ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった
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感謝と謝罪
俺は気づけばキノガッサを抱きしめていた。
プニプニとした不思議な感触のキノガッサを撫でながらキズぐすりを吹きかける。出し惜しみなしのまんたんのくすりだ。しばらくそうしていると徐々に傷口がふさがり、荒かった呼吸も安定してきた。
そんなところで、
「ドラァ」
「ん? どうした姉御……」
般若がそこにいた。いや間違えた。ボスゴドラだった。
正確にはボスゴドラが般若の形相だった。元が般若の面っぽいけども。
そんなボスゴドラの怒気で押しつぶされそうになりながら、俺も察する。
何やってるんだか。俺は肝心なことを言っていなかった。
「キノガッサ」
あのきあいパンチは圧巻だった。全てを破壊するその威力も。それになにより思いの強さも。レストランのバトルの時に使ったきあいパンチとは比較にならない強さだったことからも、あのきあいパンチにどれほどの物をかけていたのかがわかる。
俺の……ユウキの為を思って打ったきあいパンチ。本当に頑張ってくれたのだ。キノガッサは。
「ありがとう」
感謝。
人間感謝は最も大事だ。生への感謝。食べ物への感謝。任天堂への感謝。ゲームフリークへの感謝。1日1万回感謝の正拳突き。
仲間に感謝するんだ。ハッキリ口に出さなきゃな。
「ガッサ」
俺の満足したかのように呟いて、キノガッサはモンスターボールの中に戻っていった。
「あとは任せてくれ」
キノガッサとサマヨールのおかげで現状打破出来た。本当によくやってくれた。一件落着だ。
脱出に救出に、危機的状況だったが解決出来たのは間違いなく二人のおかげだ。幽霊はサマヨールが倒してくれたし、悪の組織のボス・ソルロック星人もキノガッサがぶっ飛ばしてくれた。
そう。戦い《《は》》終わったのだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「えーっと……」
「…………」
「…………」
俺の戦いはまだまだこれからだった。
と、このように俺としたことが打ち切り漫画の決まり文句さえ満足に言えない状況下にある。END出来ないクソ漫画ってそれ拷問じゃないですか。
この状態を例えるとしたらアレだ。奥さんのいる男性と連絡してロマンスが有り余っちゃった人の問題発覚前に撮ってた映像を見てしまったような気まずさだ。間違いなくお茶の間がその話題で一色になる感じの。
「…………」
まあ別に俺は不倫なんてしていないがな。ああ。全く。
ただ、なんだ。
この緑色のバンダナを巻いて、黒いスパッツという動きやすそうな格好をしているお方は何故こんなにも此方を注視しているのだろうか。凝視なんてもんじゃない。まるで俺の念を凝ているかのようなガン見っぷりだ。
おかしいな。俺の記憶では右と左の茶髪が下斜め方向にそれぞれどーんしているはずなんだが、こっちを見ているその人の髪の毛は逆立って見えるんですがね。俺の背中で眠っている幽霊もそうだったけど、溢れてますよ。ええ。気が。幽霊のは黒くて、こっちの人は真っ赤なオーラが見えますね。それが見えるってもしかして俺は能力者にでもなっちまったんですかね。覚醒しちゃうんですか。昨今の若者向けノベルの主人公の様にピンチで覚醒ですか。そうですか。あ、覚醒しちゃっても問題ないか。この世界にはエスパータイプなんてのもいるし、能力者っぽいエスパー使いだっていっぱいいるわけだし。
うん。問題ないね。
「…………」ピキピキ
「(無言で拳をならすのはナンデデスカ)」
問題しかねええええよおおおおおおお!!!
現実逃避してる暇なんてないぞ、おい。
ユウキさんよぉ、何も言わずに失踪してたんですよねぇ?
そりゃアンタ……怒るでしょうて。
うちのポケモン達はユウキと俺の性格・言動エトセトラは何から何まで一緒だったって言ってますけど、ゲームクリア後に貴方が何をしてたかなんて俺は知りませんよ? だから責任の取りようがありませんよ? 俺がエメラルドをプレイした結果が反映されて生まれたのがユウキであっても、その後に関しては俺は関与してませんからね?
まあ、俺がバトルフロンティアのフロンティアブレーンにならないかって言われたら二つ返事で了承しちゃうだろうし? 何か重要なことがあったのか知らないけど周りに連絡し忘れるとかって凄く俺っぽいけどさ。
あれ。……ユウキって俺っぽくね。
考えてみれば、ユウキに憑依的な何かをしてると思ってたけどサマヨール達は以前のユウキと何ら変わりないって言うし、記憶はないけど身体が勝手に反応することもあるし、バトルの指示とかだってスムーズにいってるし……。
俺の性格諸々がゲームの『その後』にも影響してるってんなら俺が責任を取るのも間違いではないのか。
……ふむ。
いやまあどの道、後の展開をシミュレーションするとこの人をどうにかしないと実害をこうむるのは俺な訳で。例え『その後』のユウキがどう行動しようと反動が帰ってくるのは今の俺だ。それならばまずはこの場を切り抜けることのみを考えるべきか。
「やあ! 久しぶ」
り……とまずは考えなしに先制技していこうかと思ったら、
「ぅわの、どうしゅたんでしゅ?」
もんずと俺の両頬を片手で掴んできたその人。
「アンタ……」
「ふぁい」
「……覚悟は?」
「にゃんの?」
「……一発殴られる覚悟は?」
「…………」
「覚悟は?」
「出来てまふ」
「よろしい」
よろしくないです。
「よよしゅくないでしゅ」
そうだ! 話をしよう。
「はなしおしお」
あの……まずは手を離してくれないとろくに喋れないんですが。
「いくわよ」
ちょちょちょステイステイステイ。
大きく振りかぶらないで。サウスポーで殴るなんて吾郎がなくぞ。
「アゲハント、しびれごな」
「フォン!」
あ……アゲハント。
かわえぇ……。劣化ガーメイルだなんだ言われても可愛い。大丈夫、可愛いは正義。俺はガチ環境でも使い続ける。例えウルガモスが立ち塞がろうとも。
なんて興奮してる場合じゃない。絶賛攻撃され中なのにホウエン地方ポケモンだからってちょっと。
「……かわいい」
無理だわ。可愛いわ。アゲハント可愛いわ。あげかわ。
「しびれりゅ」
鱗粉が降りそそぐ。目一杯引っ張られてバチンと頬に添えられた手が離されても何も感じなかったことから、順調に麻痺に犯されているようだ。
「あの……今更ほっぺた離されてもしびりぇて口がうまきゅ動きゃせにゃい」
「離さないとアタシまで痺れちゃうでしょ」
ごもっとも。
「まって! はにゃせばわかりゅ!」
「何言ってるかわかりませーん」
「こんにょ! しびりぇさせたのはそっち……」
そしてそこまで言って。
アゲハントばかりを見ていた視線を戻して、
俺は冗談半分だった俺の気持ちを恥じた。
思わず、黙った。
「アタシだってたくさん……たーっくさん話したいことあるよ。聞かなきゃいけないこともあるよ」
そう言う彼女の目には涙が溜まっていた。
「今まで半年も何処行ってたのとか。誰にも告げずに出るほどの理由ってなんなのとか。
私はもちろん、センリさん、ミツルくん、リラ、ヒガナ、ルチアさん、アスナ、フヨウ、お父さん、ミクリさん、ツツジさん、ナギさん、トウキさん、フウ、ラン、マユミさん、プリムさん、カゲツさん、ゲンジさん、ダイゴさん、ヒースさん、アザミさん、ダツラさん、ウコンさん、ハギ老人、ツワブキさん、エニシダさん、コゴミとかテッセンさんとかアダンさんとかジンダイさんとか、ヤツなら大丈夫だって言ってた人も含めて……みんな心配させてどの面下げて私に会えるのとか。
背中の子はなんなのとか。決闘の申し込みが耐えなくて実家のポストが壊れたよとか。色んなポケモンが訪ねてきたよとか。新しいタイプが見つかったよとか。ひみつきちの仕掛けを見破って制覇した人が現れたよとか」
一言一言に重みがあった。
「だから、一発で済ませてあげるって言ってるの」
改めて思えば、……迷惑をかけすぎだ。
「だから」
うん。
「一発くらい殴らせなさいよ……」
一発。それだけで許すと。そう言っているのだ。
俺が自己中で、責任ある立場にも関わらずそれを投げた。どう見ても悪いのは俺だ。半年も音沙汰なかったんだ。交友関係のあった人に誰一人として連絡せず、心配させたのは全面的に俺が悪い。半年間連絡する暇もなかったなんてことはありえない。睡眠時間だろうが削ってでも連絡するのが筋ってものだ。しかし俺はそれをしなかった。何か連絡出来ない理由があったとか、もし仮にそうだったとしても。
謝罪をしよう。そう思った。
謝って許されることじゃない。でも一発殴られてそれで終わりじゃ俺の気が済まない。
悪いことをしたら謝る。基本的なことだけど、しっかり気持ちを伝えよう。口が痺れてようが態度で示そう。
だから俺は無言で頭を下げた。
これくらいじゃ気持ちは伝わらないかもしれない。土下座くらいした方がいいのかもしれない。だがその態度が自然だと思った。今から地面に頭をつけたら、嘘くさく見える。謝ろうと思って咄嗟に出た行動がそれなら気持ちはそれで伝わるはずだ。
「私も……謝らなくちゃいけない」
か細くて消えそうな声で、
「……本当はさ」
グッと襟首を捕まえられて、
「無事で……何事もなくて……、よかったって思ってる」
抱きしめられた。首から手を回されて、密着されて。麻痺して感覚なんてないが、熱い液体が首元に流れていることは感じられた。
俺もいつのまにか抱きしめていた。意識していないにも関わらず、手が勝手に動いて握りしめ返していた。俺が本当にこの世界の登場人物であるかのように、郷愁と、なんて言えばいいかわからない心の内側から湧き上がる感情とが俺を支配した。
俺は外でこの世界を楽しんでいた第三者だとか、そんなことは思わなかった。何故か俺はこの時確信したからだ。
俺はユウキで、ユウキは俺なのだと。
だから自然に言葉が続いた。
「ただいま。……ハルカ」
「おかえり。……ユウキ」
ああ。全くもって俺は油断していた。
大団円?ハッピーエンド?
そんなもん糞食らえだとばかりに、悪魔のトリガーは弾かれた。いやこの場合は幽霊のトリガーか。
「そんな、そんなの痺れちゃいますユウキさん♡ いきなり拘束プレイだなんて///」
俺の背中にいたはずの幽霊がどこにいったのか。
しびれごなを一緒に受けていたんじゃなかったのか。
そして、俺の腰元に回されている手はなんなのか。
もっと具体的には腰から聞こえる嬌声はなんなのか。
「そうか。うん」
「は、はなしぇばわかりゅ!」
くそう。こんな時に麻痺だなんて!
「きっと理由があって《《そんなこと》》になってるんだろうけどね。ユウキだし」
「わかってくりぇたか!」
「うん。でも殴る」
ハルカって、やっぱりこの人だわ。
アッパーカットを決められ空中を舞いながら俺はそう確信した。
後書き
主人公が色々言ってますが、大まかに解説すると。
・このポケモン世界は主人公がエメラルドをプレイした後の世界である。
・ユウキは現実世界で主人公がエメラルドをプレイしていた時の『ゲーム内の主人公』。
・ユウキの記憶は共有されていないが、主人公とユウキの性格は一緒。やることなすこと元のユウキと大差ないから違和感はなし。
・エメラルドストーリー終了後のユウキの行動は主人公の性格と一緒。
・つまり元のユウキも変態
結論はユウキ=主人公です。むしろこの設定正直いらないんじゃねとか思ってるんで流してもらって大丈夫だと思います。
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