IS~夢を追い求める者~
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第2章:異分子の排除
第22話「仲直りと決別」
前書き
クラス対抗戦まで一週間があるため、その間にユーリと簪に焦点を当てた話をしておきます。
=桜side=
「(...今度こそ、今度こそよ...!)」
「....なにやってんだ?」
「わひゃっ!?」
なんか、ユーリちゃん達の様子を見に来たら生徒会長が整備室の前でなんかやってた。
「わ、私が気付けないなんて...!」
「いや、無駄に精神を落ち着けようとしてたように見えたが?」
「嘘っ!?そこまで深刻!?」
いや、ホントなにしようとしてたんだ?
整備室と生徒会長で何か関連性なんて.....あっ(察し)。
「....頑張れよ。ヘタレさん。」
「...ねぇ、何か“生徒会長”と言った時に聞き捨てならない思念があった気がするのだけれど...。」
「気のせいだ。」
いや、誰がどう見てもヘタレだし...。
「じゃあ、俺は行くから。」
「あ、ちょっと!」
生徒会長の制止も聞かずに俺は整備室へと入る。
止めようとした生徒会長も俺についてくるように整備室へと入り...。
「簪ちゃん、調子はどうだー?」
「....お姉...ちゃん...?」
「あ...えと、あはは....。」
...うん、見事に俺は無視されたな。予想してたけど。
生徒会長は心の準備ができてなかったらしく、笑う事しかできてなかった。
「(やれやれ...。)なんか言いたい事があるみたいだぞ?」
「えっ?」
俺は生徒会長にアイコンタクトで今言うように伝える。
この機会逃したら余計に関係が悪くなりそうだしな。
「っ...、ごめんなさい簪ちゃん!私が、あんな言い方したからずっと...。」
「っ.......。」
互いに何があったか、俺たちは詳細までは分からない。
だけど、お互いどんな気持ちで今まで過ごしてきたかは、少しは分かる。
...これは、俺たちは仲介しない方がいいかもな。
「私は、貴女に危険な目に遭ってほしくなかった。更識としての責任を負わずに、普通に生きて欲しかった...!だけど、私のせいで...簪ちゃんはずっと思い詰めてたのよね...?」
「お姉ちゃん...。」
...なんだ。いざ対面すれば、ちゃんと言いたい事が言えてるじゃん。
「辛かったよね?苦しかったよね?...本当に、ごめんなさい...!」
「...一つだけ聞かせてほしい。...私は“無能”?」
簪ちゃんのその言葉に、生徒会長は反応する。
...なるほど、それがキーワードだったのか。
「そんな訳ない!...簪ちゃんは、私よりずっと強いよ...。」
「っ....!」
だが、その言葉を生徒会長は力強く否定した。
「ずっと今まで我慢してきた。私に追いつこうと努力してきた。...その時点で、私なんかよりも強いよ..。」
「....そう、なんだ...。」
安心したような、そんな表情を浮かべる簪ちゃん。
「...お姉ちゃん。お詫びとして、専用機が完成したら私と戦って。」
「...えっ?」
突然の戦いたいという言葉に困惑する生徒会長。
「....それが、あの時のケジメ。...どの道、私は無能じゃないって証明したかった。...だから、ケジメとしてお姉ちゃんが相手をして?」
「....わかったわ。それが、ケジメなら。」
互いに試合を行う事を了承する。
「...でも、生徒会長としても、お姉ちゃんとしても、負けるつもりはないわよ?」
「...本気でないと、こっちこそ困るよ。」
...ま、後は自然と和解していくだろう。
「...俺たち、蚊帳の外ですね。」
「まぁ、そう言うな。」
簪ちゃんの専用機を作る手伝いをしていた秋十君が俺にそう言ってくる。
今更だが、ここにはマドカちゃんやユーリちゃん、本音ちゃんもいる。
「お嬢様!」
「ぃいっ!?」
そこで突然、整備室の入口から大声が聞こえてくる。
「生徒会長の義務をさぼって、なにやっているのですか!?」
「う、虚ちゃん!?」
...確か、三年で生徒会の会計の人だったな。そして、本音ちゃんの姉だったはずだ。
眼鏡に三つ編みの茶髪で、本音ちゃんとは真反対な雰囲気だな。
「...お姉ちゃん?」
「ち、違うのよ!えっと、これは...!」
「っ、...あー、大体わかりましたが、とにかく生徒会室に戻って仕事をこなしてください!」
「あ、あっ、ま、待って....!」
...なんというか、まぁ、締まらない終わり方だったな。
「...お姉ちゃん...。」
簪ちゃんは簪ちゃんで、今までイメージしてた優秀すぎる姉の姿との落差で放心しかけてるし...。
「...結局は、シスコンなんだよなあの生徒会長...。」
「ある意味知りたくなかった事実...になるんですかね?」
まぁ、行き過ぎてなければ嬉しい事だろう。
「妹や弟が大事じゃない姉なんてな、早々いないんだよ。」
「っ.....。」
早々...はな。...エーベルヴァイン家は別だが。
「...悪いな、あんな事口にしてしまって。」
「...いえ...。」
簪ちゃんの専用機は、まだ完成してる訳じゃなく、皆で完成に近づけている状況なので、俺は差し入れのジュースを買って来る事にした。
ユーリちゃんは、少し気分転換として俺についてきた。
「....っと、悪い。財布を持ってきてなかった。ちょっと取りに行ってくる。」
「あ、なら待ってますよ。」
「じゃ、ちょっと行ってくるわ。」
そう言って俺は寮の部屋に財布を取りに行った。
=ユーリside=
「...妹や弟が大事じゃない姉なんて、早々いない...ですか。」
桜さんが財布を取りに行って姿が見えなくなった後、私はそう呟きます。
「私の場合は例外、なんでしょうね...。」
母様以外からは碌な扱いを受けてこなかった私。
...秋十さんや簪さんのように、頼れる姉はいなく、いるのは私を蔑む姉だけ。
「母様....。」
今は亡き母様の事を思い浮かべ、つい涙腺が緩んでしまいます。
...ちゃんとしませんと...。
「あら、会いたくもない相手と会ってしまったわ。」
「っ....!」
声のした方を振り向くと、そこにはユリア姉様が立っていました。
「出来損ない風情が、まぐれで代表になれたからって調子に乗るんじゃないわよ。」
「.......。」
...冷静に。冷静にです...。
私はもう、実家に縛られる必要はないんですから...。
「...まぐれ。...貴女にはそう見えたのですね。」
「ええそうよ?確かに動きには驚かされたけど、あんなの貴女が実際にできる訳ないじゃない。だからまぐれだって言っているの。」
「そう思っている時点で、既に私より下。と言う事になりますね。」
桜さんは言っていた。私は、私が卑下するよりも優れていると。
だから、少しばかりでいい。自信を持って...!
「は?」
「確かに、あの試合はいつもより上手く行きました。...ですが、それは普段と比べても微々たるもの。そうですね...私をよく知っている人達曰く、代表候補生並には強いそうですよ?」
「っ...嘘よ!貴女如きがそんな訳...!」
身長差で見上げる形ですが、貫くように鋭く、正面から姉様を見ます。
「っ....!」
「決して相手を侮らない。...それが出来ていない時点で、貴女は代表候補生足り得ません。」
姉様はドイツ代表候補生。...ですけど、ラウラさんの方が候補としては優秀ですね。
前まではラウラさんも相手を侮ってましたけど、今はもう大丈夫ですし。
「なんですって!?」
「っ!?」
そう。こうやって口答えすると姉様はすぐに掴みかかってくる。
いつもなら、私は動揺して動けないはずですが...。
「なっ...!?」
「...あれ?」
体を逸らすように避け、掴みかかってきた手を自然と回避してしまいます。
「(....なるほど、桜さんの動きを散々見てきたのですから、これくらい、見切れるようになっていたんですね...。)」
少しばかりとはいえ、私は桜さん達に鍛えられています。
その成果が、ここにきてよく分かるように表れたのでしょう。
「っ....避けるんじゃ、ないわよ!」
「っ、っと、はっ...!」
再度姉様は掴みかかってき、避けた所を足払い、さらに追撃をしてきます。
それらを私はしゃがみ、跳び、後ろに下がる事で全て回避します。
...エーベルヴァイン家は貴族の中ではそれなりに有名です。
よって、命の危険もない訳ではなく、こうして体術の心得も持っている訳です。
....尤も、桜さんどころか秋十さんにも遠く及びませんけど。
「...学園内で暴力沙汰とは、随分と品性を疑いますね。」
「うるさいわね!」
....由緒正しきエーベルヴァインの血筋は、母様で途絶えてしまったのですね...。
「残念です。」
「あぁ、本当に残念だ。」
「っ!?」
またもや掴みかかろうとしてきた姉様の腕を、戻ってきた桜さんが掴む。
「万が一の可能性に掛けてしばらく様子を見ていたが、これはダメだな。」
「っ、なによ!離しなさい...!」
姉様が桜さんの手を振りほどこうとしますが、無駄です。
「上級生に襲われてる下級生を見つけたら、助けるのが普通だろう?」
「この...!っ、例の男性操縦者ね...。男風情が、私に触るんじゃないわよ!」
女尊男卑な性格だからか、桜さんを拒絶します。
「はぁ....ほらよ。」
「っ...!」
見かねた桜さんは手を離します。
「...ユーリちゃんは、既にお前を上回っているよ。信じられないなら、模擬戦でもすればいいじゃないか?」
「...ふん、指図されなくとも、いずれそうするつもりよ。」
そう言って姉様は私を睨んできました。
「....いいですよ。もう、腐りきった家には未練はありません。...叩きのめします。」
...多分、今までで一番威勢のいい発言で、姉様を睨み返します。
「母様の死を特に悲しみもしなかった者に、私は負けません。」
「っ...ふん。」
そのまま姉様は去って行きました。
「....ユーリちゃん。」
「大丈夫です桜さん。...これは、私が決めた事です。」
「...そうか。」
母様が死んだ時、エーベルヴァイン家に仕えていた人達は悲しみました。
...しかし、当の私以外の家族は、皆悲しむ事がなかったのです。
私を“出来損ない”と蔑む事無く、庇い続けた結果なのでしょう。
...そのような結果が、私は許せません。
「...とにかく、皆の分のジュースを買って戻ろう。」
「そうですね。」
良い機会です。今のエーベルヴァイン家の汚い部分の証拠を集めておきましょうか。
今後、私を連れ戻そうとしても全て断るつもりなので。
=桜side=
「おーい、持ってきたぞ。」
ユーリちゃんの新しい...いや、成長したと思える一面を見た後、ジュースを買って整備室に戻ってきていた。
「お~さくさく、ゆーゆーありがと~。」
本音ちゃんが率先して俺たちが買ってきたジュースを取りに来る。
...何度聞いても逸脱したネーミングセンスだな...。
「ほら、集中して疲れてると思うし、甘い奴を買って来たぞ。」
「あ、桜さん、ありがと。」
「...ありがとうございます。」
マドカちゃんと簪ちゃんもお礼を言ってくれる。
「....あの、桜さん。」
「ん?どうした?」
そこで、秋十君がジュースを受け取りつつ俺に聞いてくる。
「...ユーリ、何かあったんですか?なんというか...覚悟が決まったような...。」
「気づいたか。...まぁ、概ねその通りさ。」
秋十君もだいぶそう言うのに敏感になったんだな。
「...近い内、ユーリちゃんは姉と決着をつけるんだ。」
「っ、なるほど....。」
「それに、実家との縁も完全に断ち切るつもりみたいだな。」
さすがに母親の名前は大事にするみたいだが。
「...片や仲直りのための試合、片や決別のための試合。...なんだかだな。」
「そうですね...。」
同じ姉妹なのになんでこう違うのだか...。
「さーって、喉も潤したし、もうちょっと進めちゃおうか!」
「そうだね~。この調子なら、学年別タッグトーナメントに間に合うよ~。」
飲み物を飲み終わったマドカちゃんと、本音ちゃんがそう言う。
「...でも、一番の問題が残ってる。」
「マルチロックオンシステム...でしたね。」
しかし、どうやら大きな問題が残っているらしい。
「あれを学生の身で一から組み立てるとなると、相当な労力が必要だな....。」
「桜さんは手を出さないでね。」
「分かってるさ。」
確かに俺はマルチロックオンシステムを一から組み立てられるが、そんな事をしたら簪ちゃんの努力が無駄になってしまう。
飽くまでこれは簪ちゃんがやるべきだな。
「だが、手助けぐらいはできるぞ。...具体的には、倉持技研に再度協力させるとか。」
「桜さん、それって....。」
「...ま、それは最終手段。切り札だ。使う事はないだろうよ。」
正直言って手口が脅しになるからな。お勧めはできない。
「...俺が手を出さなくとも、助け合えばちゃんと完成するさ。」
「そうですよ。さぁ、簪さん、頑張りましょう!」
「...うん!」
どちらも妹で、劣等感を感じていた。
でも、今はどちらも立ち直り、こうして協力している。
「(他人事だけど、こういうのを見ると、安心するよな...。)」
そう思いながら、俺は皆の様子を見守り続けた。
後書き
正直閑話でもよかった...?
更識姉妹は和解、エーベルヴァイン姉妹は決別という対照的な展開です。
次回はクラス対抗戦です。
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