盛りのパスタ。
「え?ただのパスタですよ?」
エリオは何を言ってるんだろう、と不思議そうに答える。
「うん、まあ、そうだよね」
圧倒されるアスカはキャロに目を向ける。
「あ、あはは…」
キャロも驚いているのか、顔を引きつらせて笑っている。
「…食おうか…ショッキングな事の連続で食欲なくなったけど」
ポツリと呟いてアスカは席に着いた。
食事が始まってから一定のペースで消えていくパスタを見て、アスカはもはや感心するしかなかった。
「すごい食べるんですね、モンディアルさん」
キャロも感心したかのように言う。
(ん?)
その時、アスカはキャロの言葉使いが気になった。
「そうですか?ボクは普通だと思うんですけど?」
(んん?)
エリオの言葉使いも気になる。
(アレ?この二人、ハラオウン執務官の保護児童って言ってたよな?何で敬語なんだ?)
普通の会話をしているように見えて、どこか余所余所しいエリオとキャロ。
フェイトが会話に加わるとそうでもないように見えるが、どこか違和感を覚える。
しばらく様子を見るアスカ。
エリオとフェイトが喋る。キャロとフェイトが喋る。たまにアスカが口を挟む。
(もしかして……)
違和感の正体に気づいたアスカは行動に出る。
「はい、一旦ストップ」
フェイトとキャロが話している所に割り込むアスカ。
「どうしたの?」
フェイトがアスカを見る。
「ちょっと気になった事がありまして…エリオ、キャロ。もしかして、二人が出会ったのって最近か?」
その問いかけにフェイトが慌てる。
「あ、あのね、アスカ。エリオとキャロは…その、いろいろと…」
「色々あったのは分かります。エリオ、どうなんだ?」
フェイトを抑えてエリオに尋ねるアスカ。
「えと、そうです。お互いの事はメールや写真で知っていましたけど、直接会うのは、六課に来て初めてです」
エリオが戸惑いながら答える。
「なるほどね。えっとさ、小さいときにさ、ハラオウン執務官に遊んでもらった事ってある?」
「え?はい、勿論」
エリオが答えると、アスカは更に質問をぶつける。
「どんな事をした?キャロ、どこかに連れて行ってもらったりとかしたか?」
アスカがキャロに話を振る。
「え…えぇっと、遊園地に連れて行ってもらった事があります」
急に話を振られて驚くキャロだったが、すぐにそう答えた。
「あ!ボクも連れて行ってもらった事があるよ!」
「ええ!本当!?」
共通の話題が出て、エリオとキャロは笑顔になって話し始めた。
さっきまでのよそよそしさは、だいぶ取れたようだ。
(オレの役割、終了)
先ほどまでは、フェイトを通して話をしていたエリオとキャロは、今は直接話している。
そんな二人を見て、アスカは安心したように食事を進めた。
そのアスカを、フェイトは感心したように見ていた。
一時間ほど和気あいあいと話していたが、フェイトが残してきた仕事があると言って解散する事になった。
「アスカ、ちょっといいかな?」
エリオと共に部屋に戻ろうとしたアスカを、フェイトが呼び止める。
「は、はい?何でしょうか?」
アスカは緊張した面もちでフェイトを見る。
エリオに先に戻っていろと合図を送って、フェイトについて行く。
(オレ、何か怒らせるような事をしたか?)
出てきた冷や汗を拭うアスカ。
エリオの保護者で、直属の上司。
更になのはと並んで管理局内でも超有名人のフェイトである。緊張しない方がおかしいだろう。
そのフェイトの足がピタリと止まる。
「その……今日はありがとう」
「……………………はい?」
思わぬ言葉に、アスカは間の抜けた返事をしてしまった。
「エリオとキャロの事。少しでもお互いの事を分かってもらおうとしたんだけど、中々上手くいかなくて。でも、アスカが二人の距離を縮めてくれた」
フェイトがアスカの目を見て笑った。
「えぇ?いや、まだ二人が固い感じがしたもので!」
フェイトに見つめられ、裏返った声を出してしまうアスカ。
(ヤバ!この人、年上なのにスゲェ可愛い!)
と思っても口にはできない。
「た、たぶん、共通点はハラオウン執務官だと思ったので、きっかけを作っただけです!あとは、本人達が勝手に喋っただけッスから」
赤面して答えるアスカ。
「ううん、アスカは凄いよ。私のできなかった事をやってくれたんだから。本当にありがとう」
「き、恐縮です…」
そのまばゆいばかりの笑顔に、まともにフェイトを見られなくなったアスカは目をそらした。
(か、勘違いしちゃうでしょ!勘弁してください、執務官!)
「エリオとキャロの事、よろしくね。同じライトニングとしてだけじゃなく、ね?」
フェイトの言葉に、わずかだか陰を感じるアスカ。
(あの二人の過去…なんか重そうだな)
「もちろんです。兄貴代わりにはならないかもしれませんが、できる限りの事はします」
アスカの言葉に、フェイトは嬉しそうに頷いた。
後書き
多少の手直しはしていますが、文章がなってませんね。
それでも読んでくださる方がいますので励みになります。
すぴばるでは60話くらいまで書いていたので、まだまだストックはあります。
これからも、よろしくお願いします
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