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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第六十六話

「でも結論を急いじゃ駄目ね。とにかく、出来る範囲でデータを集めないといけないわ。……さあ、行くわよ」
 そういって王女はズカズカと歩みを進めていく。
 俺も慌てて彼女を追った。

 ―――。

 事件のあった公園は駅から歩いて数分の場所にあった。
 モノレールの高架下を有効利用すべく、その空き地を利用して作られている。両脇を道路が走っているせいか、子供の飛び出し防止の為に俺の背丈より高い金網のフェンスで周囲を覆われている。周囲に植栽をしていないのは道路から全く見えない構造とすると変質者が隠れるのに最適となりまた行動を起こしやすいということかららしい。
 そして、出入り口は2カ所ある。
 中にはベンチが4個。水飲み場と砂場、ブランコと滑り台がある。また、筋トレ用の器具らしいものが何個か置かれている。
 また、植えられた植栽は俺の腰ほどまでしかないような低木だ。
 全て外からの目を意識させるような安全設計となっている。
 一部の柵の付近にはブルーシートで急ごしらえのテントの様なものが作られている。
 ……あそこが事件現場なんだろうか??


「あれ?、……誰かいるわよ」
 王女が声を上げた。
 見ると公園の反対側の道路には白黒ツートンのパトカーが止まっている。よく交番に止まっているのタイプのリッターカーの4ドアセダンだ。
 そして柵で囲まれた公園の2つの出入り口にはそれぞれ制服警官が一人づつ立っていた。
 パトカーから近くの交番のお巡りさんだな……。

 退屈そうにあくびをこらえてるのがこの距離からもわかる。
 こんな時間まで立たされているなんて、仕事とはいえ、地方公務員も大変なんだな。

「こりゃまずいな。まさかこんな時間まで警察がいるなんて。誰もいないって思ってたんだけどなあ」
 俺は頭を掻いた。現場検証も終わってるし、夜中だから誰もいないってふんでたんだけど、とんだミステイクだ。人が、しかも警官が二人もいたんじゃあ手が出せない。広大な公園なら柵を飛び越えて侵入しちゃうんだけど、あいにく空き地に作られたような公園だ。中に侵入して何かしていたら二人のお巡りさんから丸見えだよ。
「しまったなあ。これじゃ現場が見えないよなあ」

「シュウ、何を悩んでいるの? 」
 状況が理解できないのか、王女が怪訝そうに見る。

「だって警官が二人も立っているだろ? これじゃあ公園の中になんて入るどころか、近づくこともできないよ。未成年がこんな時間にウロウロしているだけでも補導もんだよ。しかも、ここは殺人事件の現場なんだ。しかも犯人は捕まっていない。もうそれだけで何考えてるんだってやつだよ」

「ふーん。そんなことで悩んでいたの? 馬鹿馬鹿しい」
 あくまで王女は余裕なんだなあ。何も考えてないかもしれないけれど。

「いやいや、どう考えても彼らに見つからないように公園に入れないよ。あんな何の遮蔽物もない、しかも大して広くも無いところだ。仮に見つからずに入ったとしても両方の入り口から事件現場は丸見えなんだから絶対に見つかるよ。こりゃ現場検証とはいかないなあ」

「……馬鹿馬鹿しい。そんなことで何故頭を悩ます? 馬鹿は必要以上に考えないほうがいいわよ。すべて私に任せればいいわ」
 そういうと、ツカツカト彼女は歩き出した。

「お。おい……」
 止める暇も無く、一直線に公園の入り口へと歩いて行く王女。
 俺は慌てて後を追う。
 真夜中の公園。横を走る道路に通行車両は全く無い。最終のモノレールもだいぶ前に出発している。当然だけど辺りは、しんと静まり返っている。歩く音が高架に響く。それはかなりの音に聞こえてしまう。
 すぐに足音に気づいた警官がこちらをみた。
 こんな夜中に、殺人現場となった場所に女の子がいるはずがないという先入観で警官は一瞬、目を疑ったようだ。夢か何かと思ったのか右腕で両目をごしごしと擦り、もう一度こちらを見、やっとこれが現実だと気づいたようだ。
 俺の存在も見つかった。

「こらお前ら、こんな時間に何をやってるんだ! 」
 我に返った警官が駆け寄り、王女を見下ろす。30歳半ばぐらいの制服の上からもがっしりとした体格だと分かる男だった。背丈でいってもおれより10センチくらい高い。

「別に。……これから事件のあった公園を見たいんだけど、だめ? 」
 何事も無かったように王女が言う。
 意味が分からなかったのか、警官はポカンとした顔をしたと思うと、王女の異常な言動を聞き、怒鳴りだした。
「こんな時間にチビが何をやっているんだ? 今何時だと思っている? 子供がこんな時間にうろつくなんてどういうことだ」
 そして俺に気づき俺をにらみ付ける。
 俺を見、王女を見て腕組みして遠くを見つめる。そして再び二人を見、どうやら結論に達した模様。
「ん? お前はこの子とどういう関係だ? こんな時間に小さい女の子を連れまわしてるのか? ……どうみても兄妹には見えないな。は! ……さては!! 」
 男はすばやく動くと、俺の右腕を両手で掴んだ。

「え? 」
 驚く間もなく右腕はねじられて後ろに回される。
 たぶん痛いんだろうな。
 ……普通の人間なら。

「佐藤!! 来てくれ」
 警官は叫ぶ。
 公園の反対側に立ってたもう一人の警官は、こちらの男の声で俺たちが現れたことには気づいてはいたみたい。成り行きを見ていた積極的にかかわるつもりはなかったようだけど、呼ばれたことで慌てたように駆けてくる。

「どうしました? 田中さん」
 もう一人の男、佐藤と呼ばれた警官はまだ20代前半に見える、その割りにちょっと小太りで色白の男だった。気弱そうな眼で上司であろうと思われる田中を見る。

「このガキ、その女の子を連れまわしていたようだ。この子が助けを求めてきた。補導するぞ」

「え? ……えー!! 」
 俺は締め上げられながら愕然としてしまった。 
 なんと! どうやら俺が王女を深夜に連れまわしていて、隙を見て逃げ出した王女が警官に助けを求めたというシナリオがこの田中という名の警官の脳内で作り上げられたみたいだ。
 さっき王女が言った現場を見せろという話は記憶から消えている。

 たしかに、知らない人間から見たら、この金髪の美少女がこんな夜中に殺人事件のあった公園に来るということ自体がありえない。そしてその少女を追いかけて現れた高校生。二人は似ても似つかない顔をしている。つまりは肉親じゃない。イコール、少女は誘拐されていて逃げて来たのだ……。
 やれやれだ。

 佐藤という男もすぐにその推理に納得したようだ。しゃがんで王女の目線に合わせるとやさしい声で語りかけている。
「もう大丈夫だよ、怖かったかい? おじさんたちが守ってあげるから安心しなさい。あの変態野郎はもう一人のお巡りさんが取り押さえているから大丈夫だよ」

「まじですか? ちょ、ちょっと俺の話を聞いてくださいよ」
 俺は声を上げ体をねじる。

「静かにしろ、このロリコン野郎。ぶっ殺すぞ」
 しかし、即座に、警官とは思えないようなドスの利いた声で背後から田中が話すと同時に腕をねじりあげる。

俺でなければ悲鳴を上げているくらいの力技だぜ。
 これは不当逮捕だ。人権蹂躙だ。公権力の横暴だ。ありえないありえない。

「姫、なんとか言ってくれよ」
 暴力には暴力で応酬してもいいんだけど、そんなことしたら大変だ。俺は仕方なく王女に助けを求めた。
 彼女が否定してくれたら、それですべてが解決するんだしね。夜中にうろついていたことは仕方ないけどまあ謝ればすむんじゃないかなって勝手に思っていたし……。

 王女の瞳を見た時、俺はなんだかいやな予感がした。本能的な危険? いや単なる悪戯心かな。そんな無邪気な残酷さといえばいいんだろうか? そんなものが彼女の瞳に浮かんだように見えたんだ。

「なあ、姫ったら! 」
 俺は嫌な予感とうざったさの入り混じった気持ちで再度求める。
 王女は俺の目を見て、その後、佐藤と呼ばれた警官を見た。
 次の刹那、唐突に、ありえないくらい唐突に瞳に涙を浮かべると、警官の影に隠れるようにしがみ付き、声を上げた。
「こ、怖かったよ~。こ、この人がずっと私の後をついてきて、怖くて、恐ろしくて、でも逃げられなくって、どうしようもなくって。うぇっうぇっ!! 」
 涙声で訴えやがった!

「貴様ぁ!! 」
 警官二人が同時に声を上げた、……明確な敵意を持って。
 どう見たってか弱そうな女の子が涙ながらに、おびえた声で助けを求めたら、まあ普通はこんな反応だな。
 俺は冷静に思ったんだよ。
 かなり頭にきてたんだけど。
 またやられたよ。
 
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