宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第一部
ファンタジーへようこそ
なな
前書き
この予感は……恋!?
洞窟内での出来事から既に1週間が経過した。
森林内の探索は順調で、これといって大きな問題は見当たらない。
いまだに船のエンジンが動かないのは不明だが、焦ることもないので、暢気にその日暮らしを謳歌している。
そう言えば、洞窟内の出来事から2、3日は、あのフルプレートメイルを着込んだ集団に何度か出くわしたことがある。
まあ、同じ種族の人間、少なくない数の女性達が憂き目にあっていたのだ。他にも同じような大きな小鬼や小鬼の集落があってもおかしくない。潰せるものは潰しておいた方が今後のためにも良いだろう。
また、それとは別に3人から5人ほどのチームを組んだ、武装した人間達も見掛けた。比較的森の浅い場所から中ほどにかけてであり、どうやら私が塒としている船のある場所は森の深くにあたるらしい。
あの洞窟は、ちょうど森の深部に近い中間部にあたるようで、あそこは既にでっぷりと腹の出た、豚面の化け物の塒になっていた。
あれだ、豚面鬼というやつだ。
小鬼や大きな小鬼、小鬼の王様、人間までいたのだから予測はついていた。
ファンタジー世界やっほい。
ってばか。
つまり、森の浅い場所から中ほどにいた人間は、俗にいう冒険者やらギルドやらに所属しているような人種であるというのが濃厚か。
便宜上、冒険者と呼ぶが、彼らがこの1週間の内に森の深部まで訪れた様子はない。
正直、あまり関わり合いになりたくはないが、この森にいる限りそれも不可能なのではないかと思われる。
我々種族と同様、彼ら冒険者の戦闘能力もピンきりであろうし、ランクがあるかは不明だが、もしそう言ったものが存在しうるなら、高ランク冒険者がこの森の深部に訪れる可能性もあろう。
それを思えば、船を動かしてこの森の更に深部へと隠れるか、人の訪れない地へと移動することが急務となる。
……思えば、これは結構な問題なのではないか?
腰に剣を下げたプレートメイル姿でいまだ戦いに身を置いているような軍事レベルであるならば、この宇宙船は基より、いま私が持っている武具の数々はオーパーツ扱いだ。前世の地球の科学技術おも凌駕しているのだから間違いない。
当然、私が用いている我が種族の技術体型、文明をこの星の現地人に教えるのは憚られる。
遥か昔に、地球に文明を伝えはしたが、あれは“儀式”のための準備でしかない。
それに、我々が神と崇められるだけのかなり水準が低い、それこそ日本で言えば飛鳥や縄文だとかの、かなり未発達な文明の地でないと難しい。
この星の現地人においては、既にその段階は過ぎていると思われる。
中にはそういった部族が存在している可能性もあるが、小鬼や豚面鬼などといった亜人種、ないしはモンスターと呼ばれる存在が闊歩しているのだ。どう好意的に見積もっても、私たちはそちらの部類に分けられる可能性の方が高い。
総括的に考えると、現地人と接触すればこの力を知られることになる。そして、それを使っているのは見た目化け物の亜人、もしくはモンスターの私だ。
まず間違いなく、この力を欲する者が出てくる。すると、それを使っているモンスターを討伐するために戦闘のプロが訪れ、必然的に戦うことになるだろう。
もちろん、私は負けるつもりも殺されてやるつもりもない。
私の討伐に失敗すれば次が送り込まれてくる。最終的に諦めてくれればいいのだが、それまでに一体何人と死闘を繰り広げる羽目になるのか、皆目検討もつかない。
私は別に、狩りを積極的に行いたい訳でもないし、当然、知的生命体であり、前世と同じ姿形をした人間を狩るつもりもない。
向こうから仕掛けてくるというのであれば、こちらも自衛のために戦わねばならないだろうが、出来ることならば避けたいというのが本音だ。
というか、いまのいままで地球人と接触するどころか、地球に行くのすら避け続け、“成人の儀”ですら、地球で行うことを避けたというのに……。
それでは、現地人と接触することも避け、尚且つ、船の修復をなるべく早く行うにはどうすればいいだろうか。
「知らないよ、そんなの……」
詰んだ……。
私は顔を両手で覆い項垂れる。
1週間前までの、自由を享受しようと浮かれていた自分をぶん殴りたい。
背凭れも直さなきゃいけないし、もうやだ……。
まずは現地人と接触することなく材料や情報の収集を行い、ある程度の船の修理に必要な物や時間の目処を立てる。
あと背凭れを直す。
まずは応急処置でもいいので、ある程度の距離を飛行できるようにし、絶対に見つからない場所へ移動する。
最悪、遠隔操作で船だけ隠し、私は後でそれを追えればいいだろう。
それと背凭れを直す。
あぁ……。私はこの1週間何をしていたの言うのだ。1日どころか、1分1秒ですら無駄にできないではないか。
何が「暢気にその日暮らしを謳歌している」、だ。
そんな暇があったのなら、背凭れくらい直せたじゃないか。
違う、そうじゃない。
背凭れは別にどうでもいい。
いや、良くないが、いまは置いておこう。
取り合えず、頭を悩ませることがあった、それに気付けたという点で、いまは良しとしよう。大切なのはこれからだ。
何度か弄ってはいるが、もう一度エンジンを調べて異常がないかの確認だ。もしかしたら見落としている箇所があるかもしれない。
再起動すらしなくなるといったリスクは犯せないので、バラすような真似はできない。しかし、ある程度ガワだけ取り外して診てみるのもアリかもしれない。
よし、ならば早速取りかかろう。そうしよう。
操縦席から立ち上がった私は、気分を入れ直すために両頬をパンパンと軽く叩く。
途端、船内にアラートが響く。
「あん?」
左頬に手を当てたまま、私は操縦席から浮かび上がる立体映像を右手で操作する。
アラートが鳴った原因はすぐに判明した。
船の比較的近く、半径500メートル地点に対人センサーを複数設置していたのだが、それに反応があったようだ。
そのままウィンドウを操作し、反応した対人センサーの映像を浮かび上がらせ、私は石像の如く固まる。
そこに映し出されたのは、右手に両刃の剣を持ち、頬についた切り傷を拭いながら草木を別け入ってくる、洞窟内で見掛けた女騎士であった。
確かにまた会うだろうという、変な予感めいたものはあった。
あったが、流石に早すぎる。
しかも最悪にタイミングが悪い。
「マジ、ほんともうなんなの……」
そっと両手で顔を覆い、私は静かに項垂れた。
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