本気で挑むダンジョン攻略記
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Chapter Ⅰ:to the beginning
第02話:進撃
前書き
自分、九州に住んでいるのですがまさか九州でこんなに雪が降るとは...家から出れないので更新が捗ります(笑)
そしてまさかの日間、週間ランキング1位...本当にビックリしましたよ。エラーだと思ってランキング画面に10回くらい行きましたよ...
まだまだ始まったばかりの作品ですがこれからも応援よろしくお願いします。
それと、プロローグに少しばかり加筆を入れました。この話に関係ある部分ですがまあ読まなくても変わりません。大丈夫でしょう。
それからルビタグをつけてみたのですが上手く出来てないかもしれません。出来てなかったら教えてください。
オラリオの朝は早い。その日ダンジョンに潜る冒険者達は基本的に朝早くからダンジョンに潜り、早くても夕方、遅ければ数日に渡ってダンジョンで冒険を行う。その為、それらの冒険者に合わせて朝早くから店が開く。冒険者を中心とした経済が成り立っているオラリオならではの風景だろう。
そんな朝早くから活発な街の一角を、頭をすっぽりと覆うフードを被った一人の男が歩いてた。そう、言わずと知れた獣殿ことラインハルトである。
昨日フレイヤの元を後にしたラインハルトだったが、街を歩いて人々とすれ違う度に皆がラインハルトに視線を向けていた。普通に考えてみれば、圧倒的なカリスマ性を持った桁違いの存在感を放つイケメンが歩いているのだ。誰だって注目するだろう。だが、ラインハルトからしてみれば鬱陶しい事この上ない。本来の獣殿であれば気にもしないだろうが、このラインハルトは転生前は一応一般人。そこまで気にはかからないものの、中には悪意の混じった視線もあり安全策としてフードで顔を隠しているのだ。無論、黒円卓のメンバーは影に潜らせている。
「(ふむ。一つを除いて視線を感じない。シンプルながら効果的であったな)」
昨日ルサルカに買わせに行って良かったと思いながら、唯一感じる視線のもとへ目を向ける。それはバベルの最上階。昨日ラインハルトがフレイヤと対談した場所だった。獣殿の視力を以てすれば、例え1km以上離れていようとハッキリと見えるのだ。
案の定、ラインハルトには目が合った相手が微笑みながら此方に手を振っているのが見えていた。
「流石に昨日の今日で手出しはしてこない、か。だが、暫くこの視線は続きそうではあるな。」
ダンジョンに潜ってもおそらく水晶で監視されるのだろう。出来るだけ『創造』や『流出』は使わず、使うならば黒円卓のメンバーのみに使わせなければなるまい。
「あの、冒険者の方ですか?」
「む、君は誰だね?」
考え事をしながらダンジョンを目指していたらひとりの給仕服を着た少女に話しかけられた。どうやらすぐ側の店の従業員らしい。
「あ、私はシル・フローヴァと言います。そこのお店でウェイトレスをしています」
「ふむ、名乗られたからには答えねばなるまいな。ラインハルト・ハイドリヒだ。まあ、冒険者のようなものではある」
「ふふ、何か面白いお方ですね。冒険者にしては珍しいです。」
どうやらラインハルトの口調がツボに入った様で、クスクスと笑う彼女だったが、ラインハルトからしてみれば何が面白いのか良く分からない。
「あ、すいません。冒険者の方たちって何というかがさつというか...あ、大雑把な人が多いんですよ!」
「(それは殆ど似たようなものだろうに)」
つまり、そこらの冒険者では聞かないような気品溢れる獣殿の口調が珍しかったという事だろう。確かに、オラリオの街を見てみると世界の中心とすら呼ばれる街でありながら"庶民の街"という印象が強い。
「そんな事よりもです!今夜の夕食の場所はもうお決まりですか?」
「いや、まだ決まっておらぬ。そもそもダンジョンから今日帰還するかも分からぬ」
「そう...ですよね」
ラインハルトとしては"何日ダンジョンに潜るか分からない"という意味だったのだが、彼女には"生きて帰って来れるか分からない"という意味に聞こえたらしい。うん、日本語って難しい。
それにしても、どうやらこの少女はお店の売り込みをやっているらしい。お店は未だ準備中。夕方以降に開くタイプの店だろうか。勤務時間では無いだろうに商魂逞しい。
「案ずるな。いつになるかは分からぬが、帰還した暁にはそこの店を利用することにしよう」
「…はい!是非とも『豊饒の女主人』のご利用をお待ちしております!」
さっきまで暗い雰囲気出してたのに直ぐにとびきりの笑顔になるのだから中々出来る。この女、将来絶対に悪女になる。獣殿の勘が保障しよう。
如何にも嬉しそうに頑張ってくださいね、と声をかけて店に入って行く彼女を他所にラインハルトはダンジョンへ向かうのだった。
「ちょっと待ちなさい!そこの貴方!」
「…何かね?」
遂にダンジョンへ辿り着き、そのままダンジョンへ潜ろうとしたところをこれまた一人の少女に止められた。今日はよく女性に話しかけられる日である。
…一瞬、バベルの頂上から殺気が飛んで来たのは気のせいである。そう、今この瞬間も殺気を感じるのも気のせいである。女の嫉妬って怖い。
目の前の少女も殺気が飛んで来た直後に震えていたが、それでも気丈にラインハルトへ話を続ける。
「貴方、見かけない方ですね。ギルドへの登録はちゃんとされていますか?」
「…勿論だ」
「じゃあフードをとってください。私、これでも冒険者の方の顔はかなり覚えているんですよ!」
ふむ。どうしたものだろうか。というかこの少女。よくよく見れば原作で出てきたギルドの職員じゃないか。確かエイナ・チュールとか言ったか。
そして、ギルドには勿論のことながら冒険者登録はしていない。何せ冒険者登録の前提条件はファミリアに入っている事だ。何処のファミリアか申告が必要かどうかは覚えていないが、何れバレる嘘をつくくらいならば最初から登録しない方が良い。
「あ、やっぱり冒険者登録していないんですね!ほら、こっちに来て!さっさと登録しますよ!」
そして、悩んでいる間に早合点してしまった(ぶっちゃけ正解なのだが)少女によってフードごと引っ張られるが、流石獣殿クオリティ。少女如きの力では全くその場から動かない。
「ちょっ、何で動かないの!」
「まあ落ち着きたまえ。レベル1ならともかく、この力だ。少なくともレベル2以上とは考えないのかね?」
「むっ」
確かにレベル1なら非力な少女でも引っ張ればその場を動かすことくらいは出来る。踏ん張られたらその限りではないが、突っ立っているだけのものなら可能だ。だが、レベル2以上となると話は別だ。それならば少女の力如きで動じないのも理解できるというものだ。そして、駆け出しのレベル1ならともかく、レベル2ならギルドに既に登録されているのは道理。少女もその考えに至ったようで大人しくフードを引っ張るのをやめる。だが、相変わらず疑念が残っているらしい。
「おいおい、何やってんだよお前」
そして、意外なところから助け船が入る。
「あ、アレンさん」
「よ、ギルドの嬢ちゃん。悪いな、うちのもんが迷惑かけちまって」
「【フレイヤ・ファミリア】の方だったんですか。それは失礼しました。」
「いやいや、誰にも間違いはあるもんさ。ほら、お仕事に戻んなよ」
「はい。それでは失礼します。お気をつけて。」
そうして少女、エイナ・チュールが去って行ったあと、ラインハルトはアレンへと体を向けた。その目にはありありと警戒心が宿っている。
「どういうつもりだね」
「別に。俺はただ"あのお方"の指示に従っただけさ」
「そうか...世話になったな」
もう用は無い。一言礼を述べてダンジョンへ入って行こうとするラインハルトへ向けてアレンは口を開く。
「いつか、必ずお前をぶっ倒す。これは俺達の総意だ。」
「そうか。喜んで待つとしよう。」
2人の間にそれ以上の会話は無く、ラインハルトはダンジョンへと潜っていくのだった。
「(…外堀を埋められたな)」
ダンジョンを進みながら、ラインハルトは先程のアレンへフレイヤが出した指示を考えていた。フレイヤの事だ。無論ラインハルトを助けるつもりもあったのだろう。だが、おそらくはラインハルトが【フレイヤ・ファミリア】の所属であるとギルド職員へ認識させるという意味合いの方が強い。ギルドというのはオラリオで最も冒険者が集まる場所だ。当然、そこで出回った噂は急速にオラリオへ広まっていくだろう。つまり、今後ラインハルトが活躍するたびにラインハルトを【フレイヤ・ファミリア】だと思っているギルド職員によって、"【フレイヤ・ファミリア】所属のラインハルトが活躍した"という噂が流れる訳だ。この策の狡猾なところは、ラインハルトが否定できない事だ。何せ、否定すれば所属を偽った事でギルドに睨まれる上にファミリアに入ら無い限りダンジョンに潜れなくなる。それこそ本当に【フレイヤ・ファミリア】に入らなくてはならなくなるかもしれない。
「ザミエル、シュライバー、マレウス、バビロン、ベイ」
ラインハルトが声をかけるのと同時に、影から黒円卓の五人が現れる。全員が何故か跪いている姿勢ではあったが、まあ良い。
「最初という事で様子見をしようと思っていたが、予定を変更する。」
「…それで、如何様に?」
「一気に行くぞ」
ラインハルトの決定に特に好戦的なシュライバーとベイがさも嬉しそうに笑う。ルサルカとバビロンは決定ならば仕方ないといった風だが、よく見るとエレオノーレも喜色を隠しきれていなかった。
このまま段階的にダンジョンをクリアしていって【フレイヤ・ファミリア】との関係性を示唆されるならば対処は一つ。一気にダンジョンを攻略してしまえば良い。もとより目的は只一つ。達成など遅いか速いかの違いでしかない。
「そもそも私が様子見などとおこがましい。ただ挑むのみ。行くぞ。」
『Jawohl!』
既にフードは取っている。肩にかけられたコートが翻るのと同時に全員が立ち上がり、ラインハルトの後ろについて歩き始める。
「シュライバー、縦穴を探せ。」
「Jawohl!」
ラインハルトが指示を出すのと同時にシュライバーが駆ける。その速さは『形成』位階であって尚、黒円卓の中でもかなり速い。そして、3分後にはシュライバーが戻ってきて見つけた縦穴へ向けて皆で進む。
その一団はまさに戦意の塊。暴力的なまでの威圧感に上層程度のモンスターでは彼らの前に立つことすら許されない。いや、近づくことすら躊躇わせる。偶に壁からモンスターが生まれてくる事はあったが、その度に嬉々としてベイが拳一つで撲殺していく。
「マレウス、魔石はしっかりと回収しておけ」
「はいはーい」
気の抜けた返事をしつつ、影で魔石をちゃっかりと回収していくルサルカにエレオノーレが殺気が籠った視線を向けるが、すぐにラインハルトが窘める。
「構わん。もとより我らは円卓。我が爪牙であると同時に卿らは我が友である。」
「はっ、勿体無き御言葉に感謝します!」
「あらあら」
「何がおかしいブレンナー」
「貴方も随分と乙女になったと思ってね」
「ほう...」
喧嘩腰になる二人を他所にラインハルト達は次々と縦穴へと飛び込んでいく。仕方なくエレオノーレも戦意を引っ込めるが――
「帰ったら覚えておけよ」
「ふふ、何か青春っぽくて良いわね」
「…知らん」
朗らかに笑うリザに毒気を抜かれたようにそっぽを向き、結局怒るに怒れない。
そんな和気藹々とした雰囲気を出しつつも壁から生まれるモンスターを即殺していく二人だった。
そしてそのまま壁穴を使う事4回。一同は壁一面がクリスタルのようなものに覆われたフロアに到達していた。
「ここは...」
「第17階層。来るぞ。」
事前にダンジョンの情報は集めてある。団員たちへ情報も叩き込んでいる。故に、皆がこの階層の意味を知っている。
突如としてクリスタル状の壁一面に罅が入り、それが崩れて巨大なモンスターが出現する。
「迷宮の孤王、ゴライアス。階層主だ。」
獰猛な笑みを浮かべる『黄金の獣』とその爪牙の前に、数多くの冒険者を苦しめた『孤高の王』が立ちはだかった。
「さて、これの相手を誰がするかという事だが...」
ゴライアス。推定レベルは5。言わずと知れたダンジョンでもトップクラスのモンスターであり、討伐には少なくとも一級冒険者数名を含んだ巨大パーティーを要するまさしくダンジョンの申し子だ。だが、それを前に悠々と考え事をする者もまた、冒険者最強と名高いオッタルを歯牙にもかけなかった『黄金の獣』だ。その表情には何の焦りも、恐怖も感じられない。
「無論、私がやれば直ぐにでも片が付くが、諸君たちはどうかね?」
後ろの五人へ問いかけると、ルサルカとリザは面倒くさそうに顔を顰めるが、ベイ、シュライバー、エレオノーレの三人は如何にもここは自分が、という表情をしていた。
無論、ラインハルトからしてみれば誰でも構わないし、ルサルカとリザに叱咤することもない。ルサルカはその汎用性でサポートに回っているし、リザもこれから役に立つ。適性の問題なのだ。
「ベイ」
「はっ」
「やれるな?」
「…ははっ、俺を誰だと思ってんすか。あんたの爪牙を甘く見ちゃいけねえ」
かけた言葉はたった二言。ただ、それでベイには十分だった。シュライバーより自分が指名されたという事もあるが、何よりラインハルトから期待されているという事実がベイを昂らせた。
「ああ、最ッ高に良い気分だ!」
ラインハルトを含めた五名は近くの岩場に腰を下ろし、悠々と高みの見物を決め込んでいる。ゴライアスの前に立つのはベイただ一人。明らかに嘗めている。そう感じ取ったのか、ゴライアスが一際大きく吠え、ベイへ向かって来る。
「聖槍十三騎士団黒円卓第4位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ」
敵がいる。名乗りを上げた。戦場は既に用意されている。忠誠を誓う『黄金の獣』が自分の戦いを鑑賞している。何と素晴らしい環境か。シュライバーと戦ったベルリンの地とも違う。だが、それほどに戦意が昂っている。
「行くぜ劣等ォ!ちったぁ楽しませろやァ!!!」
ベイの初手は拳だった。圧倒的巨体を誇るゴライアスに引くどころか単身で向かって行く。そして、ゴライアスとベイの拳がぶつかり――
「はっ、ちょっとは楽しめそうじゃねーか!」
結果は互角。圧倒的な轟音と衝撃波を放ち互いにのけぞる。だが、ゴライアスはその巨体故に動作が遅いが、ベイは小回りが効く。結果として瞬時に繰り出した二撃目がゴライアスの足に入り、ゴライアスが衝撃で体勢を崩した。
「これで終いじゃねえだろ!根性見せな!折角良い気分でやってんだ!シラケた事してっとぶっ殺すぞあァ!!」
尻餅をついている状態のゴライアスに容赦なく拳を振るう。これにはゴライアスも堪らない。ベイがいる辺りをその巨大な腕で振り払う。
だが、あろうことかベイはその腕に飛び乗り、腕を駆け上がって行く。そして、腕からゴライアスの顔の前に跳ぶ。
「耐えてみせなァ!」
ベイが拳を繰り出す。だが、それよりもゴライアスの方が速かった。口を開き、そこから衝撃波がベイを襲う。宙にいたこともあり、ベイはこれを躱せずに一気にゴライアスから距離を離され、その間にゴライアスは立ち上がった。
そして、攻撃を喰らったベイはというと、とても嬉しそうに、そして愉しそうに笑っていた。
「良いねぇ、なかなか耐えやがる。そうこなくちゃいけねぇ。褒美に良いもんくれてやる」
そして、怒りに任せて向かって来るゴライアスを前にベイは詠唱を開始する。
Wo war ich schon einmal und war so selig
Wie du warst! Wie du bist! Das weiß niemand, das ahnt keiner!
Ich war ein Bub', da hab' ich die noch nicht gekannt.
Wer bin denn ich? Wie komm' denn ich zu ihr? Wie kommt denn sie zu mir?
Wär' ich kein Mann, die Sinne möchten mir vergeh'n.
Das ist ein seliger Augenblick, den will ich nie vergessen bis an meinen Tod.
Sophie, Welken Sie
Show a Corpse
Es ist was kommen und ist was g'schehn, Ich möcht Sie fragen
Darf's denn sein? Ich möcht' sie fragen: warum zittert was in mir?
Sophie, und seh' nur dich und spur' nur dich
Sophie, und weiß von nichts als nur: dich hab' ich lieb
Sophie, Welken Sie
目の前に敵がいる。後ろには忠誠を誓う『黄金の獣』がいる。ならば、ベイの戦意が昂らない訳が無い。詠唱は厳かに、されど戦意は荒々しく。ただでさえ相性が良い聖遺物によって、ベイの『創造』は高純度で完成した。
『Briah――』
『Der Rosenkavalier Schwarzwald !』
ただでさえ太陽の光が届かぬダンジョンの中で、『薔薇の夜』が展開される。ラインハルト達すら巻き込みかねないところまで展開されたそれにルサルカなどは危ないと文句を言うが戦闘狂のベイには届かない。
良い気分なのだ。シュライバーと戦っている時とまではいかないが、久々にある程度の全力で蹂躙できるのだ。邪魔してくれるな。そんな気分だった。
そして、生命力を吸い取りベイの力とするこの夜の中では、ゴライアスとて例外なく力を吸われ続ける。巨大な魔石からドンドン魔力が枯渇していく。本能的に命の危機を感じたのだろう。ゴライアスも本能的に命の危機を感じ取ったのかベイに向かって突貫を開始する。
だが、ベイが放つ万本に至ろうかという程の数の茨の棘がゴライアスへ深々と突き刺さる。
「ハハハッッァ!」
只でさえ巨体で動きが遅いゴライアスは最早"的"だった。
ベイの動きに追いつけない。飛んでくる棘を避けられない。攻撃が当たらない。そして、時間が経つごとに魔石から魔力が絞り取られていく。回復していたゴライアスの皮膚も回復が遅く成り、やがては回復しなくなった。
「これで終いだァッ!!」
そして、最後にベイが巨大な杭を作りだし、ゴライアスの頭へ突き立てた。口から上が全て吹き飛び、地に伏したゴライアスは最早動かない。
満足げにゴライアスを一瞥したベイは、『創造』を解いてラインハルト達の方へ歩いて行く。勝敗はどんでん返しも何も無く、黒円卓の勝利だった。
「ご苦労だった。ベイ。よくやった。」
「はっ」
ラインハルトからの賛辞に殊勝に敬礼したベイは満足げだった。
「満足したか、ベイ」
「ああ。久々に暴れたぜ」
エレオノーレからの問いかけに何の躊躇いも無くそう答えた事からもそれは伺えた。
「さて。バビロン、行くぞ」
「へ?」
「卿の力が要る。皆も着いて来い」
そして、倒した筈のゴライアスの方へ歩いて行くラインハルトの考えが分からないながらも皆が着いて行く。そして、ゴライアスの側に着いたラインハルトは――
『Yetzirah――』
『聖約・運命の神槍』
あろうことか、『形成』位階の神槍を展開した。その溢れ出る神威には黒円卓である彼らですら一瞬気圧される。そして、ラインハルトはその槍で剥き出しになっているゴライアスの魔石に軽く傷をつける。
「まさか、聖痕を...それも直接...」
その所業にリザは慄く。ただせさえ刺青という形の団員たちの聖痕ですら大きな力を持つのだ。それを直接、しかも命のコアとなる魔石に刻まれたゴライアスは獣の束縛をこの中の誰よりも深く刻まれてしまったのだ。
「マレウス。聖遺物を出せ。」
そして、言われた通りにルサルカが影に保管していた聖遺物、『黒円卓の聖槍』を取りだした。そう、転生する際に特典として受け取った聖遺物だ。
「まさか――」
そして、エレオノーレ、リザ、ルサルカの三人はラインハルトのやらんとしている事に気づくのと同時に、『黒円卓の聖槍』を難無く掴み取ったラインハルトは、剥き出しとなっているゴライアスの魔石に突き立てた。
そして溢れ出る魔力の奔流。
変わっていくゴライアスの死体。
あれほど巨大だった巨体が縮み、徐々にある形へと変わっていく。
「――トバル、カイン...」
その姿を見たリザは茫然とする。まさか倒したモンスターすら戦奴とするとは思わなかったのだ。そして、先程ラインハルトが自分を呼んだ理由を彼女は理解した。
「ハイドリヒ卿。これを、トバルカインを私に制御しろと?」
「ああ。出来なければそれでも構わん。所詮はモンスター。卿が制御しようがしまいが何れ朽ち果て代わりを使う。それだけの事よ。」
「構いません。やってみます。」
今まで操るのは全て人の死体であったのだ。人ではなくモンスター相手なら気楽にやれる。リザは詠唱を始めた。
Daß sich die Himmel regen Und Geist und Körper sich bewegen
Gott selbst hat sich zu euch geneiget Und ruft durch Boten ohne Zahl
Auf, kommt zu meinem Liebesmahl――
『Yetzirah――』
『Pallida Mors 』
そして出現するリザの『形成』。それがトバルカインの顔に装着され、リザの支配下におかれた。
「問題ありません。制御に成功しました。」
「よくやった。大儀である。」
「しかし、恐らく我々が知っているトバルカインよりは弱体化しているかと」
「構わん。潰れたところで新たなカインを作ればよい。」
これで黒円卓の戦力はラインハルト、シュライバー、エレオノーレ、ベイ、ルサルカ、リザ、トバルカインの7人となった。まさに過剰戦力。だが、ラインハルトからしてみればそのような事に何の意味も無い。ダンジョンをクリアできればそれでいいのだ。
「さて、この次は18階層。モンスターがいない安全地帯ではあるが、休憩など必要あるまい?」
ラインハルトの問に全員が強く頷く。むしろ、先程"おあづけ"をくらったシュライバーなどは今にも飛び出しそうな勢いである。
「では行こうか。進軍を再開する。」
そして、ラインハルト達は再び動き出す。跡に残されたのは激しい戦闘痕のみ。ゴライアスの討伐を目的に後にやってきたパーティーが発見したのはただそれだけだった。
後書き
取り敢えずプロットは序盤と終盤だけ作りました。中盤はどうせ原作に流されて話が変わると思うので。終盤が決まってれば少し変わっても修正しやすいですからね。
そして今回ご活躍したヒャッハー中尉。ぶっちゃけゴライアスに『創造』はやりすぎだろと思ったり思わなかったり。
そして私大好きなリザさん。ゴライアスのトバルカイン化というおそらく誰も想像していなかったであろう暴挙に必要な方でした。決して私の好きなキャラだから出した訳じゃないんですよ?(震え声)
…リザさん、マジでエロい。あのスリットの奥に入りたい。(渇望)
今回の文字数9000字越え...正直少しくらい減らしたいけど減らしたら内容が薄くなる。質が無い分量で補うのがMARIEクオリティ。
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