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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#32 船上の戦い


 妖獣アリエッタとの一戦。

 それは、暫くの間は、野生のよりも遥かに強いモンスター。そして何よりも数の暴力もあり、多少なりとも劣勢に立たされてはいたのだが、動きも慣れ 徐々に自力で勝るこちらが魔物を圧倒していった。

「魔人剣!」

 剣を振り、ガイがアリエッタまで続く最後のモンスターを切り飛ばした。
 これで階段にいるのはアリエッタのみである。

「ガイ! 先に行きなさい!!」

 ジェイドが、勝機と見て叫んだ。

「おう!!」

 ガイも同様だった様で、持ち前の俊足で一気に階段を駆け上がる。アリエッタの力は確かに凄まじいモノがある。人間には決して懐く事が無いモンスターを手足の様に操る所もそうだ。……弱点があるとすれば、身体能力の面だろう。
 だから、ガイが素早く動けば捕らえられない、とふんでいたのだが。

「行かせないっ!!」

 アリエッタは、その小さな身体の何処にそれだけの力があるのだろうか? と思える程の俊敏さで ガイの行く手を阻んだ。モンスターがいなくても、彼女自身も強いのだ。

「聖なる槍よ! 敵を封じよ!」

 それを見たアルは、両の手を翳し、詠唱を始めた。
 
 アリエッタの頭上に3本の光が形を成した。完全に具現化されたのは、《光の槍》

「ホーリー・ロック!」

 アリエッタを取り囲む様に降り注いだ3本の槍が、彼女の行動範囲を奪った。突然の槍に、彼女自身も驚きを隠せられなかった様だ。


「きゃああ!!」

 思わず尻餅をついてしまっていた。

「根暗ッタ!! さっきのお返しよ!!」

 そこに、アニスが一撃を加えた。
 内側からの脱出は出来ないが、外からの攻撃は伝わる。効果時間は短いが無傷で攻撃をする事が出来る非常に優秀な束縛系譜術。

 連続攻撃だったから、防ぐ事も出来なかったアリエッタはまともに直撃。


「きゃああああああ!!」


 光の槍の結界の中で、アリエッタは気を失い、倒れた。
 アルが使用した光の槍は、効力を失った様で、完全に消滅した。

 そして、倒れているアリエッタに近づいたジェイドは、倒れたアリエッタに槍を突き立てていた。

「…ジェイド!」
「待ってください!」

 アルが、ジェイドの行動を止めようと、槍を掴んで、イオンが叫び声をあげた。
 確かに、命を狙われた。――……魔物だとは言え、彼女にとっては親であるライガ・クイーンを手にかけた事実もあった。……完全に殺す気で攻撃をしてきた。

 それでも、幼気な少女の身体を 槍で貫くなど、見たくなかったんだ。
 それを見たジェイドは 腕から取り出した槍を、再び腕の中に仕舞う。

「あなた達ならそう言うと思ってましたよ」

 全く文句を言わ無かった所を視ると、どうやら、最初からアリエッタの身体に槍を突き立てるつもりは無かった様だ。
 随分とブラックなジョークだが……一先ず安心した様で、アルもイオンもほっと一息をついていた。

















~????????~




 アリエッタとの戦闘が終了した同時刻。

 椅子に座っている男、と言うより椅子で飛んでる男が、ルークを調べていた機械から取り出した。

「こいつの同調フォンスロットは開きましたよ。私は失礼します。この情報を早く解析したいのでね… フフフフ……」

 正直、文面では表現しにくい笑顔と笑い声だ。ただ、一言で表す事が出来る最も近い言葉は《醜》←「おだまりなさい!」

 ……ナレーションにツッコミを入れるのは不毛なので 空耳と言う事にしておきます。

 そして、そのまま男は椅子で飛び去っていった。

「ぐっ……、お前ら……、一体、何を………」

 ルークは、顔だけしか、顔の表面だけが動かせる状態でしかなかったのだが、視線だけは 残った男に向けた。

「……ふん 答える義務はないね」

 そう言うと、この男も椅子に座ったまま、立ち去っていった男同様に機械からデータを抜き取ったその時だ。
 

「……むッ!?」

 突然、背中に感じた殺気に気づき、反射的に振り返った。

 振り返った先には、ガイが一気に接近し剣を構えていたのだ。

「はあぁぁ!!」

 息つく暇もなく、一閃を入れるが、相手が予想以上に早く反応したためか、身体に直撃する事はなく、嘴の様な仮面を浮き飛ばしただけで終わった。だが、その衝撃でディスクを離してしまった為、相手のデータを奪う事に成功した。

「!! お前は……」

 ガイが弾き飛ばし、露になった男の顔を見て驚いていた。

 見た事がある(・・・・・・)――顔だったから。


「「ガイ!!」」

 他のメンバーが一気に詰め寄り、場に雪崩込んできた。それを見た男は急いで顔を手で覆う。

「クソ…ヤツ(・・)との接触は禁じられている!」

 そう呟くと、素早く身を翻し、逃げ去っていく。ガイの攻撃、それも背後からの攻撃を躱したのも頷ける程の俊敏さで。

「あっ 待て!!」

 ガイは追いかけようとするが、もうこの部屋から出ていて 正確な逃走経路が判らない。つまり、追いかけるのは困難だった。

「今はルークの方だ! ガイ!!」

 傍まで来ていたアルが叫び、ガイを止めた。
 相手の力が未知数である以上、これ以上バラバラになるのは、好ましくないからだ。

「そうだった! ルーク!? 大丈夫か!」

 ガイは、引き返すと 寝かされていたルークを起こした。見た所外傷はなかったが、ルークの反応があまりよくない。

「あ…ああ… 大丈夫だ………」

 ルークは 少しダルそうにしていたが、腕を回し、身体の状態をルーク自身で確認をしていた。どうやら、問題はなさそうだ。

「ふう……、無事で良かったよ。……でも 一応……」

 何か(・・)をされたのは事実だったから、アルは念の為に、とルークの頭に手を当てた。

「なんだよ?」

 ルークが嫌そうにする。頭を撫でられている様で不快だった様だ。

「ん。すぐ終わるから我慢して。………快方の力を此処に。《ヒール》」

 アルが詠唱を終えると同時に、ルークの頭上から鮮やかな緑色の光が降り注ぐ。
 

「あ…………、治癒術、か………」

 ルークは、何をされているのか判った為 黙って言われるままにしていた。
 数秒間、光に包まれたルーク。そして、次第にその光が消失していき……。

「よし……、ルーク、気分はどう?」
 
 完全に光が消えた。譜術による処置を終えた様だ。だから、アルはルークに聞いていた。

「あっ…ああ、大丈夫だ」

 ルークは少し照れくさかったのか、返答の歯切れが悪かった。
 だけど、それはいつもどおりの反応だから、本当に大丈夫だと言う事だ。

「はぁ………、とりあえず良かったよ……」

 アルは、ほっと肩をなでおろしていた そこに、アニスとティアが遅れて到着した。

「ルーク様~ 心配しました~!」
「ルーク! 大丈夫なの?」

 ティアやアニスが入ってきた所で、ルークは体を起こしながら、手をあげた。

「ああ なんとかな。………それにしても、なんだったんだ? あいつら…」

 実際に何をされたのかが判らない為、そう呟くしかなかった様だ。
 妙なもどかしさは覚えたルークだったが、一先ず身体に異常がない為 それ以上深く考える事はなかった。



 だが、この時強く反応したのは、ルークではなく ジェイドだった。


「こっ… これは!!」

 ルークが寝かされていた装置、その機械を見てジェイドが驚愕の表情をしていたのだ。

「………珍しいね? ジェイドがそんな表情を見せるなんてさ」

 比較的ジェイドの直ぐ傍にいたアルとガイが近づいて訳を訊こうとする。

「……旦那。これが何か知ってるのか?」

 アルに引き続き、ガイがジェイドに訊く。驚いた表情をした以上、何かを知っているのは間違いなさそうだった。だけど、ジェイドは表情こそ元に戻ったが、顔を俯かせていた。

「いえ… 確信が持てなければ… (いや…確信できたとしても…)」

 ジェイドは、まだ(・・)皆には 言えないようであり、言葉を濁すだけに留まった。
 勿論、それだけでは やはり気になるのは事実だ。

「……ところで 今のやつが残して言ったフォンディスクだ。何か手がかりになるかもしれない」

 ガイは、そう言ってジェイドに手渡す。

 この中身に、ジェイドの言う、確信(・・)があるかもしれないから。


「判りました。解析してみましょう」


 ジェイドは頷きながらそう答えた。




 その後、このコーラル城に、敵の姿は完全に無くなった。勿論、居着いていたモンスター達は少なからず健在だったが、六神将の様な者達はいない。……だから無事、監禁されていた整備士を救い出すことに成功した。

 全てを終えた一行は、コーラル城を後にして、カイツール軍港へ戻るのだった。





















~カイツール軍港~



 軍港では、助かった整備士とその部下達が、手を取り合い喜びあい、そして、襲撃の実行犯である六神将のアリエッタは捕縛された。

「……無茶をされましたな、イオン様。ルークもだ どれだけ心配したと思っておる」

 イオンやルークがカイツール軍港からいなくなってしまった事については、勿論ヴァンも知っていた。当然だろう、待機している様に命じたのに、何処にもいなかったからだ。

 ヴァンがイオンとルークに、静かにそう言う。簡単な説教といった感じだ。決して強く言っている訳ではないのだが、そこにはどこか迫力があった。貫禄と言うものだろう。

「すみません…ヴァン…」
「ご…ごめん… 師匠(せんせい)……」

 イオンもルークも、素直に非を認めて頭を下げた。
 傍若無人と言う言葉がよく似合うルークも、流石に師匠であるヴァンからの、お叱りを受けたら素直に謝るようだ。

 暫くは 厳しい表情を見せていたヴァンだったが、直ぐに表情を元に戻して、ルークの肩に手を乗せた。

「まぁ良い。……無事でよかった。さぁ…帰ろうか」

 ヴァンがそう言うと、ルークも安心した様で 直ぐに笑顔に戻っていた。

 そして、その後は襲撃等は特になく、連絡船へと乗りバチカルへと向かっていったのだった。












~連絡船キャツベルト~



 バチカルまでの船旅。
 ジェイドはまず、ガイから渡されたフォンディスクを解析していた。解析機に関してはこの船にも備わっていて、調べる事自体は難しくなかったのだが……、問題はそのフォンディスクの中身(・・)だった。

 全てを確認し、―――ジェイドは 全てを確信した。 


「やはり、そうでしたか。ルーク………貴方はいつか、私を殺したい程(・・・・・)、憎むかもしれませんね………」


 ジェイドは、そう静かに呟くと、解析機の電源を遮断。
 既に調べが終わったフォンディスクをケースに収め、懐に仕舞うと、仲間が待つ客室へと向かっていった。






 客室では、賑やかだった。その元はミュウである。
 どうやら、初めてみる海だった為、大はしゃぎをしていたのだ。

「ご主人様! 見てくださいですの! 回りは全部水だけですの! すごいですのっ!」

 ミュウは、感激のあまり ルークの周囲を飛び回る。そして、勿論 ルークのミュウに対する扱いは1つだ。

「んあ! うぜーな!! はしゃぐんじゃねえ!」

 と、一蹴するだけだった。
 あまりに感動していたミュウだったけど、流石に恫喝されてしまえば 静かになってしまう。

「うみゅう………」

 表情を落として、萎縮してしまっていた。

「あははは。ほら ミュウ」

 いつも通りの光景とは言え、泣きそうな顔をしているミュウは 少々可哀想だ。だから、アルはミュウの頭を撫でてあげた。

「みゅうみゅうっ♪」

 そうすると、くすぐったいのか気持ちいいのか、ミュウは すぐに笑顔に戻るのだ。

 そして……、それを 見ていたティアが思う。

「(…いいなぁ…)」

 可愛いのが大好きなティア。
 ミュウと遊んでいるアルを見て、羨ましかった様だった。


 そんな中、ジェイドが帰ってきたのだった。



「ジェイド、例のフォンディスクの中身は?」
「あ、そうだった。何か判った?」

 ガイとアルが、ジェイドにそう聞いた。
 間違いないのは、ルークと関係していると言う事、だろう。

「彼らは…… 同位体の研究をしているようです。そう、ローレライの音素(フォニム)振動数も記録されてましたね」

 ジェイドが説明を始めたのだけど、教養がよろしくない1名、ルークが盛大に声を上げる。

「だー! また わけわかんねぇーー」

 自分の事なのかもしれないのに、判らないのはいろんな意味で苦痛だろう。そんなルークを見て。

「ローレライはですね、第七音素(セブンスフォニム)の意識集合体、音素(フォニム)は一定以上集まると、自我を持つらしいんです」

 アニスが、気を利かせてルークに説明をした。
 うんうん、と頷きながら訊いていたアルだったが、疑問があり、アニスに訊く。

「えっと、でも…… その第七、《ローレライ》って、まだ仮説なんだよね? 確か 観測されてない…って書いてたような気がするんだけど………」

 アルがそう言うと、アニスは指を立てて説明をする。

「うん、そうだよ。まだ実際には観測されてないみたいです。後、音素(フォニム)振動数って言うのは…全ての物質が発しているんですけど、指紋みたいに同じものはないんです。っで同位体って言うのは音素(フォニム)振動数が全く同じ2つの固体のコト! でも、同位体は人為的に作らないと存在しません」

 アニスの……、アニス先生の説明を訊き アルにとってもまだまだうろ覚えだった部分が補填された為、理解をする事が出来た。

「はぁ……、成る程ーー。うん、勉強になったよアニス! ありがとう」

 笑顔で、アルはアニスに礼を言う。
 まさか、礼をいわれるとは思わなかったアニスは少々驚きながら。

「はうわ! そんなお礼を言われるほどのことじゃないよ~! でも、アルは知ってたんじゃないの?」
「いや、 その《同位体》って言う言葉は、よく知らなかったんだ、勉強になったよ」

 アルは理解出来た様子だ。問題はルークだ。
 
「では? 肝心のルーク様は理解できましたかねぇ~?」

 ジェイドが、別に言わなくてもいいのに、これまた皮肉を込めた様に訊くから。

「だーうっせえな!!」

 ルークが怒ってしまった。いや、ジェイドは確信犯だと思える。……楽しんでいる様に見えるから。

「ルーク、落ち着きなさい。 1一つ覚えられて良かったじゃない。」

 怒っているルークを見て、ティアが宥めるが 生憎とルークを宥める事が出来るのはただ1人の為。

「へん!」

 ルークは へそを曲げっぱなしだった。


「後、確か昔、研究されていた《フォミクリー》と言う技術なら、 同位体を作れるんですよね?」」

 ティアがそうジェイドに訊いた途端、イオンが少し驚くような表情をした。

「?」

 アルは、イオンの表情を偶然見て、少し気になったのだが、イオンは すぐ表情を元に戻したため、深く考えるのはやめた。

「フォミクリー… あれは 模造品。《レプリカ》を作る技術です。音素(フォニム)振動数は変わってしまいますから、 同位体はつくれませんよ」

 ティアの言葉をジェイドが否定した。
 同位体だの、ローレライだの、まだよく判ってない単語が沢山あるのに、またまた 新たな単語が出てきてしまったので。

「だーーー! また意味わかんねー!!」

 ルークは、頭を抑えながら唸っていた。本日2回目である。

「はぁ… こういうこと家庭教師に習わなかったの? 記憶障害は7年前からでしょう? アルは…ちょっと前なのよ?」

 ティアまでが、アルを引き出してまで、ルークにそう言う。
 ジェイドがここの所は多かったのだが、ティアにまでいわれてしまったから、アルがすかさず反応した。

「あのさ………? ここぞとばかりに、オレのこと、使うのやめてくれない? だって、なーんか…とばっちりがくるからさぁ………」

 そう、アルも必死にルークの事を宥めていたんだ。
 色々と放っておけない性格が災いしたのだ。……更に言えば、ガイに続きなだめ役と定着されてるのに、自分とルークを比べて、結果ルークを怒らせたら、アルが言っても ルークにとっては嫌味になってしまうから。

「あっ……、 いや…その………」

 ティアは、アルに指摘され、少し焦っていた。そこまで深く考えてなかった様だった。ただただ、アルの事は凄い、程度にしか考えてなかったから。

 そして、ルークは 面白くなさそうに顔をしかめると。

「……他に 覚える事が山ほどあったんだよ」

 そう呟いた。
 ルークからの返答は少し意外だった。今までは怒っていたのに。

「何? 覚えることって?」

 ティアがそう聞くと、ルークは答えた。想像していたよりも、重い内容を。


「言葉とか… 親の顔とか…。 ………いろいろさ」


 ルークの告白。
 それを訊いて、ティアは彼が患った記憶障害の重みを理解した様だ。

 だから、安易に聞いてしまった事に対して、ティアは。

「ごめんなさい…」

 ルークに向かって、頭を下げて謝罪した。

「はっ? どうしたんだよ!! 急に!」

 今度は、ルークが驚いていた様だ。謝られるとは考えてなかったみたいだから。

「私…… 貴方の記憶障害のこと… 軽く見ていたわ…」
「別に そんなこと…」

 ガイから、ティアも確かにきいていた筈だった。
 戻ってきた時のルークは 赤ん坊の様だった、と。……だけど、深く受け止めてなかったのだ。
 ルークも ティアの素直な謝罪には 返す言葉が見つけられないらしく、歯切れを悪くしていた。


 そして、その時だった。


「大変です!カイツール方面から!!正体不明の譜号反応が!!」


 連絡船に乗っていた、兵士が慌てて客室に入ってきたのだ。
 話を訊くにあたり、トラブルに見舞われた、と言う事は直ぐに理解出来た。


「はぁ……、乗り物に乗るとどうしてこう、トラブルが多発するんだろう……? 平穏に移動出来た乗り物、無いんだけど……」

 話を訊いたアルは、肩を落とし、少し愚痴を零した。
 これまでに、覚えている範囲ではあるが、乗った回数自体、は少ない。今の所100発100中で災難に見舞われている。

「はっはっはー。そうでしたね。タルタロスもそうでしたからねぇ」

 ジェイドは、アルの言う事が間違いない事が解って、なんでかは判らないけど、笑っていた。


「おいおい、気持ちはわからねえでもねえが、今は急いで様子を見る方が先だろ?」

 
 ジェイドが笑い、アルがジト目をしている所で、ガイがそう言う。
 正直に言えば、アルもジェイドも本気だった訳でもない。色々とげんなりするのは事実だけど、行動は直ぐに移した。


 そして、外の様子を見に、連絡船の甲板に出た一行。

 皆が甲板に到着したとほぼ同時に、何かが聞こえて来た。



「はぁーーっはっはっはっはっ!!」



 何か……、ではない。明らかに声。
 それも、高らかで、特徴的な笑い声が木霊していたのだ。波風や船が揺れる音、色んな音があるのにも関わらず、その声ははっきりと聞こえた。

「おお?」

 ルークは、反射的に空を見上げた。
 笑い声が空から聞こえた事、そして、太陽の光を遮って影が出来ていた事もあって見上げた様だ。

「……何あれ? 椅子が浮いてる?」

 アルも、この光景には困惑の色を隠す事が出来なかった。椅子が宙に浮いていて、更にそこに座っている男が、高らかに笑い声を上げている状況だから。

 ジェイドはと言うと、この場で一番表情に出ていた。露骨に嫌な顔、と言うより何処か呆れた様にため息をしていた。

「野蛮な猿共がお揃いですね~……」

 椅子に座ったまま、飛行を続けていたのだが徐々に降りてきた。

「お前はッ!?」

 ルークは見覚えがあるのか声を振り上げた。
 囚われていた時に、確かにルークは見ていた様だ。

「《お前》ではありません。……とくとお聞きなさい。 美しき我が名を……。 我こそは神託の盾(オラクル)六神将…… 薔薇のd「おやぁーーー 鼻垂れディストじゃないですか~」ッ!?」

 自己紹介をしようとしていた彼。……だけど、ジェイドが狙ってたかのように割って入った。
 当然ながら、《鼻垂れ》と称されたら誰であっても怒るだろう。

薔薇(バラ)()()! 薔薇(バラ)のディスト様です!!」

 怒り狂いながらそう叫ぶ椅子に座った男、改め 《ディスト》。

「死神ディストでしょうー?」

 アニスも、ジェイドに続いて言った。《鼻垂れ》に比べたら大分マシだと思えるのだが……《薔薇》と自分を称しているディストにとっては我慢ならない様だ。

「違います!!」

 だからまた怒る。
 第一印象は、ひょっとしたら ルークよりも沸点が低いだろう事。

「はぁ… なにあれ? 六神将の中で1番子供みたいだよ。 ……まだ、あのアリエッタの方が大人なんじゃない?」

 アルが呆れながら呟いていた。

「なーーーーんですって!!!!」

 そんな、アニスやジェイドと比べたら、圧倒的に小さい声、呟きだったのに、ディストには聞こえていたようだ。随分と地獄耳だ。

「ん……、なんで 訊こえたのかな?」

 アルは、大分疑問に思ってしまった。どうでも良いだと思えるのだけど。
 ガイは、苦笑いをしつつ首を振る。

「さぁな。 それで、アニスは知り合いなのか?」

 ガイがアニスに聞く。

「私は同じ神託の盾(オラクル)騎士団だから… でも 大佐は……」

 アニスは、視線をジェイドに向けるけれど、ジェイドは何も言わなず、ただただ首を横に振っていた。

「んっふっふっふ………。そこの陰険ジェイドはこの天才ディスト様のかつての友「何処のジェイドですか~? そんな物好きは?」ッ!!」

 またまた、ジェイドが火に油を注ぐ。……炎に油の入ったドラム缶を放り込む。

「ななな、なんですってーーー!!」

 そして怒る。いつ終わるかどうか判らない。延々と繰り返しだ。

「ほらほら! 怒るとまた鼻水が出ますよ?」

 ジェイドが更に続けてって……、ここでアルがとうとうツッコミを入れた。

「ジェイド、今 楽しんでない?」
「いやー そんなわけないじゃないですかー」

 そういってる間、ディストは自分の鼻に手をやっていた。どうやら、ジェイドの言葉に触発された様だ。

「キーーーーー!! 出ませんよ!!」

 一応反論が来たのだけど。

「反論が遅いよ……」

 アルは苦笑していた。そして ルークも若干表情が変わっていった。

「まー それはおいときまして……。 さあ! 大人しくフォンディスクをお渡しなさい!」

 延々と続きそうだったループなのだが、いい加減にしびれを切らせたのは、ディストの方だった様で、要件をジェイドに伝えた。

「これのことですかー?」

 ジェイドが、ディストの言う様に、何の躊躇いもなく取り出す。すると、それを狙っていたかの様に、普通の椅子じゃないのは、浮いている時点でわかるのだが、それ以上に動きがかなり俊敏だった。


「隙ありーーー!!」


 一瞬の間に、ジェイドとの間を詰めて急接近。


「ああ!!」
「「「!!!」」」


 動きはまさに疾風と言えるだろう。
 ジェイドが取り出したフォンデスクを、ディストは掠め盗っていたのだ。

「はぁーーーはっはっはー!!!」

 そして、ディストは 勝ち誇るように笑っていた。
 空にいる以上、手は出せないだろうと踏んでいた様だ。

「も、もうっ全く! ………んッ!」

 アルが手を翳し、指先で空中に図形を描く。

「はーーはっはっはっはっは! ってあらーーー!!」

 高笑いを続けていたディストだったのだが、突然周囲に沸き起こった風。ディストを取り囲む風が、その手から、フォンディスクを風が奪い取り、まるで フォンディスク自体が生きているかのような動きをしながら、アルの手の中に戻ってきた。

「もう。ジェイド… いくらなんでも油断しすぎだよ? これ、大事な物じゃないの?」

 アルは、そう呆れながらジェイドに言った。
 だけど、ジェイドは なんとも思ってない様子だ。と言うよりワザとの様だ。

「やれやれ… 貴方のせいで嫌がらせが減ったじゃないですか… もう返してしまってよかったんですよ?」
「へ?」

 ジェイドの言葉を聞いてアルは少々驚きいていた時。

「きーさーまー! よくも!! っていうか! どうやったんですか!!」

 ディストが叫ぶ。自分が先に盗ったのに、盗り返されたら、怒ってしまう様だ。

「あれ…? でも、天才だったらこのくらい判るんじゃないんですか?」
「なっ!!! キーーーー!!!」

 今回は、アルも皮肉を込めて、別に意識をしている訳じゃないんだけど、自然に出てしまった様だ。

「アル……、そう言ってたら、貴方も大佐と変わらないわよ?」

 話を聞いていたティアが、ちょっと呆れて言ってた。

「っ……。う~~…… 感染っちゃったかなぁ? ジェイドがずっとしてたから………」

 アルは自身を改め様としている間、ジェイドは、手で口を押さえながら、必死に堪えている様子を見せながら(それも、ワザと?) 笑っていた。


「むきーーーー!! 貴様らぁぁ 私を小馬鹿にして!! ウルトラゴージャスな技を喰らって後悔しなさい! いでよ!! カイザーディストアーーーール!!」


 ずっと自分自身が 馬鹿にされていた事自体は判っていた様子だった様で痺れを切らせて叫んでいた。
 
 すると、頭上。ディストよりも遥か上から何かが降ってきた。



「いけない!! 皆下がりなさい!!」

 笑っていたジェイドだったのだが、瞬時に変わり、叫んだ。
 その瞬間、甲板に穴を開ける勢いで、何か(・・)。……所謂ロボットが降って来た。

「何だ? こいつ…」

 ルークが見ていると そのロボットは徐々に動き出し、 襲い掛かってきたのだ。


「この!! やってやらァ!」

 ルークはすぐさま剣を持ち直し、突っ込む。

「てやああ!!」

 ガイもルークに続いて剣を振るう。だが…。

 凄まじい衝撃音が響いたかと思えば、次の瞬間には、2人の剣は はじき返されてしまったのだ。

「くっ… 硬いぞ! コイツ!!」

 当然相手は生身ではないのだ。金属で覆われた身体は、剣の刃は通らない。

 だからこそ、アル・ティア・アニスの3人は頷き合い、譜術を発動させた。

「ナイトメア!」
「ネガティブゲイト!」
「シャドウペイン!」

 其々が発動させるのは、第一音素。闇の属性の譜術を放ったのだが、ロボットの勢いは止まらない。

「何も、効かないですの!!」

 ミュウが不安そうにそう言っていた。
 それを聞いたディストは、どうやら、先程の溜飲が下がったのだろうか、或いは今の気分が最高なのだからか。

「ひっひっひっひ…」

 今度は、高らかではないが、確かに笑っていた。高い位置から見下ろしているのだが、はっきりと見えたし、訊こえた。

「っーー。唯の馬鹿じゃなかったんだね……」

 そうアルが呟く。剣も通じず、譜術を返されている。今まで戦ってきた中でも、弱点がまだ見えない厄介な相手だから。

 ディストが、その呟き、愚痴、それに強く反応した様だ。

「だぁれが! 馬鹿ですか!! この私に向かってええ!!」

 だから、反論をしてきたのだ。

「やっぱり、地獄耳だよ………」

 今戦ってる為、色々と騒がしいのにも関わらず、僅かな声量が聞こえた。
 だから、ディストの聴力も驚嘆に値する、と言えるだろう。

 そして、ディストが繰り出した相手も、十分強力で驚嘆だ。


「っくっそ! こいつ!!」


 攻撃を行っても弾かれてしまうのだ。相手にダメージを与えているかどうかがまるで判らない。

 ルークの渾身の一撃が容易く弾かれ、そして隙が出来たルークに向かって、その巨大な機械の腕がルークの身体に直撃した。

「ぐあっ!!」

 ルークは、防御する事も出来ず、吹き飛び倒れてしまった。

「ルーク!! くっ!!」

 ガイが向かおうとしたが、巨体の割に速度も早く、すぐに邪魔されてしまう。

「ルーク! 大丈夫か!? ヒール…」

 ガイに気を取られている隙に、アルが倒れているルークに駆け寄って、治癒術を施した。致命傷ではなかった様で、ルークも直ぐに立ち上がる。

「ああ、大丈夫だ! クソ… どーすんだよ! あんなモン!!」

 ルークが、どうにもならない、と叫んでいた。



 その時だ。ジェイドは何かを思いついたのか、笑みを浮かべていた。

「なら これならどうですか? 荒れ狂う流れよ! スプラッシュ!」

 譜術を発動させた。その瞬間、あのロボットの頭上より、凄まじい水撃が降り注いだのだ。


「ギッ! ガガ…ガ…」


 今回の戦いで、初めてロボットの動きが鈍ったのが判った。
 そして、何より 生き物じゃないのだが、うめき声に似た音も聞こえたのだ。

「成る程ね…」
「機械は水に弱い…っということですか?」

 強靭な金属で覆われているが、中身は機械だ。……機械で出来ている以上は水とは相性が悪いのだろう。
 ティアやアルも、弱点が発覚したことで、余裕を取り戻したようだ。


「おのれ…よくも!!」


 ディストがわなわな震えながら見ていた。
 ディストは、直接戦う人じゃないようなので何も出来ない。全てをロボットに託す以外は出来ない様で、何もしてこなかった。

「よし……、なら、水よりもっとキツイのをするよ! さっきまでのお返しに!」

 アルは、そう言うと指先で図形を書き上げた。

「皆! ちょっと、大きめの発動させるから、濡れちゃったらゴメン! ……荒れよ! 暴風! 叫べ海よ! 集いて、敵を打ち払え! シーイングオーシャン!」


 両手を掲げると、鮮やかな青い光がアルの両手に宿り、打ち放たれた。
 ディストのいる位置よりも遥かに高く伸び上がると、曲線を描きながら地平線へと消えて行く。

「一体何がしたいというのですか!? ……ん?」

 アルの攻撃が、完全に逸れた、と勘違いしたディスト。
 だが……雲1つない空の筈なのに、影が出てきたことに気付いた。だから、後ろを見てみると。


「なああ!! ぎゃわあああ!!」


 急接近してきたのは、空を覆うばかりに広がっている大波だ。船の両サイドから波が押し寄せ!それは海面を離れ ロボットを挟み込んだのだ。流石に船を飲み込んでしまったら、自分達が危ないから。



「っぷあ!! って、あぶねーな!! アル! 無茶するなよ」

 ガイがアルに向かって言った。

「ごめんごめん! でも、効果は覿面だから!」

 アルは、謝りつつも あのロボットを指さした。
 大波に挟み込まれたロボットは先程の水、スプラッシュの一撃の量よりも遥かに多い水、海水が滴り落ちていた。



「ガ…ッギギギギ! プスッ… プス………」



 動きが更に鈍くなっている様だ。
 そして、ショートしたようにバチバチっと接合部等から火花を散らせていた。

「海水…。なるほど、ただの水よりも効果がありそうですね」
「……流石ね」

 アルの意図がわかったジェイドとティアがそう言っていた。

「こんおーー!! ぬれちゃったじゃありませんか!!」

 大波を直撃したのは、ロボットだけじゃなく、ディストもだったのだが、撃墜出来た訳でもなく、まだ浮いていた。機械で出来ていると思える椅子なのだが……、ある意味あの椅子が一番の強度だと思える。

「ほらほら! そう興奮すると鼻水が出てますよ?」
「でてませんよ!!!」

 今度は速攻で言い返すディストだったのだが、アルが何かに気づいて指摘。

「いや……、今度は本当に出てるよ? 濡れたからかな? すっごく垂れてる」

 そう言う。遠目でも判る程……大きな雫が出ていたから。非常に汚い。


「っっ!!!こここここここのおおおおおおおお!!」


 ディストは完全にきれてしまった様だ。
 と言っても、彼の攻撃手段はロボットだけだから、何も出来ない。ただただ、煩くなるだけだ。


「はっはは~。貴方とは気が合いますねぇ… アル?」

 ジェイドは楽しそうだった。

「別に、オレはほんとのコトいっただけだけど……」

 アルは、そう返し、他の皆も苦笑いしていた。


 そこに騒ぎを聞きつけたヴァンが出てきた。

「ディスト! お前まで アッシュの命で動いているのか!」
「ッ!? ふん……………」

 ディストは、今の今まで大声で叫んでたのにも関わらず、ヴァンが来たとたん無口なった。直属の上司であるヴァンの言葉だから、やはり相当堪える様だ。


「やむおえん…」


 そう呟くと…ヴァンは手を翳した。すると、天より雷撃が降り注ぎ、もう 海水を盛大に浴びていて動きが鈍くなってしまっているロボットはまともに受けてしまった様だ。

 全身が濡れ、内部にまで浸透した水に雷が伝い、内部より破壊し 吹き飛ばした。

「やったぜ!!」

 ルークは目の前で爆発した、敵を見て喜ぶ。




「わああああああああああああああ!!」


 大爆発したロボットの爆風に、ディストも吹き飛ばされ、今度こそ 椅子も壊れた様で、海へと墜落した。



「あいつ…」
「死んじゃったかな~?」
「いや… 殺して死ぬような男ではありませんよ。ゴキブリ並みの生命力ですから」
「それは 安心……… なのかな??」


 突然の騒ぎだったが、船も他の皆にも大きな被害なく、戦闘を終える事が出来たのだった。


 
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