大地はそこに
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5部分:第五章
第五章
「それじゃあここで」
「待たせてもらいます」
「わかりました。それじゃあ」
こうしてだった。三人はその老人が食べ物を出すのを待つのだった。
老人はすぐにだ。そこで穴を掘りはじめた。それは結構な深さだった。
「あれっ、まだですか?」
「まだ掘るんですか?」
夫婦はだ。老人が自分の腰の辺りまで穴を掘ったのを見て驚いた顔で話した。何とそこまで掘るのにだ。瞬く間で進めたのである。
「もう腰まで掘ってますけれど」
「まだですか」
「はい、まだです」
ガイドさんはまた二人に話す。
「まだまだ掘りますよ」
「まだまだって」
「それじゃあ水が出ません?」
「そうですよね。これだと」
「水が」
「ああ、日本じゃそうですよね」
ガイドさんは夫婦の言葉を聞いてだ。笑顔で話すのだった。
「ある程度掘ったらそこから水が出るんですよね」
「ここじゃ違うんですか」
「オーストラリアは」
「残念ですがそうはいかないんですよ」
ガイドさんは苦笑いになってだ。それで話すのだった。
「この国の大部分は乾燥してまして」
「そういえばここもですね」
「乾燥してますよね」
「はい、水には恵まれていません」
それがオーストラリアだというのだ。この国は確かに広い。しかしその大部分は乾燥しているのだ。中央部は砂漠になっている。
「それでかなり掘っても」
「水は出ないんですか」
「そうなんですか」
「人間で水を掘り出すのはかなり難しいですね」
そこまでだというのである。
「その点は日本が羨ましいですね」
「確かに。日本は水にはあまり困ってはいません」
「殆ど」
「ですよね。まあそういうことで」
ガイドさんはこのことを軽く話してからだ。それからだった。
あらためてだ。夫婦にこう話した。
「水ではないです」
「食べ物ですよね」
「それですよね」
「甘いですよ」
ガイドさんはまたこのことを話した。
「甘い食べ物です」
「甘い。お芋でしょうか」
「そうしたものですか?」
日本人の夫婦はそれではないかと考えた。地面の中にあるものだからだ。
それでだ。ガイドさんに対して自分から話した。
「オーストラリアでもジャガイモを食べますか」
「そうしますか」
「食べますよ、かなり」
それはその通りだというのだった。
「ですが」
「ここではないですか」
「ジャガイモじゃないですか」
「はい、ジャガイモは甘くないですし」
冗談も入れた。味覚の話もするのだった。
「ですから違います」
「そうですか。違いますか」
「じゃあ一体?」
「何でしょうか」
「甘いと聞いてますけれど」
「ですから。それはお楽しみです」
こう話すのだった。ガイドさんはあえて多くを話さなかった。
そのうえで老人が穴を掘っていくのを見守る。暫くするとだ。
老人がだ。満面の笑顔になってガイドさんに顔を向けてきた。既に穴は老人の背丈と同じだけの高さになっている。そこからだった。
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