我が子
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7部分:第七章
第七章
「私達はこれでいいわ」
「よし、じゃあこれで」
「ちょっと待って」
だがここで歩美が言ってきた。言うまでもなく彼女もいるのだ。
「私もいるのよ」
「おっと、そうだったな」
「そうよ。まさか忘れていたんじゃないでしょうね」
「忘れてた」
こう来た。やはりと言うべきか。
「悪いな」
「あんたね、本当にどういう頭の構造してるのよ」
「俺の頭の構造はとりあえずどうでもいいだろ」
「どうでもよくないわよ。そもそもね」
また口喧嘩に入る。
「あんたは前から、それこそ付き合っていた時から」
「高校の時の話はするなよ、おい」
「あんたが中学三年で私が高校三年で」
「だからするなつってるだろ、おい」
「するわよ。受験中なのに声をかけてきて」
二人の馴れ初めにまで話が行く。
「それで強引に付き合って下さい先輩、答えは聞いていませんって」
「いい告白じゃねえか」
「そこまで言われて駄目ですって言ったら何なのよ」
「断られたら死ぬつもりだったんだよ」
また随分ととんでもない男である。
「本気でな。どっかのならず者国家の船に乗り込んでな」
「そのまま独裁国家に行くつもりだったの!?」
「明日のジョーのかわりに爆死するつもりだったさ」
またしても話が滅茶苦茶になってきていた。
「あの船ごとな」
「あっきれた。全く馬鹿なんだから」
「馬鹿で結構だよ。それでだ」
「ええ」
それでも話はするのだった。一応は動いていた。
「今の名前でどうだよ」
「いいと思うわ」
返事自体は素っ気無いものだった。
「それでね」
「よし、じゃあそれでいいよな」
「ええ。合格」
それは出した。
「いい名前じゃない。どれも」
「そうだろ。じゃあこれで決まりだな」
「何か大騒動の割に話はあっさり終わったわね」
「それは私の台詞よ」
良美が出してきた言葉であった。
「全く。傍目から見ても馬鹿騒ぎして」
「だってお姉ちゃん、この男が」
「この女がですね」
「だからもういいのよ」
話が終わらないのでこっちで強引に打ち切った。
「もうそれはね」
「そうなの」
「それじゃあ」
「とにかくよ」
そのうえで良美の方から話す。
「いいのね、その名前で」
「私はもうこれで」
「俺も」
二人はこれまた同時に答えてきた。
「これでいいです」
「もうこれでね」
「全く。やっと話が終わったわね」
良美の声は実に充実感のあるものだった。
「一体どうなるかって思ったけれど」
「名前、決まったな」
「そうね」
二人は二人でそれを実感し合う。
「じゃあ俺達二人の子供だし」
「気合入れて育てましょう」
「ああ、一応言っておくわよ」
良美は誓い合う二人に対してまた言ってきた。
「今度は何なの?」
「まだ何かあるんですか?」
「あうわよ。子供を可愛がるのはいいけれど」
「ええ」
「はい」
二人で良美の話を聞くのだった。素直に。
「馬鹿にしたら駄目よ。いいわね」
「馬鹿に、なのね」
「あんた達みたいにね」
良美もやはり厳しい。厳しいというよりはきつい。
「それはいいわね」
「大丈夫だと思うけれど」
「なあ」
「あんた達だから心配なのよ」
妹夫婦を全く信用していなかった。それが実によくわかる言葉だった。実際に視線でもそれを語っている。実に容赦するところがない。完璧なまでに。
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