真田十勇士
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巻ノ三十九 天下人の耳その九
唸ってだ、こう言ったのだった。
「何と多い」
「それだけの禄を出されるとは」
「いや、流石天下人」
「何と太っ腹な」
「関白様は実に気前のよい方」
幸村は兼続にあらためて言った。
「それで禄も多く出されると聞いていましたが」
「それでもですな」
「はい、そこまでとは」
驚きを隠せない言葉だった。
「三十万石、それに官位も」
「従四位は普通にです」
「用意されるとですか」
「言われました」
「殿上人ですな」
五位からだ、朝廷の殿上に上がることが出来る。それで幸村もこう言ったのだ。
「まさに」
「凄いことですな」
「はい、申し出を受けられると」
「三十万石ともなりますと」
兼続は幸村に淡々とした口調で述べた。
「天下でもそうはいない大名です」
「そうですな」
「関白様はそれがしにそこまで言って頂いているのです」
「しかし、ですな」
幸村は表情を変えた、冷静なものにさせてだ。
そのうえでだ、こう兼続に問うたのだった。
「直江殿はその申し出を」
「受けるつもりはありませぬ」
全く、という言葉だった。
「それは」
「左様ですか」
「はい、それがしは上杉家の家臣です」
確かな声での言葉だった。
「謙信公に見出して頂き景勝様に執権に任じられている」
「それだけにですな」
「上杉家を離れるつもりはありませぬ」
毛頭という言葉だった。
「それは」
「そうですか」
「はい、三十万石に殿上人」
それだけのものをだ、兼続は再び話に挙げた。
「しかも宝も思うままとのこと」
「しかしですな」
「そこまで拙者を買って頂いていることは有り難いですが」
「それでもですな」
「それがしは上杉家の家臣です」
この立場は変わらないというのだ。
「上杉家にあり上杉家を守る」
「それこそが」
「それがしの務めなので」
「関白様のお誘いにも」
「乗りませぬ」
「そうですか」
「それでなのですが」
自分のことを話し終えてだ、それからだった。
幸村に顔を向けてだ、彼に問うた。
「源四郎殿は」
「それがしですか」
「どうされますか」
幸村のその目を見ての問いだった。
「貴殿は」
「それがしはです」
幸村もだった、一点の曇りもない目で答えた。
「真田家の者です」
「そういうことですな」
「ですから真田家を離れることはありませぬ」
「六文銭の下におられますか」
「これからも、そして」
「義、ですな」
「それがしは禄も官位も宝もいりませぬ」
そうしたもの全てがというのだ。
「無論銭も」
「ただ義をですな」
「求めています」
「義に生きられますか」
「この者達も同じです」
十勇士達も見て言うのだった。
「義に生きていきます」
「そうですか、では」
「関白様にお会い出来れば光栄の極み」
このこと自体は喜びだというのだ。
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