英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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外伝~黒翼の少女~前篇
ゼムリア大陸を揺るがした”D∴G教団”事件でわずかな生き残りの子供である内の一人、少女レンはリウイ達――マーシルン家に引き取られ、非公式ながらメンフィル帝国の皇女扱いとなった。そしてもう一人の生き残りの少女は傷等を治癒するために医療の設備が最も発達している場所、クロスベル市にある聖ウルスラ病院に入院となった。
~クロスベル州・聖ウルスラ病院~
「すみません、クロスベル警察のガイといいます。例の少女の見舞いに来ました。」
「いつも御苦労さまです。」
少女を助けた教団壊滅作戦に参加したクロスベル警察のガイは毎日かかさず、少女の見舞いに来ていた。
「あれから、どうですか?」
ガイは入院してから一向に目を覚まさない少女を心配し、何か進展があったかを受付に聞いた。
「……いえ。ここに入院してから全く目を覚ましていません……」
「そうですか……」
暗い顔をした受付から今の状態を聞き、ガイも暗い顔になった。
「部屋はいつものところですか?」
「はい〇〇〇号室です。」
「わかりました。」
気を取り直したガイが少女が入院している病室に向かいドアを開けた。
そこには看護婦を纏めている婦長、マーサと少女を見ている医師がいた。
そしてガイに気付いたマーサはガイに話しかけた。
「あら、ガイさんじゃないかい。いつもすまないね。」
「いいんっすよ。俺が勝手にやっていることですから。それで、先生。実際どうなんですか?」
「悔しいがこの病院にいる全ての医師を総動員させたのだが、目覚めない原因が全くわからないんだ……」
医師は悔しそうな顔をして今の現状を話した。
「よっぽどショックなことがあって目を覚ましたくないのかね……」
マーサは少女の今までの境遇を考え、思わず呟いた。
「それもあるが、問題はこれだ。」
医師は少女をうつ伏せにして、少女の病院服を背中の部分だけ脱がすと、そこには天使に生えいているような小さな黒い翼が1対生えていた。
「レントゲンをとってみてわかったのだが、見事に骨と接合してしまっている。これでは翼だけを手術で取り除く事は不可能だ。……一体どうやって翼をつけたんだ?」
「恐らく奴らの”儀式”のせいでしょう……」
「なんて奴らだい……同じ人間だとは思えないよ……!」
医師の疑問をガイが答え、それを聞いたマーサは怒りを持った声で呟いた。
「それより、例えこの子が目をさまし成長した時、翼まで大きくなったら隠しようがないぞ……」
医師は少女が将来、翼があることで恐がられ迫害されるかもしれないことを遠回しに言った。
「それに関しては大丈夫だと思います。数年前ならともかく今は”闇夜の眷属”がいますから。最悪それで誤魔化すしかないでしょう。」
ガイは医師の心配の内の一つの解決策を出した。
「それしかないか……では、後は目を覚ます方法だな。もしかしたらと思って、七曜教会の”法術”も試してみたがダメだったしな……」
医師は自分達とは違う方向で医療が発達している七曜教会を頼ってみたが。自分達と同じく手の施しようがない今の現状に溜息をついた。
「先生、それでした最近始まった新しい宗教、癒しの女神教の方に頼ったらどうです?噂では彼らは癒しを専門とした魔術を使えるそうですから、もしかしたら少女が目覚めさせてくれるか、目を覚まさせる方法がわかるかもしれませんよ?」
マーサは最近、看護婦の一部が信仰する宗教をイーリュン教に変えたこととイーリュンの教えと活動を聞いたのを思い出し、彼らに頼ることを提案した。
「私もそれを考えて、クロスベル市にいる信者から聞いたのだが実際に癒しの魔術が使えるのは極僅かでその者達は大陸中に広がって活動しているらしい。……ダメ元で一応使い手を呼んでもらったら何とか都合がついてな、明日には来てもらえる。」
「そうですか!だったら明日が楽しみですね……!」
ガイは医師の言葉を聞き、明日に希望を持った。
そして翌日ティアと同じく数少ないディル・リフィーナ出身のイーリュン信者で癒しの魔術を使えるシスターが来て少女の容体を見た。
「……どうですかシスター、治りますか?」
ガイは3人の中で代表して聞いた。
「………深い闇が少女の頭の中を支配しています。それが原因で目が覚めないのでしょう。これを祓うには魔力が相当の術者が必要です。……申し訳ありませんが私では力不足のため無理です。下手に闇を払おうとすると死や永久に目が覚めない可能性もありますので……」
少女を看終わったシスターは申し訳なさそうな顔で答えた。
「その凄い術者様ってのにシスターに心当たりはあるのですか?」
マーサは原因がわかりそれを取り除ける人物をシスターに聞いた。
「………2人ほど心当たりがいます。一人は私達の先頭に立って活動しているティア様ですね。あの方は魔神の血を引くお父様の強大な魔力を受け継いでいますから、私達人間が持つ魔力より強力な魔力を持っていますから可能でしょう。ただあの方は力が強い分、よりたくさんの方を癒すために各地を点々と廻っている上、皇女という身分のため時には本国に戻らなければならない時もありますから……皇女であるあの方が信者として活動できるのは陛下に願い、陛下の許しを得て活動していて、国の祭事等王族が参加しなければならない行事に今まであまり顔を出さなかったことにも引け目に感じていましたからもし、父親であるリウイ皇帝陛下や現皇帝であるシルヴァン様から何かで呼ばれたら断りづらいでしょう……呼べるのは早くても半年か一年後になるかと思われます。」
「そうですか……それでもう一人は?」
ガイはシスターの答えを聞き、もう一人の少女を治せる人物を聞いた。
「もう一人の方は私達とは違う神を信仰している方です。どちらかというとティア様よりその方がここ、ゼムリア大陸では知られていますね。……名前はペテレーネ・セラ様です。あの方は信仰する神は違いますが、他者を労わる気持ちは私達と同じだと思いますのできっと力になってくれると思います。」
「”闇の聖女”ですか……確かに彼女なら可能かもしれませんが……」
医師はもう一人の名前を聞き、たった一人の少女のために宗教の頂点に立っているであろう人物を呼び出せるのかわからず唸った。
「……その人でもこの少女を治せるんですね?」
しばらくの間考えたガイはシスターに確認した。
「ええ。どちらかというと闇側の神を信仰している彼女のほうが治しやすいと思います。私達ができるのは光の加護で”祓う”ことなのでどうしてもその際、少女に苦痛を与えてしまうのですが、彼女なら少女に苦痛を与えず治せる方法を知っていると思いますし、神格者なのでティア様以上に強大な魔力を持っていますから大丈夫だと思われます。」
「そうですか……すみません!俺、急用が出来たので失礼します!」
「ちょっと待ちな、ガイさん!?」
シスターの話を聞いたガイはマーサの呼び止める声が聞こえる前に、病室を出て急いで警察署内にある自分の所属課の部屋に向かった。
「セルゲイさん、有給を使わしてくれ!」
ガイは警察署の自分達の所属課の部屋に入るなり言った。
「いきなりなんだ、ガイ。理由を言ってみろ。」
ガイの突然の言動に驚いたセルゲイはガイに聞いた。
そしてガイは今も目覚めない少女のためにペテレーネに治してもらうため、急遽リベールへ行くために休暇を取る事を言った。
「……今は例の事件の報告を纏めているだけだから休暇はいいんだがガイ、お前が会おうとしている人物は俺達みたいな身分のない奴がそうそう会えるとは思えない人物とわかっているのか?」
「大丈夫です、なんとかしてみます!すみません、急ぐのでこれで失礼します!」
「おい、ガイ!」
セルゲイの制止の声を聞かずガイは部屋を出て行った。
そして後に残されたセルゲイとガイの同僚のアリオスはガイが出て行った扉をしばらく黙って見た後、アリオスが口を開いた。
「……いいんですか、セルゲイさん。」
「いいも何も本人がいなきゃ俺達がグダグダ言っても無駄だろう……」
セルゲイは一言嘆いた後、溜息をついた。
「それよりわかってんのかね、あいつは。闇の聖女に会うのがどれほど難しいか。」
「……というと?」
「闇の聖女はアーライナ教のトップでさまざまな強力な魔術を使う術者として有名で忘れがちだが、メンフィル皇帝の側室でもあるんだから皇族でもあるんだぜ。そんな身分のある人物と会う約束もなしで会えると思うか?」
「まあ、案外会ってくれるかもしれませんよ。あの作戦の時の自己紹介を聞く限り身分に拘っている人物にも見えませんでしたが。」
「本人に会う前に門番とかが取り次いでくれるか心配なんだよな……トラブルを起こさなきゃいいんだが……」
セルゲイはガイがメンフィルとトラブルを起こさないよう心の中で祈った。
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