Tales Of The Abyss 〜Another story〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
#31 コーラル城の戦い
~コーラル城~
コーラル城の場所に近づくにつれて、その城の大きさや荘厳さも見えてきた。だから、到着する前から判っていた。ここは確かに立派な城だ。王族の所有するだけの事はある、と思えるのだが……。
その城は、廃墟と化していて、宛ら幽霊屋敷のようだった。
昼間だと言うのに、全体的に暗い。ほんと、色んな意味で。
「みゅうぅぅ… なんだか怖そうなところですの………」
まさにミュウの言う通りだ。
今にもお化けがでそうな雰囲気なのだから。
「コーラル城はファブレ公爵の別荘だ、前の戦争で戦線が迫ってきて、放棄したらしい… ルーク お前まで来なくてもよかったのに……」
ガイがルークにそう呟いていた。ルークを狙っているアリエッタが待つ場所だから、その本人が来る事に危険を感じたようだ。
「いーだろ? 実際見てみれば何か思い出すかもしれないじゃんか!」
ルークの目的はそれだったのだ。記憶関係で苦しんでいるのは ルークも同じだったから。
「確かにそれはあるかも、だね。自分が居た場所、見つかった場所だったらやっぱり。………ん、そういう場所があったらいいんだけどな………」
アルは、ルークの姿を見て 自分と重ねた様だった。今まで手がかりの欠片さえ見つけられない状態だから。
「「アル……」」
「……………」
アルの呟きは、皆にも聞こえていた様だ。
アルは、周囲に悪い空気を流してしまったのを感じた様で慌てて話を変えた。
「あ…ははは… ごめんごめん、そんなつもりじゃないよ。オレはオレで、じっくりといく。だって、今は守らないといけない人達だっているんだし……、それに はじめて出来た仲間だっているからね」
アルは、そう言って笑顔を作った。
皆は、その笑顔を見て思う。
「やはり… アルは強いです……」
イオンは、アルの様に笑顔を作り、そして 改めてそう呟いていた。
皆も 口にこそ出さないが同じ気持ちだった様だ。
「……………」
そんな中 ルークは、ただただ黙っていた。だけど、視線はアルの方に向いていた。
「貴方も何か感じるものがあるんじゃない? ルーク」
ティアが、黙って見ていたいたルークにそう言った。ルークの表情は、いつものモノじゃなかったから。
「うるせえ……」
ルークは、決して認めようとせず、唯、そう言うだけだった。
そして、その後。
「さあ、皆さん そろそろ気を引き締めましょう、敵は何時現れるか分かりませんよ?」
ジェイドがそう言うと、皆気を引き締めた様だ。
「ああ…六神将って言う連中か、全員きてんのかな? と言うかどんな連中なんだよ?」
ルークが聞いた。今までは勢いで来ていたけれど、敵の事を 知らないと言う事を思い出した様だ。
「タルタロスであった人たちだね。身に纏う雰囲気が回りの人達と違ってた」
「ええ、そうです。そのタルタロスであったのは、《魔弾のリグレット》《妖獣のアリエッタ》そして《黒獅子ラルゴ》後は《烈風のシンク》と《死神ディスト》……」
ジェイドが六神将の名を挙げていくが、まだ、1人足りない。その最後の1人 アルはその男と相対している。
「……オレ達を襲ってきた奴は? 今回、姿は…見なかったけど?」
そうルークが聞くと、ジェイドは眼鏡をかけ直し、答える。
「あれが…《鮮血のアッシュ》でしょう」
「あの…赤い髪の男か………」
アルは実際にアッシュのことを見ていた。その顔立ちはどう見ても。
「アル……」
ジェイドがアルの方を向き… 言わないでくれと言う様に、人差し指を口元につけた。
「ん………」
アルにとって、詳しい事情は分からない。だけど、奥深い何かがあるのだろうと察して、それ以上は何も言わなかった。
そして一行は、コーラル城内に足を踏み入れる。
暫く歩いているだけで、動く石像やら、無数の蝙蝠やら、……なんだか判らないが、青白く、フワフワ浮いてる物体がいた。つまり、大歓迎をしてくれたのだ。――結構な数のモンスター達の数で。
「んー……、こいつらをペットにでもしてたの? ファブレ公爵は…。団体さんのお出ましだね……」
「んなわけないだろ! アル、馬鹿言ってないで手を動かしてくれよ!」
「ははは… そーだったね」
戦闘の前衛は、ルークとガイに任せて、アニス・ジェイド・アル・ティアは後衛、譜術主体の戦法に入った。確かに数では劣っているものの、まるで物ともしない。
「炸裂する力よ… エナジー・ブラスト!」
「ギャアアアア!!」
ジェイドの爆裂で、石像が粉々に吹き飛んだ。
「ッシャアアア!!!」
今度は、蝙蝠の群れが、頭上から襲いかかってくるが。
「させないわ! セヴァートフェイト!」
ティアが、瞬時に3本のナイフを 蝙蝠の群れの1匹に突き刺すと、その次の瞬間、光の柱が現れ、その光が蝙蝠の群れを飲み込んだ。
「さぁて! 私も負けてらんないよ~~! ネガティブゲイト!」
アニスも譜術を打ち放つ。暗黒の闇空間を作り出し、それでフワフワ浮いてる物体を捕らえた。そして、叫ぶまもなく、魔空間に包まれ消滅する。
「やっぱ 5人もいると心強いよ! さて、お前の相手はオレだ! 結晶せよ! 氷の礫 《アイス・ブロック》」
石像の回りに、氷の礫が現れ、瞬く間に石像に結集する。
完全に捉えられてしまった為、凍りつき動かなくなった。
数が多かったモンスター達だが、もう動いている者はいなかった。
「ふう…とりあえず 片付いたな…」
「ったく…うぜーな、くそ」
ルークも文句を言いながらも、必死に戦っていた。これじゃ思い出す所じゃないだろうな…
「あーもー 何にも思い出せねーし、敵はうぜーし」
「まーまー こんなに熱烈な歓迎を受けてたら、思い出すどころじゃないし、普通さ?」
苦笑しながらも、とりあえずなだめた。
「ははは、アルのルークをなだめるその役目、堂に入ってきた感じがあるな。」
ガイが笑いながらそう言っていた。長年連れ添ってきた間柄であるガイにも、アルとルークの感じを見て、そう思った様だ。
「ふふふ… いやぁ そうですね。ルークの抑え役はやっぱり貴方しかいません。」
ジェイドも、同じ気持ちだった様子。と言うより厄介を押し付ける意味でもありそうだ。ジェイドの表情は全てを物語っていると言える。
「何だよそれ……、はぁ…」
アルはため息を吐いていた。何だか今後ずっと疲れそうな未来が見えたから。
「はん! なんだよ! それ!」
ルークはいつも通りだ。アルの隣で、文句を わーわー 言っていた。
その時だった。
「まーまー! ルーク様~♡ 私も記憶を取り戻すお手伝いしますからぁ~元気出してください♡」
そう言いながら、アニスが飛びついたのだ。アニスはルークに向かって抱きつこうとしたのだが、誤ってガイに抱きついた。女性が近づいただけで、思わず距離をとってしまうガイ。今度は近づく、のレベルではなく、抱きつきだ。だから、いつも通り以上にビビッて終わりかと思ったら。
「うっ!! うわあああああ!! やっ やめろーー!」
ガイは、抱きつかれた瞬間、アニスを振り払うと同時に、頭を抱えた。それは、ビビる、と言った類ではなく、完全なる拒絶の反応だった。
「きゃあ! な…なぁに……?」
振り払われて、尻餅をついていたアニスも、突然の事に、何が起きたか一瞬分からなかったようだ。
「ガイ!」
ルークも流石に不安になり、ガイに声をかける。これまでに、女性が苦手と言う姿は何度も見てきているが、ルークにとっても、ここまでのガイの姿は初めてだったから。
「……あっ、オ、オレ………」
取り乱していたガイだったが、直ぐに正気を取り戻した様だ。
「尋常では有りませんね…… どうしたんですか?」
流石に唯の女性恐怖症と片付けるには間違っている。それ以上のモノだと感じられた。
「ほら、アニスも大丈夫?」
アルは、まだ尻餅をついていたアニスを、引っ張り起こした。
「ありがとー。 ガイ…… 大丈夫なのかな?」
アニスも振りい払われたことより、ガイの心配をしていた。
「何かあったのですか…? 唯の女性嫌いとは思えませんよ…?」
イオンも心配そうに見つめる。
「すまない…… 体が勝手に反応して……、何でかわからねえんだ。ガキの頃はこうじゃなかったし…ただ…すっぽり抜けてる記憶があるから…それが原因かもな……」
ガイは、そう言いながら俯いた。
「お前も……記憶障害だったのか?」
ルークが心配そうに聞く。それは初めて訊く事だったから。
「違う… と思う… 一瞬だけなんだ、抜けてるのは……」
「どうして…一瞬だとわかるの?」
ガイの言葉に、ティアが聞き直した。
そして、その後に語られたガイの答え、それは衝撃的なものだった。
「わかるさ… その記憶ってのは、オレの家族が殺された時の記憶だから……」
皆、ガイの告白に表情が固まっていた。
その悲しい事実に、ミュウも悲しそうに俯かせていた。
「ガイ…」
数少ない、と間違いなく言える友の悲しそうな顔を見て、ルークは近づいていった。
その致命的ともいえる一瞬の油断!
「ガアアアアア!!」
突如、頭上より、グリフィンが現れたのだ。
「う…うわあああ!!」
「ルーク!!」
「ご主人様!!」
グリフィンは、ルークの両肩を掴むとそのまま飛んでいく。
「くそ!! ルーク!」
アルは、咄嗟に詠唱に入るが、それはガイが止めた。
「駄目だ! ルークに当たる! やめろアル!」
「くそお!」
ガイは、すぐさまグリフィンを追い、階段を駆け上がっていったその時だ。
「………行かせない」
階段の上で待ち構えていたのは アリエッタだった。ガイの行く手を阻む様に乗っていたライガの獰猛な抓でガイを切さ裂こうとしたが、ガイは咄嗟に跳躍し、回避する。
「根暗ッタ!」
アニスは、トクナガ(ぬいぐるみ)を取り出して、自身の前。床の上に叩きつける様に下ろすと。
「な、何? これ!?」
突然の光、そして そのぬいぐるみが、突然巨大化したのだ。だから、アルは驚いてしまう。アニスが戦う所は初めて見たから。
「人形士……、だったのか、しかし一体どういう音機関なんだ?」
ガイも驚いていた。仕組みまでは知らなかった様だから。
そして アニスは、その巨大化したトクナガに乗った。ライガに乗っているアニスに対抗する様に。
「ルーク様と、ついでに人質もかえしなさい!!」
勢いのまま、アニスはアリエッタに飛び掛かるが。
「アニスっ! 危ない!!」
「ガアアアアアア!」
アニスの死角からモンスターが飛び出してきた。
完全に虚を突かれたアニス。トクナガが全ての攻撃を受けてくれたのだが、その勢いまでは殺せなかった様だ。
「きゃあああ!」
アニスは吹き飛ばされてしまった。
「こ、このっ!!」
アルは、咄嗟に《ファイヤーボール》を飛ばすが、獣の俊敏さか。軽く躱わされてしまった。
「くそっ、あいつら 普通のモンスターより、動きがすばやい……」
アリエッタの従えているモンスターは野性のモンスターよりも何枚も上手のようだ。
「いったーい! もー 酷いじゃない!! アリエッタ!!」
吹き飛ばされたアニスを見て、とりあえず安心するアル。吹き飛ばされてしまったから、心配だったのだが……罵倒するだけの元気はある様だ。
そんな中、当然ながらアリエッタも黙ってなかった。
「酷いのはアニスだもん! アリエッタのイオン様を盗っちゃった癖に!!」
アリエッタの叫びは当然、この場の全員。……一緒に来ているイオンにも聞こえた。
「どういうこと…?」
「い…いえ 違うんです! アリエッタ! 貴女を導師守護役から遠ざけたのは…そういう事ではなくて……」
イオンは悲しそうな顔で、アリエッタに説得を試みようとするが……、完全に訊いてくれる様子はなかった。
アルはアリエッタの言っていた意味が、完全に理解できていたようだった。
だが、その後アリエッタは更に信じられないことを口にしていた。
「その人たちも酷いんです… だってアリエッタのママを殺したもん!!」
心の底からの叫び。……悲痛な叫びが伝わってきた。
嘘を言っている様には見えなかった。
「ママ…? 一体何のこと……?」
アルは、理解できないどころではない。
今まで、戦ってきた。――沢山戦ってきた。
だけど、今までの戦いは全て守る為の戦いだった。……確かに 敵兵士達も手にかけてしまった事もあった。だけど、誰かの母親を殺した、事実は全く身に覚えがなかった。
その疑問に答えてくれたのは、本人だった。
「ママはお家を燃やされて… チーグルの森に住み着いたの……」
《チーグルの森》《森を燃やされた》
それらのキーワードが、合わさっていき ある形が生まれた。
「みゅっ!!」
ミュウは気付いたようだ。
そう、アリエッタの母親とは、人間ではない。
「ママは子供達を…アリエッタの弟と妹を守ろうとしてただけなのに!!」
あの時の戦いもそうだった。
確かに、守ろうとしていた。一族を 家族を守ろうとしていたのは事実だった。間違った方法だと思うが、それは人間側の価値観なのだ。
「まさか…、母親って、ライガの… あの女王のことか!?」
「そんな………」
アルとティアは驚きを隠せられない。アリエッタはどう見ても人間なのだから。
だが、アリエッタの様子。……そして、魔物と心を通わせている姿を見てしまえば、疑う余地がない。
「彼女は……、ホド戦争で両親を失って…魔物に育てられたんです。その魔物が……ライガの……………」
イオンが、アリエッタの悲しい事実を教えてくれた。そして、手をかけた事実が間違いないと言う事も。
「そう、だった。あの時……女王には、……オレが、…とどめを………」
この時だった。アルは、罪悪感に苛まれてしまったのだ。
守る為に、でも あの時は、相手が魔物だったから、躊躇なんてしなかった。仲間の為に、と。……だけど、そのせいで、1人の女の子が……。
「アル! しっかりして!!」
ティアが檄を飛ばした。
「今は後悔してる時じゃないわ!」
そう言うと武器を構え直した。
「ママの仇!! 覚悟っっ!!」
アリエッタが、手を上げて合図をした途端、一斉にかなりの数の魔物たちが押し寄せてきた。
「やれやれ………」
ジェイドが腕から槍を出した。
アリエッタが、恨んでいると言う理由は判った。ヴァンの命令に逆らってまで行動をしている理由も。
「……恨まれるのには慣れてます!」
ジェイドは、槍を構える。そしてガイも剣を取り出して構えた。
「俺達も…ここで殺られる訳にはいかないんでな!」
アルは、ティアに言われて、俯かせていたのだが、ゆっくりと顔をあげた。
「……謝ったって、君は許してはくれないだろう。だけど…」
目を鋭くさせ、構える。
「何かを、……大切な何かを、守ろうとした気持ちはこっちも同じだっ!」
そして、戦いの火蓋が切って下ろされたのだった。
~コーラル城 最奥~
連れ去られたルークは、妙な機械に寝かされていた。身体を調べられている、と言う事は判るが、何故されているのかが判らない。
「なーるほど… 音素振動数までも同じとはね…。これは興味深い……」
ルークを調べている男。椅子に座っている男が呟いていた。
その声に、朧げだったルークは、目を覚ました。
「これは……完璧な存在ですよ」
男は、笑いながら、機械を操作する。ルークの身体を隅々迄調べようと。
「そんな事はどうでもいいよ。奴らがここに来るまでに情報を消さなきゃいけないんだ」
そして、男がもう1人現れた。目元が嘴の様なバンドをつけており、顔が分からない、緑髪の男だった。
「そーんなにこの情報が大事なら……、アッシュを止めればよかったんですよ」
それは、まるでピアノを弾くような手さばきで、素早く機械を操っていく。
「ふん…… あの馬鹿が勝手にやったんだ…ん? どうやら、こっちの馬鹿もお目覚めみたいだね」
男はルークが目を覚ましたことに気付いた様だった。
動けないルーク。……そして彼が攫われた理由。全てが謎に包まれている。
―――……何れ、語られる事になるだろう。
ページ上へ戻る