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ロード・オブ・白御前

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後日談
  CASE Everyone After Days



 ―CASE1 Kaito&Yoko―


 目が覚めて一番に見たものは、清潔な白い天井だった。

 自分はどうやら眠っていたらしい。どうして眠っていたかを思い出そうとして、彼はその経緯を、それどころかどんな記憶も頭の中で辿れないことに気づき、愕然とした。

(俺は、誰だ?)

 彼は、彼に関する一切を失っていた。

「目が覚めた?」

 横からした声に、反射的に頭をそちらへ向けた。
 ベッドサイドに、白いレディーススーツを着こなすショートヘアの女が座っている。

「お前は――?」
「――耀子。初めまして、戒斗」
「それは俺の名前か?」
「ええ」
「お前は俺を知っているのか?」
「知ってるわ。でも今は考えないで。あなたはもう休んでいいの」

 彼としてはすぐに教えてもらえないことを不満に思ったが、女の声が労りに満ちたものに聞こえたから、言われた通り、もう一度目を閉じた。





 ―CASE2 Mitsuzane&Hexa―


 ショッピングモールにあるティーンズ女子向けの小さなファンシーショップから、碧沙は光実と揃って出た。

 買った品、正確には光実が買ってくれた品は、細かな刺繍が施されたバレッタだ。

 店を出てすぐのベンチに兄妹並んで座る。
 光実は買ったばかりのバレッタを出して、碧沙の一束ねにした髪を、かち、と留めた。

「似合うかしら」
「とても。碧沙は背も高いし大人っぽいから、ちょっと年上向けくらいのデザインのほうが映えるね」

 兄妹なのにまるで口説かれているようだ。くすぐったくて、だが顔を隠したくとも髪は束ねてベールの代わりにはなってくれなくて。とにかくもどかしかった。

「――高校入学に間に合って本当によかった」

 かく言う光実は明日から高校3年生になるが、受験生にはならないことを、碧沙は知っていた。

「やっぱり、気持ちは変わらない?」
「うん。僕はプロフェッサー凌馬に弟子入りする。知識をつけて、いつか、舞さんと関口さんを解放する」

 そう。光実にとってこれは最初で最後の「休暇」。
 だから、碧沙は光実を連れ出し、何の変哲もない日常を過ごした。

 明日からの次兄は、戦極凌馬のようにヘルヘイム研究に心血を注ぐ若き科学者となる。
 そして、必ず成し遂げる。
 そんな予感が碧沙にはあった。
 光実は碧沙が生きている間に研究を完成させ、碧沙と巴の再会を叶えてくれる。光実自身もまた舞との再会を果たす。

「その中で碧沙に協力を頼むこともあるかもしれない。それを考えたら、こんな髪飾り一つじゃ足りないよ」

 光実は髪からバレッタへと指を滑らせた。
 碧沙は光実の手を取り、握り締めて、微笑んだ。

「光実兄さんが兄さんでいてくれれば、わたしにはそれだけでいいの」





 ―CASE3 Kota&Yuya―


 中心街のフリーステージで、色とりどりのチームユニフォームを着た若者たちが踊っている。
 裕也はそれをひどく微笑ましい気持ちで観覧していた。――ベンチで隣に座る絋汰と共に。

 ビートライダーズからチームの壁は消えたが、垣根程度の仲間意識は残っている。よって裕也は、チーム鎧武の代表を、チーム発足時からのメンバーであるチャッキーに任せて一線から退いた。

 ダンスが終わった。ステージのすぐ近くで立ち見していた観客が歓声を上げている。

「にしてもやっぱ違和感あるなあ。裕也の髪が黒いの」

 ユグドラシル・コーポレーションが解体されて働き口を失った今、裕也は地道に就職活動に勤しんでいる身だ。

「しゃーない。さすがにブリーチかけたまんま採用面接は受けらんねえって」

 裕也は飲み干したコーヒー缶を、よっ、とゴミ入れに投げた。缶は放物線を描いてゴミ入れに見事落ちた。

「そういうお前こそ。仕事見つかりそうか?」
「正社員はやっぱ募集が少ねえよ。まだまだフリーター生活、続きそうだ」

 対外的な生活で一番変化が少ないのが絋汰かもしれない、と裕也は考える。坂東の“ドルーパーズ”でのウェイターを中心に、夜間警備員や新聞配達などで収入を得て、姉・晶と慎ましく生活する絋汰は、余人に言わせれば「元の生活に戻った」ことになるのだろう。

 だからとて、絋汰が初めて戦極ドライバーを手にしてから悩み抜き、考え抜いたことがなくなったわけではない。

 この沢芽市を、人類を、世界を脅かさんとする悪意が現れた時、絋汰は迷うことなく戦極ドライバーを手にアーマードライダー鎧武として立ち上がるだろう。例えば今、ユグドラシルから漏えいした戦極ドライバーやロックシードを回収すべく世界中を飛び回る貴虎のように。

 そしてその時が来れば、直情径行の絋汰と他者のためにあっさり身をなげうつ貴虎のブレーキ役として、裕也も量産型ドライバーとオリーブの錠前をまた掴むのだろう。

「さて、と。次の面接あるから、俺もう行くな? お前もバイトがんばれよ」
「ああ。いい結果になるよう祈ってるぜ」

 ――何者にもならなかった二人の男は、同時に立ち上がり、背中を向け合って歩き出した。





 ―CASE4 Hase&Jonouchi―


 今日非番だから付き合ってよ。

 そんな普通の友人のような城乃内の誘いに乗って、初瀬は今、“ドルーパーズ”のボックス席にいた。

(結局ここでトモとパフェ食ったことってなかったな)

 イチゴパフェを適当につついていた手が止まった。食欲が失せた。初瀬はスプーンをグラスに射して、頬杖を突いた。

「ねえ、初瀬ちゃん。サムシング・ブルーって知ってる?」

 向かいでフルーツサンドイッチを食べていた城乃内から、唐突に出た単語と問い。何だよそれ、とぶっきらぼうに返す。

「結婚式で、青い物を身に着けた花嫁は幸せになれるって、欧米じゃ言われててね。日本じゃブーケとかリングに青い花とか宝石を付けたりするんだって。その青の意味は『誠実』と――『純潔』」

 フラッシュバックしたモノクロの記憶に、徐々に色彩が付いていく。
 巴を永遠に失った日。あの時の巴は、白無垢には本来ないはずの青い花を頭に飾っていた。

 ――純潔。誰のものにもならないという誓いの証。

 あなたの隣でこの服を着たかった――巴が最後に残した言葉が、はっきりと、思い出せた。


「……泣かないでよ?」
「泣かねえ」


 ずっと会えないわけではない。そう信じるにはあまりに困難なのが現実。
 いつか会える日が来る。そう希望を抱くには、あまりに残酷なのが現状。

 ――それでも。他ならぬ初瀬がその希望を信じなければ、巴が我が身を投げ出したことが本当に無意味になってしまう。

 初瀬は奥歯を噛み締めて、決壊しそうな涙腺を全力で押し留めた。





 ―CASE?? Mai&Tomoe―


 少女たちは夢を見る。

 甘い夢。優しい夢。温かい夢。楽しい夢。

 苦い夢。悲しい夢。切ない夢。儚い夢。

 夢を見ながら眠り続け、待っている。少女たちそれぞれの約束の人がいつか素敵な目覚めを運んでくる瞬間を。
 そのためならば少女たちは何千年、何万年でもユメを見続けられる。


 少女たちは夢を見る。
 少女のユメが尽きる日はない――





【 ロード・オブ・白御前  ―完― 】 
 

 
後書き
 バッドエンドになりました。

 ひたすら自己完結と思い込みで戦って選んで消えていっただけの物語になりました。
 いえ、正確には「選ぶ勇気さえ出せなかった」と言うほうが正しいかもしれません。

 劇場版のどれかで埋め合わせ、またはアフターでちゃんと解決、というような予定はありません。
 あんだるしあがとにかくひねくれて書き上げた、まごうことなきバッドエンドです。

 更新まで長いこと置いたことだけ、申し訳ありませんでした。
 ここまでの拝読、本当にありがとうございました。 
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