流星のロックマン STARDUST BEGINS
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精神の奥底
53 朝の到来
前書き
更新、だいぶ遅れました。
ごめんなさいm(__)m
夜が終わって新展開となり、原作でもかなり重要なキャラクターが登場するので、その衣装だったり、立ち居振る舞いを考えるのに少し時間がかかってしまいました。
とう言うわけで、本編スタートです...
そこは深い闇の中だった。
しばらく意識を失っている間に世界は様変わりしていた。
両手には冷たい金属の感触と、目には何か柔らかい何かがきつく締められている。
恐らく手錠が掛けられ、目隠しがされているのだろう。
それに足の裏から揺れを感じ、車に載せられているのを感じていた。
冷静に判断すれば、何者かに捕まり、車で移送されている状態だ。
しかし記憶がイマイチはっきりしない。
そんな時の理由は1つだけだ。
“もう1人の自分”が何かをやった。
そうとしか考えられない。
「……」
“彼女”とはもう10年以上の付き合いになる。
いつも自分の意識がはっきりしない間に取り返しの付かない事を何度も繰り返し、自分を苦しめてきた。
医者に相談しても一生付き合っていくしか無いと見限られた。
だが遂にそんな彼女にも年貢の納め時がやってきたのだ。
自分を道連れにするというおまけとともに。
「ハァ…」
全身の力が抜けて、体勢が崩れた。
それを注意する男の声が反射してくる。
「オイ、体勢を崩すな」
「逃げようなんて考えを起こすなよ?」
「誰?あなたたち?」
力の入っていない声で応えた。
「何だって?」
「警察?まぁ、何でもいいわ。何を言っても…信用してくれないのは変わらないだろうし。あなたたちが誰かは知らないけど、”私たち”を止めてくれただけ…感謝してるわ」
「何だ…」
「“私たち”だと?」
「私が二重人格だなんて、そんな都合のいいこと言っても…信用してくれるはずがない…」
「二重人格?それは傑作だな。しばらく眠り込んで考えた言い訳がそれか?」
「いや待て。様子がおかしい」
「どうせ演技ですよ」
「今日は何日だ?」
「10月…26日?」
「…あなたの年齢は?」
「36歳…?」
「オイ、さっき彼女が答えた年齢は?」
「13歳とか、ふざけたこと言ってましたけど」
今日は10月31日、26日ではない。
その上、先程までの尋問で終始小馬鹿にした傲慢な態度を取っていた時とは大違いだ。
同じ人物のはずなのに、雰囲気はまるで別人だ。
確かに尋問には参加せず、この移送にだけ携わっている人間には気づけない。
声のトーンが先程より落ち着いている。
尋問の時は少し大人ぶった子供と喋っているようだった上、いまいち落ち着きにかけていた。
「後で管轄の病院に一度検査させてみよう」
「え?コイツの言うこと信じるんですか!?」
「嘘かホントかはっきりさせるには、一番手っ取り早い手段だろう?」
「でも…あの新課長がなんて言うか…」
しかし次の瞬間、衝撃と揺れが彼らを襲った。
「何だ!?」
「追突…?」
車は急停止する。
だがそれは全て読まれていた。
「ッ!?」
「ぐぁ…」
背後から何者かによる攻撃を受け、男たちは気を失った。
「どうしたの…?ねぇ…?」
「お迎えに上がりましたよ?美寿ちゃん」
「!?あなた…」
不意に視界が明るくなる。
ここは大型のバンの中だ。
数秒前まで自分と会話をしていた男たちと思われる者は気を失って倒れており、目隠しを外した者が目の前で笑顔を作っていた。
長い銀髪にキャップ帽をかぶった少年だ。
「最初捕まった時は白目むいてぐったりしてたもんだから、てっきり死んじまったかと思いましたよ?ん…もしかして今は美緒さんの方ですか?」
「私たちに何をさせるつもり…?」
「私たちって言われても、美寿ちゃんの方はノリノリなんで。まぁ、面倒なんで美寿ちゃんだけちょっとお借りしますよ?っと」
少年は手錠を掛けられ、動かせない左腕に手早くトランサーを着けると、紫色のユナイトカードを挿入した。
「うっ…」
その瞬間、ただでさえ朦朧とする意識にもやもやとしたものが襲いかかり、自分の中で何かが暴れ始めた。
一瞬、身体が自分のもので無くなったのを感じた瞬間、口が勝手に動き、この言葉を発した。
『電波…変換…』
次の瞬間には自分の中で湧き起こってきた何かが飛び出した。
その美しい肢体をくねらせるようしながら姿を現し、少し気だるそうにあくびしてみせた。
「ふぁ…ありがと。ママったら、いきなり表に出てくるんだもの。少しびっくりしちゃった」
そこに現れたのは、僅かに紅色がかった黒のスーツに角度によって様々な輝きを見せるゴーストホワイトの装甲に覆われた電波人間だ。
首筋や手首、足首の装甲は柔らかなフローラルホワイトの毛で覆われ、特にバイオレットのバイザーが備わったヘルメットからは鬣のように、そして腰の部分からはしっぽのように伸びている。
そして何より額からライトブルーの角が生えているのが特徴的だった。
「そんな…美寿…」
目の前でこちらを見下す『ヤヌス・ユニコーン』の姿に圧倒されながら、高垣美緒はそう呟いて再び意識を失った。
10月31日午前8時42分、空は昨日の夜の雨を忘れてしまったように晴れていた。
明け方は少し肌寒く、季節相応に僅かに足を踏み入れたように感じたものの、やはり異常気象の影響か気温は既に25℃を超えている。
この調子ならば、正午には30℃を超え、最高気温は35℃に迫る勢いだ。
一度深呼吸をしながら、ハンドルに備えられたパドルシフトでシフトアップする。
DCT式のセミオートマチックトランスミッション、俗に言う2ペダルMTの為、クラッチ操作は必要が無い。
この自動運転の乗用車が増えつつある中でセミオートマチックとはいえ、昔ながらのギア操作を残した車両は根強い人気を誇り、周囲を見渡せば、数台見受けることができる。
しかしその中でも、スカイタウンに向かう高速道路を颯爽と走り抜ける白のHONDA・NSXは周囲の注目を集めた。
ニホンモーター市場の雄、HONDAが製造したスポーツカーシリーズの中でも高い人気とV型6気筒エンジンによる高い走行性能を誇る。
「……」
そんなマシンをそれに見合った高いドライビングテクニックで操るのは、光祐一朗だった。
重要な用事があり、有給で休みを取って朝から車を走らせている。
正直なところ、熱斗が捕らえられた件で中々寝付くことができず、あまり体調は万全とはいえない。
いくら気をもんでも、状況が好転するわけではない、それならば休息をとってチャンスを待つのが得策であると、その類まれなる天才的な頭脳で理解はしていても、結局は自分も子を持つ親なのだと理解させられた。
「ん?工事?」
道路の先で中央分離帯が見るも無残に破壊され、修復工事をやっているのが目に入った。
ブレーキを踏みつつ、シフトダウンしてエンジンブレーキで速度を下げ、案内に従って工事現場を通り過ぎると、サードに入れて再び加速する。
そういえば、この道は昨日の事件の時にスターダストが逃亡に使った道でもある。
EMPで街灯が破壊され、夜間は危険な為、通行止めになるという注意書きも先程見かけた。
次の瞬間、電話が鳴った。
車内のBluetoothスピーカーにペアリングしてあるため、スイッチ1つで通話に応答する。
「はい、光」
『私です、ハートレスです』
「!?…君は…桜愛?」
『その名前で呼ばれるのも何年ぶりでしょう?まだ覚えていてくれているとは光栄です』
電話の主はハートレスだった。
しかし口調はいつもと違い、祐一朗を目上の人間としたようなもので、物腰も柔かい感じだ。
普段のハートレスを知る者ならば、間違いなく驚いてしまう程の違いだった。
「忘れるものか。今何処だ?ニホンか?」
『用件は1つだけです』
「用件?」
『あなたが数年前に書いた『ココロネットワーク』に関する論文に関してです』
「あれがどうかしたのか?」
祐一朗はギアをフォースに入れる。
少し驚いているがハンドルを握る手つきは、心とは切り離され、機械的に動いていた。
その論文は数年前にネビュラというダークチップを製造販売するシンジゲートが引き起こした事件の後に自身が書いたもので、危険性と有用性の2つの観点から書いたものだった。
次の瞬間、電話の向こうでハートレスは本題を口にする。
『現在、一般的に使われているものではなく、かつてオラン島から採掘されたマグメタルがあれば、ココロネットワークによる精神干渉波は無効化できる。これは確かですか?』
「あっ…あぁ。一般には知られていないが、オラン島から採掘されたものは、マグメタルはマグメタルでも組成が一部違う。もちろんマグメタルなのは変わらないから、PETやトランサーを含む電子機器の回路に使うこともできるが…それがどうしたんだ?」
『それさえ分かれば十分です。失礼します』
ハートレスは要件が済み、電話を切ろうとした。
「待て!こっちにも聞きたいことがある!この数年間、君は何をしていた?弥生くんと雛梨ちゃんは!?」
『……あなたには関係の無いことです』
「まだだ!昨日、凍結されていたはずのスターダストシステムを使った何者かが才葉シティに現れた。君が何か知ってるんじゃないのか!?」
『何故、そう思うんです?』
「スターダストは君が姿をくらます数日前にI.P.Cの機密保管庫から消えたスター・イリュージョンを持っていた!それにスターダストがあそこまで使いこなせる人間…あの時、ロックマンをオペレートしていた熱斗でないとすれば…」
祐一朗は一晩考え、推測に1つの結論を導き出していた。
かつて自分の息子が死んだ時に、遺骨を持ってきた女が自分と妻に渡したものは、息子の遺骨ではなかったということだ。
最初は眠れずに羊を数える程度の冗談のつもりだったが、翌々考えると何故か彼女の顔が浮かび、その度に疑惑が強まっていった。
『なかなかに面白い話ですが、全て根拠の無い推測に過ぎません。考え過ぎですよ。少し休まれてはどうです?では』
「ちょっと待て!...っくそ」
ハートレスは電話を切った。
今の白を切るような反応では、何か知っているのは間違いなさそうだが、直接的に関わっていて、自分の推論が当たっているという確証は得られなかった。
祐一朗は一度、深呼吸して気を落ち着けて、今の会話を思い出す。
確かに考え過ぎなのは、間違いない。
熱斗のことで少しナーバスになっているのも確かだ。
『パパ?熱斗くんじゃないとしたら、何なの?』
「……いや、考え過ぎみたいだ。忘れてくれ。熱斗がこんな状況になって、少し冷静さを欠いていたようだ」
『しょうがないよ。こんな状況で冷静でいる方が難しいと思う』
「それもそうか…すまないな…ロックマン」
『もう空港から300メートル圏内に入ったよ。インターネットが使えないから大まかなナビゲーションしかできなくてごめんね』
ナビゲーションしていたロックマンが今の会話を全て聞いてた。
自分の思うところは勘付かれなかったようだが、少し不安にさせてしまったらしい。
祐一朗はもう一度、深く深呼吸して頭の中を切り替えると、シフトダウンしながら駐車場のスペースを見つけて駐車する。
「…もう着いている頃か」
祐一朗はアテッサで確認した。
着陸から約10分が経過している。
車にロックを掛けると、小走りで空港の中に入った。
「……」
周囲を見渡しながら、足を進める。
そこはもはや異国だった。
いろんな国のいろんな人種の人々が行き交う出入国カウンターだ。
売店も普段見かけない食べ物であったり、おみやげを販売している。
普段から出張でよく使う場所だというのに、何度来ても慣れなかった。
祐一朗は入国審査を受けた後、真っ先に行くであろう場所へ向かった。
現代では欠かすことのできない通信手段を確保するための場所、モバイルセンターだ。
一部のキャリアならグローバルローミングも可能だが、現地の通信キャリアを使用するのが一般的だ。
「光博士!」
祐一朗を呼ぶ声が聞こえてきた。
祐一朗は振り返ると、そこには自分が昨晩呼び寄せた人物が立っていた。
身長は160センチ前後、スリムな体型ながら筋肉質で黒の髪に一部、白のメッシュが入った特徴的な外見。
西洋的かつ、中性的ながらも男らしい顔立ちで、本来の年齢よりも大人びて見え、一見、モデルにも見間違えそうなそのスタイリングは作業着のように穿き古された迷彩色のジーンズにダークグレイのVネックTシャツ、そしてその上にオーダーメイドの高級ブランドのワインレッドのジャケットという不自然なファッションを自然なものにしていた。
「久し振りだね、炎山くん。急に呼び出してしまってすまない」
「いいえ。どうせ近々、ニホンに来るつもりでしたから。前乗りも兼ねて予定を少し繰り上げる程度でしたよ」
その少年は世界を代表するIT企業・I.P.Cの御曹司であり、世界を股にかけてサイバー犯罪と日夜戦い続けているオフィシャルネットバトラー、伊集院炎山だった。
祐一朗は彼と会うのは、もう1年ぶりになる。
身長も伸び、元から大人びていた立ち居振る舞いはより精錬されたものになっていた。
背後には数名のオフィシャルの調査官がついてきている。
炎山はモバイルセンターで短期間のプリペイド契約を済ませたLumiaをポケットにしまい、祐一朗と共に歩き出した。
「状況に変化は?」
「電話で話した後は特に無い。熱斗がWAXAの課長に逮捕され、ダークチップがまた世間に流通を始めたらしい」
「ニホンにいる捜査官に調べさせたところ、ValkyrieというPMCがネビュラに続くダークチップシンジゲートになって次々と事件を起こしているようです」
「ニホンに捜査官が?オフィシャルも今回の事件を追っているのかい?」
「えぇ。我々だけでなく、他の捜査機関もです。我々は主にダークチップの摘発を狙っていますが、Valkyrieの本職は銃火器の販売です。そちらの方で世界中で多くの被害が出ています。そしてValkyrieは最近、ニホンで目立った動きを見せるようになりました。恐らくこの数日でニホンにはあらゆる機関の捜査官が派遣されているはずです」
「……」
「あと、熱斗を逮捕したというWAXAの新課長についても少し調べてみましたが、とんだ食わせ者でしたよ」
空港のフロントから出ると、炎山はついてきた捜査官数人に指示を出し、本来の目的の捜査に向かわせた。
「食わせ者?」
「えぇ。ニホンでサテラポリスの監視をさせている者からの報告によれば、そいつの名前は木場秀光、36歳。エンドシティの本城寺大学人文学部法律学科に2浪で入学して、2回留年して卒業。卒業後は親のコネで警察庁のとある部署にキャリア入庁、しかし勤務態度は劣悪で私生活でも無銭飲食やスピード違反に免許取り消しの他、あらゆる失態をやらかしてます。しかも深く掘り下げると高校の頃から素行が悪く、傷害事件を数件起こしているようです」
「何で、そんな人間がサテラポリスのエリート部隊の課長に?」
「コイツの親は衆議院議員の木場良秀なんですよ。恐らくもみ消したんでしょう」
「なんてことだ…」
「木場自身も警察庁でも金で犯罪のもみ消しをしていたようで、他にも裏金作りなんかにも関わっていた疑惑があります」
祐一朗と炎山は駐車場のNSXに乗り込んだ。
炎山は持ってきたバッグの中から幾つかの資料を取り出す。
「まぁ、早い話が公安に送り込まれた警察側の人間といったところなんですが。公安は警察の一部や幾つかの集団にとっては面倒な存在ですから、自分たちの思い通りにしたいという意図があったのかもしれません」
「WAXAはサテラポリスの組織、サテラポリスは…」
「そうです。サテラポリス、そしてそれに付随するWAXAはアメロッパに本部があるアメロッパの機関です。CIA同様に諜報活動を行うスパイ組織ですが、ニホンの機関ではないため、ニホンの国益や評価に悪影響があろうと、ニホンの隠している部分も躊躇いなく明るみにしてしまう。それを恐れた政府は同じく諜報活動を行う公安の幻のセクション、ゼロ課として設置する条件をつけました」
「自分たちのコントロールが効くところに設置したわけか」
「しかしそれでもコントロールは完全ではありません。やはり海外からのスパイであるという部分に変わりはなく、一種の嫌われ者機関、ただでさえ時折衝突する公安の面倒な部分に位置づけられてしまったわけですから、警察としてもある程度、コントロール化にしておきたかったんでしょう」
エンジンを始動し、ギアをローに入れて発進させた。
早速、炎山を連れてWAXAニホン支部へと向かう。
「木場の話題に戻りますが、木場は警察時代から無罪と思われる人間を逮捕して、検察を丸め込み有罪にしては手柄をあげ、冤罪を多く生み出していた疑惑もあります。もちろん全部の事件とまで言いませんが、被告側が控訴と上告を繰り返しているようで、気になって調べたら、冤罪の可能性がある事件が幾つか浮かんできました」
「熱斗もその被害に遭ったというわけか」
「恐らく。WAXAに忍ばせている捜査官からの報告によれば、昨日の事件の際、木場は学校の地下に隠された政府絡みのデータが詰まったサーバーを守りつつ、人質を殺してしまったとしてもValkyrieによって殺害されたという扱いにして制圧する計画を立てていたようです。しかし…」
炎山は一度、言葉に詰まった。
事実は理解しつつも、報告を聞いても未だに納得がいかないことだったからだ。
「スターダストなるシステムを使用した何者かが校内に侵入、サーバールームを白昼に晒し、人質と隊員に誰ひとりとして犠牲を出すこと無く、Valkyrieを制圧。木場の計画を潰した上で、最良の結果をもたらした。その上、警察のSWAT部隊に潜んでいた裏切り者まで炙りだしてしまった」
「自分の計画が失敗させられた名誉に傷がつきそうになったから、容疑者をでっち上げて熱斗を捕また?」
「0点を取ったのを見せられずに、親にはテストが無くなったと嘘をつく子供と同レベルですよ」
「なんて奴だ…」
「普通の常識ある大人として向き合ってはいけない相手です。それでこそ生意気なガキを相手にするくらいでないとやってられません」
祐一朗とはあまりの憎さにハンドルを握る手に力が入る。
「Valkyrieの方ですが、今はデンサンシティを拠点に武器とダークチップの売買を行っているようです。それに数日前のプライムタウンでの一件の遺留品と昨日の事件で逮捕した被疑者の端末からデンサンシティで大規模なサイコロジカル・パンデミックを引き起こそうとしていたことが判明しました」
「!?それが本当なら…」
「しかし必要な機器が破壊され、計画は失敗したとWAXAでは見ているようです」
「そうか…良かった」
「でもValkyrieは武器とダークチップ、それにユナイトカードなるどんな人間でも電波変換を可能にするカードの売買を続けていたようです。つい数時間前まで」
「つい数時間前まで?」
「Valkyrieの売人と客と思われる者が取引している現場を何者かが襲撃、武器やチップをゴミクズ同然にして去っていくという事件がデンサンシティで明け方にかけて、把握できただけでも30件以上起こってします。被害にあった者は皆、意識不明だったり、既に野垂れ死んでいたり、口がきける者は現在おらず、目撃者の証言によると灰色のスーツを身に纏った男が現れて倒していったと。恐らく学校での一件と同じ人物でしょう」
「スターダストをそこまで完全に使いこなすとは…」
「スターダストの計画についても聞いています。現状、使いこなせる人間はおらず、凍結されていたと。それが何故か動き出し、今回日の目を見る形になった。しかし現状、我々の障害にならない限り、我々はスターダストに関してはノータッチでいく方針です」
「なぜ?」
「光博士、あなたが一番ご存知だとは思いますが、使いこなせる人間が本当はいたということは我々には関係のないことです。それにもし捕まえる結果になった場合、その適格者は法の外で処分される可能性もある。使っているのが人間である以上、人権があります。これに関しては非常に難しい問題です。それにもしかすると…別のチームが追っている犯罪組織と繋がり…」
炎山は祐一朗が隠していたこと、そして推測についても勘付いていた。
炎山自身も何らかのルートでスターダストに関する資料を手に入れて、独自に調べたのだ。
そして祐一朗が想像するものに近い何かを導き出した。
「いや、やめておきます。これに関しては推測に過ぎません。それに多分、オレの考え過ぎだと思いますから。スターダストの適合者の上位に光がいるという偶然からつい…」
「私も近いことを考えていた。しかし死者は死者だ。生きているはずがない」
祐一朗は再び高速に乗り、速度を上げていく。
僅か10秒程度だが、2人の会話は途切れた。
そして再び口を開く時には話題が変わった。
「しかしサテラポリスに捜査官が忍び込ませているとは」
「公安と警察の関係に近いものが、オフィシャルとサテラポリスなんですよ。お互いがお互いの顔色伺ったり、監視し合っている。恐らくオフィシャルにもサテラポリス側の人間がいるでしょう」
「なるほど」
「あと言っておかなければならないことがあります。今回、我々オフィシャルとしては完全にアウェーな状況なので、もしかすると交渉では光を取り戻すことはできないかもしれません」
「…やはり君でも難しいか」
「しかし別の手段…光の無実を証明するか、木場の不正を暴いて吊るし上げれば、開放させることができると思います。そのために先程の捜査官の半分にはValkyrieの捜査を、もう半分には木場の身辺や過去の疑惑を調査するように命じました」
「WAXAの捜査官の1人は暴力を使った自白を強要しているかもしれないと言っていた。早くしなければ…熱斗が…」
「その捜査官は暁シドウという男ですか?」
「あっ…あぁ。知っているのか?」
「えぇ。かつて世界でも有数の犯罪組織のエースとして活動、しかし物心ついた頃に疑問を持ち始めて裏切り、現在はWAXAのエースとなった相当な変わり種です。スターダストの計画の前進のアシッド・エースの装着者でもあります」
「彼が!?」
「しかし昨晩、同じく木場に命令無視の単独行動とスパイ容疑を掛けられ、確保されかかったところを捜査官10数名を振り切り、逃亡したとのことです」
「……じゃあWAXAに協力してくれる人間は…」
「いいえ。可能性がある人物はいます。こいつも相当な変わり種ですが…ブルース、資料を」
『ハイ、炎山サマ』
炎山は自身のナビのブルースに命じて、資料をロードさせる。
『ブルース!久し振りだね!』
『あぁ、ロックマン。残念だが、今回はお前とネットバトルしている時間は無さそうだ』
『うん…本当にごめんね、こんなことに巻き込まれちゃって』
『気にするな。無実の一般市民が巻き込まれているとなれば、助けるのは我々の当然の使命だ』
「WAXAの分析官の女で高いクラッキング技術を持っています。こいつにローカルネットで木場の端末に侵入してもらい、悪事の証拠を抜き取ってもらう」
「うまくいくといいが」
「最善を尽くします」
「そういえば、ニホンに来たのはいつ以来なんだい?」
「最後に来たのは電脳獣事件の時ですから、半年ぶりでしょうか。光や桜井の卒業式の後に顔を少し合わせたのが最後で」
「会社の方は?」
「アメロッパのI.P.Cエンタープライズの副社長から社長に昇格しました。ニホン法人の方は昨今のニホン経済の不況から、経営不振でしたが、株式を公開して何とか乗り切ったようです」
「…そうか、もうニホン法人は」
「もう経営者も株主も総変わりし、伊集院の人間は実質的に経営に関わっておらず、あくまでI.P.Cグループの一部でしかありません。しかし会社はその一族のものというわけではなく、多くの人の力によって支えられているということを考えば、当然の流れだったんだと思います」
炎山はいつもなら見せないような、寂しそうな顔をしていた。
I.P.Cは炎山の一族がニホンで創立し、かつてはニホンに本社があった。
ニホン法人があったからこそ今の世界有数の大企業としての立場もある。
本社がアメロッパに移り、大企業の御曹司として何不自由無い生活を送ることができている現状でも、やはり自分たちのルーツが自分たちの手を離れて羽ばたいていくのは、子供の成長を見てきた親としての気持ちのようであり、何処か寂しくなってしまうのだった。
しかしその寂しさを吹き飛ばすように、祐一朗の電話が鳴った。
「ん?誰だろう?はい、光」
『おじさん。私、メイルです』
「メイルちゃん?」
「桜井…?」
電話の主は秋原町の家の隣に住んでいる熱斗の幼なじみの桜井メイルだった。
声には誰が聞いてもすぐに不安を覚えているのが分かった。
炎山もメイルとは今まで熱斗とともに何度も会ったことがあり面識はあった。
それどころか一度は気になったことのある相手だ。
「どうかしたのかい?」
メイルが直接、祐一朗に連絡をしてくることは珍しい。
PETやパソコンの調子が悪い時の相談ですら、熱斗を通じてしている。
一応、お隣さんとはいえ、息子が昔から仲良くしている程度であまり自身の交流は無いのだ。
「実は…昨日から熱斗と連絡が取れなくて。何かあったんじゃないかと思って…」
「あっ…あぁ。熱斗は…その…出かけた先で全線運転見合わせになって…」
「嘘、おじさんが言葉に詰まるなんて、何かあったんでしょ!?」
「落ち着いて、メイルちゃん!」
「熱斗は大丈夫なんですか!?」
メイルは気が気でなかった。
完全に冷静さを欠いている。
恐らく祐一朗同様、昨日から心配で眠れなかったクチだ。
少しヒステリック気味になっているのは、疑いようがなかったが、それは祐一朗も同じだ。
祐一朗のためにも、メイルのためにも、話をうまくまとめる必要があった。
「…桜井!」
『!?…え?』
「オレだ、伊集院炎山だ!」
『炎山…?どうしてあなたが…』
「いいか?落ち着いてよく聞け。もう隠していても仕方がない。正直に言う。光は今、政府関係の極秘機関に誤認逮捕され、自由が効かない状態だ」
『え!?熱斗が…』
炎山は会話に割って入り、現在の状況を何のオブラートに包むこともなくメイルに伝えた。
正直、今のメイルには衝撃の事実だろうが、何も分からずに想像を掻き立て、自分を追い込んでいくよりはずっといい。
「しかしオレが必ず光を開放してみせる。約束する。だからキサマは落ち着いて待っていろ」
『…炎山』
「それより、デンサンシティにネビュラに次ぐ、新たなダークチップシンジゲートが入り込んでいる。光を開放し次第、そちらに向かう」
『ダークチップ?...じゃあ、最近起こっている事件は…』
「そうだ。ダークチップ、並びに武器の売買も行う危険な連中だ。用心しろ。もしかすると後でキサマに協力を仰ぐことがあるかもしれん。端末の電源を切るな」
『…分かった』
「あと用心の為に家からは出るな。外出するなら最低限にしろ。何かあったら連絡をよこせ。オレのプリペイドの番号は後からショートメッセージで送る」
『…ありがと、炎山。心配してくれて』
「ッ、バカ。勘違いするな。光だって、キサマに心配を掛けることは望んでいないだろうからな…それにキサマに何かあっては、光に何を言われるか分からん」
そう言って炎山は電話を切った。
いつもは冷静で顔色を変えることが少ない炎山が少し顔を赤らめていた。
「変わったね、炎山くん。何というか…初めて会った時に比べて、歳相応になったというのか…丸くなったというのか」
「フッ、オレは大して変わっていませんよ」
「そうかな?」
「強いて言えば、あいつらという仲間ができたことくらいです」
炎山は少し大人の余裕を見せながら、左腕の時計を確認した。
TAG Heuer・カレラ ツインタイム、自動巻きキャリバー7を搭載し、黒文字盤に映える赤のGMT針により、ニホンとアメロッパの時刻を同時に確認できる。
炎山がオフィシャルの人間として活動する時に使う時計の1つだった。
任務の内容になって使用する時計も変える。
衝撃が伴う過酷な現場では堅牢性の高いアクアレーサーのようなダイバーズウォッチ、時間の測定が必要な場合ならクロノグラフを搭載したモデル。
もちろん家柄が良いだけに、これ以上に高価な時計は幼少の頃から何本も所有してきたが、価格が高ければ良いというわけではない。
材質や宝石が多く使われているといったことや、ブランド力、複雑な構造の為に美しいなどという理由で高価なものは炎山は嫌っていた。
パーツの数が少なく、構造も分かりやすい方が性能や耐久性、そしてそれを実現する技術力は高く、メンテンナンスもしやすいのだ。
よくパーティーに出ると、意外に思われることも多いが、PETやトランサーなど良い物を世界中の人々に手頃な価格で提供できるように努力してきた側の人間だからこそ、本当の意味で物の価値を見極められる目が備わっている。
「9時ちょうど…」
実を言ってしまえば、炎山も昨日の祐一朗からの電話の後、熱斗の事が心配であまり休むことができていなかった。
だが一番不安なのは、いきなり意味も分からぬままに拘束されて、拷問を受けている熱斗本人である事は疑いようがない。
それを思うと眠気や疲れなど感じている余裕は無くなっていた。
後書き
というわけで、ようやく?炎山&ブルースの登場です!
原作と共通の部分あり、成長した部分ありということで、ファッションや態度も少し大人にしようとしたつもりです。
あとマグメタルはエグゼ5の設定のままです。
エグゼ5のラストでチームメンバーがやられていく中、マグメタル入りのお守りを持っていた熱斗だけが無事でした。
これが今後、どう繋がっていくのかも気にしていてもらえると嬉しいです。
そして高垣美緒の秘密、細書に彩斗の前に病院で登場した時と前回の学校で登場した時は少し態度がキレやすいというのか、若干の違いがあるように書いていたのですが、分かりづらかったですかねm(__)m
まさか電波変換するとは...でも最初に構想を考えた段階で電波変換するというのは決まってしました。
これでValkyrie側の電波人間が2人、知らぬ間にスターダスト、不利になってます(笑)
本当は今回、シドウも登場する予定だったのですが、少し文章が長くなりすぎるので、次回に回しました。
感想なんかがあれば、気軽に書いていただけると嬉しいです。
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