英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第27話
「また、あんた達か。将軍は今は誰とも会わないよ。」
再び来たエステル達を見てモルガンの部屋の前にいる兵士が言った。
「雑兵ごときに用はない!そこをどけっ!!」
「なっ!?」
しかし、リフィアの痛烈な言葉に驚き固まった。驚いている兵士を無視してリフィアはドアを思いっきり開けた。
~ハーケン門・司令官室~
バン!
「何事だ!」
「え~と……お邪魔します?」
ドアの大きな音にモルガンは怒鳴り、そこにエステル達が遠慮気味に入って来た。
「また、貴様達か……!メイベル嬢、いい加減にしてくれないか!儂達はあなた達に付き合ってるほど暇ではないのだ!」
モルガンはエステルやメイベル達を見て怒鳴った。
「……用があるのは、その者達ではなく余達だ。」
そこに怒りを抑えた表情をしているリフィアといつもの優しげな雰囲気はなくなり、どこか威厳があるプリネとこれから始まることを知っていて、ニヤニヤしているエヴリーヌが入って来た。
「なっ!?な、なぜこんなところに貴女様が……!」
モルガンはリフィアを見て信じられない表情をした。
「おい、あんた達!何勝手に入っているんだ!」
「そうだ!ここはお前たちのような民間人が入って来ていい場所ではない!」
そこに部屋を守っていた兵士が入って来て注意し、モルガンの側に控えていた副官も注意した。
「ほう……余を知らぬか……本来ならお前達のような他国の雑兵ごときに教える義理などないのだが特別に教えてやろう。余の名はリフィア!メンフィル皇女リフィア・イリーナ・マーシルン!メンフィル皇帝、シルヴァン・マーシルンの娘にして『謳われし闇王』リウイ・マーシルンとメンフィルの守護神と謳われた伝説の聖騎士、『断罪の聖騎士』シルフィア・ルーハンスの孫!」
「同じくメンフィル皇女プリネ・マーシルン!メンフィル初代皇帝リウイの娘にして『アーライナ聖女』ペテレーネ・セラの娘!」
「キャハッ♪2人ともはりきっているね♪じゃあ、エヴリーヌも負けていられないね……『深凌の楔魔』の”魔神”にしてメンフィル客将の1人、エヴリーヌだよ♪」
リフィアとプリネは高らかに名乗り、またそれを真似してエヴリーヌも現在の自分の立場を明らかにした。
「えっ……!?」
「ほう……」
リフィア達の真の名を知ったメイベルは驚き、オリビエは驚いた後探るような目でリフィア達を見ていた。
(ええ~!リフィア達、正体を自分から言っちゃったけどどうしよう!?)
(しっ……リフィア達も考えがあってあえて自分達の正体を言ったと思うよ。もしかしたら引き出せなかった情報が聞けるかもしれないね。だから、もしリフィア達に話を振られたら彼女達に話を合したほうがいいよ。)
(ヨシュアの言う通りよ……これはひょっとしたら面白いものが見れるかもしれないわね……♪)
(う、うん………でも、面白いものってなんだろう?)
リフィア達が正体をモルガン達の前で言ったことにエステルは焦り、小声でヨシュアに相談したがヨシュアはリフィア達の真意がある程度わかり、エステルにリフィア達と話を合わせるように言ってエステルはそれに頷き、シェラザードは口元に笑みを浮かべて驚愕しているモルガン達を見た。
「なっ……!?メン……フィル……の皇女だと!?ふざけるのも大概にしろ!そんな身分の高い方達がこのようなところにいるはずがないだろう!!」
一方リフィア達の名に驚いた副官だったが気を取り直し、リフィア達の正体を否定した。
「ほう……余を偽物呼ばわりするか。……モルガン。貴様もそこの雑兵と同じことを言う気か?」
偽物呼ばわりされたリフィアは不愉快そうな表情をしてモルガンを見た。
「め、滅相もございません!!私の教育が足りなかったようです!!ここは私の顔に免じてどうかこの者達の無礼を許してやって下さい!!……お前達!そこで何を呑気につっ立っている!!この方達は正真正銘、我が同盟国メンフィルの皇族の方達だぞ!!」
話を振られたモルガンは顔を青褪めさせた後、椅子から立ち上がってリフィア達の正面に来て跪いて頭を下げ、跪いていない副官達に気付いて怒鳴った。
「は、はい!」
「申し訳ありませんでした!」
上官に怒鳴られ、状況を理解した兵士や副官も青褪めた後、その場で跪きリフィア達に謝罪した。
「思い出しました……!リフィア……リフィア・イリーナ・マーシルン……メンフィル皇女にして大国メンフィルの次代の皇帝……!!プリネ姫はリウイ皇帝陛下のご息女であると同時にアーライナ教のトップ『闇の聖女』のご息女……!!」
リフィア達のことをようやく思い出したメイベルはリフィア達の正体を呟いた後、信じられない表情でリフィア達を見た。
「顔を上げよ、モルガン。余はそんな細かいことに一々目くじらをたてるほど心が狭くないからあまり気にしておらぬ。……余達を偽物呼ばわりしたのは少々見逃せないことだが、今回はお前の顔に免じて水に流してやろう。」
「ハッ!お心遣い、感謝いたします!」
(うわぁ~……あれだけ、あたし達に怒鳴っていた将軍がリフィア達にペコペコするなんて信じられない光景よね……)
(それだけリフィア達の身分が凄い証拠だよ……モルガン将軍は僕達と違って”軍人”だからね。特に他国の王族に対しては慎重な態度になって当然だよ。)
(ええ、加えてメンフィルはエレボニアを超える大国だからね。そんな大国のメンフィルの皇族には慎重になって当然よ……)
リフィア達の機嫌を損ねないよう跪いて頭を下げ続けているモルガンを見てエステルは目を丸くし、ヨシュア達を小声で会話をしていた。
そしてモルガンはエステル達の会話には気付かずリフィア達にさらに謝罪し、また、なぜこんな場所に来たかを聞いた。
「……このような場所に殿下達がいらっしゃるとは露知らず、歓迎の準備もせず部下達が失礼な態度を取ってしまい本当に申し訳ありません!」
「よい。今回の訪問は非公式だ。気にする必要はない。」
「ありがとうございます……して、此度は何用でこちらに参ったのでしょうか?」
「………お前達リベール軍が我が祖国とアーライナ教会を侮辱する行為を行ったと聞いてな。それを確かめるため、余はメンフィルの代表として、プリネは教会の代表としてこうして参上したのじゃ。」
「なっ!我らには身に覚えがありませぬ!一体どこからそのような情報が……」
リフィアの言葉にモルガンは驚き、すぐに否定して情報の出所を聞いた。
「それはすぐにわかる……モルガンよ。そこにいる遊撃士、エステル・ブライト以下3名を今、ボース市内を騒がしている空賊疑惑で拘束したことに相違ないか?」
「はっ……?何故、そのことが関係するのでしょうか……?」
予想外のリフィアの言葉にモルガンは戸惑い、聞いた。しかしリフィアはモルガンの言葉を無視して追及した。
「いいから答えよ!そこの3名を空賊疑惑で拘束したのは正か!否か!」
「リフィア殿下のおっしゃる通り間違いなく、我々はそやつらを空賊に加担している疑惑で拘束しました。しかしそこにいるボース市長、メイベル嬢の嘆願を受け解放しましたがそれが何か……?」
「モルガン将軍、今の発言にあなたの誇りを持って偽りではないと言えますか?」
「ハッ!我が軍旗、「シロハヤブサ」の紋章に誓って偽りはないと断言します!」
プリネの確認する言葉にモルガンは胸を張って答えた。
「準遊撃士エステル・ブライト並びにヨシュア・ブライト、正遊撃士シェラザード・ハ―ヴェイ。今のモルガンの発言は間違っていないか?」
「え、えっと。間違っていないわよ。2人ともそうよね?」
どこか威厳のあるリフィアの言葉にエステルは戸惑いながら答え、ヨシュアとシェラザードに確認した。
「はい、リフィア様のおっしゃる通り相違ありません。」
「そこの2人の言う通りです。『支える籠手』に誓って断言できます。」
エステルに話をふられたヨシュアは普段とは違う口調で答え、シェラザードも丁寧な口調で答えた。
「ボース市長メイベル殿、エステル・ブライト以下3名に今回世間を騒がしている『定期船消失事件』の調査を依頼し、拘束された遊撃士3名を無実と訴え解放したのは間違いないか?」
「はい、間違いありませんわ。」
話をふられたメイベルも頭を軽く下げて答えた。
「そうか……今ここでリベール軍が我が祖国メンフィルを侮辱したことを真実だと、メンフィル帝国第一皇女リフィア・イリーナ・マーシルンの名において断言する!」
「アーライナ神官長ペテレーネの娘、プリネ・マーシルンの名においてリベール軍がアーライナ教会を侮辱したことを教会を代表して真実だと断言します!」
「なっ!?それは一体どういうことですか!?失礼ながら詳しい説明を要求します!」
リフィアとプリネが高らかに言った発言にモルガンは驚いて説明を聞くことを嘆願した。跪いている副官や兵士も自分達が追い詰められていることに気付き青褪めた。
「よかろう、お主達にもわかりやすいよう話してやろう。実は前々から異世界人であり人間でない我ら”闇夜の眷属”に物怖じもせず、自ら歩みよるエステル・ブライトが注目されていてな、件の少女をよく知るため、また余の見聞を広めるために今回、遊撃士協会に準遊撃士エステル・ブライトに遊撃士としての修行に同行することをリウイが依頼したのじゃ。エヴリーヌは余とプリネの護衛のためについて来たのだ。」
「リフィアの言う通り、リウイお兄ちゃんに頼まれたからエヴリーヌが特別にリフィア達を護衛しているんだよ。」
「なぜ、1人の民間人の少女を知ることだけのために皇帝陛下がわざわざ依頼をしたのでしょうか……?」
モルガンはリフィアの言葉が理解できず質問した。
「それほど難しい話ではない。単にリウイが個人として、また眷属を束ねる王としてエステル自身を知りたいだけだ。また余達異世界人を民間人に詳しく知ってもらうため、我ら”闇夜の眷属”に理解があるエステルを通してお前達異世界の者達とさらなる密接な交流をするためだ。」
「……リフィア殿下のお話は理解しました。プリネ姫は先ほどアーライナ教会を代表してとおっしゃられていましたが、それは何故でしょう?」
たった1人の民間人のために皇族達が動いていることに信じられない思いを持っていたモルガンだったが、実際にリフィア自身が目の前にいるので、いまだ半分信じられない思いでいつつ納得し、プリネに聞いた。
「私は母の命によってリフィアお姉様達と行動を共にしております。」
「母君……と言いますと『闇の聖女』ペテレーネ殿ですか?一体何故……?」
「母――アーライナ教会神官長ペテレーネは、いつものアーライナ様への祈りの際、父――リウイからエステル・ブライトのことを聞きそれを報告し、それを知ったアーライナ様は件の少女に興味を示され、母に教会の誰かを使って少女を観察し報告するよう神託を授けたので、私が母の名代としてエステル・ブライトに同行しているのです。」
「えっ……!?」
プリネの説明にエステルは驚いて声を出した。
「………女神自身が一人の少女に興味を示すなど、正直信じられませぬ。何か、証拠はございませんか?」
プリネの説明にモルガンは信じられず、エステルがアーライナに気にいられている確かな証拠を求めた。
「証拠ですか。エステルさん、少しよろしいですか?」
「う、うん!何かな?」
プリネに呼ばれたエステルは場の雰囲気に緊張しながら答えた。
「エステルさんは以前お母様からアーライナ様のご加護を受けたお守りを受け取ったと聞きます。今、それをお持ちですか?」
「う、うん。これがどうしたの……?」
エステルはいつも身につけているブローチをプリネに見せた。
「少しだけそちろを借りてもよろしいですか?」
「うん、いいよ。」
プリネの求めに応じてエステルは服についているブローチをはずし、プリネに手渡した。
「ありがとうございます……モルガン将軍、これが証拠になります。」
「それが……?一体それは何なのでしょうか?」
プリネに証拠を示されたモルガンは理解できず聞き返した。
「……この装飾品はアーライナ様のお傍に仕える巫女の候補に配られる証。すなわち教会でもこれを持つ者は教会からさまざまな支援を受けられ、またそれと同時にアーライナ様の神託を受けられる証拠です!この装飾品の裏に主神アーライナのお姿が彫られていますよね?これが何よりの証拠です!」
プリネはブローチの裏に彫られているアーライナの姿をモルガンに見せて言った。
(え~!嘘、あれってただのお守りじゃなかったの!?)
一方プリネの説明を全て信じたエステルはいつも大事にしているブローチがどれほど重要な物か聞いて驚いた。
「……プリネ姫のお話も一応理解しました……まだ、信じられませぬがプリネ姫がここにいるのが何よりの証拠ですしな……それで話が戻るのですが、一体それがなぜ我らがメンフィルやアーライナ教会を侮辱したことに繋がるのでしょうか?」
プリネの説明にも強引に自分を納得させたモルガンは聞いた。モルガンに聞かれたリフィアは呆れた顔をした後、モルガンを睨んで答えた。
「まだわからぬか……件の少女、エステル・ブライトに皇帝であるリウイ直々が依頼を出した……エステル・ブライトはリウイの依頼を受けた時点で、我が祖国メンフィルから信頼ある者として認められているのだ!即ち、我らマーシルン家の客人と同然の扱いだ!また、エステルが所属する組織、遊撃士協会は我らメンフィルとは友好な存在!ここまで言えば余の言いたい事はわかるな?」
「そ、それは………」
リフィアに睨まれたモルガンはメンフィルの皇族から客人扱いされているエステル達を、自分の独断でメンフィルに断りもせずエステル達を賊と決めつけ、拘束してしまったこと、さらにはメンフィルが信頼している組織まで侮辱してしまったことを思い出し、青褪めた。
「加えて、エステルさんはアーライナ様の神託を受けられる可能性を持つお方……我々教会としても当然巫女候補としてさまざまな支援をさせていただいております。またそこにいる正遊撃士、シェラザード・ハ―ヴェイ殿は母、ペテレーネの一番弟子……これがどういうことかお分かりでしょう、将軍?」
「う……!」
アーライナ教会からも特別扱いをされているというの情報が偽りとは気付かず、また教会のトップの人物の弟子に何をしてしまったという追い打ちをかけるようなプリネの言葉にモルガンはさらに呻き、顔を下に向けた。
「さて……何か、申し開きはあるか?先ほどのエステル達を賊と決めつけ拘束したというお前自身の発言は、撤回しようと思ってもできんぞ?さっき言ったな。『シロハヤブサ』の紋章に誓って……と。お前達リベールの国の象徴であり、王家の紋章に誓ったことを嘘や冗談とは言わせんぞ?」
「!!」
リフィアに問いかけられたモルガンはリベールの象徴であり、王家の紋章に安易に誓ったことを思い出し、反論や言い訳も見つからず沈黙した。
「それとは別件でもう一つ個人的に余が怒っていることがある。……以前リベールとの会談の際、余はアリシア女王陛下に尋ねた。軍と民間人の武装組織である遊撃士協会とはどんな関係とな。女王陛下はこうおっしゃていたぞ。『軍は大勢の民のために、遊撃士協会は個人のために動きますが事件があった時は手を取り合って協力し合う仲です。』とな。余やリウイはその言葉を信じて今まで協会と我らメンフィル軍は連携してさまざまな事件を遊撃士達と共に解決してきた。なのにその発言をした女王陛下の軍の長であるお前が今していることはなんだ?余やリウイは女王陛下に騙されたのか?」
「それはありえません!陛下は殿下達を騙すような御方ではありませぬ!!」
リフィアの問いかけにモルガンは顔を上げ、声を荒げて否定した。
「ではどういう事だ?確かな理由がないと大使館を通して女王陛下に抗議させてもらうぞ?」
「グッ……!それは………私の………独断……です……」
リフィアの脅しとも取れる言葉にモルガンは呻き声を上げ、言いづらそうに答えた。
「お前の遊撃士協会に対する評価や態度の噂はここに来るまでに聞いた。まさか大局を見ずに軍の長であるお前が、私情に流されて軍を動かしているとはここにくるまで思わなかったぞ?」
「…………………………」
リフィアの痛烈な言葉をモルガンは俯き耐えて聞いた。
「それ以上将軍を攻めないで下さい、リフィア殿下!」
「そうです!これには理由が………」
尊敬している自分達の上官が攻め続けられるのを黙って見る事ができず、副官や兵士は声を上げたが
「黙れ!誰がお前達の発言を許した!」
「「しかし将軍!!」」
「これ以上騒ぐな!これは上官命令だ!」
「「クッ……!」」
しかし顔を上げたモルガンの怒声に制され、悔しそうな顔をして俯いた。
「…………部下達の再度の無礼、どうかお許し下さい。」
顔を下に向けた兵士達を見て、モルガンはリフィアに向き直り謝罪した。
「よい。上官思いの部下であるということはよくわかった。そのこと自体は余はいいと思うぞ?」
「……ありがとうございます。リフィア殿下、プリネ姫。どうすれば我が軍が貴殿等にしてしまった無礼を取り消すためにどのような誠意を見せればよいでしょうか?」
「何、簡単なことだ。お前達が現時点で掴んでいる『定期船消失事件』の詳細を全てここで報告し、遊撃士協会には謝罪の文と事件の詳細な情報を提出すればメンフィルとアーライナ教会の抗議はここで収めてやる。プリネもいいな?」
「はい、リフィアお姉様。」
「エステル、お前達はどうだ?」
「え!?えっと……」
リフィアから急に話をふられたエステルは戸惑ってどう言おうか悩んでいたが
「はい、僕達としては拘束されたことはあまり気にしていませんが、事件解決のために軍から情報を貰うことには異論ありません。」
「ヨシュアの言う通り、私達としては情報を貰えば文句は言いませんよ♪」
ヨシュアが代わりに答え、シェラザードは口元に笑みを浮かべて答えた。
「メイベル殿、貴殿が余達に代わってエステル達を解放したこと、偉大なる王リウイに代わって感謝する。」
「とんでもございません。私は独自で動いただけですから。」
「ふむ、余としては何か礼をしないと気がすまないが何かないか?」
リフィアはメイベルに不敵な笑みで問いかけた。リフィアの笑みからモルガン達に会いに行く前に言ったリフィアの言葉を思い出し、察したメイベルは微笑して話を合わせるように答えた。
「でしたら王国軍による飛行制限をもう少しだけ緩めて頂けるよう、話をしてもらえませんか?空輸が頼りのボースではそのようなことをされたら商売が成り立たず、市民の生活に支障が出てしまいますので、市長として、また一商人として見逃せません。」
「………だそうだ。軍によるボース領空の制限を緩めることで余自身の怒りも収めてやろう。」
「なっ!?殿下、それはあまりにも無茶すぎます!!遊撃士協会に情報を渡すことは仕方ありませんが、領空制限を緩めてしまっては第2、第3の事件の発生の恐れが出てしまいます!!」
リフィアが出した条件にモルガンは大きな声で反論した。
「それぐらいお前達ご自慢の警備艇を使って護衛でもして防げばよいだろう。」
モルガンの必死の反論をリフィアはスッパリと切り事件の予防策を言った。
「しかし!」
「……どうしても無理というのなら余にも考えがあるぞ?」
尚も食い下がろうとするモルガンにリフィアは威厳ある雰囲気で話した。リフィアの言葉にモルガンは嫌な予感がして恐る恐る聞いた。
「………何をお考えなのでしょうか………?」
「何、我らメンフィル軍や”闇夜の眷属”達に空輸する飛行船の警備に当たらせるだけだ。さすがに警備艇はまだ開発中だが、我が軍には竜騎士や空が飛べる眷属がいるしな。お前達に代わって民間人の護衛をしてやろう。なんならファーミシルスを指揮に当たらせてやってもよい。最近のあ奴は後身を育てることばかりで暇を持て余していたからな。メイベル殿は余の考えをどう思う?」
「私としては領空の制限を緩めていただけるならどんな条件でも構いません。それに精強なメンフィル軍の中でも『空の王者』とも言われる竜騎士やリウイ皇帝陛下の親衛隊長であり大将軍である名高いファーミシルス閣下直々に護衛してもらえれば、我々としても安心して空輸を続けられます。」
リフィアに話をふられたメイベルは微笑して答えた。
「……だそうだぞ?」
「殿下!それは内政干渉になりますぞ!?メイベル嬢も滅多なことを口にしないでもらいたい!!」
モルガンはリフィアの考えに賛成したメイベルを注意し、反論した。
「内政干渉?これはおかしなことを言う。余は同盟国として善意で申し出ているのだぞ?」
「それが本当だとしてもまだあります!本当に殿下が軍を動かせるのですか!?」
「モルガン、余を誰だと思っている。」
「それはもちろん存じ上げています。殿下は現皇帝シルヴァン陛下のご息女であり、次期………皇帝………」
リフィアに問いかけられたモルガンはそれに答えてある事に気付いた。
「ま、まさか!!」
「お前が今何を考えているか知らんが、お前の予想通りであると言っておこう。付け加えて言うなら皇位から退き隠居しているとはいえ、我が祖父リウイでも軍を指示できる。
それは”百日戦役”でお前も知っているだろう?」
「…………………………」
「まあ、どうしてもというのなら女王陛下か女王陛下直系であるクロ―ディア姫を連れくるがよい。もしその際陛下達が反論するのなら余もその理由を聞こう。」
リフィアの言葉を自分なりに解釈し、リフィアには軍を動かせる権利があり、最悪リウイ自身が出てくる考えも浮かんだモルガンはそれが起きたことによって、他国のリベールに対する痛烈な評価を予想し、自分が反論しようにも相手が他国の王族の上皇帝直系の娘であり、次代の皇位につく事が約束されている人物なので武官である自分ではあまりにも役不足であることに気付き唇を噛んだ。
「さて、まだ何かあるか?」
(勝負ありね……)
その場の勝者がリフィア達であると悟ったシェラザードは溜飲が下がる思いで小声で呟いた。
(うわぁ~……ねえ、ヨシュア。いいのかな?)
モルガン達を皇女という身分で萎縮させているリフィア達を見てエステルは呆けた後、ヨシュアに小声で話しかけた。
(う~ん……本当は不味いんだろうけど、今回は将軍の自業自得、情報不足と遊撃士協会を知らなさすぎたことが敗因だね。)
(言われてみればそうよね……あれ?遊撃士協会を知らないからってどういうこと?)
(……エステル……この間習ったことだよ?……まあいいか、後で教えるよ。)
(何よ、ヨシュアったら~!絶対後で教えて貰うからね!)
エステルの疑問にヨシュアは呆れた後、溜息をついた。
「グッ……承知………しました………」
「「将軍!?」」
リフィアの要求に呻きながら了承したモルガンに副官達は信じられない表情で叫んだ。
「全く最初から遊撃士協会に素直に情報を渡していれば、こんなことにはならなかっただろうに……まあいい、お前達が持つ情報をここで包み隠さず話してもらうぞ?もちろん、出し惜しみなどは許さんからな?」
ようやく観念したモルガンを見てリフィアは溜息をついて呟き、モルガンに情報を話すよう促した。そしてモルガンはその場で最近の情報を話した。それはすでに空賊達に払う定期船の乗客達の身代金の話が出て来ていること、また身代金を女王自身が自分の資産から出す事、情報部が近々ボースに来て空賊達の情報を探すことが決定したことを話した。
「………以上になります。」
モルガンは嫌悪している遊撃士達に大事な情報を渡したことの悔しさで拳を握りながらもそれを表情に出さず答えた。
「なるほど、さすが常に民の幸せを第一に考えるアリシア陛下だな。エステル、お前達から聞くことはもうないか?」
「う、うん。……というかさすがにこれ以上は落ち込んでいる将軍が可哀想になってくるからやめてあげてくれないかな?」
リフィアに問いかけられたエステルは苦笑しながら答えた。
「お主は本当にお人よしだな……無実の罪で捕まえられたのだから普通、もっと怒ってもいいのだぞ?」
「うーん………そうなんだけど、将軍は将軍で事件を解決するために必死で動いているのはよくわかったから、それぐらいにしてあげて。」
「フフ……自分を陥れた相手にも拘わらず相手の心配をするなんてエステルさんらしいですね。」
無実の罪で自分達を拘束したモルガンの心配をするエステルをプリネは微笑ましく思って呟いた。
「リフィアお姉様、当事者であるエステルさんがこう言っているのです。話はこれぐらいにして私達もそろそろ行きましょう。」
「そうだな……では、余達はこれで失礼させてもらうぞ。」
「お、お待ち下さい!せめてお見送りだけでも……!」
「よい。そのようなことに時間を使うより、此度の事件解決への時間に使ったほうが民のためになる。……領空制限の件と協会への情報提供の件、忘れるでないぞ。みな、行くぞ。」
「はい、お姉様。………それでは失礼します。」
「ばいばーい。」
さっさとその場を去ろうとしたリフィア達を見送るためにモルガンは慌てて引き留めたが、リフィアにとっては自分達を見送るより事件解決のために裂く時間のほうが優先なので断り、プリネは軽く会釈し、エヴリーヌは手を軽く振ってエステル達と共に部屋を出た。
「閣下、どうするのですか?」
未だその場で跪いて俯いているモルガンに副官は話しかけた。
「………ボースの領空制限を緩めるぞ。また、哨戒用の警備艇を一隻哨戒からボースに航行してくる飛行艇の護衛に当たらせろ。
そこのお前、今からわしが作成する謝罪の文と情報の書類を遊撃士協会に届けてくれ。」
モルガンは立ち上がり副官や兵士に指示をした。
「ハッ!」
兵士は立ち上がり敬礼して命令を受けたが
「閣下!本当にあのメンフィルの姫殿下達の言いなりになっていいのですか!?」
副官は立ち上がりモルガンに反論した。
「………仕方がなかろう。相手は何といっても現皇帝の直系のご息女であるリフィア殿下やリウイ皇帝陛下と『闇の聖女』のご息女であるプリネ姫だ。今回の件を理由にメンフィルとの同盟を破棄される訳にはいかぬし、冗談抜きでメンフィルに此度の事件に介入されかねん。それにメンフィルと密接な関係にあるアーライナ教会の機嫌を損ねる訳にはいかぬ。アーライナ教会が出している治療薬は他国の軍は大金を出して購入しているが、我が軍には無償提供されていることや我らリベールは他国と違い、メンフィルと密接な関係であることは理解しているな?」
副官の叫びにモルガンは辛そうに答えた。
「それは………」
モルガンの言葉に副官は言葉を失くして俯いた。
「………とにかく、今は一刻も早く事件の解決のために動くぞ!全員、粉骨砕身で空賊達を捜索させろ!」
「「ハッ!」」
気を取り直したモルガンの言葉に副官達は敬礼し、行動を始めた………
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