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『夢の中の現実』

作者:零那
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『夕食』



零那の作った御飯を頬張る父さん。
美味しい美味しいって言ってくれる。
空腹な筈やのにガッつくワケでも無く、丁寧に食べてくれる。

零那は、料理が好きなワケじゃ無いし特別上手なワケでも無い。
特別マズイ物も作らんけど、至って普通...。

此からは少しでも美味しく成るように勉強せなあかんな。
そんな気になった。
父さんに、心の底から、美味しいと思って貰える御飯を作りたいと思った。

組関係の争いがあって、組を辞めて、一時は三角公園周辺でホームレスだった父さん。
それでも何とか生きててくれた。
父さんに手を差し伸べてくれた誰かが居てくれた事、感謝し尽くせん。

お互いに、別々の場所で、あらゆる困難や憎しみ、屈辱を抱きながらも闘い続けてきた...。
其の中で、また逢えた。
此の奇跡...
生きてて良かった...

お互いに言えぬ事も含め、いろんな想いが溢れてしまった。
泣きながら、笑いながら、おかしな夕食の時間が終わった。

父さんは、食後に晩酌をするタイプらしい。
食器を下げてから魚を捌いた。
お刺身を出した。
好みのお酒も何種類か買ったので、選んで貰って出した。

ふと、父さんが涙声で呟く...。

『こんな幸せな1日、何十年ぶりやろなぁ...』

父さんの背中から聞こえた其の一言に、零那は一生分の幸せを与えて貰えた気がする。

『零那は、こんな幸せな1日、産まれて初めてかもしれん』

『零那、これからは父さんと一緒に居れるんやろ?零那は...父さんを許してくれるんか?』

零那は父さんの横に座る。

『許すも何も、飛び出た事、後悔してる。ただただ逢いたかった...其の想いしか無かった...父さんは何ひとつ悪く無いやんか。逆に零那の事が邪魔とか無い?』

『なんでやねん...邪魔とか思うワケ無いやろ?可愛い可愛い娘が大きぃなって、今こうして此処に居って...其れを今迄どれだけ夢見て望んだ事か!!』

『...嬉しいっ♪へへっ(笑)良かった♪想いは同じやったんや...せやから奇跡が起きたんやねっ♪』

『せやな...♪』

父さんの優しいクシャッとした笑みが零れた。
幸せの絶頂ってこんな感じ?

『零那、コップ持って来い』
『はい』
『奇跡に乾杯や♪』
『「乾杯♪」』

なんかチョット急に照れくさくなってきた。

父さんの好むお酒は辛口で大人の味。
普段、お酒飲む時はビールかカクテルが多い零那にはチョット無理だった。
父さんが注いでくれた1杯は飲み干して、後はビール1本付き合った。

『零那はマダ酒の方は子供なんやなぁ♪』

父さんが笑いながら言う。

すごく久し振りに飲む大好きなお酒。
少し酔ってる気がした。

本当に些細な事ひとつひとつが特別な事。
当たり前の様な事は、決して当たり前じゃ無い事。
すべてが愛しく感じる。
すべてが幸せに感じる。


 
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