英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第49話
~メ―ヴェ海道~
「それにしてもまさかイーリュンの聖女様に会えるなんて、ビックリしたわ~。」
「あの……本当にその呼び名はやめて下さい……私はイーリュンの信徒として当然の事をしたまでです。」
海道を歩きながら呟いたエステルの言葉にティアは照れながら答えた。
「それにしてもイーリュンの信徒であるティア様がよくお一人でルーアンからマノリアに来れましたね?確か、イーリュンの教えは『どんな相手でも決して傷つけてはいけない。』があったと思うのですが……ですから、魔獣がいる海道をよくお一人で歩けましたね……」
「フフ……お父様から受け継いだ力のおかげで私、他の方より身体能力が高いのです。聖なる結界を身体に纏わせて魔獣達を寄せ付けなかった事もありますが、身体能力が高いお陰で人間の方達の数倍の速さで走れますから、そのお陰でもありますね。」
クローゼの言葉にティアは恥ずかしそうに微笑みながら答えた。
「ねえねえ、ティアさんは”闇の聖女様”とも親しいの?」
「ペテレーネ様ですか?……そうですね……私が物心ついた時にはもう、アーライナ教の本神殿に修行に行ってらしてましたから、初めて顔を合わせたのは6年前こちらの世界に来た時です。……ですが同じ治癒術師としてペテレーネ様と親しかった母からペテレーネ様の事はよく聞きましたから、
ある程度の事は知っています。」
「へえ~……闇の聖女様って昔、どんな人だったの?」
ティアの説明を聞き、興味が沸いたエステルはティアに尋ねた。
「今とそれほど変わらない方ですよ。ずっとお父様を慕い続ける一途な方で、困っている人や苦しんでいる人を見過ごせない優しい方ですよ。」
「ふえ~………」
ティアが話した昔のペテレーネの性格を知ったエステルは感心し、さらに憧れた。
「あの………さっきから気になったんですがティア様はメンフィル大使――リウイ皇帝陛下を自分の父親のように仰っているのですが、もしかしてティア様はメンフィル帝国の皇族の方なんでしょうか?”闇の聖女”――ペテレーネ様の伴侶の方は確か、リウイ皇帝陛下の筈でしたし………」
「ええ。私は当時、メンフィル国王だったお父様――リウイとイーリュンの神官であり側室の一人であったお母様――ティナの娘で、お父様達の子供の中では最初に生まれた子供になります。」
「え………という事は今のメンフィル皇帝、シルヴァン陛下の姉君という事になりますよね……?皇位継承権はティア様が1番なのではないですか?メンフィルは男性でないと皇帝になれないと言う訳ではありませんよね?確か、次のメンフィル皇帝はシルヴァン陛下のご息女と聞きますし……どうしてイーリュンの信徒として活動を……?」
ティアの言葉にクロ―ゼは驚いて尋ねた。
「確かに普通はそう思いますね。…………お母様は私には自由に生きてもらい、また私が国を背負うには余りにも重すぎると思ってお父様に嘆願して、皇位継承権からは外してもらったのです。そのお陰で私はこうしてイーリュンの信徒として活動できるのです。」
「その…………失礼を承知で聞きたいのですが、どうして皇女である事を捨てたんですか……?自由に生きれるという事は当然、皇女として国を支える事はできたのではないでしょうか……?」
「そうですね………広大なレスぺレント地方の覇権を握ったメンフィル皇女である事に重荷を感じていないと言われれば嘘になりますが、決して皇女として民を思う心を捨てた訳ではありません。………自分のできる事で国を、民を支えるために母から教わった治癒魔術を活用できるイーリュンの信徒となったのです。……それに正直な話、私は”王”になるのは余りにも力不足すぎると思ったのです。それぞれの領の領主や領主の親族であったラピス様、リン様、セリエル様、リオーネ様……すでに領主がいて、後継も産まれていたミレティア領を混乱させないために公式上存在が隠されていたミレティア領前領主ティファーナ様の御子である腹違いの兄妹達や、今では伝説と化し、当時からも慕われていたシルフィア近衛騎士団長の血を引き、マーシルン家にとって長男のシルヴァンさんにファーミシルス大将軍と同等の活躍をなさったカーリアン様のご息女、カミ―リさん……みなさんのお母様は身分ある方や有名な方ばかりに対して、私のお母様は平民でただの神官の一人……そんな娘が皇帝になってしまったら、他国にも示しがつかない上せっかく平和になってしまった国が乱れるでしょう?………ですから私は皇位継承権を辞退し、せめて民達の支えとなれるためにイーリュンの信徒になったのです。」
ティアは昔を思い出すかのように遠い目をして語った。
「………………………その……………ティア様は腹違いの兄妹の方達との仲はどうだったんでしょうか………?」
「兄妹仲は凄くよかったですよ。みなさん、身分のない女の娘である私の事を一番上の姉としてとても慕ってくれましたし、他の側室の方達からも自分の子供と同じように凄く親身にしていただきました。それにシルヴァンさん達から直接頼まれて、シルヴァンさんとカミ―リさんの結婚式やラピス様の娘であるアリアさんとリン様の息子であるグラザさんの結婚式を仕切る司祭を務めました。ですから今でもみなさんとは仲がいいですよ。」
「そう……なんですか……それは素晴らしい事ですね……」
聞きづらそうな表情で尋ねたクロ―ゼの質問にティアは微笑みながら答えたので、クロ―ゼはティアを眩しい物を見るような目で見た。
「そういえば……メンフィルの貴族であるリフィア達から聞いたんだけど、ティアさんはお母さんの遺志をついでイーリュンの神官になったのって本当なの?」
エステルはクロ―ゼがいるため、さっきから何も言わず黙っているリフィア達をチラリと見た後尋ねた。
「ええ、民の支えとなるためにイーリュンの信徒になったのは私自身の考えで、本当の理由は悲しみに囚われたお父様を陰から支えていたため、イーリュンの神官として広々と活動できなかったお母様の思いを受け継いだ事が一番の理由になりますね。」
「ほえ~……あれ?ティアさんのお父さんって幸せじゃなかったの?一杯奥さんや子供がいて、王様なんだからそれ以上の幸せってないんじゃないのかな?」
ティアの言葉を聞いて感心したエステルはある事が疑問になり、尋ねた。
「…………………………………………」
「あれ?」
「ティア様?」
エステルの疑問には答えず、目を閉じ何も語らないティアにエステルやクロ―ゼは不思議に思った。
「………リフィアさん、プリネさん。エステルさんにはどこまで話したのですか?」
「………”あの方”の事を少しエステルに話した。」
「それとリウイ陛下と”あの方”の夫婦仲も話しましたね。」
静かに問いかけるティアにリフィアとプリネも静かに答えた。
「……そうですか。エステルさん、お父様と正妃様の事はリフィアさん達から聞きましたね?」
「あ、うん。なんか凄く夫婦仲はよかったって聞いたよ。後……その、正妃様が亡くなってティアさんのお父さんが凄く悲しんだって事も……」
確認するようなティアの言葉にエステルは言い辛そうに答えた。
「………そこまで知っているというのなら、お分かりと思うのですがお父様はまだ正妃様の事をずっと思い続けているのです。お母様は正妃様を亡くし、心に酷い傷を負ったお父様をほおっておけず、今まで精力的に色々な所でイーリュンの信徒としての活動をしていたのですが、正妃様が亡くなられてからは活動は王都内だけにして生涯お父様の傍にいて、傷ついたお父様の心をずっと支えていたんです。」
「その………ティア様のお母様はリウイ陛下の事は……」
「もちろん、一人の女としても愛していました。でなければいくら全ての傷ついた方を癒すイーリュンの信徒といえど、そこまではできません。」
「そう……なんだ。……いつか幸せになれるといいね、ティアさんのお父さん。」
「ええ……最も、その日はすぐそこに来ているかもしれませんが……」
「え?」
ティアの言葉にエステルは首を傾げた。
「……なんでもありません。今のは私の空言です。……それより私に何か聞きたいことがあるのではないですか?エステルさん達がクラム君を追いかける時、私を引き止めておいて欲しいとの事だったのですが、一体何が聞きたいのでしょうか?」
「あっと……すっかり聞くのを忘れていたわ。ティアさんを引き止めたのは聞きたい事でもあるけど、頼みたいにもなるかな。」
「なんでしょう?私で力になれるのならできる限り協力しますが。」
そしてエステルはティアに住む家を失くしたマーシア孤児院の人達をイーリュンが運営している孤児院にお世話になれないか聞いた。
「なるほど………私に頼みたい事というのはテレサさん達の今後の話だったのですね?」
「うん。ルーアンの市長さんはロレントの市長さんにロレントにあるイーリュンの孤児院の人達に口添えしてもらうよう頼むって言ってたけど、イーリュンの信徒のティアさんに直接頼んだほうがいいかな~って。」
「テレサさん達が望むのなら、私は別に構いませんよ。」
「あの………そんな簡単に決めても大丈夫なのでしょうか……?」
テレサ達が来るかもしれない事をあっさり許可したティアにクロ―ゼは驚いた後尋ねた。
「ええ。イーリュンは傷つき、困っている方ならどんな方にも慈悲を与えるのですから、家を失くし困っているテレサさん達も当然受け入れます。もし、ロレントの孤児院にお世話になりたいのでしたら、私が手配しておきます。……こう見えてもゼムリア大陸の各地にあるイーリュンの孤児院の総院長を務めさせていただいておりますから、全ての孤児院に新しく来る人達の事を受け入れるよう手配することは可能です。」
「ふえ~………」
「……………」
ティアの説明にエステルは呆けた声を出し、クロ―ゼは辛そうな表情をして黙っていた。
「そういえば気になったのだが、どうしてティア殿はルーアンに?高度な治癒魔術が使えるティア殿はさまざまな国を廻っているが、どうしてリベールに?リベールはこの世界では最も平和な国だが。」
「こちらに来たのは久しぶりに大使館に帰るために、船でこちらに来たからです。以前いた街には飛行艇が通ってなく、一日に数本しかない船でしか安全に他国に行く手段がなかったのです。」
「ティアお姉様はいつまでこちらに滞在するのですか?」
「ルーアン地方にあるジェニス王立学園が近く学園祭をすると聞きます。準備等で怪我をする方もいらっしゃるでしょうから、学園祭が終わるまではルーアンのイーリュン教会に滞在して活動するつもりです。ですからもし、学園祭の準備等で怪我をしたら私を呼んで下さい。その時は駆けつけて怪我を治療いたします。」
「心強い言葉、ありがとうございます。」
リフィアやプリネの疑問に答えたティアはクロ―ゼを見て言って、クロ―ゼは辛そうな表情を消して微笑みながら答えた。
そしてルーアンまでティアを護衛したエステル達はティアと別れ、ヨシュアと合流する場所であり、火事やクラムの件を報告するためにギルドに向かった………
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