水の国の王は転生者
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第十三話 オレのカトレア
……一ヶ月過ぎて、予定通りクローン心臓が完成。
早速、移植手術をする為、ラ・ヴァリエール公爵領へと向かうと、出迎えたのカリーヌ夫人だった。
「こんにちは、カリーヌ夫人。お待たせしました、ようやくカトレアを治す事ができます」
「事前にお話を聞いて、まさか……とは思っていましたが」
「……ところで、ヴァリエール公爵が居ないみたいですが」
「はい、その事ですが……」
カリーヌ夫人はラ・ヴァリエール公爵はマクシミリアンらが進める四輪作法を自身の領地で進める為の準備、長女 エレオノールは、来年トリステイン魔法学院に入学する為の準備でそれぞれ不在である事をマクシミリアンに告げた。
「二人とも夕方までには帰ってくると思いますので」
「分かりました、我々も準備がありまして、手術は明日の行う予定でした」
「我々……? で、ございますか?」
カリーヌ夫人が不思議そうに言う。
今回、マクシミリアンは、お供に護衛の魔法衛士ぐらいしか連れてきてなかった。
この時、カリーヌ夫人は屈強な魔法衛士たちがマクシミリアンの助手を務めると思っていた。
かつて、カリーヌ夫人は女である事を隠し、魔法衛士として活躍した事があって、『烈風カリン』の異名で恐れられた。
その事もあってカリーヌ夫人は魔法衛士という物をよく知っている。
(殿下の助手が務まるほど、専門的な知識を持った者が居るのだろうか?)
先代フィリップ3世の気風を受け継ぐ魔法衛士隊は、良く言えば勇猛果敢、悪く言えば脳筋……そんな、彼らにマクシミリアンの助手が務まるか心配だった。
自分の事を棚に上げているが、カリーヌ夫人も十分脳筋なのは……言わぬが花だろう
「これです、スキルニルですよ。スキルニルを使って助手をさせます」
「なるほど、スキルニルですか」
能力や知識など、あらゆる物を複製するスキルニルを取り出す。
これには、カリーヌ夫人も納得した。
☆ ☆ ☆
その後、マクシミリアンらは簡易手術室用にと空き部屋を借りる事にした。
ラ・ヴァリエール公爵家のメイドたちに天井を含めた室内を掃除してもらい、室内全面に新品のシーツを張って簡易手術室とした。
夕方になると、ラ・ヴァリエール公爵たちも帰ってきた。
夜、夕食を御馳走になっている時、挨拶がてらに明日の予定と手術の内容を解説した。
「言うまでも無い事ですが、この件がロマリア辺りに漏れるといろいろと面倒な事になりそうなので、他言無用でお願いします」
「分かりました。この件は決して誰にも……」
そう言って、ラ・ヴァリエール公爵は頷いた。
「本当は楽しく食事……と、言いたい所ですが、僕は明日に具えて早めに休ませてもらいます」
「分かりました。お休みなさいませ、殿下」
ラ・ヴァリエール公爵に続いて家人たちも次々と頭を下げた。
退室後、マクシミリアンはカトレアに人目会うべくカトレアの部屋へ向かった。
「カトレア、居るかい? 入るよ」
ノック後、入室するとカトレアは食事中だった。
「ああ、ごめん、食事中だったか」
「マクシミリアンさま。申し訳ございません、はしたない所を……」
「気にしなくて良いよ、ちょっと顔を見に来ただけだから」
カトレアはメイドにお願いして食事を下げさせようとしたが、マクシミリアンは『時間をかけないから』と、制した。
「カトレア、いよいよ明日は手術の日だけど気分はどう? 何か気になる事はないかな?」
「なにも。それに、どの様な結果になっても私は後悔しません」
11歳になって、少しだけ丸みを帯びた身体に成長したカトレア。
そして、精神的にも成長したのか、凛とした受け答えをした。
「そうか、分かった。カトレア、明日の手術、僕は必ず成功させるよ」
「マクシミリアンさま……」
マクシミリアンはくるりと踵を返し部屋を出た。
そして、宛がわれた寝室へ向かう途中、カトレアの事についてに思いを馳せた。
そう、カトレアはマクシミリアンが思っていた以上に、芯が強かったのだ。
(泣いているんじゃなかろうか、怯えているんじゃかなろうか……そうやって彼女の事を過小評価していたんだな、オレは)
だが、彼女は強かった。
泣くどころか、怯えるどころか、『後悔しない』……そう言ってカトレアはマクシミリアンに全てを委ねてくれた。
(必ず成功させるさ。もうね、カトレアじゃ無いとダメだ)
改めて、カトレアの事が好きなんだと再確認した。
☆ ☆ ☆
そして、運命の朝を迎えた。
マクシミリアンは起きるとすぐに顔を洗い、スキルニルを二つ使って手術の準備を命じ、本体はカトレアの状態を見る為に部屋を出た。
「おはようございます、マクシミリアン殿下」
部屋を出てしばらく廊下を歩いていると、エレオノールが挨拶をしてきた。
「ああ、おはようございます、ミス・エレオノール」
「よくお眠りになられたでしょうか?」
「ええ、おかげさまで、よく眠れましたよ。ところで、ミス・エレオノールはどちらへ?」
「お父様から殿下の様子を見てくるようにと……」
「なるほど。僕はこれからカトレアの様子を見に行くところです。途中まで一緒にどうでしょう?」
「はい……お供いたします」
そう言って、エレオノールはマクシミリアンの斜め後ろに移動した。
「ミス・エレオノール。後ろでなく隣なら、お互い喋りやすいのでは?」
「いえ、それは、その……不敬かと思いまして」
「む、そう……ですか、それなら仕方ないですね、分かりました」
先日のジョルジュとの一件を思い出し、ナイーブになっていた所をほじくり返された感じになり、少しだけ落ち込んだ。
その後、エレオノールを従えたような形で廊下を進むマクシミリアン。
「そういえば、ミス・エレオノール。眼鏡にしたんですね、良く似合ってますよ。デキる女……って感じです」
「あ、ありがとうございます」
エレオノールは眼鏡に手を当て照れながらも、嬉しそうに微笑んだ。
その後もいろいろと、お喋りしながらカトレアの部屋を目指した。
カトレアの部屋に到着した二人はノック後、入室した。
「おはよう、カトレア。いよいよ今日だね、緊張してるかい?」
「おはようございます、マクシミリアンさま。そうですね……特には」
「なるほど、分かったよ。それじゃ、これから手術前の検査を行うからベッドに寝てくれないかな」
「分かりました」
そう言ってカトレアは天蓋付きのベッドの横になった。
マクシミリアンはベッドの横で検査の準備を始めた。
ちなみにカトレアの飼っている動物たちは雑菌が付くといけないという事で、別のところに移してある。
「あの、マクシミリアン殿下。私にも何か手伝える事は有りませんか?
と、エレオノールが聞いてきた。
「そうですね。それじゃ、カトレアの胸をはだけるのを手伝ってあげてもらえませんでしょうか?」
一瞬、空気が凍った、が。
「わ、分かりました」
口元をヒクヒクさせながらもエレオノールは従った。
一方、カトレアは顔を真っ赤にしていた。
……その後、検査の大半を終え、次の検査の準備をしていると、魔法衛士が二人入ってきた。どうやら手術の準備が出来たようだった。
「それじゃ、行こうか、カトレア」
「……! はい!」
マクシミリアンは、エレオノールに会釈すると、カトレアをストレッチャーに移し、魔法衛士たちに引かせて部屋を出て行った。
☆ ☆ ☆
手術は午前中に始まり、日もとっぷりと落ちた頃に終わった。
……マクシミリアンは心臓移植をやり遂げたのだった。
マクシミリアンは宛がわれた部屋にて、極度の集中を強いた為に疲労した身体を休めていた。
(もう何もする気になれない)
窓の外には二つの月が煌々と輝いている。
マクシミリアンは椅子にだらしなく座り、だらだらと時間をつぶした。
(そろそろ寝ようか)
と、ベッドに入ろうかと席を立つと、ノックの後に魔法衛士は入ってきてカトレアが目覚めたと言って来た。
マクシミリアンは起きたカトレアの様子を見る為、重い身体を動かし部屋を出た。
カトレアの部屋に向かう途中で多くのメイドといった家人たちに深々と頭と下げられた。
ああいう性格のおかげなのか、メイドたちに慕われているようだった。
マクシミリアンは返事を返す少なかった為、適当に手を振って答えた。
さて、カトレアの部屋に到着すると部屋のドアの辺りに10人近い家人が中の様子を見守っていた。
部屋の中から、ラ・ヴァリエール公爵たちの声が漏れ聞こえた。
どうやら、目覚めたカトレアと手術成功を喜び合っているようだった。
(家族団らんを邪魔するのは気が引けるな)
と、クールに去るべく踵を返そうとしたら、カリーヌ夫人が部屋から出てきた、マクシミリアンが来たのが気配で分かったらしい
「殿下、お疲れ様です。カトレアが目を覚ましましたので、どうか会ってあげて下さい」
うっすらを目に涙を浮かべながらカリーヌ夫人はマクシミリアンを部屋に向かい入れた。
部屋の中には、カトレアの他にラ・ヴァリエール公爵とエレオノールそしてルイズが居た。
今年で3歳になるルイズは、マクシミリアンの事を覚えていたらしく、姿を見るとヒラヒラを手を振ってきた。
そして、マクシミリアンも手を振り返す。
……うおっほん! と、ラ・ヴァリエール公爵が咳払いする。
「殿下、この度は真にありがとうございました。我々は、すでにカトレアと話し合いましたから、後は殿下にお任せいたします。さ、みんな出よう」
そう言うと、マクシミリアンを残し部屋から出て行った
カトレアの方を見るとベッドの上でモジモジとしていた。
ちなみに手術痕はヒーリングで消えている為、激しい運動をしなければある程度、動いても大丈夫だ。
「……え~っと、カトレア、気分はどうだい?」
すると、カトレアはおもむろに胸に手を当て。
「マクシミリアンさまの心臓が動いてくれているお陰で、すごく気分が良いんです」
と、言った。
意図的かそれとも無意識か男心をくすぐるカトレアの言葉に思わず鳥肌が立った。
(キスしたい。唇を貪りたい)
湧き出るような欲望に身を引き裂かれそうになったが、何とか踏み止まった。
「はははっ、そういう言い方されると。嬉しくなっちゃうよ。そこの椅子、座ってもいいかな?」
「あ、はい、どうぞ」
マクシミリアンはベッドの横の椅子に腰掛けた。
椅子に座って、気付かれないように息を整える、が、ドクドクとマクシミリアンの心拍数は上がる一方だ。
「激しい運動はすぐには無理だけど、一週間ほど様子を見て少しづつ身体を慣らしていこう」
「分かりました。けど、一週間が待ちどうしいです。色々な所へ行って見たいわ」
「焦る事は無いよ、カトレアにはこれから新しい生活が始まるんだ」
「うふふ、そうですね……」
「……」
「……」
ふと、会話が止まった。
「なぁ、カトレア。隣、いいかな?」
「はい、どうぞ」
マクシミリアンはベッドに腰掛け、カトレアと肩が触れ合うほど接近した。
自然と、頬と頬とが触れ合う。カトレアの心臓の音がドクドクと聞こえる。
「マクシミリアンさまの心臓……ドクドクいってます」
「カトレアのも……ね。この分なら術後の検査も早く済みそうだ」
「もう! そういう事が聞きたいんじゃないんです!」
カトレアが拗ねてしまった。
「ははは……ごめんよ、カトレア」
「マクシミリアンさま。ちゃんと言ってくれないと不安になってしまいます」
「……うん、大好きだカトレア。キス……するよ?」
と、耳元で呟いた
「わたしも……キスしたいです」
「カトレア」
「愛してますマクシミリアンさま」
……触れ合う唇。
すると、廊下から歓声が上がった。
聞き耳を立てている事はマクシミリアンも気付いていた。
良い様にお膳立てされたのは気に食わないが、ようやく手に入れた愛しい人を、離すまいと強めに抱き寄せ、深く深くキスをした。
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