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真田十勇士

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巻ノ二十八 屋敷その十

「だから決して侮れぬ」
「左様ですな」
「ですからこの上田に来たならば」
「例えどの様な方でも」
「油断をしてはならない」
「そういうことじゃ。しかし四天王を入れてもな」
 ふとだ、昌幸はここで少し話題を変えた。それは戦に関することであるのは同じであったがまた違うことだった。
「あの家は今は駿府にある」
「この上田からは離れていますな」
「その距離も徳川家の弱みとなりますか」
「そうじゃ、しかも信濃の道は険しい」
 昌幸はさらに言った。
「兵糧なり武具なり運ぶのは苦労するな」
「それが一番の弱みですな」
 幸村はその目を確かにさせて言った。
「まさに」
「そうじゃ、飯や刀がなくては戦は出来ぬ」
「幾ら強くとも」
「そこも狙いめじゃ、もっとも徳川殿は信濃にも地盤を築かれておるからな」
 確かに拠点は駿府にあり上田から離れているがだ。
「駿府から離れているのは確か」
「だからそこを衝くと」
「兵糧のことでも他のことでもな」
「わかり申した」
「しかも徳川家は確かに武の家じゃが」 
 さらに言った昌幸だった。
「欠けているものがある」
「と、いいますと」
 今度は信之が問うた。
「それは」
「家康殿は頭も切れるし勇将揃いであるが」
「それでもですか」
「軍師がおらぬな」
「そういえば」
 言われてだ、信之もはっとした顔で言った。
「あの家にはそうした家臣がおられませぬな」
「そうじゃな」
「はい、そうした方は」
「徳川家は一本気な家じゃ」
「その一本気であるが故に」
「武は槍や弓矢の武でな」
 それでなのだ。
「知略に欠けておる」
「確かに」
「それはその通りですな」
 信之も幸村もだ、自分達の父の言葉に頷いて言う。
「徳川家には軍師がおられませぬ」
「だから戦の仕方も勇敢ですが」
「一本気に過ぎて」
「知には欠けますな」
「政でもそうじゃがな」
 徳川家はというのだ。
「善政でも謀はないな」
「はい、それがしの見たところ」
 徳川家の三国の領地を全て見守った幸村がだ、父に確かな声で答えた。どの町も村も整ってはいるがだ。
「真面目に治められていてです」
「民は喜んでおるがな」
「しかし癖がなく」
「ただ真面目でな」
「徳川家の武辺の気質が出ていました」
「律儀ではあったな」
 家康のその心根が領地の政にも出ていたというのだ。。
「そうであってもじゃな」
「はい、癖が感じられませんでした」
「そこじゃ、内の政もそうでありな」
「外もですか」
「あの御仁は律儀、しかし謀がない」
「それに欠けますか」
「そこが徳川家の弱み、今のな」
 少なくとも今の、と限ってだ。昌幸は言った。 
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