英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第26話
~ハーケン門・兵舎内の牢・深夜~
「明朝、将軍閣下自らの手で、あんたたちの尋問が行われる。そこで無実が証明されれば2、3日で釈放されるはずさ。ま、しばらくそこで頭を冷やしておくことだな。」
エステル達を牢屋に入れた兵士はそう言って去って行った。
「はあ、冗談じゃないわよ……。こちらの言い分も聞かないで、こんな場所に放り込んでさ……」
「軍が空賊団を逮捕できれば疑いは晴らせるだろうけど……。こうなると無理かもしれないな。」
牢屋に入れられたエステルは溜息をつき、ヨシュアは項垂れて呟いた。
「え、どうして?」
ヨシュアの言葉が気になったエステルは聞いた。
「廃坑で戦った空賊リーダーの言葉を覚えているかい?『話が違う』、『来るのが早い』って。」
「そういえば、そんなこと言ってたかな。あ、まさかそれって……軍の部隊のことだったの!?」
「十中八九、そうだと思う。そしてそれが意味するのは……」
ヨシュアの説明を聞いてエステルはある考えが浮かび、それを口にして驚きヨシュアはそれに頷いて遠回しに言おうとした所をシェラザードが続けた。
「軍内部に空賊のスパイがいる。もしくは情報を流す協力者のような人物がいる………つまり、そういうことね?」
「はい。」
シェラザードの言葉にヨシュアは頷いた。
「そ、それが本当だったら絶対に捕まらないじゃない!やっぱり、あたしたちが頑張るしかないっていうのに……」
「八方塞がりってやつね。こんな時に、先生だったらどう切り抜けるかしら……」
状況が分かったエステルは青褪めて悔しがり、シェラザードも項垂れてどうするかべきか考えた時、隣の牢屋から声が聞こえて来た。
「フフフ……。どうやらお困りのようだね?」
「あれ……ヨシュア、何か言った?」
「いや、僕は何も……」
「隣から聞こえてきたわ。しかも何だか聞き覚えのあるような……」
聞こえて来た声にエステルとヨシュアは首を傾げ、シェラザードは声の持ち主を思い出そうとした。
「おお、つれない事を言わないでくれたまえ。この艶のある美声を聞いたら誰だかすぐに判るだろうに……」
「こ、この根拠のない自信……」
「そして自分に酔った口調……」
青年の嘆くような声と言葉にエステルとヨシュアは疲れた表情で言葉を続けて
「ひょっとしなくても、オリビエ?」
シェラザードがその名前を言った。
「ピンポ~ン♪ああ、こんなところで再会することができるとは……。やはりボクとキミたちは運命で結ばれているらしいね。」
隣の牢屋にいる青年――オリビエは嬉しそうな表情で答えた。
「あ、あんた……どうしてここにいるのよ?ボースに案内したハズでしょ!」
「しかも、こんな牢屋に閉じ込められてるなんて……。一体、何をしでかしたわけ?」
牢屋にいる青年がオリビエとわかり、エステルは驚きシェラザードはなぜここにいるかを尋ねた。
「まーまー、そう一度に質問しないでくれたまえよ。これには海よりも深く、山よりも高い事情があるのさ。」
「あっそ、だったら聞かない。ていうか聞いちゃったらものすごく疲れそうな気がする。」
「偶然だね、エステル……僕もそんな予感がするんだ。」
「そういうわけで、話してくれなくても結構よ。あたしたちの健康と美容のために。」
物語を語る詩人のような大げさな口調で話すオリビエにエステルはきっぱり断り、ヨシュアもそれに同意し、シェラザードも断った。
「はっはっはっ。そんなに遠慮することはない。一部始終聞いてもらうよ……ボクの身に起きた悲劇的事件をね。」
だがオリビエはエステル達の否定の言葉を無視して、続きを話した。
(聞いちゃいない……)
得意げに話し始めようとしたオリビエにエステルは溜息をついて、諦めた。
「キミたちと別れた後……。ボクは、マーケットを冷やかしてから、レストランの『アンテローゼ』に入った。そして、存分に舌鼓を打った後、余興にグランドピアノを弾いたのさ。すると、レストランの支配人が身を震わさんばかりに感激してね……。レストラン専門のピアニストとして雇いたいと頼み込んで来たわけだよ。」
「どうでもいいけど……あんた、リュート弾きじゃないの?」
得意げに語るオリビエにエステルはオリビエと出会った当初、リュートを弾いていたのを思い出して、どうでもいいような表情で尋ねた。
「フッ、天才というのは得物を選ばないものだよ。それはともかく……ボクはある条件を出してそのオファーを受けたわけだ。ミラの代わりに、料理とワインを毎日タダでご馳走してくれってね。」
エステルの疑問にオリビエは髪をかきあげて答えた。
「何て言うか……オリビエさんらしいですね。でも、それがどうしてこんな牢屋に入れられることに?」
オリビエの語りに苦笑したヨシュアは牢屋に入るに到った理由を聞いた。
「ああ、ここからが聞くも涙、語るも涙の話なのさ。その夜、さっそくボクはシェフに作らせた鴨肉のソテーに舌鼓を打っていたのだが……血を使ったソースがまたたまらなく濃厚な味わいでねぇ。どうしても普通の赤ワインでは物足りなく感じてしまったのだよ。」
「なんか無性に殴りたくなってきたわね……。それであんたはどうしたの?」
オリビエの話し方にエステルは殴りたくなる衝動を抑えて聞いた。
「貯蔵庫の奥に保存されていた良さそうな一本を拝借したんだ………『グラン=シャリネ』1183年物。」
「『グラン=シャリネ』……しかも1183年物ですって!?王都のオークションに出た幻のワインじゃない!」
オリビエが飲んだワインの名を聞いたシェラザードは驚いて叫んだ。
「ほう、シェラ君はなかなか詳しいみたいだね。ボクも噂を聞いて、かねてから飲んでみたいと思っていたのさ。」
「オ、オークションって……どのくらい値段がついたの?」
シェラザードの言葉を聞いたオリビエは感心し、エステルは恐る恐る値段を聞いた。その答えをシェラザードが答えた。
「聞いた話じゃ……50万ミラで落札されたそうよ。」
「ご、50万ミラ~!?たかがワイン一本に!?」
「とんでもない世界だね……。オリビエさん。まさかそのワインを……」
値段を知ったエステルは驚き、ヨシュアも驚いた後、嫌な予感がしたヨシュアはそれを遠回しに聞いた。
「フッ、言うまでもない。美味しく頂かせてもらったよ。……鼻腔をくすぐる馥郁たる香り。喉元を愛撫する芳醇な味わい……ねえキミたち、信じられるかい?薔薇色に輝く時間と空間が確かにそこには存在したんだ……」
「……ダメだこりゃ………」
「……やっぱり疲れたね………」
「……呆れてモノも言えない………」
得意げに語り続けるオリビエに3人は聞く必要はなかったと後悔し、未だ語り続けるオリビエを無視して眠りについた。
「……それで……なんと……………これがまた……………」
エステル達の様子に気がつかないオリビエは1人喋り続けて高らかに言った。
「以上が、ボクをここに送った涙なしでは語れぬ悲劇的事情さ………さあ!思う存分同情してくれたまえっ!!」
「……くーくー………」
「……すーすー………」
「……うン……バカ………」
しかしすでにエステル達は眠りにつき、オリビエの言葉は空しく牢屋に響いた。
「…………おや?ちょっとキミたち……。その『くー』とか『すー』とか『うン、バカ』というのはなんだね?いいかい?話はここから面白くなるのだよ?ここに連れてこられてからも更なる試練がボクを待ち受けて……………………………………もしもーし?ちょっと聞いてますかー?」
エステル達の様子がおかしいと気付いたオリビエは呼びかけたが返事はなかった。そして一夜が明けた。
~ハーケン門・兵舎内の牢・早朝~
「おーい!あんたたち、起きてくれ。」
「うーん……ふわわ……。んー、眠いぃ~……」
「……どうしたんですか?」
「あふ……こんな朝早くから尋問なの?さすがに勘弁して欲しいわね。」
兵士の起こす声に気付いたエステルはあくびをし、ヨシュアも眠そうな表情で答え、シェラザードは嫌そうな表情で聞いた。
「いや、その反対だ。あんたたちを釈放する。」
「えっ……。ど、どうして急に……」
「何か理由でもあるんですか?」
兵士の予想もしなかった発言にエステルは驚きヨシュアは理由を聞いた。
「……こういう訳ですわ。」
するとメイベル市長をモルガン将軍がエステル達の目の前に現れた。
「し、市長さん!?」
「あらら。珍しい場所で会うじゃない。」
メイベルの姿を見たエステルは驚き、シェラザードは意外そうな表情でメイベルを見た。
「皆さん、大変でしたわね。ですが、もう安心して下さい。皆さんの疑いは晴れましたから。」
驚いているエステル達にメイベルは微笑んで答えた。そしてエステル達は牢屋から出た。
「フン、まだ完全に納得した訳ではないがな……。まあ、メイベル嬢たっての頼みだ。せいぜい彼女に感謝するといい。」
牢屋から出たエステル達に納得していないモルガンは鼻をならして答えた。
「えっと、それって……。市長さんが、あたしたちをかばってくれたっていうコト?」
「かばったわけではありませんわ。ただ、皆さんの事情について閣下に説明しただけですから。」
「あたしたちの事情……?」
メイベルの説明にエステルは首を傾げた。
「……そこの2人。おぬしらに1つ質問がある。カシウス・ブライトの子供というのは本当なのか?」
「へっ……」
「はい、仰るとおりです。彼女はエステル・ブライト……。僕は養子のヨシュアといいます。」
突然のモルガンの質問にエステルは呆け、ヨシュアは冷静に答えた。
「そうか……。確かに、そちらの娘にはレナ殿に似ているな。」
ヨシュアの答えを聞き、モルガンはエステルの容姿を見て納得した。
「え!!!お母さんを知ってるの!?」
「ロレントの家を訪れた時に何度か手料理をご馳走になった。フフ、赤ん坊だったおぬしにも会ったことがあるぞ。」
驚いているエステルにモルガンは昔を懐かしむように答えた。
「ちょ、ちょっと待って……。モルガン将軍って父さんの個人的な知り合い?父さんが昔、軍にいたのはあたしも知っているけど……」
「フン……遊撃士としてのヤツは知らん。わしが知っているのは軍人としてのカシウスだけだ。稀代の戦略家と呼ばれた、な。」
エステルの疑問にモルガンは鼻をならして答えた。
「戦略家?」
エステルはモルガンの答えを聞き、首を傾げた。
「まったく、何を好んで遊撃士協会などに…………ええい!思い出すだけで腹の立つ!わしはこれで失礼する。」
モルガンはぶつぶつと独り言を言いながら退出した。
「ど、どうなってんの?」
「フフ……。エステルさんのお父様は優秀な軍人だったそうですわね。退役する時、何度も引き留めたと将軍閣下から伺ったことがありますわ。」
モルガンの言葉を聞き困惑したエステルにメイベルは説明した。
「そ、そうだったんだ……。なんだか信じられないけど。」
メイベルの説明を聞いたエステルは普段のカシウスの姿を思い出し、信じられない表情をした。
「しかし、そうなると……。将軍の遊撃士嫌いは先生が原因かもしれないわね。目を掛けていた部下に去られた悔しさから来ているのかも……」
「なんかそれっぽいですね。」
モルガンとカシウスの関係を聞いたシェラザードはある考えが浮かび、ヨシュアもその考えに同意した。
「じゃあ何、父さんのせいであたしたち苦労しているわけ?あ、あんの極道オヤジぃ~っ!」
それを聞いたエステルは拳を握って身を震わせた。
「フフ……。さて、それでは皆さん。ボースに戻ると致しましょう。定期船が見つかった事で、事件は新たな局面を迎えました。色々と相談したい事があるのです。」
「あ、うん………………………………」
メイベルの言葉に頷いたエステルは急に黙った。
「あら、どうなさったの?」
エステルの様子が変だと思ったメイベルは黙っている理由を尋ねた。
「帰るのは賛成なんだけど、何かを忘れているような……」
「そういえば……」
「何だったかしらね……?」
何かを思い出そうとしているエステルの呟きにヨシュアとシェラザードも頭の片隅に残っている何かを思い出そうとした。
「ああ……人は何と無情なのだろう。一夜を共にした仲間のことをいとも簡単に忘れ去るとは……。なんという悲劇……何というやるせなさ……。いいさ、ボクはこの暗き煉獄で一人朽ち果てて行くとしよう……」
すると隣の牢屋からリュートを弾きながら嘆くオリビエの声が聞こえて来た。
「アレがいたか……」
「うーん……完全に忘れ去っていたわね」
「気の毒とは思うけど、さすがにどうすることも……」
エステルはやっかいそうな表情でオリビエを見て、シェラザードとヨシュアはそれぞれ違う表情で見た。
「そちらの方は……噂の演奏家の方ですわね?《グラン=シャリネ》を勝手に飲んでしまったという。」
「フッ、いかにも……。しかしレディ。勘違いされては困るな。あれは前払いだよ。華麗なるボクの演奏に対するね。」
メイベルの質問にオリビエは気障な動作でに答えた。
「フフ、面白い方ですわね。まあ、ついでですから貴方も釈放していただけるよう将軍に掛け合って差し上げますわ。」
「ほう……?」
しかしメイベルから出た以外な言葉にオリビエは驚いた。
「さ、さすがにそれは無理があるような……」
「レストラン側が訴えれば、少なくとも訴訟にはなるはずよ。」
メイベルの言葉にエステルは苦笑し、シェラザードも無理なことを言った。
「ふふ……その心配はありませんわ。あのレストランのオーナーはわたくしですから。」
「え……」
しかしシェラザードの言葉を否定するように言った、メイベルの言葉にエステルは驚いた。
「あの『グラン=シャリネ』もわたくしが競り落としたもの。これならば問題ないでしょう?」
そしてオリビエもメイベルによって釈放された。釈放されたエステル達は一端ボース市に帰ろうとハーケン門の入口まで来たところ、そこに別行動をしていたリフィア達がやって来た。
「エステルさん!よかった……釈放されたんですね……」
釈放されたエステル達を見てプリネは安心した。
「プリネ!リフィアにエヴリーヌも……どうしてここに?」
ボース市内にいるはずのプリネ達に疑問を持ったエステルは聞いた。
「エステル達と別れて情報収集をしていた余達だったんだが……ヴァレリア湖とやらにも足を延ばしての。そこである気になる情報があり、一晩ヴァレリア湖の宿屋に泊まって様子を見ていたんだが何もおこらくての。一端ギルドに戻ってお前達とその情報について相談しようとしたんだが、受付からお前達が軍に捕まったと聞いてな。急いでここまで来たのじゃ!」
「気になる情報って?」
リフィアの説明を聞いたエステルは聞き返した。
「それは後で話す……ん?そやつは何者だ?」
リフィアはオリビエに気付いてエステル達に聞いた。
「あ~こいつは……」
リフィアの疑問にエステルは苦笑しながら答えようとしたところ
「おお……清楚な雰囲気ながらどことなく漂う高貴な雰囲気……そして夕焼けのような流れる美しい髪に紅耀石のような瞳……まるで陰謀渦巻く貴族の中に咲く一輪のバラのようだ……ぜひ、ボクの貴女への愛の歌を一曲聞いてくれますか、レディ?」
(始まった……)
(こいつは~!)
いつのまにかオリビエが紳士が淑女にダンスを誘うような動作でプリネに向かって歯の浮くようなセリフを言っていた。それを見てヨシュアは溜息をつき、エステルは怒りに震えた。
「フフ………お気持ちは嬉しいですけど、時と場所を考えて下さいね?」
「ハハ……これは手厳しい。。……しかし一度断られたからと言って、このオリビエは諦めないよ♪むしろ、燃えちゃうね♪ということでいつか一日、デートに付き合って♪」
だが、プリネは自分をナンパするオリビエに微笑してやんわりと断った。一方断られたオリビエはめげずにプリネを口説いていた。
「……申し訳ありませんが、そういうことは一生を共にする伴侶以外はしないと決めているのでお断りさせていただきます。」
「それは残念だ。では代わりにそこの冷たい雰囲気を持つリトルレディに付き合ってもらうとしようか。」
「……勝手に決めないで。エヴリーヌだってそういうことはお兄ちゃんとしかしないって決めているから。……後、今度プリネにそんな冗談みたいな態度で言い寄ったら潰すよ?」
プリネに断られたオリビエは今度はエヴリーヌを口説いたが、エヴリーヌは冷たい瞳でオリビエを見て言った。
「心外だな。冗談のつもりではなかったんだが。」
「だからそれが余計にタチが悪いんでしょーが!!全くだからこいつとプリネ達は会わせたくなかったのよね……」
意外そうな表情で語るオリビエにエステルは吠えた。
「案の定の行動だね……」
「はぁ……すみません、師匠。大事な娘さんをこんなやつと関わらせてしまって。」
ヨシュアは呆れシェラザードは溜息をつきながら、ペテレーネに謝った。
「フフ、本当に面白い方ですね。」
メイベルはエステル達とオリビエのやり取りをみて微笑した。
「旅の演奏家のくせにして余の目の前でプリネに手を出そうとするとはなかなかいい度胸をしておるな?……まあいい、お主のその度胸に免じてこれから起こる面白い出来事の観客になることを許してやろう。」
「ほう?一体それはどういうことかな?」
リフィアの言葉にオリビエは首を傾げて言った。
「すぐに見せてやる……みな、行くぞ。市長もついてくるがいい。お主が欲しい情報をあの老将軍からさらに引き出したり、軍による飛行制限を緩くしてやろう。」
「え……いくらメンフィルの貴族とはいえ、さすがにそれは難しいのでは?」
リフィアに言われたメイベルは疑問に思ったことを尋ねた。
「フム、一つ言っておこう。初見で会った時お主に言った名は偽名だ。」
「偽名?でしたら本当の名はなんなのでしょうか?」
リフィアの言葉にメイベルは真剣な表情で尋ねた。
「それはあの老将軍の前で明かしてやろう………みな、余達についてくるがいい!」
そしてエステル達はモルガンのいる司令官室に向かうリフィア達について行った………
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