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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第32話

その後、宿に戻り食事をしたエステル達だったが、シェラザードが調子に乗ってオリビエに酒を飲ませまくったので見回りの時間である深夜になると、オリビエはすでに泥酔してベッドに寝転がり起き上がらなかった。



~ヴァレリア湖・宿屋川蝉亭・2階寝室~



「あー……うー……。うーん……げふへふ……」

「あーあ、完全にグロッキーね。さすがの超マイペース男も酔ったシェラ姉には勝てなかったか。」

ベッドで魘されているオリビエを見て、エステルは溜息をついた。

「いやあ、飲んだ飲んだ。最近色々あって飲めなかったから、久しぶりに堪能しちゃったわ♪」

「もう完全に素面(しらふ)だし……。シェラさん、何か特殊な訓練でも受けているんじゃないんですか?」

すでに酔いが覚めているシェラザードにヨシュアは疑問を持った。

「うーん、ゲテモノ酒のたぐいは一座にいた頃から飲んでたけど。サソリ入りとか、マムシ入りとか。後、大使館で一年の終わりにする宴会にも師匠のお誘いで参加させてもらって、その時高級なお酒を何本も呑んだこともあったからね。それで酒に強くなったのかしら?」

「いや……それは違うんじゃないかなぁ。ていうか、シェラさん。やっぱり大使館にも迷惑をかけたんですね……」

シェラザードの昔の行動をヨシュアは苦笑して違うことを指摘した後、呆れた。

「何よ、やっぱりって。だって、せっかく誘ってもらったのを断るなんて失礼でしょ?」

「いやシェラ姉の場合、意気揚々と行きそうなんですけど……」

心外そうな顔をしているシェラザードにエステルは呆れて、白い目で見た。

「う、うるさいわね。それにメンフィル大使も悪いのよ!今まで呑んだこともない美味しいお酒や滅多に手が出せない高級なお酒を湯水のように兵士や使用人にも振舞うんだから、つい私もそれに便乗して頂いちゃったのよ!」

エステルとヨシュアに白い目で見られたシェラザードは焦って言い訳をした。

「……でもお兄ちゃん、呆れ半分で感心してたよ。『まさか、酒が苦手なペテレーネが呼んだ客が一番酒を飲むとはな』って。」

「う”………」

しかし、エヴリーヌに突かれシェラザードは一歩後退した。



「ま、まあ気にする必要はないですよ。お母様はお酒は苦手であまり呑めませんし、カーリアン様やファーミシルス様も自分達と対等に飲み勝負ができる方がいらっしゃって、楽しんでおられましたし。」

プリネは苦笑しながらシェラザードをフォローした。

「うう、この場の味方はプリネさんだけね……というか、プリネさんやリフィアさんのほうも結構呑んでた割には平気な顔をしていなかったかしら?」

「余やプリネは酒に強くて当然……いや、強くなくてはいけないからな。」

「それはどうしてだい?」

シェラザードの疑問に答えたリフィアの言葉にヨシュアは聞き返した。

「私達は”皇女”ですからね。お酒にやられて判断がつかないところを狙われて”間違い”を起こしたり、覚えのない婚約を結ばせる訳にはいきませんから。」

「ま、”間違い”って……」

プリネの言葉からある事を連想したエステルは顔を赤らめた。

「まあ、国内でそんなことを考える輩はいないが、他国との付き合いではどうしても酒は出てくるものだ。だから、余達――皇族は酒に慣れるために幼少の頃より必ず食事に酒は出されたし、判別の仕方等でも呑んだから自然と強くなったのだ。……まあ、父達やリウイが酒に強いのも関係していると思うがな。」

「なるほどね……」

ヨシュアはリフィアやプリネの説明に納得して頷いた。



「それよりもコイツ、どうするの?しばらく使い物にならないわよ。」

ベッドに寝込んでいるオリビエをエステルは一切心配せず、どうするか聞いた。

「このまま寝かせておきましょう。……ここから先は、空賊たちと直接対決になる可能性が高いわ。やっぱり、ただの民間人を巻き込むわけにはいかないからね。」

「え、もしかして……。付いて来させなくするために、わざとオリビエを酔わせたとか?」

シェラザードの言葉にエステルは驚いて聞いた。

「えっ……。………………………………。あ、当ったり前じゃない。深慮遠謀のタマモノってヤツよ。」

「その間は何なのよ……」

「絶対ナチュラルに楽しんでたね。」

「絶対今の、嘘だね。」

「あはは……」

「やれやれ……戸惑わずにすぐに答えればその嘘も本当に思えたものを……」

少しの間考えた後、笑顔で肯定したシェラザードにエステルやヨシュア、エヴリーヌは白い目で見て、プリネは苦笑し、リフィアは溜息をついた。



そしてエステル達は真夜中に隠れて、見張っていたところロイドの話通りのカップル――空賊の兄妹が現れ、さらに黒装束の怪しい人間達と会話をし始めた。

シェラザードの提案でエステル達は空賊達が黒装束達と話をしている隙に、空賊艇を抑えるために一端ヴァレリア湖から離れて飛行艇が停泊できそうな所を探していたところ、なんと昔からある遺跡――琥珀の塔の前に空賊艇が停泊し、さらに空賊達がたき火をたいて自分達を纏めている人物達――キールやジョゼットを待っていた。



~琥珀の塔・入口前~



「なるほど『琥珀の塔』の前か。確かに街道から外れてるから停泊場所としてはうってつけね。」

岩陰に隠れながらシェラザードはたき火を囲っている空賊達や空賊艇を見て、頷いた。

「『琥珀の塔』ってロレントの『翡翠の塔』と同じような塔だったっけ?」

「『四輪の塔』と呼ばれている古代遺跡の1つだよ。」

エステルの素朴な疑問にヨシュアは簡単に説明した。

「みなさん……どうします?奇襲して制圧しますか?」

「そうね……。前に遭遇した時と較べて手下の人数が倍以上いるけど……(どうする……むこうの数は多少上だけど、以前戦った時のあいつらの戦力を考えると下っ端を率いている男や少女を除けば一人一人ほとんど素人に近かったし、加えてここにプリネさん達がいることや、

エステルやプリネさんの精霊や使い魔達を数に入れれば同等以上の数になる上、一瞬の制圧は可能……でも、下っ端達を捕まえてもあまり意味がないと思うのよね……)」

プリネに提案され、シェラザードはどうするか悩んだ。

「大丈夫だって。制圧できない数じゃないよ。」

「うむ。余がいるのだ!負けはない!!」

「キャハッ♪殺さないように手加減するのは面倒だけどエヴリーヌは遊べるなら、いつでもオッケーだよ♪」

シェラザードが悩んでいる所エステルやリフィア、エヴリーヌが意気込んでいたところ



「フッ……それはどうかと思うけどね」

いつのまにかオリビエが草陰から飛び出してきた。

「やあ、待たせてしまったね♪」

酔っぱらって寝込んでいたはずのオリビエは何事もなかったのように、いつもの調子のいい笑顔で言った。

「オ、オリビ……むぐ。」

(ふぅ……)

オリビエの姿を見て驚いたエステルが大声を出そうとしたが、傍にいたプリネが両手でエステルの口を塞いだので大声を出さずにすんだ。

「静かに……あいつらに気付かれるよ。」

「…………(コクコク)」

ヨシュアの言葉にプリネに口を塞がれたままのエステルは頷いた。それを見たプリネは安心して、エステルの口から手を離した。

「驚いたわね……。あの酔いつぶれた状態から、よくそこまで回復したもんだわ。」

「うむ、さすがの余も驚いたぞ。一体どんな方法をとったのだ?」

「フッ、任せてくれたまえ。胃の中のものをすべて戻して、冷たい水を頭からかぶってきた。」

シェラザードやリフィアの感心した声にオリビエは得意げに語った。

「あ、ありえない……」

「なんと言うか、執念ですね……」

オリビエが酔いから復活したやり方を聞いたエステルやヨシュアは呆れて溜息をついた。また、シェラザードやプリネ達も呆れや驚きなどの表情をオリビエに向けていた。エステル達の様子に気にせずオリビエは笑いながら話し続けた。

「こんな面白そうな事を見逃すわけにはいかないからね。ちょうど宿から出たところで街道に出るキミたちを見かけて、ようやく追いついたという次第さ。」

「ツメが甘かったわね……。火酒に一気飲みでもさせておけば良かったかしら?」

「それは確実に死ねるんで勘弁してくれたまえ……」

しかし、シェラザードの言葉に顔面蒼白になった。



「それよりもキミたち。ここで空賊たちと戦うのは少々面白くないと思わないか?」

「別に面白くなくてもいいの!」

理解できないオリビエの発言にエステルは怒った。しかしオリビエはエステルの怒りを気にせず、珍しく真面目な表情で自分の意見を言った。

「いや、これは真面目な話。ここで戦って、ついでにあの兄妹を捕らえたところでだ。彼らがアジトの場所について口を割らない可能性だってある。それどころが、人質をタテに釈放を要求してくるかもしれない。」

「何事にもリスクは付きものだわ。それとも、リスクを回避できるいいアイデアでもあるのかしら?」

オリビエのまともな意見にシェラザードは自分なりの考えを言った後、尋ねた。

「フッフッフッ……諸君、耳を貸したまえ。」

シェラザードの言葉を待ってましたとばかり、オリビエは不敵な笑いを浮かべた。

「いいけど……。息を吹きかけたりしたら、マジでぶん殴るからね?」

エステルが念を押した後、オリビエが自分のアイデアを説明し、オリビエのアイデアに賛成したエステル達は行動を開始した……… 
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