英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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外伝~イリーナの決意~
~クロスベル市内~
ペテレーネがティオに魔術を教えている間、リウイは今もメンフィル大使館で預かっている少女達――イリーナとエリィの縁者、祖父のヘンリー・マグダエル市長宅に向かって着いてドアをノックした。
コンコン
ノックを聞き、市長に仕えているであろう執事がドアを開け姿を現した。
「……どちら様でしょうか?」
「メンフィル大使、リウイ・マーシルンだ。イリーナ・マグダエルとエリィ・マグダエルの件について話すことがあったのでこうして参上した。約束もなしで急で悪いが市長殿と会えるか?」
リウイが名乗り上げると執事は目を見開き驚いた。
「なんと……!メンフィルの皇帝陛下でございましたか……!これは失礼して申し訳ありません!今すぐ主人に話して来ますので申し訳ありませんが少しの間だけお待ち下さい!」
「ああ。」
執事はリウイの返事を聞くと急いで書斎で仕事をしているマグダエル市長に報告した。
「旦那様、リウイ皇帝陛下がイリーナお嬢様とエリィお嬢様の件で話すことがあるので、今入口の所でお待ちになっております!」
「何!?どうしてリウイ皇帝陛下がイリーナ達のことを……?とにかく会おう。すぐに客室にお通ししてくれ。私も今すぐ向かう!」
「かしこまりました!」
市長はリウイの突然の訪問と、最近行方がわからなかった娘夫婦の子供達の件をなぜリウイが報告をしに来たのかと驚いたが気を取り直し執事にリウイを客室に通すよう指示して、市長自身も客室へ向かった。そして市長とリウイは対面した。
「……メンフィル大使、リウイ・マーシルンだ。連絡もなしに突然の訪問に答えてくれて感謝する。」
「そんな!これぐらいのことで陛下に感謝されるとは恐れ多いです……!………それで、孫達のことでリベールからはるばる来たとおっしゃいましたがあの子達の行方がわかったのでしょうか?……実は最近娘夫婦と連絡が取れなくて探していたのですが……」
リウイの感謝に市長は恐縮した後、本題に入った。
「ああ。イリーナ・マグダエルとエリィ・マグダエルは今メンフィル大使館で預かっている。」
「なんと……!一体なぜそんなことに……?」
市長はリウイの言葉を聞いて驚いた後、メンフィルが孫達をなぜ預かった経緯を聞いた。そしてリウイは話した。2人の両親が最近世間を騒がしていた子供達を誘拐していた犯行グループに殺されたこと。イリーナとエリィは幸運にもたまたまその場にいたリウイの娘であるプリネに保護され、プリネに2人を事件が解決するまで大使館で預かるように嘆願されたのでそれに答えたこと。そして事件が解決したのでこうして2人の無事を知らせに来たことを話した。
「そんな……!もう娘達がエイドスの所に召されていたなんて………!………どうりでいくら手紙や通信をしても連絡がない訳です………」
市長は娘夫婦の訃報を聞き、ショックを受け両手から力が抜けた後、顔を下に向けた。
「心中お察しする………預かった2人の安全を考え、事件が解決するまで連絡しなかったことには謝罪する。」
「………いえ、孫達のことを考えての行動としてはあの時はそちらの方が安全です。………孫達を救い今まで守ってくださってありがとうございました………」
市長は孫達だけでも生きていることに希望を持ちリウイにお礼を言った。
「俺達は王族としての義務を果たしたまでだ……それで、2人をどうする?」
「当然私が育てます!迎えに行かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……かまわん。ただ後2、3日ほどクロスベルで用事があるので待ってほしい。クロスベルを発つ時、必ず連絡はする。」
リウイは今は亡き愛妻が転生した可能性のある少女が自分の許を離れる事に一瞬だけ迷ったが、気を取り直し答えた。
「わかりました。連絡をお待ちしております。」
「ああ。………それでは失礼する。」
そしてリウイは市長邸を後にした。
ホテルへの帰り道、リウイは赤ん坊を抱いて幸せそうにしている夫婦に気付いた。
「うん?あれは………」
リウイはその家族を見て少しだけ驚いた。なぜなら、その夫婦は報告にあったレンの両親でもあったのだ。
「ふふ、本当に可愛いね。お前にそっくりだよ。」
「ほ~らよしよし」
女性は抱いている赤ん坊をあやしていた。
「ふふ、前の子はあんなことになってしまったけれど……でもよかった。女神様は私達をお見捨てにならなかったんだわ。」
「おいおいその話はしない約束だろう?昔のことはもう忘れよう。」
「ええ……哀しいけれどその方があの子のためよね……おお、よしよしいい子でちゅね~」
「あぶぅ、あぶぅ。」
赤ん坊は女性に甘え、また女性も笑顔であやしていた。
(………下衆共が………!………あの親子をどうするかはレン次第だ。俺達がどうこう言う事ではない。俺達ができるのはあの子を見守り立派な大人に育てるだけだ………
ヘイワーズ夫妻よ、今はいいがその子供が成長するに従ってお前達はきっと捨てた娘のことを思い出し後悔する。その罪をどう償い、捨てた娘とどう向き合うかはお前達次第だ……今は偽りの幸福をかみしめるがいい……!)
リウイはレンを忘れようとしている実の両親を心の中で怒った後、踵を返しホテルへ向かった。
数日後――――
~メンフィル大使館~
数日後ティオを治療したペテレーネと孫を迎えに来たマグダエル市長と共にリウイはメンフィル大使館に帰還した。
「今、戻った。」
「御苦労様です。」
「「お帰りなさいませ!陛下、ペテレーネ様!」」
門番達はリウイとペテレーネに敬礼をした。
「この者は今、大使館で預かっている姉妹の縁者で姉妹を迎えに来たそうだ。通してやってくれ。」
リウイは後ろにいた市長を通すように言った。
「「ハッ!!」」
門番達はリウイの命令を忠実に聞き、門を開けた。そしてリウイ達は大使館内に入り兵士やメイドに姉妹がどこにいるかを聞き、プリネと共にいると聞いた後プリネの部屋に入った。
部屋にはプリネやリフィアと談笑していたイリーナとエリィがいた。
「入るぞ、プリネ、リフィア。」
「おお、リウイにペテレーネ!帰ったか。」
「あ、お父様にお母様。お帰りなさい。……そちらの方は?」
プリネは父と母に気付いた後、見知らぬ老紳士のことを聞いた。老紳士を見てイリーナとエリィは駆け寄った。
「「お爺様!!」」
「おお……イリーナ……エリィ……2人が無事でよかった……!!」
市長は駆け寄った2人を強く抱きしめた。
「ひっく……お父様とお母様が……」
祖父と会って安心したエリィは涙を流しながら両親の訃報を言った。
「……陛下から一連の出来事は聞いているよ……これからはあの娘達に変わって私がお前達を育てる。いいかい?」
「うん……!」
祖父の言葉を受けエリィは笑顔で答えたがイリーナは何かを考えているようで答えなかった。
「どうしたんだい、イリーナ?」
イリーナの様子がおかしく思い、市長はイリーナに何を考えているのかを聞いた。
「…………ごめんなさい、お爺様。私、やりたいことがあってお爺様達といっしょに暮らせないわ。」
「お姉様!?」
エリィは姉から自分達といっしょに暮らせないことを聞き、驚いた。
「やりたいこと?一体なぜ、それで私達と暮らせないのかい?」
「………うん、訳を話すからちょっとだけ待って下さい。……リフィア様、あの時の勧誘はまだ有効ですか?」
「ふむ、あの時の勧誘とはなんじゃ?」
突然話をふられたリフィアは要領を得ずイリーナに聞いた。
「………陛下達と初めて拝見した時、私の名前を聞いて私にマーシルン家に仕えてみないかという話です。」
「おお、その件か!もちろん、今でもその勧誘は有効じゃ!お主の事は今でも気にいっておるしな!余の言葉に偽りはない!」
「そうですか………返事が遅くなりましたがその件、私なんかでよければお受けしてもよろしいでしょうか?」
「何……!?」
リウイは目を見開いて驚き
「え………」
ペテレーネも同じように驚き
「本気なのですか……?」
プリネは信じられないような顔をして驚き
「お姉様……!?」
エリィは思わず声を出し
「イリーナ!?」
市長はイリーナがなぜ、そんなことを言い出したのかが理解できず叫び
「おお、そうか!お主を歓迎するぞ、イリーナ!」
リフィアだけは笑顔で歓迎した。
「お姉様、どうして!?」
エリィはイリーナに詰め寄り理由を聞いた。
「うん………メンフィル帝国の方々に私の願いを聞いてもらった恩を何かの形で返せればいいなとここに来てずっと考えてきたら、リフィア様の提案がちょうどよかったの……」
「………その件に関して別に気にやむ必要はないぞ。どの道、俺達も例の事件の解決には乗り出すつもりでいたからな。……俺達のことは気にせず残された家族と幸せに暮らすがいい。」
気を取り直したリウイはイリーナに考え直すように言った。だがイリーナはリウイの言葉を否定するように首を横に振って答えた。
「いいえ、それだけではありません。………両親が死んで塞ぎこんでいた私達をリフィア様やプリネ様、エヴリーヌ様にずっと励まされてきました。その恩にも報いたいのです!……それに私自身、見ず知らずの私達を暖かく受け入れてくれたマーシルン家の方々に仕えたいのです!」
「イリーナ………」
「お姉様………」
イリーナの決意を持った言葉を聞き、市長とエリィは何も言い返せなくなった。
(………マーシルン家に仕えたい……か………何があったかはわからぬが見た所次期皇帝のリフィア様や、陛下の側室の一人でアーライナ教の教祖でもある”闇の聖女”殿のご息女であるプリネ様にこれほど気にいられているのなら、恐らく将来的にリフィア様かプリネ様専属の侍女になる可能性もあるな……メンフィルはあのエレボニアすら破った強国だ……そんな強国の王族に直接仕えるとなるとそれなりの身分にもなるし、身の安全も保障されるだろう………クロスベルで渦巻く混沌とした政治を見て育つより、仕えたいと思う人から大事にされ、王族から身分を保障される仕事に就ける事のほうが幸せかもしれないな……)
市長はイリーナの将来を考え、メンフィルに預けた方がいいと思い、溜息をついた後イリーナに確認した。
「イリーナ。本気でマーシルン家に仕えたいのかい?」
「はい!」
「王族に仕えるまでの道のりは決して楽ではないだろう。それでもいいのかい?」
「覚悟の上です!どんな苦しい道になろうとも私はプリネ様達に仕えたいのです!」
「イリーナさん……」
「うむ、良い心がけじゃ!ますます気にいったぞ!」
イリーナが自分達に仕えたいとはっきり言ったことを聞き、プリネは感動し、リフィアはイリーナの事をさらに気にいった。
「わかった……陛下、よろしいでしょうか?」
市長はイリーナの決意は覆らないと感じ、諦めてリウイにメンフィルにイリーナを預けてもいいかを聞いた。
「俺はかまわんが……いいのか?残された孫の片割れといっしょにいなくて。」
「はい。……孫が進みたい道を見つけたのなら私はそれを応援するまでです。」
「了解した……俺達に仕えたいと言ったあの少女には一般教育はもちろんの事、侍女や淑女としても立派な教育をしておくし、もちろん身の安全も保障するから安心しろ。……リフィアも言っていたが将来、リフィアかプリネ専属の侍女として仕えてもらうことになるだろう。その際はそれなりの身分も与えよう。」
「ありがとうございます。」
市長の頼みをリウイは内心イリーナが残ることに複雑な感情を持ったがそれを顔に出すことなく快く受けた。
そしてイリーナはイリーナに払う賃金や大使館で働いているイリーナに連絡をとる際の手順や面会の手順を市長に説明しているリウイを見つめて思った。
(嘘をついてごめんなさいお爺様、エリィ……さっき言ったことは本当だけど、一番の理由はリウイ陛下の事を思うとなぜ、胸が張り裂けそうになり、愛しく思う気持ちになるかを知りたいの……!)
イリーナは人知れず早くなっている胸の鼓動を抑えるように胸を片手にあてた。
「お姉様?どうしたの?」
姉の異変を感じたエリィはイリーナに聞いた。
「……なんでもないわ。……それよりごめんね、エリィ……一緒に暮らせなくて……」
気を取り直しイリーナはエリィに一緒に暮らせないことを謝った。
「ううん、いいの。リウイ陛下はもちろんの事、メンフィル王家の方々は私達みたいな身分がはるかに離れている子供に気易く接してくれて凄く優しかったものね……お姉様の気持ち、わからなくはないわ。」
エリィは寂しそうな顔で笑った。
「エリィ………毎日連絡を取るからあなたも私のように自分の進むべき道を見つけるよう頑張ってね!」
「うん……お姉様も頑張って!」
姉妹は別れを惜しんだが、市長とエリィがロレントの空港で別れる時には2人とも笑顔で別れた。
そして数年後…………
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