ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第227話 絶剣と剣聖
前書き
~一言~
お、遅れちゃってすみません……。この度、たいちょーふりょうで、ダウンしてました……。
さらにひどい事に、どうしても 休めない時期だったので、インフルじゃないから、熱冷ましと頭痛薬、点滴を打って仕事、っと アホか!! って今でも思いたくなる様な目にあってました…… 涙
っと、愚痴はこの辺で! 今は、全快ですっ、もう一度……遅れてすみませんっ!
このシリーズなのですが……、やっぱり一番難しい、と今おもってるのは、母親のとこ、なんですよね……。どーやってまとめよーかなぁ、とまだそこまで進んでないのに、悪戦苦闘しちゃってますw
でも、何とかまとめれる様に頑張ります!
最後に、この二次小説を読んでくださって、ありがとうございます!これからも、頑張ります!!
じーくw
「おおっと、そーだったそーだった」
リズは伝える事を忘れてた、と言わんばかりに頭を掻いた。
実家に戻った時の話を、上手く話を反らせる事が出来たレイナは喜び、そしてアスナもレイナに笑いかける。感謝を伝えるのだった。
そして、リズは続ける。
「言い忘れてたんだけど……、なんとねー! その《絶剣》は1人じゃないんだよねー、これが。……あんの強烈なインパクト保持者が、1人だけじゃないんだ、これが」
「え?」
「そーなの?」
リズの言葉に少し驚く2人。
絶剣と言う仰々しいとも取れる名を1人ではなく2人も冠しているのだから。
「たまに2対2してる時もあってね。ん~……でも、あれは無いわ。無理ゲーもいい所だありゃ。私も見たけど……コンビネーションもハンパじゃないから、あっという間に1人が倒されちゃって。そんでもって囲まれて終わる。ってパターンが凄かったから。2対1になったら、速攻降参推奨! あーんな接近戦で正確無比に打ち抜かれちゃったら、どんなヤツでも、お手上げだわ。うんうん。バーサク姉妹、ツイン・バーサーカーも形無しかもねー?」
リズのいう《バーサク姉妹》や《ツイン・バーサーカー》と言う言葉を訊いて、レイナもアスナも顔を顰めて抗議。勿論、リズにとってはいつも通り、からかっているだけだったから、そんなに長くはならなかった。
「へー……って事は、2人とも凄く強そうだから、大会とかに出てた人かな?」
「ん~、絶剣って、あだ名は知らなかったけど、大会に出てる人なら面識あるかもだね」
レイナの質問に、アスナはそう答えた。
月一で行われるデュエル大会は、アスナもレイナも常連だからだ。だが、リズは首を振る。
「や、まったくの新顔だよ。2人とも。でもスキルの数値は高そうだから、どっか他のゲームからのコンバートってのが有力ね。最初は《MMOトゥモロー》の掲示板に対戦者募集って書き込みがあってさ? 誰も知らない名前だし、ALOの初心者だって事直ぐにわかって、『ナマイキだー』って皆が思って、いっちょ凹ましてやろうと、40~50人くらいかな? 押し寄せたみたいなんだけど……」
リズは意味深に言葉を詰まらせる。
その先の事は最早判ったも同然だった。……その事実が本当なら驚きは隠せないけれど。
「えっと……皆、皆、返り討ち?」
「その、ご、50人が?」
アスナとレイナが同時にそう聞く。その言葉にリズは大きく頷いた。
「そ、全員綺麗さっぱり。ん~、タッグ戦は、内半分も無かったくらいだったかなぁ……? あの連携を見たら、早々タッグ戦は諦めても無理ないわ。HPも3割以上削れた人、その時はいなかった、ってゆーんだよね。タッグしてた時は、2人合わせての1割も削れたかどーか……」
「ちょっと信じられませんよねー」
そこで、先ほどまでは レイナが出してくれた《フルーツタルト》を相棒であり、頼もしい仲間であり、可愛いペットでもある、小竜ピナと一緒に頬張っていたシリカが話に割ってくる。
「私なんて、まともに空中戦闘出来るようになったのに半年はかかったんですよ。なのに、コンバートしたててで、あの飛びっぷりですからね……2人ともが……」
ふわりとピナと共に空中に浮かびながらそう言うシリカ。
この飛べるVRMMOの事を知った時、シリカはどうしてもピナと一緒に空を駆け巡りたいと言う願望を果たす為に半年の帰還、特訓を重ねたのだ。随意飛行は、コツさえ判ればすぐに飛べるらしい……のだけど、シリカはそれを得るのに大層な時間がかかってしまったのだ。コントローラーを使って飛ぶ事は出来るんだけど、それじゃあ自分の羽で飛んでいる気がしなかったシリカは頑張って、随意飛行を身につけたのだった。
……彼女の苦労話はこれまでにしよう。
「あ、シリカちゃんもひょっとして、対戦したの?? ほら、リズさんとタッグで?」
レイナはそう聞いた。
リズのタッグマッチの件だけど、あの説明は見た事を話しているのではなく実際にそう感じた事を話しているようにレイナは思えたのだ。それを聞いたリズは、罰が悪そうに顔を顰めて反らせる。
シリカはと言うと、頬をぷくっと膨らませていた。
「そーですよー……。私は観戦しただけで、ぜ~ったい勝てないこと判ったんですが、リズさんがどーしてもって言って聞いてくれなくて……、それで、2人とも、ボコボコにされちゃいましたよ」
「わ、わるかったわよ。でも良いじゃない。別に降参したんだから、死亡ペナがあった訳じゃないんだしー」
「ぶー、私だって戦う以上は勝ちたいって思うんですよっ! でも、あそこまでやられちゃうのは……」
シリカの大きな耳がしょぼんと折れてしまった様だ。
心情に合わせて動くから、またその姿も愛らしいとも思える。明らかに格上の相手だけれど、やっぱり悔しかったのだろう。
「それで その後、リーファさんも立ち会ったんですよ。ほんと、ちゃれんじゃーですよね。私たちの姿、見た後なのにっ!」
「う~……だって、何事も経験だもん」
「あははっ。シノンさんは 剣士には興味無い、って言ってリーファさんと一緒には戦いませんでしたよね?」
「う~~……、し、シノンさんが入ってくれたら、もっと頑張れたもんっ!」
となりで課題をしつつ、耳を傾けていたリーファにシリカがそう言うと、リーファは口を尖らせた。
その姿を見たら判る。彼女も敗れ去ったと言う事を。リーファの実力も折り紙つきであり、シルフの中でもトップクラス。中でも空戦の達人でもあるのだ。
なのにそれを退けるとは、その絶剣は只者ではない、と言う言葉すらない。
まさに、空前絶後と言うべきだろう。
コンバートしたてでその強さと言うのなら、本当に前代未聞だ。だから、《絶剣》の相棒のあだ名は……前剣? 未剣? ……と、勝手に想像したのだが、格好悪いからなしの方向で。
「それで、もう1人の人の通り名も絶剣なの? その……私達みたいに、双・絶剣……とか?」
「う~ん、そ~れが違うですな~これが」
リズが芝居がかった様な仕草をして、ちっちっと舌で音を鳴らしながらひとさし指を左右に振った。
レイナは、首をかしげる。確かに、2人だと聞いた時は驚いた。
絶剣が2人。
即ち、2人ともが同じ通り名、《ゼッケンツー?》 くらいに考えていたのだが、それは違うようだ。
「もう1人はね……、《剣聖》って言われてるよ」
「け、牽制? 《ゼッケン》に《ケンセー》ってますます、運動って感じがするね? 運動……って言うより野球かな??」
「ちっがーうわよっ!! もう、可愛い顔して、オヤジギャグなんてやんないのっ!」
「あうっ」
リズは、ボケたレイナの鼻先に人差し指をぴんっと当てた。
ツッコミを頂いたレイナは頭をぽりぽりと掻きながら、“てへへ~”と笑いつつ、頷いた。
「けんせい、ね……、それって 絶対に、ソードの剣に、聖なるの聖、で 剣聖だよね?」
「そっ、そのとーり!」
リズは、よく出来ました!と言わんばかりに頷いた。
随分と大仰な名前が揃ったと言うものだ。絶対無敵の剣、空前絶後の剣に加えて、剣聖とは……。色んな世界、RPGで出てくると思うが、大抵がかなりランクが上の剣士に与えられる者だと記憶している。
《剣術における聖人》、《剣士系の最上位に位置する》、等々だ。そこから連想されるのは……勿論、果てしなく強いと言うイメージ、である。
「うわぁ……聞いただけでも凄そうなのに、リズさん……ほんと、チャレンジャーだね?」
「むぐっ。あ、当たって砕けるのも大切な事だし……」
「それで、巻き添えは酷いですよぉー! 以前の大きなイベントの時は、『当たって砕く』って言ってたのにーっ」
「うぐぐっ……」
リズは、乙女が発するにはあまりにも相応しくない言葉を吐きながら、がくっと頭を下げた。
そんな仕草を見たら、どうしても笑いに包まれてくる。だけど、その前に、アスナはどうしても聞きたい事があった。
絶剣と手を合わせた風妖精の剣士に。
「……でも、本当にリーファちゃんでも敵わなかったの?」
「はい。……お互いHPが半分切るくらいまではいい勝負だったんですけど、最後までデフォルト技で押し切られちゃいました」
アスナは、勿論この場にいる全員がリーファの力を知っている。
このゲーム、ALOの中では古参者であり、空中戦闘では間違いなくトップクラスだと言えるだろう。
「兎も角早いんです。動きが見えないくらい。あんなのが2人もいるなんて、凄いショックで……」
「うわぁ……リーファちゃんにそこまで言わせる相手なんだ。……おねえちゃん?」
「そーだよね……、リーファちゃんでも見えないんじゃ、私も勝機無しかな……と、そうだ。相手はどっちだったの? リーファちゃんは」
アスナは、リーファに それを訊いた。
何せ《絶剣》と《剣聖》の2人だ。どちらが相手でも、通り名通りであれば……相手にとっても不足なしだろう。勝ち抜き戦をするのであれば……正直どっちを相手にしても良い。
「んと、私が1対1で戦ったのは、絶剣の方でした……。ほんっとショックです……」
リーファは、思い出したのだろう。表情を沈めていた。随分と悔しいのは、彼女も初期からの古参者であり、この世界で腕を磨き続けてきたから、仕方ないだろう。
「うーん……リーファちゃんがそこまで言うなら、本物っぽいねー。う~ん……」
「あはっ。お姉ちゃん、ワクワクしてるでしょ??」
アスナが腕を組んで、軽く唸る様に考えた仕草を見て、いち早く心情を察したのは、レイナだった。妹の前では隠し事など、そうできるものじゃない、と言うのは以前からの事実だ。……もちろん、それはアスナ自身にも言える事。
「レイだって、そーでしょ?」
「へへー、もっちろん! ワクワクしてるよー」
この2人が似たもの姉妹と言うのは周知の事実。容姿は勿論だが、それ以外にも仕草や癖の傾向に至ってまでよく似ているから当初は、仲良し姉妹だからこそ、姉の真似をしている妹の構図に見えなくもなかった、……が、それは 2人との付き合いが浅い者達の考えであり、もう長らく共にしたリズ達からすれば、2人のそれは、真似と呼んで片付けるには、到底安すぎる代物だろう。
兎も角、予想通りの2人のやり取りを見ていて、リズが ニヤリ、と笑った。
「ふっふっふー。ま、2人ならそういうと思った。 後月例大会の上位常連どころで残ってるのは、サクヤとかユージーンとかの領主やら将軍組クラスだけだったかな? あのへんは立場的に辻試合は難しいしねぇ」
腕を組みながら、まだ未経験の強者達を頭の中の名簿をめくりながらあげていくリズ。だが、ここである疑問がアスナにはあった。強すぎる相手との戦いについてだ。この世界ででは、死亡罰則と言うものも、存在しているし かつてのSAO程ではないが、戦闘はそれなりに恐怖心を生む。それが絶対的強者相手だったら、尚更だ。だから、こう疑問に思った。
「でも、そんだけ強さを見せつけちゃったら、もう対戦希望者なんていなくなっちゃったんじゃないの? 大会イベントと違って、辻デュエルだと経験値とかの死亡罰則って相当なもんでしょ?」
「あ、そういえばそうだね……? 蘇生のアイテムだって、安くないんだし……」
と、疑問を口にした所で、シリカがひょい、と前に出て答えた。
「それがそうでもないんです。賭けネタが奮ってるんですよ」
「へぇ……? なにか凄いレアアイテムでも賭けてるの?」
「うんうん」
アスナとレイナは、いろいろと頭の中で想像をした。
リズであれば、希少金属素材でも賭けてくれば、飛びつく事間違いなしだろう。シリカやリーファだって、もし欲しかったアイテムを賭けていたら、頑張って対戦だってするだろう。とだ。
だが、答えは少し違った。 《アイテム》では無かったのだ。
「アイテムじゃないんですっ。なんと、《オリジナル・ソードスキル》を賭けてるんですよ。それも、すっごい強い、必殺技級のやつっ」
「え? オリジナルソードスキル? それってりゅ……っとと」
ここで、レイナがまだ 内緒にしていてくれ、と言われていた事を思わず口にしてまいかけたが、何とか口を塞いで回避。違和感があるものの、あまり気にならなかった様で、追求される事なく、安心をしていた。
アスナはと言うと、レイナの事には気づかず、ただただ オリジナル・ソードスキルの事を訊いて、キリトの癖である、肩を竦めながらピュウと口笛を吹きたくなる衝動を何とか抑えた。
「えーっと、何系のスキルなの? シリカちゃん」
レイナは気を取り直して、気になっている部分を訊いた。偏にオリジナルとは言っても、多種類あるからだ。武器の種類を考えても、《凄いヤツ》《必殺技級》と言われても、中々想像を張り巡らせるのは難しい。
「あ、後何連擊なのかも、一緒にお願い」
アスナがレイナに付け加える様にそう訊いた。
2人の言葉を訊いたシリカは、残ったケーキをひょいと口に放り込むと、口の中ではむはむ……と味わい、飲み込むと同時に答えた。
「えーと、見た所、片手剣系汎用ですね。そして なんとびっくり! 11連擊ですよーっ!」
「「じゅーいちっっ!!」」
そのシリカの話を訊いて、びっくり仰天した、と言うのは言うまでもない事だった。反射的に唇を細めて高い音を鳴らしてしまう姉妹。
今は無き、旧ソードアート・オンラインをSAOたらしめてした代表的なゲームシステム、それこそが《ソードスキル》だ。
かの世界で、解放されたスキル1つでも、大騒ぎする、と言っても過言ではなかった程である。
中でも《技》の必殺技と呼べる代物は複数あると言える。
一撃必殺の単発攻撃、疾風怒濤の連続攻撃、広範囲殲滅の波状攻撃……etc。
そして、何よりも熱狂させるのは、通常攻撃とは違い、ソードスキルには副次的効果として攻撃中に派手なライトエフェクト、そしてサウンドエフェクトが入り混じって迸り、自分自身が宛ら超戦士となったかの様な会館を味わう事ができるのだ。
必殺技と呼べるものなら尚更である。
ここでオリジナルソードスキルの説明をしよう。
それは新要素として導入されたものであり、名のとおり《独自の剣技》である。あらかじめ設定された既存の剣技ではなく、プレイヤー自らが編み出し、登録する事ができるソードスキルの事だ。……言うは易しだが……、このオリジナルスキルに関しては、一癖も二癖もあり、数多のプレイヤー達を挫折させたものだったりするのだ。
基本的な攻撃は、斬撃と刺突であり、単発技として登録……はできる筈もない。……既に膨大な数を登録されているスキルであるからである。だからこそ単発ではなく必然的に連撃、連続技とならざるを得ないのだ。
さらにさらに言えば、既存のソードスキルに迫る程の剣技出なければ認証されない、と言う点が最大の難点。システムのアシスト無しで超戦士の技を体現しなければならない点が、数多のプレイヤー達を挫折に追いやる結果となったのだ。何よりも忍耐力が必要、無限とも言える反復練習……、なーんて 娯楽の世界では非常にきついのは仕方がない。
「えーっと、今ある最強って呼ばれてるOSSって、何連擊だっけ?」
アスナとレイナが驚愕している所に、リズが再確認をする様にリーファに訊いた。リーファは少しだけ考えた後に。
「ユージーン将軍が編み出した《ヴォルカニック・ブレイザー》で、確か8連擊ですね。将軍は誰にも継承させてないみたいです」
リーファの説明を訊いて、さらに深く頷くレイナ。
「はぁ―――、それなら、殺到するのも判るよ。OSSって、強い技なら、5連撃を超える技だったら、すっごく高価格で取引されるもんね?」
「う~……、そーだよね……、私も5連擊で精魂使い果たしちゃったから……、よく判るよ。あの苦労を無く、手に入れれるなら……ねぇ?」
アスナも因みに成功させてたりする。それも必殺技認定、とされている『5連撃以上』をクリアしている。……因みに、取得にかかった期間《数ヶ月》である。
「うー……、私、4連撃が限界だったよぉ」
「レイは、歌に必死だったからでしょ?」
「あはは……、確かにそーだよね? レイナさんは 歌スキルを頑張ってましたから、仕方ないですよ。その上、OSSも……って言ったら欲張りになるかも? ですよー!」
少なからず悔しさを出しているレイナ。そして回りからそれは仕方がない、と諭されている。歌のスキルを極めんとする理由は、間違いなく『綺麗な歌だよ』と褒めてくれた事から始まり……、綺麗な歌を披露するのは大いに結構であり、SAO時代とは違った形での注目、アイドルとも呼べるモノにまで昇格しそうなのだが……、それに相余って、戦場で姉と暴れる姿を見てしまえば、《バーサク》の名前が先に冠してしまうから、暫くは無理だろう。
レイナにとっては、注目を集める為に頑張ってる訳じゃないから、別に問題ないのだけれど、アスナと同じで、あまり好ましくない2つ名であることは言うまでもない。
暫く苦笑いが続いた後に、ある疑問を口にした。
「じゅーいちって言う、すっごいスキルがあるのは判ったけど、それって ひょっとしてだけど……その絶剣さんと、剣聖さん……2人が提示したりしてるの?」
その疑問とは、賭けネタの数だ。
最強のイメージが色濃い2人の強者が賭けているスキル。
2人いるのだから、必然的にソードスキルも2つ……、と考えるのが普通だろう。
「あ、そうでしたね。数が多い方を先に言っちゃいました」
シリカは、思い出した様に、三角耳をぴょんっ!と立てらせて改めて説明に入る。
「絶剣の方が11連撃で、剣聖の方は10連撃のオリジナルソードスキルでした。どちらも、片手剣系汎用です」
「じゅっ……」
「すごーい……」
あの苦労を知っているからこそ、出てくる言葉だった。
――11と言う数を訊いているから、10はインパクトが……。
と傍から聞いたら想うかもしれないが、苦労を知っている、あの苦労を知っている者であれば、10も十分すぎる程驚愕である。
「ほんとに納得だよ……。それで、みんなはそのソードスキル、実際に見たの?」
アスナの次の問いに、3人は同時に首を横に振った。
「んーん。なんでも、辻デュエルを始めた一番最初に、演舞として2人同時に披露したんだって。――そこからが、あの異常なコンビの始まり……とも言えるかもね。結局、それ以降は、実戦では使ってないかな。だって、そこまで追い詰める事が出来た人、誰もいないから」
リズの説明を訊いて、レイナはリーファの方を向いた。
「えっ? リーファちゃんも無理だったの??」
リーファであれば、勝てないまでも、追い詰めるまでは……と思ったのだが、リーファがしゅん、と肩を落とした所を見ると、無理だった、と言う事が聞く前に判った。
「はい……、お互いHPが6割切る所までは良い勝負だったんですけど……、結局最後までデフォルト技だけで押し切られちゃいました……」
それだけでも大健闘だったよ、と周囲からは称賛されていたが、それでも悔しそうなリーファだ。アスナもリーファの強さを知っているからこそ、驚きをやはり隠せられない。それと同時に、ワクワクも……。
「リーファちゃんが……。あ、そうだ。肝心なこと、何も聞いてなかったよ。その2人の種族とか、武装は? どんなの?」
アスナの問いにリーファが続けて答える。レイナも、その強いプレイヤーの種族に注目をしていた。
「あ、絶剣の方は闇妖精族ですよ。武器は片手直剣ですけど、アスナさんのレイピアに近いくらい細め。剣聖の方は、猫妖精族で、同じく片手直剣。ちょっと違うのは、細いのは細いんですけど、リーチが長い剣でした。ギリギリ両手剣に入る手前……、ってイメージです。――2人して言えるのは、ともかく速い、って事ですよ。通常攻撃もソードスキル並みのスピードで……、動きが眼でも追えないくらいでした。……あんな事、初めてですよ。すごいショック」
「スピード型かぁ……、リーファちゃんでも見えないんじゃ、わたしも勝機ナシかな……」
「うう~ん……、私も現時点で匙投げちゃうかもだよー……」
腕を組み、実践をシミュレートする2人。
リーファの得意とする空中戦で圧倒するのであれば、まだ 得意とは言い切れない自分達では話にならないだろう。そして、やりにくいとされる空中戦でそれだけの速度を出せるのであれば、地上に降りれば一体どうなってしまうのか、想像もつかない。
「あ、そーだっ」
「ん? ああ、成る程……」
レイナが視線を向け、そしてアスナは思い出す様に、ぽんっと手を叩きながら言う。
レイナと同様に、視線を暖炉のほうへと向けて。
「動きの早さなら、そこに反則級の人が寝ているじゃない! キリト君は? そう言うの、興味ありそうだけど」
「そうだねー! だって、キリト君もすっごい負けず嫌いだし! なんだったら、キリト君とリュウキ君、漆黒と白銀VS絶剣と剣聖。それ、何だか見てみたいなぁ。最近は、リュウキ君はログイン出来てないみたいだから、絶剣さん達のこと、知らないかもだけど、キリト君は知ってるよね?」
アスナとレイナはそう言いながら返答を待った。
アスナはキリトとのタッグ、レイナはリュウキとのタッグが主に好きであるのは周知の事実なのだが、それを含めたとしても、《漆黒》と《白銀》のコンビネーションには舌を巻く。 《双・閃光》と呼ばれていて、コンビネーションもずば抜けて良い! といろいろと恥ずかしながら噂をされていたのだけど、――……あの2人に手を組まれたら、到底勝てる気がしない。
間違いなく、自分たちの知る新旧合わせたとしても、最強の2人と呼べるから。
そこまで言うやいなや、訊いていた3人は互いに顔を見合わせて、ぷっ と吹き出していた。
「え、ええ?」
「――な、なに? どうしたの??」
呆気にとられる2人。
そして、リーファの口から語られるのは、衝撃的な言葉。
「ふふふ。リュウキ君は、レイナさんの言う通り、多分知らないと思いますよ。MMOトゥモローの掲示板を見てたら、知ってるかもしれませんけど」
やっぱり、と思ったレイナ。だけど、レイナもアスナも、まだ解消出来た訳ではない。
「……お兄ちゃんは、知ってるもなにも――もう 戦ったんですよ。そりゃあもう、かっこよく負けました」
「ま、……ッ!?」
「ええっっ!?」
敗北の二の字。
それは勿論、全く知らない、生涯無敵! と言う訳ではないのは判っている。
本人の口癖でよくあるのが、一方的? に目標と定めている彼への賛辞の言葉。本人の前ではそうそう言わないものの、完全に上として見定め、それでも追いかけ続けている姿も印象的だ。
だけど、それでも彼が――《キリト》が負けた、と言う言葉を訊いて、アスナは勿論、レイナだって、口をぽかん、と開けて固まっていた。
唯一絶対なんてない、と言われているが、かの漆黒に包まれた二刀流の剣士。謙遜しているものの、十分英雄たる資質や技量を持ち合わせており、アスナを救った、と言う意味では 間違いなく彼も勇者の1人だと言えるだろう。……そんなキリトを、制することができる者など、あのアインクラッドに神の様に君臨していた男、血盟騎士団・団長 ヒースクリフ。だが、それは、ゲームマスターとしてのシステム的優遇措置に助けられた結果である為、一概には言えない。
だから、団長を除いたとすれば―――……もう、後にも先にも もう1人の勇者、漆黒を照らす白銀の光、《リュウキ》だけだって思える。
そんなリュウキに至っても、キリトに負けるつもりは無いものの、下に思ったことは一度たりとも無い、と公言をしており、互いに鍛えると言う意味で手合わせを重ねた模擬戦では、勝率は悪いものの、キリトも勝っている。
――ただ、真の意味で 2人が本気で戦い合う事は無いだろう、と何処かで思えるから、本気の本気、その2人がぶつかればどうなるかは判らない。
あのGGOの世界、BoB大会予選でぶつかった時を除けば、恐らく一度だって無いと思える。その時は、銃と言う苦手意識を持っていたキリトだったから、それなりに期間を開ければどうなっていた? と言われれば……判らない。リュウキ本人もそれは認めている。
「……今日、一番……びっくりしたよ」
開口一番、レイナの感想がソレだった。
アスナの中だけじゃない。レイナの中でも、キリトは《絶対強者》の言葉が相応しいと思っていたからだ。負ける事があるなら、……やっぱり自分の愛する人。彼の親友の《リュウキ》だけ、としか思えないから。
「キリトくんは……本気だったの?」
開口一番、アスナが訊いたのはそれだった。油断をしていた、等は言い訳だろう。
『強い方が勝つのではなく、勝った方が強い』どんな世界でもそれが真理だ。言い訳を持ち込みたくはないが、それでもアスナの中でもキリトの事を考えれば……どうしても聞いてしまう。
「うう~~~ん……」
リズは、アスナの言葉を訊いて、腕組みをすると、難しい顔で唸りつつ、答えた。
「こう言っちゃなんだけどさ、やっぱ あの次元の戦闘になると、あたし程度じゃ本気かそうじゃないか、なんて、判んないんだよね……」
「ですね。あの時、『リュウキさんが、解説してくれたらな~』って言ってましたもん」
「こら、それはあんたでしょ」
「あたっ!」
ぴんっ! と横槍をしてきたシリカに指で一撃入れた後に、リズは続けた。
「言えるのは、キリトは二刀じゃなかった事、かな? それを考えたら、やっぱ全力って事にはならないと思う。……リュウキも、『二刀流はキリトの専売特許』って言ってるしね。……ああ、それに、さ」
リズは、そこで一旦言葉を切ると、暖炉の炎を移して煌く紅玉の瞳を、眠りキリトに向けた。……その後はこの部屋の天井……恐らく、今この世界にはいないリュウキの事も思い描いているだろう。
「あたし、思うんだ。たぶんもう、正常なゲームの中じゃ、キリトが、……リュウキも、本当の本気で戦うことはないんじゃないかな、ってさ。逆に言えば、あの2人が全力で、本気になるとすれば、ゲームがゲームじゃ無くなった時。バーチャルワールドが、リアルワールドになった時。―――ぜったいに負けられない戦いになった時、だけ……。だから、そこで眠りこけてるキリトもそうだし、リュウキも、本気で戦わなきゃならないようなシーンは、もう来ない方が良いんだよ。だって、ただでさえ、厄介な巻き込まれ体質なんだからさ」
「「…………」」
アスナとレイナは、リズの言葉を訊いて、静かに頷いた。
2人の本気。異常とも呼べるまでの力。
人間の反射神経、反射速度の限界を超えた反応。……猛る炎、烈火の如く赤い。そして何処か深淵にも通じる深みを持つ瞳。……世の全てを射抜くまでに研ぎ澄まされた眼光。
「そう、だね」
「うん。……きっと、そう。だよ――。みんなといつまでも楽しく……、が一番だもん…」
そっと頷き、言葉を出す2人。
レイナもそれは特に思う。目の前で別れを……別離を味わったからこそ、強く思えるのだ。
そして、ここにはいない少女。過去、起こしてしまった悲しい事故のトラウマに苛まれていた少女、シノンを助けた時だってそう。一歩、一歩間違えていたら、もう会えなくなっていたかもしれないんだから。
きっと、シノンも。GGOで本気で戦え、と言っていたシノンも、きっと賛同するって判る。
何故なら……。――同じ男の人を……好きになった者同士なのだから。
2人は深く考えを巡らせた後……殆ど同時に軽く吸い込んだ息を、長く吐くのだった。
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