遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜
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episode5ⅡーH・E・R・O Flash!!ー
前書き
[遊戯 十代]LP6500
手札五枚
魔法・罠:伏せ二枚
〈ネオスペース〉
場
〈E・HERO フレア・ネオス〉
〈N_エア・ハミングバードマン〉
〈N_アクア・ドルフィン」
ゆったりした週末を謳歌していた中で唐突に始まったオシリス・レッド二年生、遊戯 十代とオベリスク・ブルー一年生、花村 華蓮のデュエル。それをけしかけたのは、誰でもない私であるのだけれどもそれは明確の理由があってこそのものだ。
先行1ターン目は遊戯 十代が先取する。彼が次々と展開していく中、私は彼……ではなく彼の肩の高さのあたりを浮遊する茶色い物体ー〈ハネクリボー〉ーを注視していた。
この世の中には、デュエル・モンスターズの精霊が存在している。だが、それら通常、見ようと思って見られるものではない。だが、どんな事象にも例外は存在する。ごく稀にそれらの存在を感じ、視認し、コンタクトすることができるデュエリストがいる。
そして、精霊憑きなどと呼ばれる彼らの大半がデュエルの腕が高く、そしてここ一番での引きが恐ろしく強い。
デュエリストなら誰もが知っているキング オブ デュエリスト武藤 遊戯もその一人と言われている。
そして、彼とのデュエルは華蓮さんのレベルアップへと繋がると思ったために十代の要望に乗っかる事にしたのだ。
そうこうしているうちに、十代の長い1ターン目は終わり、フィールドには一体の最上級モンスターと厄介な効果持ちが二体。そして、手札も充分と来た。私の考え以上に彼はデッキとの信頼を得、最高の布陣を引いて来た。
果たして、華蓮さんはどう打って出るか
「私のターン……、ドロー!」
フィールドには自信の効果によって攻撃力3700まで強化された〈フレア・ネオス〉が佇み、今引いたカードを加えた手札を眺め、思考している少女を見据えている。
高い攻撃力はいるだけで、高く、硬い壁になる。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ、と思う。
思考を打ち切り、顔を上げた少女はただ短く「行きます」と呟いた。
「まずはこれ!通常マジック〈悪魔への貢物〉を発動します!特殊召喚されている〈フレア・ネオス〉を墓地にーー」
「おっと、やらせねぇ!リバースカード、〈コンタクト・アウト〉!〈フレア・ネオス〉を融合デッキに戻して、デッキから〈ネオス〉と〈フレア・スカラベ〉を特殊召喚するぜ!」
〈E・HERO ネオス〉☆7
ATK2500
〈N・フレア・スカラベ〉☆3
DEF500
コンタクト融合版の〈融合解除〉と言うべき魔法カードにより、華蓮さんの攻撃を躱す。墓地に送れなかったために、〈貢物〉は不発に終わる。だがこれでひとまず最大の難関は突破した。
華蓮さんはチッと小さく舌打つと次なる手に打って出る。
「〈天使の施し〉を発動して、三枚ドローして、手札の〈ギャラクシー・サーペント〉二枚捨てます。さらに〈トライワイトゾーン〉を発動!墓地から星2以下の通常モンスター三体を特殊召喚します。来て、私のモンスターたちっ」
〈プチリュウ〉☆2
DEF/700
〈ギャラクシー・サーペント〉☆2
ATK/1200
彼女の『低級ノーマル軸』デッキの召喚ソースとなる一枚が発動され、場に三体のドラゴンが並ぶ。攻撃力こそ低いもののネオスを除く他三体は屠れる力は充分にある。
「バトルです!まずは厄介な効果持ちから……。二体の〈サーペント〉で、〈ドルフィン〉と〈ハミングバード〉を攻撃!」
「っ……!受けるぜ」
ギャラクシー・サーペントの放つブレスになす術なく、破壊される。しかし、守備表示のために十代にダメージはない。メインフェイズ2。油断なく手札を全て伏せる。
「カードを四枚伏せてエンドです」
[花村 華蓮]
LP3500
手札0枚
魔法・罠:伏せ四枚
場
〈プチリュウ〉
〈ギャラクシー・サーペント〉
〈ギャラクシー・サーペント〉
「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズにデッキ・墓地から〈テイクオーバー5〉を全て除外して、ドロー!さらに、フィールドの〈ネオス〉と〈フレア・スカラベ〉でコンタクト融合!再び舞い降りろ!〈フレア・ネオス〉!」
融合を使わない融合召喚。珍しい召喚法で出されたのは、先のターンデッキに帰ったはずの炎を操る英雄。その威圧感たるや三体の子竜たちが霞んで見える。
再び相見えるフレア・ネオスと華蓮。その瞬間、彼女は動いた。
「リバースカードオープン、〈同姓同名同盟〉発動!〈プチリュウ〉を選択し、デッキから二体の〈プチリュウ〉を特殊召喚します!」
〈プチリュウ〉☆2
DEF/700
ポンポポンッとリズムよく白煙の中から姿を見せるプチリュウ。華蓮のフィールドが五体のモンスターで埋め尽くされた事になる。
「うわっ、フィールドってこんな簡単にうまるものだったっすか?」
「けど、あんなチビ竜、兄貴のモンスターの目じゃないドン!」
呻く翔に、吼える剣山。
確かにステータスは、激しく劣るものの様々なカードを組み合わして必殺のコンボを決めるのがDMの醍醐味だ。言っているそばから、三枚になったセットカードのうち、一つが表になる。
「リバース発動!〈スリーカード〉!そのエフェクトによって、〈ネオスペース〉、〈フレア・ネオス〉とセットカードを破壊します!」
「げっ。なら、チェーンだ!罠カード〈融合準備〉!〈ワイルド・ジャギーマン〉を見せてデッキから〈エッジマン〉をサーチ、そして墓地の〈融合〉を手札に戻すぜ!」
条件こそ厳しいものの発動出来れば、1:3を狙える〈スリーカード〉。三条の光線が十代のフィールドを荒らしていく。しかし、彼も負けじとカードを発動させ、ディスアドを最小限に留めていく。
「やるな!けど、勝負はこれからだぜ!魔法カード〈E_エマージェンシー・コール〉発動!デッキから〈ワイルドマン〉をサーチして、〈融合〉発動だ!手札の〈エッジマン〉と〈ワイルドマン〉で〈ワイルド・ジャギーマン〉を融合召喚!」
〈E・HERO ワイルド・ジャギーマン〉☆8
ATK/2800
勝負はこれからだ、と言わんばかりに召喚されたのは筋肉隆々の野生味溢れるヒーロー。全体攻撃持ちで今の彼女に対し、最高のモンスターと言える。
「ついでに〈H _ヒート・ハート〉を〈ジャギーマン〉に発動!」
「くっ……」
〈E・HERO ワイルド・ジャギーマン〉
ATK/2600→3100
効果はパンプアップと貫通効果の付与。全体攻撃に加え、貫通効果まで持った攻撃を喰らえば、彼女の残りライフは消し飛ぶ。華蓮の険しくした表情に冷や汗が浮かんでいるのが見える。
「バトルだ!〈ジャギーマン〉でチビリュウを攻撃!」
「プチリュウですっ!リバースカード、ダブルオープン!〈攻撃の無敵化〉!そして、〈アルケミー・サイクル〉!」
攻撃と同時に発動された二枚のカード。恐らく十代はこれらをブラフとよんでいたのだろうか、アテが外れた様子だ。
「〈無敵化〉のエフェクトで私がこのターン受ける戦闘ダメージは0になります。そして、〈サイクル〉のエフェクトで私のフィールドにいる表側モンスターの元々の攻撃力は0になります!」
「え!……わざわざ自分から攻撃力を下げたドン」
「たぶん、彼女なりの考えがあるのよ……」
〈ギャラクシー・サーペント〉
ATK/1200→0
〈プチリュウ
ATK/600→0
「なんだかわからねえけど、やれ!〈ジャギーマン〉!インフィニティ・エッジ・スライサー!!」
炎のような赤い闘志を纏ったジャギーマンが背に提げていた巨大なブーメランでプチリュウを叩き割った。少女は抵抗もなしに破壊されていった〈プチリュウ〉を悲しげに見つめつつ、隠された効果を発動させる。
「〈サイクル〉のエフェクトを受けたモンスターが戦闘破壊された時、ドローします!さぁ、どうしますか先輩。破壊するか、しないか」
「くっ……!」
「……ほう、駆け引きですか」
渋る十代を見ながら、彼女の放った発言を考察してみる。
通常モンスターには効果がない反面、サポートカードが多く存在している。攻撃を躊躇して次のターンにサポートカードを使った手痛い反撃を待つか、全滅させる代わりに手札を補充させるか……二つに一つ。
そして、〈フレア・ネオス〉を処理し、同時に大量の壁モンスターを並べたことでモンスターの大量召喚、もしくは〈ジャギーマン〉のような複数回攻撃可能なモンスターの召喚を狙ったものと思われる。
タクティクスの面でおいては、やはり華蓮さんの方が一枚上手だ。
「構わねぇ!ジャギーマンで全モンスターに攻撃だ!インフィニティ・エッジ・スライサー!ゴレンダァ!」
「追加で四枚ドローです!」
全滅させることを選び、結果彼女の手札が初手と同枚数まで回復する。だが、1ターン目からドローしまくっている彼も手札にはまだ余裕がある。一概にどちらが有利かは決めかねる。
「カードをセット、エンドだ」
エンド宣言と同時に〈ヒート・ハート〉の効力も消え、〈ジャギーマン〉の纏っていた赤い光も消滅する。
〈E・HERO ワイルド・ジャギーマン〉
ATK/3100→2600
[遊戯 十代]
LP6500
手札3枚
魔法・罠:伏せ一枚
場
〈E・HERO ワイルド・ジャギーマン〉
すぅ、はぁ……と深く息を吸い込むとキッと視線を鋭くする華蓮。「いきます!」と宣言すると、二度目彼女のターンを開始させる。
「私のターン、ドロー!〈魔神王〉を捨て、〈融合〉をサーチ!手札の〈隻眼のホワイトタイガー〉と〈ラブラドライドラゴン〉を融合!来い、〈ビーストアイズ〉!更に〈召集の聖刻印〉を発動し、〈セテクドラゴン〉をサーチッ。墓地から〈隻眼〉、〈サーペント〉、〈ラブラドライ〉を除外し、〈セテク〉を特殊召喚!〈セテク〉のエフェクト発動!〈サーペント〉を除外し、〈ジャギーマン〉を破壊ッッ!!」
「んなっ!?〈融合解除〉だ!」
〈ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン〉☆8
ATK/3000
〈聖刻龍_セテクドラゴン〉☆8
ATK/2800
〈E・HERO ワイルドマン〉☆4
DEF/1600
〈E・HERO エッジマン〉☆7
DEF/1800
「な、何が起こってんすかっ!?」
「は、はやい……!」
突発的に行われた早打ちに十代を除くギャラリーから困惑の声が上がった。一呼吸の間に度重なるサーチと特殊召喚、効果が繰り広げられ、華蓮のフィールドには最上級のドラゴンが二体並び、十代の〈ジャギーマン〉も二体へと分裂させられている。
「〈強欲な壺〉を発動し、二ドロー!さらに通常マジック〈禁止薬物〉を〈ビーストアイズ〉に発動して、バトル!〈ビーストアイズ〉で〈ワイルドマン〉を攻撃!ヘルダイブ・バースト!」
「〈ネクガ〉を除外して、攻撃を無効だ!」
赤く目を血走らせたビーストアイズの特攻は墓地に送られていた〈ネクガ〉によつて苦しくも止められる。だが、攻撃を一度止めたくらいでいい気になっていては、やはり甘い。
「〈禁止薬物〉のエフェクトにより、〈ビーストアイズ〉はこのターン、二度攻撃できます!」
「ワイルドマンッ!?」
猛り狂ったビーストアイズが吼え、その巨体からは考えられない大ジャンプを繰り出し、ワイルドマンを強襲する。守備態勢をとるワイルドマンにドラゴンプレスに抗う術なく踏み潰され砕け散った。
「戦闘破壊に成功したことで、ビーストアイズのエフェクト発動!〈隻眼〉の攻撃力1300の効果ダメージを受けてもらいます!」
「くっ……うわぁ!」
[遊戯 十代]LP6500→5200
至近距離からのドラゴンブレスが十代へと襲いかかる。大ダメージを与えるが、先行1ターン目のライフゲインによって開いたライフ差のせいで戦況は芳しくない。
「〈セテク〉で〈エッジマン〉を攻撃!」
「受けるぜ」
「そうですか。私はカードを一枚伏せ、エンドです」
[花村 華蓮]
LP3500
手札2枚
魔法・罠:伏せ一枚
場
〈ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン〉
〈聖刻龍_セテクドラゴン〉
「へへっ、凄かったぜ。今の猛攻」
「はい。先輩もなかなかやられてくれなくて、困ってます」
努めて冷静な態度を貫く華蓮に対し、十代は楽しそうに笑みを咲かせる。ニッと頬を上げるとデッキからカードを引き抜く。
「盛り上がってきたな!ドロー!〈手札抹殺〉発動!俺は手札3枚捨て、3枚ドロー!」
「む。手札交換ですか?」
それぞれが残る手札を全て墓地に送り、3枚と2枚デッキから手札へと加えるとターンが再開する。
「さぁ、お楽しみはこれからだ!墓地から〈H〉、〈E〉、〈R〉、〈O〉を除外して、魔法カード〈ヒーローフラッシュ‼︎〉発動!」
「HとEはともかく……まさかっ」
「そのまさかだぜ」と十代が笑う。
今の手札交換で〈ヒーローフラッシュ‼︎〉の条件となる魔法カードを墓地に揃えたのだ。なかなか、したたかなことをしてくれる。
「〈ヒーローフラッシュ‼︎〉の効果でデッキから〈ネオス〉を特殊召喚だ!」
〈E・HERO ネオス〉☆7
ATK/2500
頭上でHEROの文字が輝き、光と共に屈強な戦士が降臨する。その様子はまさしくピンチに駆けつけるヒーローのよう。
〈ブラック・マジシャン〉級のモンスターを特殊召喚するも、華蓮のフィールドに並ぶドラゴンには敵わない。
「〈ヒーローフラッシュ‼︎〉の効果で『通常E・HERO』はこのターン、直接攻撃出来る!さらに、〈アサルト・アーマー〉を〈ネオス〉に装備。そしてこれを墓地に送ることで二回攻撃が可能となる!」
「ダイレクトアタックの二連撃!?」
「これが決まれば……!」
「勝ちだドン!」
目を大きく見開き、驚く少女。弟分たちはよっしゃとガッツポーズをしてみせる。
倒せなければ、倒さずにライフを削ればいいじゃないという考えではじき出した総ダメージは5000。そして、華蓮のライフは3500。全て受ければ、勝負が決まるが、そう簡単に終わるとも思えない。
「バトルだ!〈ネオス〉で華蓮にダイレクトアタック!ラス・オブ・ネオス!」
「リバースカード〈ガード・ブロック〉!!ダメージを0に!」
「なら、二撃目だ!」
「ぐっ……⁉︎」
華蓮LP3500→1000
ネオスが飛び上がり、強力なチョップを繰り出す。だが、二人を阻むバリアによって防がれるも、二撃目は耐え切れずに崩壊する。肩にチョップが打ち込まれ、少女が呻く。
「う、ぐっ……ちょっとは手加減してくださいよ。それでもヒーローですかっ⁉︎」
「ま、まぁ……ネオスも悪気はないから」
少女に涙目で訴えられ、罰が悪そうに頬を掻く十代とネオス。一応謝罪を受け取るとムッとした表情を作り、〈ガード・ブロック〉の効果でドローする。
「まぁ気をとりなおして。セットして、エンドだ」
[遊戯 十代]
LP5200
手札0枚
魔法・罠:伏せ一枚
場
〈E・HERO ネオス〉
「私のターン、ドロー!バトル!墓地の〈プチリュウ〉を除外して〈セテク〉のエフェクトを発動!セットカードを破壊します!セイントバースト!」
「チェーンだ!〈クリボーを呼ぶ笛〉!デッキから〈ハネクリボー〉を特殊召喚するぜ!」
〈ハネクリボー〉☆1
DEF/200
「頼んだぜ、相棒」。自らの側を飛ぶハネクリボーに声をかける。ハネクリボーもそれに応えるようにパタパタと羽を動かしてみせる。予想以上の信頼関係が築かれているようだ。
「むぅ。また厄介なモンスターが……。バトルです!〈ビーストアイズ〉で〈ネオス〉を攻撃!ヘルダイブ・バースト!」
「くっ。うわぁぁぁぁ!!?」
[遊戯 十代]LP5200→4700→3400
粉砕、衝撃。ネオスを破壊された十代をビーストアイズの追撃が襲う。ようやくライフが 初期値 を下回るが、華蓮の表情は険しい。いまだライフ差は3000近くあり、華蓮自身なかなか攻めきれていない。
「〈セテク〉で〈ハネクリボー〉を攻撃します」
「〈ハネクリボー〉が破壊されたことでこのターン俺が受けるダメージは0になるぜ」
〈ハネクリボー〉の恩恵で、このターン中に勝負を決めることが不可能になった。厳しい表情をしつつ、華蓮はセットカードを伏せエンドを迎える。
[花村 華蓮]
LP1000
手札3枚
魔法・罠:一枚
場
〈ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン〉
〈聖刻龍_セテクドラゴン〉
「俺のターン、ドロー!おっと、いいカードを引いたぜ。通常魔法〈一時休戦〉!互いにデッキからドローし、さらに次の俺のターンが回るまで互いにダメージを受けない」
「くっ、姑息な手を……」
互いにドローし、受けるダメージも0になる。まさしく一時休戦に相応しい効果。だが、未だライフ差が大きくある状況では、十代に攻めるチャンスを与えてしまうためあまりよろしくない。
「よし。俺はこれでターンエンドだぜ」
引いたのがモンスターだったのか、それとも〈羽箒〉や〈大嵐〉を警戒してなのか彼は手札を温存してターンの終わりを迎える。
さて、次のターンで華蓮がどう動くかが重要になってくる。
十代
LP3400
手札1枚
魔法・罠:伏せ0枚
場:なし
「いきます。私のターン、ドロー……。カードを1枚、伏せてターンエンドです」
対するこちらも特にこれといった動きは見せずにターンを終える。まぁ、展開したところでダメージは与えられず、最悪次のターンに〈サンボル〉や〈ブラホ〉でも撃たれたら洒落にならない。
[花村 華蓮]
LP1000
手札5枚
魔法・罠伏せ二枚
場
〈ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン〉
〈聖刻龍_セテクドラゴン〉
「俺のターンだ。ドロー!」
ターンが一周し、彼の番を迎えたことで〈一時休戦〉の効果は切れて、このターンからダメージが通るようになる。
「こいつで勝負だ!魔法カード〈ミラクル・フュージョン〉!墓地から〈エッジマン〉と〈ネオス〉を除外して、融合!〈E・HERO ネオスナイト〉見参ッ!」
〈E・HERO ネオスナイト〉☆7
ATK/2500
土壇場での融合召喚。彼のフィールドに現れたのは、騎士甲冑に身を包んだネオスの姿。しかし、攻撃力は元の〈ネオス〉と変わっていない。こういう場合、決まって何かある。
「〈ネオスナイト〉は、〈ネオス〉以外の融合素材にしたモンスターの攻撃力の半分を自身の攻撃力に加えられる。よって、〈エッジマン〉の攻撃力2600の半分、1300アップする!」
「そんなっ!?」
〈E・HERO ネオスナイト〉
ATK/2500→3800
エッジマンの力を引き継いだネオスナイトは、大剣の切っ先を二体のドラゴンへとむける。
「さぁ、いくぜ。〈ネオスナイト〉は一度のバトルフェイズで二度攻撃できる。 ただその代わりに戦闘ダメージは相手に与えられねぇけどな。
バトルだ! ネオスナイトで二体のドラゴンを攻撃だぁ!ラス・オブ・ネオススラッシュ!」
高く飛び上がったネオスの一撃目が、ネフテの胴を真っ二つに裂き、返す刃でビーストアイズの首を刎ねる。凄まじい剣技によって瞬く間に、ドラゴン二体を狩って見せたネオスに、恨めしげな視線を送る華蓮。
「俺は最後の手札を伏せて、エンドだ」
[遊戯 十代]
LP3400
手札0枚
魔法・罠:伏せ一枚
場
〈E・HERO ネオスナイト〉
先の攻撃でゲームエンドにならなかったのが幸いか。華蓮は、集中するためにふっと息を短く吐き出す。一方で、十代は好戦的な笑みを浮かべながら、少女に喋りかける。
「なぁ。あんたなら、俺のネオスを超えて来るんだろ?」
彼の表情に影響を受けたのか、彼女も笑みを浮かべて言葉を返す。
「えぇ。先輩のエースは、私のエースモンスターで倒します!」
ドロー!!。威勢良くデッキトップを引き抜いた。おそらくは華蓮のラストターン。彼女が最期にドローしたカードはーー
「私が引いたのは、〈 龍の鏡 〉!!墓地から〈プチリュウ〉と〈魔神王〉を除外し、融合召喚!幼き竜よ!黒焔を纏い、大空へ羽ばたけ!来て、〈暗黒火炎龍〉!」
〈暗黒火炎龍〉☆4
ATK/1500
融合には、融合を。彼女のフェイバリットである〈プチリュウ〉を素材としたドラゴンは、その長い肢体をくねらせ、上空へと昇っていく。
天から見下ろす龍を見上げた翔が一言。
「こ、効果無し。攻撃力1500って……ダメじゃん!?」
「うぐっ……」
心ない言葉に、さしもの暗黒火炎龍も傷ついたのか首を下げ、落ち込んで見せた。確かに翔さんの言うように下級・バニラ・低火力と三拍子揃ってしまっているが、それはそれ。モンスターを活かすも殺すもそれを扱うデュエリスト次第であり、その可能性は無限大だ。
「ダメって言わないでください!!私は伏せておいた〈フュージョン・ウェポン〉を発動し、〈暗黒火炎龍〉に装備します。このカードはレベル6以下の融合モンスターに装備し、攻撃力を1500ポイントアップします!」
〈暗黒火炎龍〉
ATK/1500→3000
暗黒火炎龍の前脚に鋭い鉤爪が装備され、さらには全身を覆うような漆黒の鎧を見に纏う。なんということだろう、出落ちを食らったドラゴンが、青眼と同じ域に立ったのだ。それが嬉しいのか、暗黒火炎龍は黒焔を吐き出し、高く嘶いた。
「でも、兄貴のネオスナイトには、及ばないドン」
「それはやってみなきゃ、わからないでしょう!〈暗黒火炎龍〉で〈ネオスナイト〉に攻撃!ダーク・メガフレア!!」
「っ!?なんだがよくわからねぇけど、迎い撃て!ネオス!」
上空から黒い火焔弾を吐き出すドラゴン。そして、それを地上で向かい撃つ騎士。しかし、演出がどうであろうと攻撃力の差は絶対であり、華蓮のドラゴンが十代のネオスに敵うことはない。"もしも"の可能性はない。あるとしたら、やはりデュエリストのタクティクスによるものしかない。
だが、彼女は小さなドラゴンを強大な力を持った英雄を凌駕してみせるだろう。
「私のライフが3000以下の時、ライフ半分をコストにトラップカード〈魂の一撃〉を発動する!4000から私の残りライフ分を引いた数値だけ、〈暗黒火炎龍〉の攻撃力をターン終了時まで上昇させる!」
[花村 華蓮]LP1000→500
〈暗黒火炎龍〉
ATK/3000→6500
「嘘ぉぉ?!」
「お、俺の恐竜さんすら超えたザウルス!」
青眼を超えた小さなドラゴンは、神さえも超えてみせた。紅いオーラが鎧の上からドラゴンを包み込み、命を賭した一撃が騎士を強襲する。だが、必殺の一撃を前にして、遊戯 十代は笑ってみせた。
「あんたなら、きっと超えて来るって信じてたぜ!コッチもリバース発動だ!トラップカード〈異次元トンネル_ミラーゲート〉!互いのモンスターを入れ替え、バトルを行なう!」
閃光。眩いばかりの光が視界を白く染める。
目の前が見えるようになったその時には、紅いオーラを纏い鎧に身を包んだ〈暗黒火炎龍〉が、華蓮を護るように仁王立ちした〈ネオスナイト〉へと最後の一撃を放とうとしている場面だった。
「そんなっ!?」
「いっけぇぇぇぇ!!」
天を焦がす黒焔が、ネオスナイトを焼き尽くし、その衝撃波が小柄な少女の体を吹き飛ばす。鮮やかにカウンターが決まり、今勝敗が決した。
[花村 華蓮]LP500→0
「うう、負けました……」
床に座り込み、落ち込む華蓮。そんな彼女の下に勝者である十代が歩み寄る。
「ガッチャ!すげぇいいデュエルだったぜ!」
「……はい。私もすごく楽しかった、です」
立ち上がり、ニコリと笑う。その表情には敗北の後悔は消え失せていた。彼女には、今回の敗北を糧に、強くなって欲しい。しかし……
ーー遊戯 十代。精霊が見える事といい、不思議な少年だ。
◆◇◆
あのデュエルの後、男子三人に絶対に 私 の事を口外しないように誓わせた楓さんは、私と明日香先輩を引き連れ、女子寮の談話室まで来ていた。
「というわけで、今から反省会を始めます!」
「「いきなりっ?!」」
かなりマイペースな楓さんに色んな意味で驚かされる私と先輩。そんな私たちに指を指差し、彼女はのたまう。
「デュエルがどんな内容であれ、負けは負けです。敗者は、どんなに取り繕っても敗者なんです。では、敗者が如何にして勝者となるか。それは、デュエルの結果を見直し、次へと繋げる。それを怠れば、ただの凡人。雑種です。ゆえに反省しなさいっ!では、まずは華蓮さん!反省点を一つ以上上げなさい!」
かなり理不尽な気がするが、正論なため反論の余地はない。
ぐぬぬと唸ること数秒。一つだけ浮かんだ案を出す。
「やっぱり、パワー不足ですかね。攻撃力3000のラインを超えられると中々きついです」
「……それって、簡単に超えるものなのかしら?」
明日香先輩は困惑気味だが、割と簡単に超えてくると思う。先のデュエルなら〈フレア・ネオス〉や〈ネオスナイト〉。クロノス教諭なら〈古代の機械究極巨人〉などだろうか。
攻撃力が高ければ高いほど、処理するための選択肢が狭まり、加えて強力な効果や耐性を獲得してくる。私の場合は、〈プチリュウ〉と〈スリーカード〉のコンボで一掃していたが、使えたとしても1デュエルに一度きりだ。だからこそ、安定して相手モンスターを屠れる火力は必須。
「そうですね。一応〈バニラ〉デッキなら〈下剋上〉とかいいんですが……元が低すぎ。いっそ、抜きません?」
「悪かったですね! それと何があっても〈プチリュウ〉は抜きません!」
〈プチリュウ〉は 私 のデッキの先鋒であり、メインエンジンなのだ。それを抜くとか言語道断である。
微妙に気まずくなった空気を変えるため、楓さんの無茶振りが明日香先輩へと向け放たれる。
「次、明日香さん!さっきのデュエルで気になったところをどうぞ」
「どうぞって言われても……そうね、十代の馬鹿みたいなドロー力なんだけど。アレってどうにかならないかしら。1ターン10ドローとか、ハンドレスから手札5枚になってたりとか……。あれをどうにかするべきよ。絶対に」
確かにそうだ。初ターンの10ドローといい、危機での〈一時休戦〉とか色々と可笑しい。
「そうですね。なら、メタるのはどうですか?」
「おっと、華蓮さんの可愛い容姿からエゲツない一言が……」
貶しているのか、からかっているのかわからないがここはスルー。私もいちおう真剣に考えているのだ。
対策という面では、誰もが考えそうな事だがそれに異を唱えたのは先輩だった。
「無駄ね。 例え十代くんのキーカードを封じたところで抜け穴を必ず見つけてくるわ」
「おっと? 何やら先駆者がいた様子で」
「えぇ。一年の頃なのだけど、イエローの三沢君が十代くんのキーカードである〈融合〉を〈封魔の呪印〉で使用不可にしたのにかかわらず、勝ったわ」
「なら、〈精霊の鏡〉でドローソースを奪い取るのとかどうでしょう? けっこう効きますよ。 精神的に」
「……エゲツない」
唐突に行われた反省会が、終わりを迎えたのは既に陽が沈んでからだった。
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