ラブライブ!~夕陽に咲く花~
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第2話 放課後日和
「着いたにゃ」
「...うわぁ、流石人気なだけあって人がかなり並んでるねー。」
「少し時間はかかると思うけど並んで損はしないよ。ここのクレープとってもおいしいもん。」
そんなこんなでやってきた移動販売車のクレープ屋さん。
そこから大蛇の如く長い人の数。その約8割は学生で、さらにその中の学生の約6割が女子高生だった。
そんなに学生に人気なんだぁ~と、感心しつつ並び始めた二人の後に続く。
───第2話 放課後日和 ───
「無事クレープ買えてよかったね。」
「りん、クレープ大好きにゃ~。ラーメンの次に好きにゃ~。」
「凛ちゃんほっぺにクリームついてるよ。」
「え?かよちんとって~」
並んで数十分、立ちっぱなしで足がくたくただけど何とかクレープにたどり着くことができた。
凛と花陽はそれぞれ”ミックスベリー”を、僕は”バナナチョコ”という比較的安価なクレープにした。
(二人とも僕よりいろんなところでお金使ってるのにまだ持ってるんだ......まさか二人の財布は底なし?)
もしそうなら僕にも是非お恵みを分けてもらいたいなぁ、と思いつつもそれじゃ2人に申し訳ないので心の奥底にしまっておくことにした。
僕もクレープにかぶりつく。バナナの味に程よくチョコが絡まっていて甘過ぎず飽きが来ない。
クレープの皮も生地がふわってしていてこの屋台が人気なのが分かるような気がした。
隣の花陽も凛も幸せそうに食べている。
(子リスみたいだなぁ...)
と、思った。
「春くん春くん」
そこで凛が食べかけのクレープを僕に差し出してきた。
妙に頬を染め、もじもじしながら、というオプション付きで。
「なに?」
「はい、食べあいっこしよ?」
何故か隣の花陽も凛の行動を見て同じ反応する。
2人の不思議なリアクションに疑問を感じながら、遠慮なく凛のクレープを一口いただく。
口に入れた途端ゴロゴロとした果物から独特の甘酸っぱい果汁が広がりクレープの生地がそれらを優しく包み込む。お値段相応の味で確かにおいしい。余裕があったら買ってみようかな。
「あの...ど、どうだった?」
「うん、おいしいねコレ。また今度の時は僕もこれにしよう。」
「えへへ、流石りんのかよちんだにゃ~。」
「よかったね凛ちゃん」
花陽がオススメした食べ物は間違いない。そんな風に言いたげな凛は鼻高々にそう言う。
一瞬羨ましそうな眼差しを凛に向けていた花陽もなんだか嬉しそう。
「はい凛ちゃん」
「え?」
「え?って......食べあいっこだよね。だから、はい」
凛はしばらく躊躇うも意を決してパクリ!と、僕のクレープにかじりつく。
そして、一口どころか四分の一を持っていかれた。
「凛ちゃん持っていきすぎ......」
「にゃ~おいしそうだったからつい」
「まぁ......おいしそうに食べてるからいいかな。」
おいしそうだったから、と凛は言うが実のところあまりにも恥ずかしくて羞恥を紛らわそうと思いっきりかぶりついたのは本人にしかわからない。
そしてさっきからちらちら僕たちのやり取りを見ているもうひとりの幼馴染にもクレープを向ける。
「...いいの?」
「花陽ちゃんもほら、一口どうぞ」
僕とクレープを交互に見た後、クレープの端を食べる。遠慮したためか花陽の食べた箇所がほとんど生地のところだけだったので、具のあるところをちぎって、
「ほら、口開けて」
「え、ムグッ!?」
口の開いたときに押し込んだ。
花陽は咀嚼を繰り返して、飲み込む。
「あ、、ありがとう......」
「ちっちゃい頃から僕たちいろんなもの半分にしてきたんだからさ。今更遠慮しなくてもいいからね。」
僕の食べるところが結構なくなっちゃったけど、お構いなしに食べ始める。
気が付くと凛は食べ終わっていて、僕の手に持つクレープを見て欲しそうにしていた。
あの......僕全然食べてないんですけど。
凛に取られないようにそっぽを向いて食べる。
凛は僕の反対隣りにやってきてクレープだけ凝視する。その口からは僅かに涎が垂れていた。
「.........」
「じ〜っ」
「.........」
「じ〜っ」
「.........」
「じ〜っ」
「.........」
「じ〜っ」
僕が反対側を向けば凛も移動し、また僕が反対側を向けば凛も移動する。
それは親の周りをちょろちょろ動き回る子供のようだった。
終いには「にゃ~」と、唸り声をあげ、猫そのものになろうとしていた。
かくなる僕の決断はこうだった。
「......はい」
名残惜しいけど僕は食べかけのクレープを凛に差し出した。
さらば...420円(税込み)のクレープよ
「いいの!?やったにゃ〜〜〜〜〜っ!!ありがと春くん!!」
なんとも嬉しそうな笑顔でぴょんぴょん跳ねる凛は、ふといきなり立ち止まり何かに視線を向ける。そして何故か食べてる最中の花陽の手を握って走り出した。
「かよちん、あそこのゲーセン行っくにゃ〜〜〜っ!!」
「ふぇぇぇ!?待って凛ちゃん引っ張らいで!?」
「今あそこに猫のぬいぐるみがあったにゃ!あれを取らないと後悔しちゃうにゃ~!!!」
「待って!待っ!ううぅぅ...ダ、ダレカタスケテェ〜〜ッ!!!!!」
そうして慌ただしくも凛は誰かに助けを求める花陽を連行し、道路を挟んで向かい側のゲームセンターに向かう途中、交錯する人ごみに紛れて見失ってしまった。凛がテンションを上げ、花陽はそれに巻き込まれて引っ張りまわされる。それを僕は止めずにただぼーっと見てるだけ。この流れはいつもの事であり、僕は決まってこう思う。
「今日も二人は元気だなぁ......」
僕はカバンからお茶の入ったペットボトルを取り出し、のどを潤す。
今日も僕たち三人は絶好調なり。
二人はどこに行ったかな......
猫のぬいぐるみを取るとか言ってゲームセンターの中に入ったのだから、クレーンコーナーのところにいるもんだと思い込んでいた。だけどそこには知ってる二人の姿は無く、アニメフィギュアを手に入れようとクレーンゲームに野口さんを2、3枚両替して頑張ってる高校生しかいなかった。
「ん〜?」
耳を澄まして声を聞き取ろうにもゲームの音に阻まれて人の声が聞き取れない。
一応メールも送ってはみたものの返信が来ないあたり気づいてないようだ。ここまで探してもいないとするとあとは......、
「...二階?」
僕たちが入ったゲームセンターは5階建てのビル内にあり、一階と二階を無駄なく使用したのがゲームセンタ―、三階、四階はファッションのお店、最上階は文具店となっている。
ちなみに一階はクレーンゲームやレースゲーム、シューティングゲーム。
二階はコインゲーム、リズムゲーム、プリクラ、その他のゲームと分けられている。
「もしかしてプリクラ撮りに行ったのかな?」
まぁ女の子はそういうの撮りたがるから当たり前と言えば当たり前......かな?
僕の幼馴染はあまり撮らない、というかそもそもゲームセンターに行かないから2人がプリクラ好きかどうかも怪しい。長い付き合いでもわからないこともあるもんなんだなぁ〜
「遊んでて邪魔しちゃ悪いし見つけたら後ろで見守っていようかな。」
帰りが少し遅くなっちゃうけど僕が送れば大丈夫だろう...
そんなことを考えながら、二階に上がる。そこには一階以上に人で混雑していた。
特にリズムゲームの一角はすごかった。殆どが男性ばかりで社会人から学生まで年齢問わずごった返しになっていた。
なぜあんなにも集まっているんだろうと疑問に思ったが、その疑問は立てかけられている看板によって、すぐに払拭された。
『本日から人気アプリゲームがアーケードゲームになってやってきました!!先着300人の方には素敵な賞品をプレゼント!!』
「これって......」
このアプリは見たことあるような気がする。なんかのアニメの世界観をモチーフとしたリズム&アドベンチャーゲームで、ここ数年で人気を集めたアプリだ。
でも僕はそこまで興味ないし、何故こんなにも人がいるのか原因がわかり、満足したので素通りしてその場を立ち去った。
花陽ちゃんと凛ちゃんはどこ行ったんだろう......
「あ......」
いた。見つけた。
二階の奥、ダンスゲームの前にいる二人を見つけた。
何をしているんだろう。会話をしているらしいけど周りの騒音で聞こえない
「み〜つけた。何しようとしてるの?」
「あ!春くん!今ね、かよちんとダンスゲームしようと思ってたんだにゃ!ええと...『あぽかりぷすもーどえきすら』?って言うんだって」
「わ、私できるかな......ダンス苦手なんだよね...」
「大丈夫にゃ!凛に任せるにゃ~」
お金をそれぞれ投入し、カバンを床にトサッと置いてゲーム画面の前に立つ。
僕は二人のカバンを拾って後ろの長椅子に座る。画面には難易度が表示され、凛は躊躇いなく”EXPERT”を選択する。花陽が付いていけるか心配だけど......
「あ、この曲ならさっき電車のなかで聞いてたからわかるにゃ!かよちんこれでいい?」
「いいよ、私もこの曲知ってる。」
凛は不慣れな手つきで曲を選択する。
そして...曲が始まり、2人は曲に合わせて踊りだす。元々運動神経の高い凛はその能力は発揮するように軽やかな足取りを見せ、一方花陽はタイミングがずれたり手の向きが逆だったりしていたが、アイドルに憧れた彼女なんだ、とても楽しそうに踊っている。しかも歌いながら踊るその姿は”アイドル”そのものだった。
「うわぁすごいにゃ〜。見て見てかよちん、春くん!りん、新記録出しちゃったみたいだにゃー!」
「はぁ...はぁ...り、凛ちゃんすごいね...私なんて...はぁ...疲れてくたくただよぉ~」
”Lose"と”Win”がそれぞれの画面に出ているけど二人は勝ち負けというより”一緒に踊り切った”という気持ちの方が強いのだろう。凛はペタンとその場に座り込んだ花陽を支え、ゲーム脇から出てきたカードを受け取る。
「はい、お疲れさま二人とも。」
「よし次はプリクラにゃ~!」
「ありがとう春人くん。って待ってよ凛ちゃんもう少し休ませてよぉ~」
終始ハイテンションの凛は花陽と僕の手を掴んで猛ダッシュで店内を駆け巡る。
走り回ったら危ないよ~、と言いたいところだけど言ったところで凛の暴走が止まるはずがない。そう思った僕はなされるがままに身を任せた。
そうして凛に引っ張られ、僕と花陽はプリクラ機の中に入る。室内は真っ白で眼前にはコイン投入口と操作画面、カメラレンズが搭載されていた。
「え?僕も撮るの?」
「当たり前だにゃ、春くんだけ仲間外れだなんて考えられないもん」
「それに私たち三人で撮ったプリクラなんて一枚も無いから記念に撮ろ?」
「そう......だね、確かに無いかも」
記憶を辿ってみるもそれらしき記憶もないし撮りたいっていうなら断る理由もない。
そういうことで僕達はお金を投入口に入れると、ふわふわした感じの声が室内に響く。
「かよちん、これどうすればいいにゃ?」
「ええと......うん、そのままOKボタン押していいんだよ。」
『それじゃあ一枚目いっくよ~』
と、聞こえた瞬間いきなりフラッシュが焚かれた。
「あぁ!春くん端っこにいるから左半分写ってないにゃ!!」
「春人くん場所移動場所移動!!」
「え?え?なに?なに?」
訳が分からぬまま花陽に急かされ凛・花陽・僕の並びから凛・僕・花陽の順番へと強制変換される。
なんで?と、尋ねようとした瞬間、
『二枚目いっくよ~』
と、またしてもふわふわな声が聞こえ、フラッシュが焚かれる。
思わず目を瞑ってしまい、二枚目は目を閉じた僕が写っていた。
「今度は春くん寝てるにゃ!ちゃんとレンズ見る!」
「じゃあ次は春人くんのう~しろっ!」
「うごっ!?」
「ああ!?かよちんずるいにゃ!りんもりんも~!!」
今度は花陽が僕の後ろから飛びついてきて、柔らかな女の子の象徴を感じながらも態勢を立て直し、更にその上から凛ものしかかってきたので耐え切れずうめき声をあげる。
「う......ご...っ、た、助けて......」
一人だけなら僕でも支えられる。けど、二人同時だとお世辞でも軽いとは言えない。
僕は運動部でもなければゴリゴリの筋肉体質でもないんだ......
そんな僕の苦労なんて露知らず、プリクラ機の声は無機質なボイスを響かせる。
『次の写真、いっくよ~』
パシャリ、と三回目のフラッシュが焚かれる頃には僕の肉体とメンタルはボロボロだった。
「凛ちゃん、次はこのポーズにしよ?」
「あ、それいいにゃ!」
果たしていつまで続くのかな......。
あ、そういえば頼まれていた”約束”のお菓子買っていかなきゃな......
二人が楽しそうにしている中、ふとそんなことを考えている僕がいた。
「ここはこうして~......ハイできたにゃ!」
「ブフッ!春人くん豚鼻!!」
「それじゃこっちの春くんは可愛くおめかしするにゃ~」
「じゃあ私はこっちにしよ」
あの後4,5枚撮ったのち、外にある落書きコーナーへ向かった。
この手の事は僕より女の子の方が詳しいだろうから二人に任せて、一人になった僕はカバンからペットボトルを取り出してその辺で休んでいる。
人生初のプリクラだったけど、実はプリクラ機内の中はあんなに壮絶なことが起こってるんだなぁ......
また一つ人生経験をしたような気がする。
カーテン越しからも二人の賑やかで楽しそうな声が聞こえる。
それらをBGMに僕は携帯を取り出して電車に乗る前に送られてきた”一通のメール”を紐解く。
差出人は僕の”妹”
From:高橋雫
To:高橋春人
件名:お使い
いつもの和菓子屋さんでいつものお饅頭一箱買ってきて欲しいな?
「そういえば返信してなかったなぁ〜」
数時間前のメールに返信して、雫怒ってないかなぁ〜、
そんな心配をしつつ、「わかった」とだけ送って携帯を閉じる。
───────僕には妹がいる。名を雫といい、今年から中学三年生、つまり受験生だ。
兄である僕が言うのも変だけど、とても可愛い女の子だ。
僕と違って頭が良くて運動神経も長けていて...陸上部で長距離専門の妹、陸上の強い高校からスカウトされたこともあるくらい僕の自慢の妹だ。
僕たちは幼い頃からかなり馬の合う兄妹で、僕が中学二年の頃”まで”ごく普通の仲良しの兄妹だっ”た”。
「たっだいま〜!」
「お待たせ春人くん」
妹の事を考えてたら丁度花陽と凛が落書きコーナーから戻ってきた。
「お帰り〜」
「はい、春人くんも一つどうぞ♪」
「うん?僕にももらえるの?ありがと〜」
「春くんすごくイケメンになってるから期待してもいいにゃ!!」
と、凛は言うが......そうは見えないのは僕だけだろうか。
元から肌白な僕が更に白くなってるのは別に構わない。顔が妙に小さくなってるのもカメラの仕様だと思うからそれもいい。僕が尋ねたいのはなぜ僕だけ豚鼻だったりアニメの目みたいにキラキラ輝いているのか、ということだ。
「これが......僕?なんか面白いね」
「あれ?なんか思ってたリアクションと違ったにゃ。『イケメンじゃないよ〜』みたいなリアクション期待してたのに...」
「あ、いやそんなつもりは......」
「まあまあ凛ちゃん、でもほらこれ見て。やっと私たち三人の写った写真が手に入ったんだよ。私はすっごく嬉しい。」
花陽が指さした写真......5,6枚目に撮った写真。二人が僕に寄り添い肩を並べて楽しそうに笑う僕の幼馴染たちと、初めてのプリクラに戸惑いながらも頑張って笑顔をつくる僕の写真。
僕たちの......初めての集合写真。
そう思っただけで胸の奥底がポウッと温かくなる気がした。
唐突に「ありがとう」の言葉が浮かんできた。これは一体何に対しての”ありがとう”なのかな。
凛ちゃんに?花陽ちゃんに?二人に?ううん、違う気がする。
......あぁそうだ。僕はきっと”あの出来事”に「ありがとう」って言いたいんだな
凛には失礼だけど、もしあの時”あの出来事”が起こらなかったら、こんなにも三人で仲良く遊ぶことなんてなかったのかもしれない。僕と花陽だけじゃこんな気持ちになんてなれない。
僕がいて、花陽ちゃんがいて、凛ちゃんがいて。
だからこんなにも毎日がたのしくてドキドキして充実してるんだな。
「.........好きなんだなぁ、二人の事が」
「え?何か言った?」
「うん言った。僕は二人の事が大好きなんだなぁ〜って」
「え.........?」
「ふぇ......?」
僕が呟いたことをそのまま伝えたら、途端に真っ赤になり始めた。
なんか僕変なこと言ったかな?
「お...お...落ちこちこ...つけ...つけこ、なんかち..かちょ...くない?」
「にゃ..にゃ〜な、なんでそんな...そにゃ...ことを」
「ちょちょっと?汗の量がすごいけど大丈夫?」
「だひ......だひ丈夫...だよ?」
いや大丈夫じゃないと思うよ?ちゃんとしゃべれてないよ?
二人は電車内以上にショートし、何喋っているのかわからないしすごく熱気が伝わってくる。
「......ふぅ。春人くん、嬉しいけどやっぱりそういうこと軽々しく言っちゃダメだよ」
「え?あ、うん..わかった。」
「は、春くんは天然ジゴロさんだから注意しても無駄だよかよちん」
ようやく落ち着いた花陽が僕に釘を刺す。
凛も落ち着きを取り戻しつつあるけど火照った頬は相変わらず。
でも花陽も凛も嬉しそうな表情をしているあたり、そこまで怒ってないのかもしれない。
僕は花陽ちゃんも好きだし凛ちゃんも好きだ。きっと二人は僕の事は好き......かな?
だって嫌われてたらこんなに仲良くないし、遊びに行くだなんてしらい。
じゃあ......好き...でいいのかな?
うん、きっとそうだ。こうやって「言っちゃいけない」って注意するのは恥ずかしいからなんだな。
じゃあこれからは気を付けよう。僕が二人の事大好きだって伝わるならそれで。
と、僕は勝手に自己解決して満足する。
「今日はこれからどうする?」
「ん~もうしたいゲームないから帰ろうかな〜...かよちんは?」
とりあえず、ゲームセンターを出ながらこの後について話し合う。
入る前よりも日は傾き、少しずつ暗くなってきた歩道に三人横になって歩く。
「私は特に用事ないから帰ろうかな~って。春人くんは?」
「僕はこれから頼まれたお使いをするためにちょっと音ノ木坂方面にいかなきゃならないかな。」
「何買うのかにゃ?」
しばらく歩いたところで十字路にぶつかる。ここを左に曲がると凛の家、まっすぐ進むと僕の家と花陽の家、右に上がると音ノ木坂学院が見える。
人気が無くたったところで僕たちは立ち止まる。
まだ喋り足りない凛が明日の予定について提案してきた。
「明日はりんの家であそぼ?」
「僕は構わないけど凛ちゃんのお母さんに迷惑かけない?急だから心配だなぁ」
「問題ないにゃ、明日お母さんは仕事で帰りは9時過ぎるって言ってたし」
ならいいけど...と、僕は言い花陽の様子を伺う。
「じゃあ明日キッチン借りてもいい?クッキー作りたいな。」
「ほんと!?楽しみに待ってるにゃ~。早く明日にならないかな~。」
花陽手作りクッキーにご機嫌な凛はその場でくるくる回りだす。
そのまま自宅へ向けて走っていく。道の途中で立ち止まり、凛は振り返って
「か〜よち〜ん!!は〜るく〜ん!!また明日ね〜〜〜〜!!!!!!」
大きな声で叫ぶ。彼女はとても笑っていて体全身を使って手を振るその姿は”夕陽”に負けないくらい輝いていた。
凛に応えるべく花陽も大きく手を振って、
「バイバ〜イ!凛ちゃ〜ん!!!」
と、別れを告げた。僕も後に続いて手を振る。
凛が見えなくなったところで僕は身を翻して”和菓子屋”に向かう。
「花陽ちゃんはどうする?」
「うん、私もお買い物についていきたいな。」
僕の隣でテクテク歩く彼女は先ほど撮ったプリクラを眺めて、そう呟く。
そんな花陽を僕はじっと見る。しばらくプリクラを眺めていた花陽はソレをカバンにそっとしまい、左手で僕の手を繋いでくる。
「どうしたの?」
「...ひ、久しぶりに手を繋ぎたくなったの。ダメ......かな?」
「ううん、全然。僕も嬉しいよ。」
だから僕はそのまま握り返す。
「もう暗くなってきたね」
「そう......だね。」
「もう.........高校生だね」
「...うん」
見た目も体格もあの頃と比べて随分変わってしまった僕たち。
時間は止まってくれはしない。
だけど、そんな中変わってないものもある。
「ねぇ春人くん。」
「なんだい?」
「”約束”、覚えてるかな?」
僕たちは千代田区の住宅街の中を仲良く手をつないで帰路に着いた。
僕たちの一日はまだまだ続きそうだ.........。
「うん......覚えているよ。」
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