【仮題】黒翼騎士の英雄譚
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第01話:邂逅
前書き
お気づき方もいるかもしれませんが、『ダンジョン攻略記』の方と全く同じタイトルです。
手抜きじゃないんや...これがしっくりきたんや...
それと、今作は平均文字数3000~4000程度を目標とします。
スナック感覚で手軽に読める作品を目指します。
(あと、作者的にも更新しやすいしね。)
※誤字修正しました。
破軍学園、理事長室。
そこには、理事長の机に座る女性――神宮寺黒乃と、その机の前に立つ一人の男子生徒、黒鉄一輝の姿があった。
「それで、黒鉄一輝。君はこの一年間、連絡も無しに何をしていたのかね?」
「武者修行の旅ですよ。休学届けにもそう書いてましたよね?」
「ふむ。」
確かに、黒乃の手元には昨年一輝が提出した休学届けがあり、理由にはしっかりと『武者修行の旅に行ってきます』と書いてある。だが――
「こんなふざけた理由が通るか馬鹿者」
「ですよねー」
呆れた口調で黒乃が一輝の頭をはたく。
そして一輝も悪戯がばれた子供のように頬をかく。
「でも理事長。その休学届けは昨年度提出されたもので、昨年度の理事長はそれを承認して判子も押してます。今年から理事長に就任した貴女がとやかく言う事では無いですよね」
確かに、一輝の言う通りであった。当時の理事長が承認している以上、黒乃にあれこれ言う権限はない。
ただ、黒乃はこの破軍学園の立て直しの為に理事長に就任している身。休学中とはいえ在籍扱いしている生徒である以上、それは学校の責任の範疇だ。
「今年からは私が理事長だ。そして君は休学していたとはいえ、ここの生徒だ。休学中に問題になるような事はしていまいな?」
「ええ。世間的にまずい事はしていませんよ」
「…そうか。ならこの件についての話は以上だ。今年度からの君の復学を認める。」
そして黒乃は一輝の休学届けをしまい、書類を一枚取りだした。
「さて、昨年一年間を休学しているので、お前は一年生からのやり直しだ。何か異論は?」
「ありませんよ。分かってた上で休学しましたし。」
「よろしい。ところで黒鉄。君は『七星剣武祭』は知っているな?」
「ええ」
「かつてはこの破軍学園は優勝常連校だったのだが、最近は成績も振るわなくてな。そこで私が理事長に就任した訳だ。どういう事か分かるな?」
「この学校の生徒が七星剣武祭で優勝しなければならない、という事ですね?」
「話が早くて助かる。私は今年から七星剣武祭の代表選考を学内選抜戦を取り行う事で、実力者を代表にするつもりだ。」
「つまり、実力さえあればFランクにもチャンスがあると?」
「ああ。そこで黒鉄。お前を見込んで提案があるんだが...聞くか?」
「…とりあえず、お話だけ」
「君は入試の際にうちの教員と試合をして倒しているそうじゃないか。Cランクの現役騎士をだ。何かここまでで訂正は?」
「ありません」
「うちの学校の大半の生徒はCランク以下の抜刀者見習いだ。つまり、その大半の生徒よりも君は強い。違うかね?」
「相性などの問題もありますが...まあ、負ける気はありません」
「良い意気込みだ。それを見込んで私と契約をしないかね?」
「契約?」
「ああ、契約だ。」
そして黒乃が一輝の方へ書類を飛ばし、一輝はそれをキャッチして内容に目を通す。
「これは...」
「そこに書いてある通りだ。君が七星剣武祭で優勝出来れば、卒業に必要な単位を全て、理事長権限で君に与えよう。」
「…優勝できなければ?」
「七星剣武祭出場の時点で、進級に必要な単位は全てやる。ただまあ、出場すらできなかったら...また一年、頑張りたまえ」
要は、黒乃は一輝にこう言っているのだ。『卒業したければ優勝しろ』と。
だが、これは一輝にとってはメリットしかない。一輝は今一年生。つまり、出場さえすれば進級できるのであれば、少なくとも3回はチャンスが巡って来る。その間に優勝出来ればよし、出来なくても全国の名だたる実力者たちと公式の場で勝負できる。貴重な経験を積めるのだ。
「何故、自分なのでしょうか?」
一輝の疑問は当然だ。この学園には自分以上に才能に溢れた抜刀者がいる。上級生の中には実践投入されている者もいるくらいだ。そんな中で黒乃が一輝に期待する理由が分から無いのだ。それに――
「確か、今年の一年にはAランクがくると聞いています。僕よりも余程有望でしょう。」
授業すら受けさせて貰えなかったFランク騎士と、将来有望の世界的に有名なAランク騎士。どちらを選ぶかなど分かりきっているというのに。
「勘だよ。勘」
だからこそ、黒乃が漠然した理由を述べた時に一輝は心底驚いた。
「勘...ですか」
「ああ。これでも私は元世界ランク3位だ。強い奴は見れば分かる。『こいつは他とは違う』とな。」
「なるほど。説得力がありますね」
「そうだろう。さて、話を戻すぞ。黒鉄、やる気はあるか?」
「出来なかった場合のペナルティは?」
「先程言った通り、またもう一年頑張りたまえ。」
「分かりました。お受けします。」
「ではその書類にサインを。それと血判もな。」
そして一輝は書類にサインし、更に血判を押して、黒乃へと渡した。
「よし、契約成立だ。授業が始まればすぐに選抜戦が始まる。今のうちからトレーニングに励みたまえ。」
「はい。それでは失礼します。」
計画通りに事を進めたことに満足気な黒乃を尻目に、一輝は理事長室を後にするのだった。
☩☩☩
その日の昼時。
早朝に理事長室に呼び出された後にすぐにトレーニングをはじめた一輝は、昼食をとるために一時的に学生寮に戻ってきていた。
「一輝くーん、郵便が届いてるよ―」
「あ、どうもありがとうございます」
「いやー、昨日も同じ人から届いてるよね?サラさんだっけ?もしかして彼女?」
「そんなんじゃないですよ。知り合いです。」
噂話大好きな寮母さんから手紙を受け取った一輝は部屋に向かいつつ手紙の封を切り、中に入っていた便箋を読む。
「サラも相変わらずだな...」
内容はいつも通り、絵のモデルにならないかという勧誘。
最初は直接、次は電話で、そして着信拒否したら手紙で。毎日のように行われる勧誘は最早一輝の日常と化していた。
一輝としてはその執念をもっと他の事に向けて欲しいところなのだが...
ガチャッ
「ただいまー、って、誰?」
そして、手紙の内容に気をとられているままに部屋に戻った一輝が顔を上げると――
絶世の、といっても差し支えない美少女がいた。
ただし、下着姿で。
「きゃ...」
「きゃ?」
「キャアアアアアアアアアッ――――!!!!」
「おっと危ない」
そして、謎の(色々と)Aランク美少女が叫びざまに一輝に放った拳を悠々と一輝が避ける。
「避けるな!当たれ!」
「いやいや、多分これ死ぬ。間違いなく。」
「じゃあ死ねぇッ!」
「お断りします」
そして加速する拳の嵐。最早下着姿を隠すことすら止め拳を当てることに全力を尽くす美少女A。
その拳を全て避けきる一輝。
そして、五分後。
「うぅ~、ぐずっ、あたんなさいよ~、ばかぁ~、ぐずっ」
「えーと、ハンカチ、使う?」
「ぐずっ」コクン
地面にへたりこんで泣きだしてしまった美少女Aに一輝がハンカチを差し出す。
「ほら、とりあえずこれ着て」
そして、未だに下着姿の美少女Aに壁にかけてあった自身の制服を肩からかけて一輝自身は反対側を向いて胡坐をかいて座った。
「えっと、落ち着いた?」
「…」コクン
「えっと、とりあえず僕の名前は黒鉄一輝。一応ここの部屋の住人なんだけど...キミ、ステラ・ヴァ―ミリオンさんだよね?」
「そうよ」
「あ~、そのステラさんがどうしてここに?ここ、僕の部屋なんだけど...」
「は?私の部屋でしょ?」
「え?」
「え?」
「ナニソレコワイ」
慌てて部屋の外のネームプレートを確認してみると確かにそこには一輝のものの隣にステラのものがあった。
「はぁ...あの理事長」
「…責任」
「はい?」
「責任、とりなさいよ」
「何の?」
「な、何のって、見たでしょ私の下着姿!」
「まあ、見たね」
「じゃあ責任とって死ね!」
「そんな横暴な...」
側でわめいているステラを余所に、一輝は状況を整理する。
自分かステラが部屋を間違えた可能性はゼロ。ネームプレートは学校の運営委員会の方で取り付けており、そこが間違えた可能性は微。
仮にどちらも間違えていない場合は?
寮の部屋割は確か学校の方で決定していた筈。そこの最高責任者は当然理事長だ。
しかも昨年まで男女が同じ部屋などという組み合わせが存在しなかったことを考えると、今年就任した理事長が一番怪しい。
特にステラは国賓だ。対応はここの責任者である黒乃が行った可能性が一番高い。
結論、理事長が一番怪しい。
「ねえ、ステラさん。とりあえず理事長室に行かない?」
後書き
うん、丁度いい文字数。その分展開は遅いけど。
今作の一輝くんは奇行に走らなかった模様。変態ではない紳士であるw
その分ステラの惨め度が...気にしたら負けだ。
次回は一輝vsステラを終わらせたいですね。文字数は増えると思いますが。
評価、感想、お気に入り登録、お待ちしております。
ページ上へ戻る