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真田十勇士

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巻ノ三十一 上田城の戦いその四

「それは」
「やはりそうですか」
「仮にも大名じゃ、ならばな」
「旗本を送ってはですか」
「会われぬということか」
「では」
「わしが行く」
 鳥居はその表情を強くさせて言った。
「それしかない」
「鳥居様ご自身がですね」
「そうじゃ、やはりな」
「では」
「すぐに用意をする」
 彼自ら行くそれをというのだ。
「そして真田殿に会うぞ」
「城に入りです」
 旗本の一人が怪訝な顔で言って来た。
「そこで毒や不意打ちで」
「するならしてもよ」 
 鳥居はその旗本の心配する声に笑って返した。
「その時はわしが倒れる前に真田殿を討つ」
「そうされますか」
「死なば諸共じゃ、そしてな」
「その後は、ですか」
「わしが戻らぬ時は頼んだぞ」
 戦の采配をというのだ。
「よいな」
「それだけのお覚悟で、ですか」
「城に入られますか」
「ははは、わしも武士じゃ」
 鳥居は周りの者達に笑って返した。
「常に死ぬことは頭の中に入れておる、だからな」
「城の中で討たれても」
「それでもですか」
「その時は真田家の信は地に落ち誰も信じなくなりな」
「それに我が家もですな」
「徳川家も」
「その時は羽柴家と和した後で全力でじゃ」
 まさに徳川家の力の全てを注ぎ込んでというのだ。
「真田家を滅ぼす」
「そうなりますか」
「鳥居様が討たれたならば」
「その時は」
「そうなる、まあ真田殿は知恵者、わかっておろう」
 自分を城の中で討ったその時はというのだ。
「だからそれはない」
「では、ですか」
「そのことは覚悟していても安心されていますか」
「左様ですか」
「そうじゃ、しかし何はともあれじゃ」
 あらためて言う鳥居だった。
「わしが行こう」
「そして真田殿と話をされる」
「そうされますか」
「そして降ってもらおう」
 こう言って実際にだった、鳥居は城に入る用意を手早く済ませてそのうえで上田城の大手門まで来た、その彼が何人か連れて来たのを見てだ。
 大手門を守る兵達もだ、驚いて櫓や壁の上から言った。
「何と、鳥居殿だぞ」
「敵の大将自ら来たぞ」
「自ら城に入りか」
「殿と話をするつもりか」
「すぐ殿にお知らせしよう」
「そうじゃな」 
 鳥居が来たことはすぐに昌幸に伝えられた、昌幸がその報を聞いた時に信之が問うた。
「父上、どうされますか」
「会うか会わぬかか」
「はい、どうされますか」
「会おう」
 昌幸は笑って嫡子に答えた。
「むしろ待っておったわ」
「では鳥居殿が来られることも」
「読んでおった」
 確かな笑みでの言葉だった。 
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