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美容健康

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6部分:第六章


第六章

 いつもよりも早く起きて身体を動かしシャワーを浴びて御飯も食べて身支度を整える。それがまた実に念入りなものであったのだ。
「これでよし、ね」
「あれ、あんた」
 鏡の前で会心の笑みを浮かべるそこに誠子が来た。
「今日はまた随分と早いのね」
「おはよう、お姉ちゃん」
 にこりと笑って姉に挨拶をする。もうメイクは完璧だった。
「今日も朝から部活なの?」
「ええ、そうよ」
 何でもないといった様子で妹に応えてきた。
「今からね」
「そうなの。それじゃあね」
「?どうかしたの?」
「一緒に行かない?」
 自分の思惑は伏せて姉に言ってきた。
「今日はどう?」
「別にいいけれど」
 それは別に構わないといった感じの誠子であった。
「けれど。どうしたのよ急に」
「どうしたのって?」
「だから。急に一緒に行きたいなんて」
 姉が言うのはやはりこのことだった。見ればその目をしばたかさえしている。妹の考えがどうもわからないといった感じだ。
「何かあったの?」
「別に」
 この辺りは誤魔化す遼子だった。
「何もないけれどね」
「何もないけれど一緒に!?」
「そうよ」
 少し開き直ったようにして答えた。
「何もないけれどね」
「意味がわからないけれど」
「お姉ちゃんには関係ないじゃない」
 また随分と筋の通らない言葉であった。
「そのところは。そうじゃないの?」
「関係なくて一緒に行くっていうの?」
「そうよ」
 また居直りの言葉になっていた。
「悪い?」
「何が何なのかわからないけれど」
「それでもいいわよね」
 押し切りにかかった。
「別に何もしないから」
「!?」
「だから。お姉ちゃんには関係ないのよ」
「そうなの」
「それでね。いい?」
 強引に問う遼子だった。
「一緒に行って。いいわよね」
「別にいいけれど」
 実際問題として特に断る理由もない誠子だった。断る理由がなければそのまま受け入れるのが彼女の大体の考えであり行動であるのだ。
「あんたさえよければね」
「そう。じゃあ行きましょう」
「今から?」
「待つから」
 流石に一緒に行く相手は待つのだった。
「お姉ちゃんが身支度を整えるまでね」
「そう。それじゃあ今からね」
「それでどれだけかかるの?」
 またせっかちな問いであった。
「どれだけなの?今から」
「十分ね」
「またえらく早いわね」
 メイクから何から何まで入れてたっぷりと三十分以上かかる遼子から見れば夢のような時間の短さだった。彼女も彼女なりにメイクは手早くやる主義であるが。
「十分って」
「ファンデーションを軽くとリップだけだからね」
「本当にそれだけなんだ」
「だって部活があるから」
 理由はそれであった。
「それだけでいいじゃない。授業前にちょこちょこってなおせばいいし」
「崩れないようにはしないの?」
「全然」
 今は顔を洗っている姉であった。
「そんなの必要ないわ。それじゃあね」
「うん」
「今から歯を磨くからね」
 要するに話せなくなるということだった。
「いいわね。それじゃあ」
「わかったわ。じゃあね」
「十分。待ってて」
「ええ」
 こうして十分待つことにした遼子だった。そして誠子は本当に十分ジャストで出て来た。見ればそのメイクは随分と軽いものであった。
「お待たせ」
「本当に早いのね」
「だって。時間かけても仕方ないじゃない」
 こう妹に返す誠子だった。
「こういうのって」
「私は違うけれど」
「あんたはあんた」
 ざっくばらんとした姉の言葉であった。
「私は私よ。そうでしょ?」
「それはそうだけれど」
「それにね。さっきも言ったけれど」
「部活で汗かくからね」
「あんたはその為のメイクもしてるの?」
「ええ」
 そういった配慮も忘れない遼子であった。やはり彼女のメイクにかける情熱と努力と工夫は尋常なものではなかった。しかもそれが結果として出ていた。
「そうだけれど」
「まああんたは体育会系の部活じゃないしね」
「ええ、まあ」
「それはそれでいいけれどね」
「そうなの」
「そう思うわよ。まあとにかく」 
 二人は玄関に向かって歩いていた。既にその手には鞄があるやはり学生がこれを忘れては話にならなかった。二人の通う女子高の鞄である。紺色のナイロン質のものである。
 
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