リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた
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第二十一話
フッ・・・と、フェイトを縛り付けていた触手の拘束が溶けた。解けたというわけではない。消滅したのである。
「・・・・・・え・・・?」
フワッとした一瞬の浮遊感。予想だにしない開放に、疲弊しきったフェイトは対応出来なかった。
「あ・・・キャーーーーーーーーーー!?」
落下した。地上数百メートルの高さから、フェイトは放り出されたのだ。だが、彼女も高度な戦闘訓練を受けた身である。混乱しながらも、即座に飛行魔法を発動しようとして・・・絶望した。
「飛べない・・・!?」
魔法がキャンセルされた。確かに、原因不明の魔力消失現象によって彼女の魔力はほぼ底をついていたが、それでもほんの少しの間なら飛ぶこともできた筈だった。しかし、構築した魔法式は、まるで圧倒的な力で引き裂かれるようにして破壊しつくされ、更に使用した魔力さえも消え去った。
「どう・・・して・・・!?」
経験したことのない状況に、頭が真っ白になるフェイト。もう一度飛行魔法を発動しようと試みるも、今度は発動すら出来なかった。地面はグングン近づいている。バリアジャケットすら起動できず、生身のままの現状では、このまま落下死を免れることが出来ないだろう。
「――――――――――――ッ!!!」
声にならない叫びを上げながら落下していく彼女の心を、絶望が包み込む。
(死ぬ・・・)
そう思ったその瞬間、
「間に合え・・・!」
その声が聞こえ、彼女の体は淡い光に包まれた。それは、ユーノがかけた落下制御の魔法。何故かフェイトとは違って魔法を発動することが可能だった彼は、フェイトを見捨てずに救い出していた。同じようにユーノに魔法をかけられたアルフと、気絶したなのはもゆっくりと地面に到着する。
「た、助かった・・・の・・・?」
「フェイト!!!」
自分が助かったことを信じられない気持ちで確認するフェイトと、そんな彼女を強く抱きしめるアルフ。
「・・・・・・・・・。」
そんな二人を、冷たい瞳で見下している男の姿が、後ろにあった事には誰も気がつかなかった。
★★★
(助かった・・・か)
フェイトやアルフが生きている事を喜んでいる・・・訳ではない。葵は、若干の苛立ちすら含めた冷たい視線で、フェイトとアルフが助かった事に胸をなでおろしているユーノを睨みつけた。
嘗てない程の怒りを感じる。
(余計なことしやがって・・・!)
確実に殺すつもりだった。葵は、それほどの憤怒を、憎悪を抱えていたのである。
だからこそ、新たに手に入れた力を使って、フェイトたちの魔法発動を妨害したのだから。ハッキリいうとユーノもどうでもよかったのだが、なのはが気絶していたため、彼女を救わせる為にユーノだけは魔法を使える状態にしていたのだ。そうじゃなければ、今頃は三人ともコンクリートの染みとなっていただろう。
ただでさえ、ユーノは地球の魔力が体に合わずに衰弱している。おまけに、葵のせいで残存魔力はほぼ空の状態だ。自分となのはを助けるだけで精一杯だと思ったのだが、思った以上に頑張ったようだ。今も、すぐにでも倒れてしまいそうになっている。
正直言って、今すぐにでも殺そうと思えば簡単だ。何故彼が落下死などという迂遠な方法を選んだかといえば、それが管理局に対する言い訳になるからである。
自ら手を下したのでは、葵は正真正銘犯罪者となってしまう。だが、暴走体が自らフェイト達を投げ捨てたのなら、それは事故だ。葵は助けようとしたが、運悪く間に合わなかった。そう言い張ることができる。多少怪しくても、証拠がなければいくらでも言い訳できる。それを狙っていたのだが、ユーノに防がれてしまったようだ。
何故、彼がフェイトたちを殺そうとしたのか?
それは、彼の本質を考えれば簡単にわかる。
彼は、自己中心的人物だ。別に、協調性がないというわけではない。だが、究極的には自分の命が一番大事であり、それ以外はゴミにも等しい存在なのである。自分に害が及ばない範囲で人助けもするが、命が危険に晒されればアッサリと見捨てるだろう。
そんな彼は、フェイトとアルフの凶行のせいで死んだ。実際には仮死状態だったのだが、そんなこと彼には関係ない。二度と体験したくないと狂おしいほどに願った、命を失う感覚。一寸先も見えない闇の中に叩き込まれて、徐々に自分が消滅していくあの恐怖。それを再び彼に味あわせた事が、万死に値する罪であった。
勿論、葵を殺したのは暴走体である。それは間違いない。・・・しかし、フェイトたちの愚かな行為がなければこの暴走体も生まれてはいない訳で、だからこそ、葵は自分の死の原因はフェイト達にあると憎んでいた。
(分かっていたさ。フェイトがジュエルシードの暴走をさせることは。子供だからと、アニメだから笑うこともできた。・・・だけど、現実に俺の命が奪われた。現実になるとここまで憎いものだったか・・・!!!)
ゆえに、彼はフェイトを救済するという願いをアッサリと撤回して、彼女を殺そうとした。彼女たちを縛っていた触手を消し去り、魔法の発動も妨害して。結果的にはユーノのせいで生き残ってしまったが、ほんの少し・・・本当に少しだけ溜飲も下がった。怒りで沸騰しかけていた頭がほんの少しだけ冷静になる。
(俺が直接手を下す訳にはいかねえしな。あくまでも事故に見せかける必要があったんだが・・・しょうがない。今ので死ぬということがどういうことか、少しでも分かっただろう。・・・ただし)
ギリ、と歯ぎしりして、葵は小さく呟いた。
「次は・・・ない。」
後書き
遅くなりましたー。いや、遅くなったのは、本当に葵さんはこの方向性でいいのか?と自問自答して、何回か書き直していたからです。作者はフェイト好きですよ?別に殺したいわけじゃありません。ただ、葵を主人公として書いてる以上、彼の命を脅かす人は、総じてこういう目にあうのです。
まあ、フェイトたちもこれ以上悪いことにはなりません。
あと、次から葵は正真正銘最強の存在になります。書いててちょっとヤバイ能力付けちゃったかもと思ってるけど、元々エヴォリミットってそういう作品だよねってことで、許してくだせえ
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