遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜
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episode5 ーH・E・R・O Flash!!ー
前書き
流れを追いやすいようにデュエルシーンの書き方を少し変更してみました。
ある日の日曜日、遊戯 十代はレッド寮の食堂に居た。そして、目の前には盆に置かれた白米に味噌汁、そして、漬物と焼き魚。
ザ・和食といったラインナップでシンプル且つ旨いのだが何故か人気がない。
日曜日だけあって、一人遅めの朝食を楽しんでいると慌ただしく引き戸が開け放たれ、入って来たのはメガネをかけ、イエローの制服に身を包んだ少年。
「あ、アニキ⁉︎ニュースっす!大ニュースっすよ!」
「なんだなんだ?俺の魚はあげないからな!」
「なんでわざわざ、イエローの寮から焼き魚を貰いに来るんすか?!」
十代の事を見つけるなり、ワーワーと叫びだしたのは『アニキ』と慕ってくれている友人、丸藤 翔だ。
「まったく……翔先輩、朝から騒がしいドン。ハイ、アニキ。お茶ザウルス」
「お、気が効くな。サンキュー」
いつの間にか居た、十代の後輩にあたるティラノ剣山が淹れてくれたお茶を啜る。
「い、いつの間に剣山君……ってアニキ!呑気ににお茶飲んでる場合じゃないっすよ〜」
「先輩、落ち着くドン。さっきから『ニュースっす』しか言ってないザウルス」
「うぐ……」
剣山に言われ、ようやく冷静になったのか翔が落ち着いた。
翔のが一年歳上なのだが、これじゃあどっちが先輩なのかわからないなと苦笑する。
深呼吸をして息を整えると、声を潜めて言う。
「たまたま聞いちゃったんっすけど……この前転校していた子が、プロデュエリストのレンカらしいんすよ」
「ふ〜ん」
「……ふーんって、反応薄くないすか?プロっすよ、プロ!」
翔がプロ、プロと連呼するが、あまり実感がない。
「アニキのリアクションも無理ないドン。あんな草食動物みたいな奴が、冷酷無慈悲な竜使いレンカなわけないドン」
「えー、けど。あの子、クロノス教諭を倒してるじゃないすか〜」
「クロノス先生なら、俺も倒してるけどな。入学試験の時に」
「……そうだった」
翔はがっくりと肩を落としつつも、信じてもらう事を諦めていないようで必死に剣山と議論を繰り広げている。そんな様子を見つつ、朝食を食べ進めていると食堂の出入り口から声が響いた。
「話しは聞かせてもらった!」
「……三沢君、居たんだ」
「今来たところだがな?!ちょくちょく俺の事を影が薄いみたいに扱うのやめてくれないか?」
慌てたように声を上げるのは、イエローの主席の三沢大地。
最近存在が薄い事を気にしているのか、いつもの冷静な態度は何処へやら、珍しく声を荒げて自己主張をしている。
「最近、無差別に辻デュエルを仕掛けていた奴がいただろ?」
「…………?」
「兄貴、あの偽レンカっすよ」
「あぁ、あの黒ローブの奴か」
めちゃくちゃ強いらしいから、一度はデュエルしてみたかったな〜と思い浮かべるながら、ご飯を口に運ぶ。箸休めのたくあんが、コリコリとしてこれがまた美味い。
「そいつだが、最近ぱったりと姿を現さなくなった。どうやら、誰かに制裁されたらしいな。カードなどは盗んだりと被害は出てないが、襲ってる時点でアウトだな。制裁されるのも、仕方ない」
腕を組んで、うんうんと傾きながら一人納得する三沢。一方で、翔はそれがどうしたと言わんばかりに怪訝な表情で彼を見ていた。
急かす翔をまぁ、待てと嗜める。
「あまり出回ってない……あくまで噂なんだがどうやら偽者を倒したのは、本物らしい」
「「なっ⁉︎」」
「おっ」
話しを聞いていた翔と剣山が声を揃える。
なんとなく、こいつの言いたいことがわかってきた気がする。
「つまり、本物がデュエルアカデミアに来てるってことか」
「お、十代にしては物分かりがいいな。補足するなら、翔の言ってることがより信憑性が増すということだな」
及第点を三沢から貰うと、残ったご飯をかきこむ。
横目で翔たちを見れば、あわあわとさせたまま俺を指差していた。
「ん?」
「お、おおおかしいザウルス⁉︎あ、兄貴が俺らよりも早く物事を理解するなんて!」
「ど、どどどうしちゃったんすか、兄貴!な、何か悪い物でも拾い食いしたんすか!?」
「……?前食ったおでんパンのことか?」
おでんの出汁がパンに染み込んで美味かった。アレはアレでありだと思う。
「ま、まぁ兄貴の事は置いといて……。その話が本当なら早く広めなくちゃ!」
「まぁ、待て」
駆け出そうとした翔を、三沢が襟首を掴んで引き止める。その際、気道がしまったのか、グェッと声を出していたが……まあ、大丈夫だろう。
咳き込みながら、恨めしそうに見つめる翔の視線を無視すると三沢が話を進める。
「ここで問題なのは、プロがどうしてこっそりと来ていたのかだな。その点は、わかってると思うが、レンカは他のプロに比べて非常にガードが固い。それこそ、顔すら隠すほどにな」
「そうっすね。けど、衣装がポンチョっぽいのになってからは……可愛いっすよねぇ〜」
「あぁ、アレはいい。小柄で小動物チックなところと、ミステリアスな感じが霊使いを彷彿と……って何を言わせるんだ!」
「……先輩」
三沢を見る二人の視線が痛い事、この上ない。
三沢は、ゴホンと咳払いをし、微妙な空気を一蹴すると何事もなかったように話し始める。
「まぁ、何を言いたいかと言うとなーー」
「秘密にしてるって事をわざわざ広めんなってことだろ?」
「…………うっ、俺の台詞を。なぜ今日に限って物分かりがいいんだ、お前は!」
半目で睨んでくる三沢を不思議に思いつつ、食べ終わった食器を重ねる。
「さて、飯を食ったことだし。行くか!」
「ど、どこに?」
ーーどこにってそりゃあ……
「デュエルしに行くんだよ!レンカと!」
「やっぱり、わかっていなかったぁぁ!?」
◆◇◆
十代が遅めの朝食をとっている頃、華蓮もまた女子寮の食堂で楓に焼いてもらったフレンチトーストに舌鼓を打っていた。
「ん〜〜!中ふわっ、外サクッ。この蜂蜜の甘さが絶妙で……とっても美味しいです、楓さん!」
「えぇ、そんなに喜んで貰えるとこっちも作り甲斐がありますね。どうぞ、お飲み物です」
淹れて貰ったコーヒーを一口。これもまた、芳ばしくて甘いトーストによく合う。
ナイフとフォークでフレンチトーストを切り分け、また一口。優しい甘さが口いっぱいに広がって思わず、頬が緩んでしまう。
「あらら、花も恥じらう女子高生が……なんて表情してんですか」
「えへへ、美味しいです」
いつもならこんな表情、恥ずかしくて他人に見せられないが、今日は週末。新商品が発売されているらしく、他の女子生徒は早々とショッピングに出て行っており、また遅めの朝食のため食堂には、私と楓さん以外にはいない。
朝食というかブランチを楽しんでいると、腰ほどまである金色の御髪を整え、きっちりと制服に身を包んだ女性が食堂の扉を開け、入ってくる。
確認するまでもなく、天上院 明日香先輩だ。
起きたばかりのようで欠伸を噛み締めつつ、こちらへと進んで来た。
「ご機嫌よう。華蓮さん。朝食はフレンチトーストかしら?」
「おはようございます!楓さんが作ってくれたんです。とっても美味しいですよ」
「……楓さん?」
気づいてなかったようで、両手にトーストが盛られたお皿を持った状態の楓さんを見て、一瞬驚いたような表情をする。だが、すぐに平静を取り戻すと頭を下げ、挨拶を交わした。
流石、先輩。挨拶が淑女の見本のような振る舞いだった。……視線が楓さんの持つお皿に注がれてなければ。
楓さんも明日香先輩の視線に気がついており、やれやれと首だけを振った。
「はぁ〜、そうなると思ったんで焼いてありますよ。飲み物は自分で用意してくださいね」
「ありがとうございます」
明日香先輩も席についた後、他愛もない会話を交えつつブランチを楽しんだのだが、平穏な時間はそう長くは続かなかった。
『おジャマしまっ〜〜す!』
『あ、兄貴!不味いザウルス!女子寮は男子禁制だドン!』
『そ、そうっすよ!こわ〜い女王様にとっ捕まって湖に沈められちゃうっすよ!?』
エントランスから陽気な声音が響き、それを必死に止めようとしているのが二人。声の調子から男子な事は明白だ。
何事かと思っていると、向かいに座っていた明日香先輩と楓さんの表情が眉間に皺を寄せて、怒りの表情を形取る。
「…………懲りないわね、十代。ホントに、縛って、沈めてやろうかしら」
「えぇ、それでいいと思いますよ。もっとも決闘者たるものそれくらいじゃあ死にませんので……やるなら、思いっきりやりなさい」
《女王様》とは、どうやら先輩の事のようで修羅の表情を浮かべて、物騒な事を口にしていた。そして、それを普通にお喋りするような調子で肯定する楓さん。美人な人ほど怒ると怖いと、初めて実感した瞬間だった。
……しかし、楓さんは決闘者をどんな超人と勘違いしているのだろうか?
『おーい、誰も居ねえのかー?』
『ちょっ!?兄貴、声がでかいっす!』
『諦めるドン、丸藤先輩。多分、もうバレてる……』
再び響く男子生徒の声。
一体何の用なのだろう、と考えていると楓さんがため息混じりに肩をすくめているのが見えた。
「はァァァァ……。やはり、十代さんですか。会議でも、注意するようにと言われましたが……いやはや、これほどまでとは」
「ご心中お察ししますわ、先生」
はぁ〜と深いため息を吐く楓さん。先輩は彼女を慰めるように肩に手を置いた。
しかし、楓さんが言うほど不良生徒なのだろうか。初めて会話した時は、凄くハツラツとしていていい人に思えたのだけれども。
その辺りの事を明日香先輩に訊ねると、「あなたは、彼の事を知らないからそんな事を言えるのよ」と諭された。
『おっ、こっちからいい匂いがするぜ!行ってみるか!』
『ちょっと、そっち待って?!剣山くん、兄貴を止めてっ!』
『諦めるドン。走り出した兄貴は恐竜さんでも止められないザウルス』
『そんな〜……』
三たび聞こえてくる声。
声の主たちは、どんどんとこちらへとやって来ているようだ。
そうして、遂に食堂の扉が開け放たれ三人の男子生徒が姿を見せる。
「お、明日香じゃん!」
「あら、十代。おはよう。ところで、ここは男子禁制の花園と知っての愚行かしら?」
「へへっ、そんな堅苦しい事言うなよな」
十代先輩を見据える明日香先輩の瞳に剣呑な光が灯る。側から見ているだけでも、恐ろしいのに、十代先輩はまったく堪えていないようだ。一方で、翔さんと剣山さんはしきりに頭を下げつつけている。
「ところで、何の用ですかねぇ?一応、用件だけは聞いてあげましょう。もっともそのあと叩き出しますが」
改心させるのを早々諦めたのか、楓さんが十代先輩へと用件を訊ねる。だが、思いがけない人物名に驚愕させられる。
「おっ、じゃあ、レンカっていうやつはどいつだ?俺とデュエルとしようぜ!」
「ーーーっ⁉︎」
プロとして活動している時のネームが出され、わかりやすいくらいに動揺してしまった。十代先輩を除いた、四人の視線が一斉に私に集まるのを感じた。
「え、まさか……ホントにこの娘がプロデュエリストだったドン?!」
「や、やっぱりホントだったんだ!」
……バレた。完全にバレた。モロバレだ。しかし、葵さんといい、明日香先輩といい、どうしてこんな簡単にバレてしまうのだろう。いや、逆に考えれば……まだ五人にしかバレていない、と考えれば……セーフ?
「セーフ……じゃぁないですからね?モロアウトですよ」
「……うぐっ」
心中を読まれたのか、横目で睨まれながら宣告され、胸を手で押さえる。
ショックから立ち直り、周囲に視線を巡られせれば皆、それぞれ違った顔色をしていた。
ため息を吐く人、驚愕のあまり口が開き放しの人、そして喜色満面の笑みを浮かべている人。
……ところで。いったい私はどうなるのだろう?
◆◇◆
慌ただしくなった場を流石の手腕で収めてみせた楓さんは皆を席へと着かせ、紅茶を振舞っていた。
即刻叩き出しそうだが、大人の対応だ。
温かいものを飲み、ほっこりしたところで楓さんがデッキを弄っていた十代先輩へと訊ねた。
「で?さっきも聞いた気がするんですが、今日はなんの用ですか?」
「お!許してくれるのか!」
「んなわけ、ないでしょう」
「ええぇぇぇぇっ!?」と三人の声が揃う。見事なユニゾンだ。
油断させておいて突き落とした楓さんは蟲惑魔のような笑みを浮かべていた。
「ええ、ですからね。デュエリストらしくデュエルで決めましょう。十代くんと華蓮さんがデュエルをして、負ければこのデュエルのレポートを10枚。勝てば、半分で許してあげましょう」
「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」
今度は十代先輩の代わりに私が驚く番だった。
極々自然な流れを装って、私と先輩がデュエルをする状況になってしまっているがなぜこんな事に。
向こうが断ってくれることを願って、チラリと男性陣に視線を向けるもーー
「そんな!?相手はエドやお兄さんに勝った人っすよ?!」
「じゃあ、そんだけ強えってことだな!ワクワクするな!」
ーー状況は真逆。やる気満々だ。
「安心しなさい。今はレンカではなく、高一の華蓮です。〈真紅眼〉は使わなくて結構です。それに負けたって、あなたの経歴に傷なんて1ミリもつかないので安心してください」
「ぇ、え〜〜……」
渋る私。だが、肩を掴まれ、有無を言わせない眼差しを向けられ、傾かざるを得ない。
やけっぱちになって、叫ぶ。
「……う、うぅ。やってやりますよ!やればいいんですよね?!」
「うしっ。やるか」
広い場所へと移動し、デュエルディスクを構える。
『 決闘 !』
[遊戯 十代] LP4000 手札5枚→6枚
vs
[花村 華蓮] LP4000 手札5枚
「先行は貰うぜ!ドロー!」
勢いよくデッキからドローし、先輩のターンがスタートする。
"強い"とは聞いているが、どんな戦いをするのだろうか。想像がつかない。
「まずはこれだ!〈テイクオーバー5〉!デッキトップを5枚墓地に送るぜ!」
〈ネクガ〉に〈融合〉。そして、〈N・フレアスカラベ〉、〈N・アクアドルフィン〉、〈N・グランモール〉。
開始早々の墓地肥やし。その目論見は見事的中し、〈ネクガ〉を墓地に落としてみせる。なんて運命力だ。
「さらに〈コンバート・コンタクト〉を発動するぜ!手札・デッキから〈ネオスペシーシアン〉を一体ずつ墓地に送って、ドローする。俺は手札の〈グローモス〉と〈エア・ハミングバード〉を墓地に送って、ドロー!まだだぜ!通常魔法〈コクーン・パーティ〉発動!墓地の〈ネオスペシーシアン〉一種類につき一体、デッキから〈コクーン〉を特殊召喚出来る!来い、コクーン達!」
〈C・チッキー〉 ☆2
DEF/400
〈C・ドルフィーナ〉☆2
DEF/600
〈C・モーグ〉☆2
DEF/100
〈C・ピニー〉☆2
DEF/700
〈C・ラーバ〉☆2
DEF/300
唐突に現れた五体の下級モンスター達。種族もバラバラ。属性もバラバラ。こんなカテゴリは珍しい。
「〈貪欲な壺〉を発動!五体の〈ネオスペシーシアン〉をデッキに戻し、二枚ドロー!さらに、フィールド魔法〈ネオスペース〉発動!」
「わぁ!」
デュエルディスクのプレートが開き、そこにカードを置く。すると、室内をオーロラのような七色の光が漂い、彩る。その光景の美しさに思わず感嘆の声をあげてしまう。
「へへっ、感動してる場合じゃないぜ!レンカ!」
「む。今は華蓮です。そっちはあまり呼ばれたくないです」
デュエルしている時は正面きって名前を呼ばれることは少ないが、『レンカ』と呼ばれるとやっぱり恥ずかしい。
先輩はぽりぽりと頬を掻くと、素直に訂正してくれる。
「オーライ。じゃ、行くぜ華蓮!〈ネオスペース〉が存在するとき、〈コクーン〉たちは進化することが出来る!さぁ、現われろ!」
「ーーー進化ッ!?」
半透明のカラに覆われていた〈コクーン〉たちがカッと光り輝き、その姿を変形させていく。ビデオを早送りで見ているような光景をしばし眺めていると進化の光が収まり、成長した彼らの姿が露わになる。
〈N・フレア・スカラベ〉☆3
DEF/500
〈N・グラン・モール〉☆3
DEF/300
〈N・グロー・モス〉☆3
DEF/900
〈N・エア・ハミングバード〉☆3
DEF/600
〈N・アクア・ドルフィン〉☆3
DEF/800
〈コクーン〉の頃の面影を残しつつ、成長した〈ネオスペシーシアン〉たちが総勢五体、先輩のフィールドに並ぶ。どうやら、〈コクーン〉が幼体、〈ネオスペシーシアン〉が成体ということらしい。
だが、五体のモンスターを並べておいてどのモンスターもレベルもステータスも軒並み低い。「何かあるな」と思っていた矢先、十代先輩が動いた。
「魔法カード〈スペーシア・ギフト〉を発動!俺のフィールドに存在する〈ネオスペシーシアン〉一種類につき一枚ドローする。よって、5枚ドローだ!」
「ご、5枚!?」
そんな馬鹿な!と叫びたくなるのをグッと堪える。ただでさえ、大量に展開しておきながらの大量ドロー。果たして、これが本当に1ターン目で行われることなのだろうか?と頭を抱える。
「〈エア・ハミングバード〉の効果発動!相手の手札一枚につき、ライフを500回復する!あんたの手札は5枚!ライフ2500ごっそり戴くぜ!」
「うわっ!そんなっ」
驚くのもつかの間、私の手札からハイビスカスみたいな花が咲き、赤い鳥人がその鋭いくちばしで蜜を吸っていく。なんかシュールだ。
[十代]ライフ4000→6500
「さらに手札を一枚捨てて、〈アクア・ドルフィン〉の効果発動!相手の手札を確認し、その中からモンスターを一体選ぶ。そいつより高い攻撃力を持つモンスターが俺の場にいれば、そいつを破壊して500ポイントのダメージを与える!」
「ピーピングにハンデス、効果ダメージとはまた贅沢な……」
チラリと視線を下へと落とし、表情を歪める。理由は明白。今の私のデッキは下級モンスターメインの『プチリュウ』デッキ。先輩のフィールドで攻撃力が最も高い〈グラン・モール〉の900を下回るモンスターはーー
晒し出された私の手札をしばし眺めたのち、ニヤリと口角を上げる先輩。
「じゃあ、〈プチリュウ〉を破壊させてもらうぜ!」
「……う、うぅ」
ーーいましたね。
アクア・ドルフィンが超音波を発し、私の手札がガラスが砕けるような音を立て砕け散る。もっともただの演出だが、マイフェイバリットを破壊された精神的ダメージは大きい。
「手札コストで捨てた〈E・HERO シャドーミスト〉の効果でデッキから〈E・HERO ネオス〉をサーチ、〈グラン・モール〉と〈グロー・モス〉を生贄にして召喚する!来い、ネオス!」
〈E・HERO ネオス〉☆7 ATK2500
1ターン目ながら〈ブラック・マジシャン〉と同じ攻撃力のモンスターを軽々と召喚してみせる先輩はやっぱり強い。
「さらに!フィールドのネオスとフレア・スカラベをデッキに戻してコンタクト融合!炎の戦士!〈E・HERO フレア・ネオス〉!」
「コンタクト!?」
目を大きく見開き、見つめる先では銀河を彷彿とさせる光の渦があった。ネオスとフレア・スカラベが飛び込んで行く。光が溢れ、視界を白く染め上げる。そして、フィールドにはフレア・スカラベの力を引き継ぎ、炎の力を得たネオスの姿。
「す、凄い……」
私を見定めるように悠然とした態度で見据えてくるフレア・ネオスを見て激しく身震いする。しかし、それは恐怖からくるものではない。歓喜。今まで戦った相手より、はるかに強いと感じ、どこかそれを楽しんでいるのかもしれない。
佇むフレア・ネオスの奥、先輩と目が合うとニッと口角を上げ、楽しそうに笑った。
「華蓮。あんた、今凄え楽しそうな顔してるぜ!次、どんな風に返しやろうか……ってさ」
「……そうですね。諦めてはません。だって、私はまだドローすらしてないんですから。こんな序盤からサレンダーなんて勿体無いですから」
そう言うと「確かに」と向こうも傾いた。
「フレア・ネオスはフィールドの魔法・罠一枚につき攻撃力が400上がる。そして、エンドフェイズにデッキに戻っちまう効果があるが〈ネオスペース〉がある限り、その効果は発動しなくてもよくなる。さらに〈ネオス〉と〈ネオス〉融合体の攻撃力を500アップさせる。俺はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
〈E・HERO フレア・ネオス〉☆7
ATK/2500→3700→4200
先輩の手札とフィールドにあるカードの合計は11なのに対して、私は4枚。
いまだ1ターン目だというのに、圧倒的なハンド、ボード・アドバンテージ。周りからは「あんまりだ……」と嘆く声も聞こえてくる。けど、今の心境に《諦め》とかそんな感情は一切ない。あるのは、ただ一つ
「私のターン……、ドロー!」
ーーこの盤面をどうひっくり返すか。
後書き
十代、驚異の9枚ドロー(通常ドローも含むと10枚です)。強欲施しとか、目じゃないです(笑)
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