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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第76話

その後エステル達は材料を手に入れ、七曜教会の司祭にその材料を使って薬を調合してもらった後、それをアガットに呑ませ、薬を呑ませたアガットを今まで看病していたプリネやツーヤを休ませた後全員が交代で看病し、翌日にはグランセルへ行くジンを見送り、アガットの看病を続けるティータと分かれて一端ギルドに報告など行ったエステル達に信じられない情報が入った。それはたまたまツァイスの軍事施設、レイストン要塞にラッセル博士誘拐時に撮った写真を返してもらいに行ったドロシーが写真の元となる感光クオーツを返してもらえず、代わりに兵士に黙って要塞を撮った時に写った写真の中に博士をさらった男達が乗って行った飛行艇が要塞の中に入る場面を撮っていたのだ。そして事情を聴くためにレイストン要塞へ行った時、守備隊長シード少佐がエステル達に対応したがのらりくらりとかわされ、最後に立ち去る時に導力で動いている開閉装置が止まるという決定的な瞬間を見て、攫われたラッセル博士は要塞の中にいると確信しエステル達はそれを報告するためにギルドへ戻って行った。



~遊撃士協会・ツァイス支部~



「ま、まさか王国軍が博士を攫うとは……中央工房は王国軍と長年協力関係を築いてきた。なぜこんなことを……」

中央工房の責任者のマードック工房長はエステル達から信じられないような顔で聞いた。

「王国軍とは言っても一枚岩ではありません。博士をさらった時、親衛隊の服を着てたのもそれが原因かもしれませんね。」

「ええ、ヨシュアさんの言う事にも一理あります。」

ヨシュアの話に同意するようにプリネが頷いた。

「じゃあまさか、親衛隊が嵌められたってこと!?」

「その可能性はありそうだな。何か事を起こそうとした時、真っ先に標的になるのが王家に絶対的な忠誠を誓い、選りすぐりの戦士達で結成されている王室親衛隊が一番最初に排除しておくべき存在だからな。」

親衛達が嵌められた事にエステルは憤慨し、リフィアは嵌められた理由を説明した。

「ううむ、なんたることだ……しかし、どうして博士がそのような陰謀に巻き込まれたのか……」

エステル達の会話を聞いてマードックは唸った。



「……どうやら犯人どもの手がかりを掴んだみてえだな。」

そこにティータを連れたアガットが入って来た。

「え……アガット!?」

「もう意識を取り戻したんですね。」

「へ~。体力だけは結構あるようだね。」

アガットを見てエステルは驚き、ヨシュアとエヴリーヌは感心した。

「ああ、ついさっきな。起きたら知らない場所で寝てたからビビったぜ。」

「起きたばっかりなのにもう動いて大丈夫ですか?」

ヨシュアは念のためにアガットに体調を聞いた。

「ああ、寝すぎたせいか、身体がなまってしかたねえ。とにかく思いっきり身体を動かしたい気分だぜ。

「で、でも無理しちゃダメですよぉ……毒が抜けたばかりだからしばらく安静にって先生が……」

「だ~から、大丈夫だって何べんも言ってるだろうが。鍛え方が違うんだよ、鍛え方が。」

「う~………」

ティータの心配をアガットは一蹴したがそれを聞いたティータは泣きそうになり、それを見たアガットは慌てた。

「う……わかった、わかったっての!本調子に戻るまでは無茶しなきゃいいんだろ?」

「えへへ……はいっ。」

アガットの言葉にティータは笑顔になった。

「ったく……これだからガキってのは……」

「あはは、さすがのアンタもティータには形なしみたいね。」

「アガットさんからなんとなく優しい雰囲気が漂っているよ。アガットさんをこんな風にするなんて、ティ―タちゃん、凄いね!」

「ずっと付きっきりで看病してもらった身としてはしばらく頭が上がりませんね。」

「「クスクス……」」

「プックククク………」

「キャハハハ………」

2人の様子を見て、エステルやヨシュアはからかい、ミントはアガットの雰囲気が変わった理由にティータが関係していると思いティータを尊敬するような眼差しで見、プリネやツーヤ、リフィアとエヴリーヌはティータに弱くなったアガットを見て思わず笑った。



「あ~もう、うるせえなっ。それより俺がくたばってた時に色々と動きがあったみたいだな。聞かせてもらおうじゃねえか。」

そしてエステル達は博士がレイストン要塞にとらわれていることを2人に言った。

「お、おじいちゃんがそんな所にいるなんて……」

「しかも、あの黒装束どもが軍関係者だったとはな……フン、正体が判ってすっきりしたぜ。キッチリ落とし前を付けさせてもらうことにするか。」

「落とし前っていうと?」

アガットの言葉にエステルが反応して聞いた。

「決まってるだろう。レイストン要塞に忍び込む。博士を解放して奴らに一泡吹かせてやるのさ。」

「あ、な~るほど。それが一番手っ取り早そうね。」

アガットの提案にエステルは納得した。

「そう簡単にはいかないわ。」

エステル達の会話を聞いてキリカが割り込んだ。



「へっ?」

「ギルドの決まりとして各国の軍隊には不干渉の原則があるわ。協会規約第3項。『国家権力に対する不干渉』……『遊撃士協会は、国家主権及びそれが認めた公的機関に対して捜査権・逮捕権を公使できない。』……つまり、軍がシラを切る陰り、こちらに手を出す権利はないの。」

「チッ、そいつがあったか……」

「そ、そんな……そんなのっておかしいわよ!目の前で起きている悪事をそのまま見過ごせっていうわけ!?」

「そうだよ!先生を傷つけたり、ティータちゃんのお祖父ちゃんを攫った悪い人を見逃すなんて、ミント、我慢できないよ!」

「あたしもあの人達の事は許せません………!」

「ツーヤ……」

キリカに規約の事を言われ、アガットは舌打ちをして苦い顔をし、エステルやミントは憤慨した。また、静かな怒りを抱いているツーヤを見て、プリネは複雑そうな表情でツーヤを見ていた。

「エステル、確かにそうだが、どんな決まり事にも抜け道はある。例えそれが法律であろうとな。キリカとやら、恐らくギルドの規約にもあるのだろう?」

皇位継承者のため、法律についてより詳しい事を知っているリフィアは落ち着いた声で話し、キリカに確認をした。

「ええ。協会規約第2項。『民間人に対する保護義務』……『遊撃士は、民間人の生命・権利が不当に脅かされようとしていた場合、これを保護する義務と責任を持つ。』……これが何を意味するかわかる?」

「なるほど……博士は役人でも軍人でもない。保護されるべき民間人ですね。」

キリカの話にヨシュアは確認するように聞いた。

「そ、それじゃあ……」

そして会話を聞いていたエステルは期待を持った。



「あとは……工房長さん、あなた次第ね。この件に関して王国軍と対立することになってもラッセル博士を救出するつもりは?」

「……考えるまでもない。博士は中央工房の……いや、リベールにとっても欠かすことのできない人材だ。救出を依頼する。」

キリカに聞かれ、マードックは迷いなく答えた。

「工房長さん……!あ、ありがとーございます!」

「礼を言う事はないさ。博士は私にとっても恩人だしね。」

それを聞いたティータが笑顔でお礼を言った。

「これで大義名分は出来たわ。……遊撃士アガット。それからエステルにヨシュア。レイストン要塞内に捕まっていると推測される

ラッセル博士の救出を要請するわ。非公式ではあるけど遊撃士協会からの正式な要請よ。」

「了解しました。」

「そう来なくっちゃ!」

「フン、上等だ。そうと決まれば潜入方法を練る必要があるな。何しろ、レイストン要塞といえば難攻不落で有名な場所だ。」

キリカの要請に力強く頷いたアガットはレイストン要塞の攻略方法をどうするか考えた。

「そうですね。実際、かなりの警戒体制でした。侵入できそうなルートがどこかにあるといいんですけど。」

「残念だけど……。あそこの警備は完璧に近いわ。導力センサーが周囲に張り巡らされているから湖からの侵入も難しそうね。」

「フン……。そんな事だろうと思ったぜ。」

「フム……さすがは導力技術を誇るリベールの要塞といったところか……」

「正攻法では難しそうですね。」

キリカの答えにアガットは顔をしかめ、リフィアは納得し、ヨシュアは厳しい表情で答えた。

「ねえ、エヴリーヌ。」

「ん。どうしたの?」

ある事を思い付いたエステルはエヴリーヌに話しかけた。

「エヴリーヌが前やった転移魔術?だっけ。それであたし達をレイストン要塞の中へ転移とかできないの?」

「それは無理。」

「なんで??」

あっさり無理と言ったエヴリーヌにエステルは首を傾げた。

「転移魔術は一度行った事がある場所でないと、転移する場所も思い浮かべれないから無理なんだ。」

「そっか………そういえば、工房長さん。あのオレンジ色の飛行船ってレイストン要塞によく行くのよね?」

エヴリーヌの説明を聞いたエステルは残念そうな表情をしたが、また提案が思い付いてマードックに尋ねた。



「ああ……。工房船の『ライプニッツ号』だね。資材の搬入や設備の点検で定期的に要塞に行っているが……」

「だったら、それに隠れて要塞に潜入するってのはダメ?」

「いや、基地に降りたクルーは全員チェックを受けるんだ。勝手に抜け出して行動するのは不可能に近いだろう……」

「ということは、積荷にまぎれて忍び込むのも無理か?」

念の為に別方向での潜入の仕方をアガットは尋ねた。

「ああ、生体感知器によって1個1個のコンテナが調べられる。この感知器というのがラッセル博士の開発したものでね。ネズミ1匹たりとも見逃さない優れ物なんだ。」

「う~ん、やっぱりダメかあ……」

「……あ…………!」

マードックの答えを聞いたエステルは残念そうな表情をしたが、ティータはある事を思い付き、表情を明るくした。

「お姉ちゃん、覚えてない!?お姉ちゃんたちを案内した時、おじいちゃんが作ってた発明品!」

「あたしたちを案内した時……。……ああっ!」

「そうか……。僕たちも実験を手伝ったあの新型オーブメントだね。」

「うん、それだよっ!あの装置、生体感知器の走査を妨害する導力場(フィールド)を発生するの!起動テストもしてあるから大丈夫……ちゃんと動かせるよ!」

「まあ……さすがはラッセル博士といったところですか。」

「なに……本当か!?」

ティータの説明にプリネは感心し、アガットは驚いた。

「まったく博士ときたらいつのまにそんなものを……。その装置はどこにあるのかね?」

ティータの説明を聞いたマードックは呆れた後、尋ねた。

「えと、たぶん研究室のどこかに置きっぱなしになってると思います。」

「なら、あなたたちは急いでその装置を取ってきて。その間に、レイストン要塞の詳細なデータを用意しておくわ。」

「わかった、頼むぜ。」

「工房長さんは、工房船の手配をよろしくお願いするわ。」

「りょ、了解した。グスタフ整備長に相談しよう。準備が済んだら飛行場まで来てくれたまえ!」

そしてそれぞれ、博士救出のために動き出した…………! 
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