真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
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第一章:大地を見渡すこと その弐
地を走る足の数はゆうに十を超えているのであろうか、不規則にみえて規則的なリズムで音が駆けていく。一歩一歩がしっかりと大地を踏み鳴らしているのがよく分かるほどである。その足の持ち主はさぞ強い足腰を持っていることであろう。それもそのはず、駆け抜けていくのは人在らざる力を持つ、複数の馬であった。しかしその外観は良馬と比べれば痩せ細った印象を受ける。今日の食にありつけないのは馬も人も同じということか、目も落ち窪んでいるのが痩せた外観をさらに哀れなものとしている。
「オイクソアマァ!!てめぇ止まれやゴラァッ!!」
「早く走らんかィ、テメェラ!!上玉逃がすんじゃねぇ!」
馬の一生など気にもかけぬ悪劣で下品な欲を口から吐き出しているのは、どれもこれも悪玉がそのまま似合いそうな風体をした男共だ。無精髭が乱暴に生えた口からは罵詈雑言と共に唾が飛び交い、己の服にそれがついたり、後ろの大地へと流れて消える。髪は何十日も水で洗わず放置していたのか、遠目からみても汚らわしい色をしており、黄色の布で結わかれた髪の間からは虱が生まれているように思われる。ボロボロになった服は悪臭を放ち、薄汚れた黄色が全体に広がっている服と相俟|《あいま》ってさらに男達を汚らわしくしている。
彼らの手には鈍く光る銀色の鉄、何人もの生き血を啜った刀が男達の数だけ日の光を反射している。その数は4つ。いずれも手入れのかけらもされていない、使い捨ての刀のようだ。少なくとも男達はそう思って使用している。男達の目は爛々|《らんらん》と輝き、獲物を前にした獣達の獰猛な光を抱いている。その光は目の前を必死に駆ける一等の馬、正確には馬の手綱を握り締める一人の女性へと注がれている。
(迂闊だったわ・・・・・・!もっと早くに町へ来るべきだった!)
顔にそのまま焦燥の色が出ており、それをさらに強調するかのように額の汗が何筋も顔を垂れている。汗は首筋にもじわりと出ており、この時代の民には珍しい健康そうな色をした白い肌を濡らしている。肘から先は元々服にないのであろう、赤のラインが横一線に袖口を走っており、袖口から生えている両腕には若い女性特有のしなやかでそれでいて力強さが見え隠れしている。服には所々に藍色と黄色の花柄が飾られており、白色が主体の上着を華やかなもとしている。胸元には花を象ったカチューシャのようなものがつけられており、服を着る者の魅力を高めている。黒色の紐帯が巻かれており、脚絆|(きゃはん)は赤の短パンとも思わせるかのようなものである。膝小僧が見えるまでに短い脚絆は活発的な印象を見せ付けている。足には黒のものを履いており、馬の走りに縋り付くかのように足を使って馬の腹を抱えこんで、振り落とされないように耐えている。
女性が握る手綱は何度も馬を打ってその走りを急かしているが、それでも尚町までの道程が遠くに思える。このまま愛馬が走り続けてくれるだろうか。それとも私が力尽きてしまうのだろうか。後ろの奴等に追いつかれたらどうなるのだろう。想像だにしない屈辱と、この世を拒絶したくなるほどの絶望が襲ってくるのだろうか。
(・・・・・・・・・駄目だ!弱気になっては駄目!)
自らの頭を過ぎる不吉な妄想を振り払って只管|(ひたすら)に前を見つめるが、それでも目には不安が色濃く出て揺らめいている。
まだまだ町までは遠い。20里|《約10000メートル、つまり1里=500メートル》はあるのではなかろうか。鈍ってきた頭でそう考える。気を引き締めなければ。そんな思いを強め、手に持つ手綱をより強く握り締めた。後ろに続く暴君共を振り払うために。
そんな折に、一つの人影が、町の方向からゆっくりと現れてきた。
(どうみたって女狙いの賊だな、ありゃ。)
平野が只管に広がっている。走駆の邪魔をするような障害物、岩・坂・出っ張った丘陵などがほとんどない。まだ距離は少しばかり遠いが、それでも己と馬の速さを考えれば近いともいえよう。
辰野仁ノ助は馬もかくやといわんばかりの俊足で、遠くから見えてきた鈍い銀色の光を刃のそれと見定めた。風はやや追い風、それ故に賊に追われている彼女のもとへ駆けつけることが早くなることが、彼にとって幸運となった。刀柄には既に左手がかけられており、走るたびにゆれないようにひしと押さえられている。風と己の出す速さに揺れる紐はばたばたと音を立ててたなびいている。
見つめる先には既に追われている者の姿形がはっきりとし、それに何かを思う前にその後ろから迫る四本の銀色の正体を確認した。太陽の光を西から受けて鈍色に光るそれは紛れも無い、刀であった。それを裏付けることに四頭の馬を駆る男達の身なりがある。遠目から分かるほどの年代物の使い古した服装。女性のそれと比較して、すぐさまに賊と判断できてしまうほどの荒々しい馬遣い。彼らにとってみても、町のすぐ近くまで追う必要はなかったのであろう。しかし自らが生きること考え欲求を満たすことを考えるあまり、頭の回転が鈍くなっているのか。頭の回転が早いと話し合いによる解決が期待されてくるのだが、こうとなっては話し合いにも応じるような状況ではない。彼はそう断定して、四人のその頭に巻かれた黄色の布の事を聞き出すついでに、全員を叩き斬ることを決めた。
視界に映る女性の姿がはっきりとわかるほどに接近した。女性との距離は既に三町|《約330メートル,よって1町≒110メートル》を過ぎようとしている。助けが来たのであろうか、心なしか女性は手綱を打つペースが安定してきている。これならば町に逃げて、救援を求めるまで体力は温存できるだろう。距離はさらに縮まっていく。二町、一町半、一町、半町。女性の表情が捉えられた。助けに来たことに対する安堵感、そして一人で馬を駆る四人の賊をやれるのかと疑う不安がないまぜだ。まぁ見ていろ。男の心には不敵な自信が存在した。最初の一撃をどのようにやるかで賊共の威勢を挫けるか、彼は既にその方法を決めていた。
女性と馬を鼓舞するように彼は叫ぶ。
「そのまま町へ走れ!!!」
「おぃ・・・ぇ!!・・・・じゃねぇ!!」
勢いを保って女性とすれ違う彼の前に四人の賊が見定められ、前方からなにやら叫び声が聞こえてきた。察するに女を追う邪魔をするなということだろう。ここで邪魔をされたら最早これ以上追うのは自らの命を徒に危険に晒す事態となる。町から出てきた兵士に取り囲まれ、しかもそれが五人以上だったら賊達は終わりだ。
彼らが乗っている馬は元々馬屋から奪ってきた駄馬であり、兵士達が駆る馬と比べれば赤子同然。獲物を捕らえることが実質的に不可能になりかけている現実に、彼らの怒りが滾りだし、それを自分達に向かって己の足で迫る生意気で憎たらしい男に向けていく。 元々歪んだ顔を顔を歪め、顔の皺一本一本から汚らしい殺意が滲み出ている。刀を握る力がさらに籠められた。
仁ノ助は紐帯に差した刀を抜き左肩に担ぎ上げる。賊の一人が我先にと此方目掛けて疾走してくる。手に持たれた刀は血の脂をそのままにしており、大きく振りかぶられた。右から袈裟懸けにする気であろう。この世界には未だ鐙|《あぶみ》が発明されてないため、馬を駆るには足腰を中心とした筋肉が強靭であることが必至。更に刀を振るうとなればより強い筋力が必要となり、馬を駆る者のバランス感覚も必要となる。力がなくば、どんな馬すら暴れ馬となる。その難度が高い馬術を出来るこの賊は見た目以上に自らを鍛え上げ、自らの武技によってこちらを殺す自信があるのであろう、手に刀を持つ姿は中々に板についていた。
最初の賊との距離がさらに縮まる。距離は四間《≒5.6メートル、つまり1町≒1.4メートル》。双方から相手に向かって駆け寄っている距離なら一秒も満たずに接触する。そのままさらに近づいた瞬間、賊の刀が音と共に振り落とされた。馬の勢いも手伝って本来のそれよりもさらに早く下ろされているのが賊自身も分かった。
「ッォラァ!」
ーーー男はなすすべもなく胸元を深く斬られ傷口から勢いよく血を吐き出す。胸元からは臓器と骨が見えるほどで助かりようがない。賊共はそれを放置して女の方へさらに足を速める。女はこちらを振り向きもしない。が、最後には追いつかれて自らの愛馬から振り落とされる。賊たちは馬もろとも確保し町から離れていく。そして誰も目のつかぬ場所で女をいただく。どのように陵辱しようか。悲鳴をあげて助けを求める女の服を無理やり脱がし破き、自らの暴君を慰めるために女の体を使う。健康そうな肌が地面に押さえつけられ、男共に乱暴にされるたびに徐々に赤くなり始める。上下の口は乱暴にされるたびに興奮してきた。どんなに否定しようとも女の体は男のそれを求めている。白い肌は汗と白い液体にまみれ、土の茶色がそれをさらに彩る。口からは隠し切れない興奮の吐息が走り、その中に女自身の淫靡な欲求が徐々に強く現れていく。そして最後には演技の悲鳴が完全に消え去り、懇願の言葉を出して自ら求めていく。肌をすり合わせ自らの女をより強調し荒々しいそれに熱い視線を注いで求める姿に男達はさらに興奮し、より滾|(たぎ)るそれを女に押し付けあう。ーーー。
とまぁ、賊の思い通りになるならこんな風になるのであるが、現実は若干違った。
駆け寄る仁ノ助は馬と接触する寸前、勢いよく右に向かって弾かれるように飛び、賊の刀の範囲から逃れる。そして肩に担いだ刀で左から袈裟懸けに馬の左前足を切断する。勢いを保ったまま前へつんのめる馬諸共、男は驚愕が混じった悲鳴と共に頭から地面に投げ出される。それを気にも留めず二人目の賊に向かって仁ノ助は走っていく。他の賊達は驚きの余り馬を駆る速さを緩めてしまっている。ひょっとしたら今斬った馬に乗った奴がこいつらの頭、または一番の猛者か。付け入る隙を与えた賊に乗じる形で二人目の賊に向かって勢いよく地を蹴って飛び掛る。賊の驚愕の表情に恐怖の色が混じった。
「シャァッ!」
地を蹴って跳躍した仁ノ助は馬上に乗るように飛び掛り、乗っていた哀れな賊の胸に勢いよく刀を突き刺す。勢いの余り刀は背中を突き破り血が噴出した。賊が持つ刀を無理やり奪い取ると体を地面に蹴落とし三人目に向かって馬を走らせる。どうもこの馬は前の主が気に入らなかったらしく、新しく主に変わったことになんの拒絶もしなかった。
「ぁぁ・・・・・・・・・こっち来るなァァ!」
狙われた賊は悲鳴と共に逃げ出そうとするが、背中を晒したその姿は刀を刺すのに十分すぎるくらいだった。仁ノ助は手綱を使って馬を巧みに操り、賊の馬に近づいていく。そして刀を逆手に持ち、勢いよく投擲した。刀が使い捨ての道具に過ぎないのはこの男にとっても同意見であったようだ。投げ出された刀は馬の尻に刺さり、不健康そうな黒が混じった赤の血が漏れ出す。馬は痛みの余り横倒しに転倒していく。男は悲鳴を挙げつつも手綱を放していない。それが不運となり勢いよく横から地面に頭を打ち付けた男の頭蓋から、不吉な音が響いた。男は一度痛みの悲鳴をあげるとピクリピクリと痙攣している。頭蓋だけではなく首も逝ったかもしれない。仁ノ助は最後の一人を左に見定めると馬を駆った。
「ひぃぃ・・・・・・・うわあああああ!!!」
最後の賊は蛇に睨まれたかのように体をぶるりと震わせると、やけくそまみれの悲鳴と共にこちらへ馬を駆ってきた。仲間がわずかの時間で全滅したことに恐怖したのか、あるいはもう逃げる気すらしなかったのか、男は目の前の悪夢を是正するために勢いを止めない。両者共に刀を右に構えている。馬上にて一撃必殺を狙った構えだ。仁ノ助のそれとは違って、賊のそれはビクビクと小刻みに震えている。恐怖に負けずに自らを鼓舞し構えを崩さない賊の心のなんと健気なことか。やがて二人の馬が勢いよく交差する。顔を歪めた賊は交差する敵に向かって刀を力の限り思いっきり振るう。
(これで悪夢が消え去ったら、俺は実家に帰るんだ!!もう賊なんていやだ!!)
その願いを叶えるかのように仁ノ助の刀が、男のそれよりも更に早く振るわれた。右胸あたりをざっくりと切り裂かれ、男は赤い血を宙にばらまきながら前かがみとなり、ゆっくりと横に崩れていった。賊の願いは自らの死でもって半ば実現することとなる。それを実現した男は馬をゆっくりと止めていき、自らが起こした戦果をを振り返った。
三人の賊はいずれも素人目でもわかるくらいの致命傷だ。あの失血量ではいちいち死を確認し、あるいは止めをさすまでもない。馬を二頭も殺してしまったことが唯一の失点だ。町まで連れて行けば幾ばくかの金銭の代わりとなったであろうに。仁ノ助はそこまで思うと、自らの不手際に失意の息を出そうとする。
その直前に、初めに倒した賊の姿が目に映った。まだ動いている。頭から地面に落とされたが無事のようだ。手綱を手放してすばやく受身を取ったのであろう、ゆっくりと立ち上がった賊は頭をぶんぶんと振っている。それでも右腕は左肩あたりを押さえている。顔は痛みと女が受けるはずだった屈辱を浮かべており、此方を殺意を込めて睨んでいる。逃げようともしないのは男が乗る馬が二頭とも仁ノ助の方に居るからか、または戦と共に培ってきた男の武の矜持のためか。
仁ノ助は後者の意を尊重し、男まで七間《≒9.8メートル》の距離まで近づくと馬を降りて五歩近づいた。
「賊だな」
「・・・・・・だからなんだってんだ。今時珍しいもんでもねぇだろ」
くだらない質問だという風に男は血が混じった唾を吐き捨てた。そして左に持った刀を右手に移し、下半身を静かに降ろし下段に構えた。
「・・・・・・殺る気か。ならその前に一つ尋ねたいことがある」
「あぁ?」
「貴様の髪を結わいている布はどういう意味を持つ?」
「・・・・・・・・・てめぇが知ったことでなんの得があるかわかんねぇが、教えてもいいぜ」
賊が自らの問いに答え得る情報を持っているという確信が出る前に、賊は深く深呼吸をし、構えを力強くした。体を右に開き左足を前へ一歩出して、右足は膝が曲る程度に後ろへ下げる。左手は体の前に垂らされ、初めは下段に構えていた刀は肩の高さまで持ち上げられ、切っ先は天に向かって斜め前に向いている。この男の意が如実に分かった。すなわち、『俺を倒してから聞きやがれ』。
最後まで自らの勝利に向かって姿勢を崩さない賊に対し、純粋に武人としての敬意が内心に広がる。
(賊の中にも矜持を持つものがいたとは)
仁ノ助はそれに応えるために刀を構えた。体の姿勢は男と同じ。体を右に開いて右足を後ろに引き、足を肩幅に開いた。異なるのは刀の構え。賊の片手上段構えと違って、仁ノ助のそれは両手を使った下段構えである。賊の刀が頭蓋に向かって振られる前に逆袈裟懸けにもって体を右下から左上に斬ろうとの魂胆である。
両者は息を徐々に落ち着かせ、互いにお互いの心が読まれないしていく。刀は一寸たりとも揺れず、姿勢は金剛神像の如く凛としたものとなっている。視線がぶつかり互いの眼に映る自分を見定める。戦意に満ちた空間は一種の隙を許さぬ緊張感を醸|(かも)し出している。油断をすれば相手の先手を許すことが手に取るようにわかる。その結果は己の死だという事も。
空気が張り詰めいき、戦意と殺意が互いの間にて爆発しそうともなる瞬間、地を勢いよく滑る風が吹いた。
「「ッ!!!!」」
両者は弾かれるように前へ飛び出す。握る刀はぶれず、ただ相手の心臓のみを食らわんと欲し輝く。仁ノ助は戦意を、賊は殺意を噴出しながら駆け寄った。空気が刃に切られる、距離が二間にもなり、刀の攻撃範囲に両者が飛び込んだ。神速の如く振るわれた刀が互いの胸の奥の臓器に向かって交差された。刀が振るわれた音が響き渡り、両者は一間半の距離を持って走りを止めた。数瞬をおいたがまだ倒れない、しかし地面には赤い血が垂れている。どちらかが斬られ、臓を食い破られたのは必至である。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ァァ」
口から血と息を毀れだすのは、はたして賊のほうであった。仁ノ助持つ刀の刃からは血がべっとりと塗られている。二人分の血を吸った刀は太陽の光を受けて更に赤く光っている。賊の胸は狙い通りに逆袈裟懸けに深く斬られており、血が体を伝って地面にどろどろと流れ出している。賊の最後の一刀は惜しくも仁ノ助のそれよりも遅かったのだ。だがそれでも鋭さを保っていたらしく、仁ノ助の肩口を浅く切りつけていた。
賊はゆっくりと膝をつき、刀を持つ力が無くなったかカランと音を立てて刀が地に転がった。上半身はそれでも地面に倒さないことに、賊の最期の意地が見せられている。
仁ノ助はゆっくりと問う。
「・・・・・・・・・答えは?」
「・・・・・・・・・ちょう・・・・・か・・・く・・・・・・・・・さま・・・・・・・・・・」
男は僅かに血を漏らして言葉をこぼし、俯|いた。正座をするかのように足が畳まれている、しかし地には頭を下げたが体は倒していない。男の表情はよつれた髪によって窺い知る事ができないが、口元は僅かに緩められている。己の武威と信仰を伝えることに満足したのであろう、矜持を持った賊はピクリとも動かない。これにて賊の荒々しくも充実した生は終わったのである。
仁ノ助は刀を振るい血脂を払うと、賊のこぼした言葉を考え始める。彼はちょうかくといった。これは地名というよりも、奴の主人の名ではないか?ちょうかく・・・。ひょっとしたらこれは・・・・・。
「・・っち・・・す!・・・・・・く!!」
彼の思考を遮るかのように目の前から人影が複数見えてきた。先頭を切るのはなぜか先ほどすれ違った女性だ。後ろを追う兵士よりもさらに早くこちらへ愛馬を駆っている。ここで仁ノ助はその答えを思いついた。彼らは自分の助けにきたのである。兵士よりも真っ先に駆けてくる彼女の気丈さに思わず苦笑いが口元に現れてしまった。もしかしたらまだ危険に晒されているのではと女性の表情が張り詰められていたが、目の前に広がった惨状に思わず口を開いたまま固まってしまった。彼女と擦違った者が、馬を駆った賊共を己の足だけで追いつき、あまつさえ殺戮したとしか考えられぬ情景だったのだから、固まるのは当然ともいえた。
呆然としたまま動かぬ彼女を追い抜いた兵士達も同様の表情を浮かべている。駆けつけるまでもまく賊共が殺されていたのだから、これもまた当然だ。
(さてと、どう説明するか。)
仁ノ助は苦笑いをそのままに、これからどう話していこうかと頭を悩ませて始めた。赤い光が天と地を染め上げている。それはあたかも、これからの彼らの行く末を物語っているかのようであった。
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