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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第205話 絆の温もり

 
前書き
~一言~


遅くなってしまってすみません! 何とか、1話完成しましたので、投稿しますっ! GGOでの世界の戦いもこの話を除けて後1話となってきました! 次の話は早く投稿できる様にがんばりますっ!!

 最後に、この二次小説を見てくださって、ありがとうございます。これからも、頑張ります!


                                 じーくw 

 




 死神《赤羊》vs RYUKI


 両者の戦い、それを言葉で表すとすれば、 白熱、熾烈な戦い、大熱戦、大激戦。等 と言う言葉がふさわしいだろう。

 この戦いを観ている観客(ギャラリー)達は沸くに沸く。第3回BoBの最終決戦にふさわしい戦いだと、大盛り上がりをしている事だろう。

 ……だが、その内情は全くと言って良い程違う。

 そんなスポーツの様な、ゲームの様な、そんなモノではない。それは 大切な者の命を賭けた戦い。ゲームでも、遊びではない。他者の命を背負った戦い。

 だからこそ、画面越しであっても、気迫が有り得ない程伝わり、そして その結果がこの状況だった。だが 時折、それは銃撃の合間。……何名かは、息を呑む者もいた。その得体の知れない緊迫感が伝わったのだろうか……?


 2人の戦い。


 死神が、短機関銃(サブマシンガン)で リュウキを薙ぎ払うかの様に 連射したかと思えば、その攻撃範囲には既にリュウキはおらず、一気に接近をされる。リュウキは すかさず、近接戦闘(CQC)スキルを駆使して、死神を自分の土俵へと引きずり込もうとする。……が、気配をいち早く察した死神は、それをバックステップで回避。攻撃範囲外へと跳躍する様に回避したのだ。
 
 その反応だけを見れば、死神は近接戦闘(CQC)スキルは上げていないのだろう。

 勿論、培ってきたもの、フルダイヴ慣れをしている者であれば、自身の身体を巧みに動かして、攻撃。つまり、デフォルトの攻撃、回避方法でいくらかは戦える。 

 だが、当然ながら、スキルに頼らないデフォルト技と専用スキルとでは 有利性(アドバンテージ)に差がかなりあるのだ。ヒットした時のダメージ量やその判定。攻撃の速度等があり、押し切られてしまう可能性が遥かに高い。
 勿論、スキルに頼ってばかりの相手であれば、他愛もないと思われる事だが、今は互いが歴戦の戦士と言っていい技量の持ち主達なのだ。ほんの少しの慢心やミスが命取りになる事は 2人には言うまでもない。

 だが、さしの死神もリュウキの銃の世界での技量に関しては驚きはあった。

 あの日、キリトとリュウキの予選の決勝戦。

 死銃は それが始まる前にログアウトを、そして 死神も同様であり見ていない(・・・・・)のだ。それが 誤りだったかもしれない。


――……剣の世界(SAO)銃の世界(GGO)は違う。


 そう、それはかつて リュウキがキリトへと言った言葉だ。
 それを 死神もリュウキに対して意識していたのかもしれない。ナイフをあの世界で言う剣に見立て、その攻撃手段を組み込んだ格闘術、近接戦闘スキルで戦っていたのだから。
 だが、この世界で絶対的な威力を持つのは ()ではなく()。キリトが光剣を使用し、勝ち続けているが、それは 他のプレイヤー達が剣に慣れていないからだ。剣にも慣れていて、更に銃にも慣れている。

 この世界に来て、死銃の伝説を作る為に この世界での己を鍛えてきた自分達には 届かない、と何処かで思っていたのだ。

「(やはり、鬼は 強い。……銃には、あの世界(・・・・)程は出来ない、そこまで扱う事が出来ない、と思っていたが、随分と浅はかな考えだったな)」

 雨霰の様に弾丸を撃ち尽くしては、装填(リロード)を繰り返す。
 もう、短機関銃(サブマシンガン)で 何発撃ったのか、そして何発回避されたのかさえ分からぬ状況だった。

 銃を破壊され、そして あからさまな挑発をされ かつての記憶、打ち負かされたえも言えぬ敗北の記憶を鮮明に思い出さされ、煮えくり返る思いだったのだが、ここまで 攻撃を躱され、撃たれもすれば 無理矢理にでも冷静さが出ると言うものだった。

 だが、同時にこみ上げてくるモノもある。

「く、くくく……」
「……? 何がおかしい」

 抑えきれない笑みは、その表情に現れ、そして言葉となって周囲に響いた。リュウキもそれに気づき、銃とナイフの構え、そして警戒こそは解いてはいないが、撃ち合いから初めての対話だった。

「正直、ここまでとは思ってなかった。……銃破壊。あの世界ででも、お前は、いや お前達、か。お前達は 武器破壊(アームブラスト)を得意としてきたんだった。あの程度、造作もない事だろう」

 ククリナイフをくるくると回しながら言う死神。その表情は何処か余裕が見えて取れた。


――……この先で、何かがある。


 リュウキはそう、察した。
 いや、何をしてくるか もう判っていた。これまでの撃ち合い。まだ 死神は実力の全てを出し切っていないのだから。認めたくはないが、死神の技量は間違いなく一流。超一流だ。その上で、まだ見せてはいない。……油断など、リュウキには欠片もない。

――あの時(・・・)、見せたモノを、使っていないのだからから。


「出し惜しみをするのも、勿体ぶるのもありえない、か。また ご覧に入れようか……死神の業を」

 死神は、ゆらりと身体を揺らせた。その纏っている光学迷彩マントも妖しく揺らいでいる。不気味な程、ゆっくりな動きだ。この程度の動きであれば 近接での撃ち合いであったとしても、それなりに敏捷値(AGI)が高ければ回避出来るであろう程の速度。闇風と比べたら圧倒的に遅いとまで言える程度だ。
 
 だからこそ、不気味だった。

 仕草の全てが。

「これは……死神の、弾丸(さばき)。生者を逃さぬ、死の楔」

 死神がそう呟いた途端、だった。
 何処からともなく、1発の銃声が轟いた。


 間違いなく、死神は銃を構えていない。ナイフもそうだ。銃は もうあの短機関銃(スミオKP/-31)のみ。セミオートで撃てば、乱射せずに単発発射は可能だが、話の肝はそこではない。

「っっ!!」

 リュウキの腹部に赤い斑点が出来ていたのだ。
 それは、これまでにも、何度も見た事がある銃撃を受けた証拠(ダメージ・エフェクト)だ。まるで、現実世界で言う血を流しているかの様に、赤い斑点から 赤い粒子が宙に舞った。

 突然の衝撃にたたらを踏んでしまうリュウキだが、それは一瞬だった。直ぐにバックステップをして、距離を取った。

「ちっ……」
「……鎌ではなく、この世界に因んで。……死神の見えない弾丸。お気に召しましたかな? ……鬼よ」

 目の前には、そこには、これまでで一番の笑みを、……歪な笑みを浮かべた死神がいた。






















――リュウキくんっ!!!


 玲奈は、悲鳴を危うく喉の手前で押しとどめた。
 悲鳴を上げれば、キリトの元にいる姉の明日奈に伝わる。……心配を、また 掛けてしまうから。姉には キリトの事を看ている筈だから。

 今、見たのは有り得ない光景だった。
 
 妖しく揺らぐマント。そして不気味な程のゆっくりと動く身体。
 そして、いつの間にか判らない。リュウキの身体に赤い斑点が浮かんでいた。それは ダメージエフェクト。あの世界でも、見た事がある。あそこまで滑らかな円の傷は見た事がないが、本質は同じだ。

 撃たれた。という事だ。

 幸いな事に、連射され 穴だらけにされた訳じゃない。だから、リュウキは大丈夫だった。それでも、クリーンヒットをこれまで許していなかったリュウキが先手を撃たれた事に驚きを隠せられなかったんだ。
 そして、直ぐ傍にあるモニター装置が刻む電子音のテンポが上がった。その電子音が示すのは心拍数。如何に表情に出さない彼であったとしても、その心の内を感知する機械までは誤魔化す事は出来ない。心拍数は140bpmまで急速に上昇。そして、動きこそ緩やかになっているが、まだ上昇を続けている。

 眠っているリュウキの額からは、汗がにじみ出ている。……そして 眠っている身体の筈なのに、その表情はいつも見ている穏やかなものじゃない。……僅かに苦しそうな表情に変わっていたんだ。

「……現実世界で、出来る限りのケアをしてから、ダイブをしてもらってます。だけど、心拍が上がり、発汗が進めば 脱水も考えられます……。綺堂さん」
「……いえ、大丈夫です。……アミュスフィアは、脳内血流も監視しています。……危険な程脱水症状が進めば 自動カットオフをする筈ですよ。………」

 綺堂は表情を強ばらせていた。

「そう、ですよね。一度、ログアウトして……と言う方法も、他のゲームであれば 取れる手段ですが、ここで リュウキくんに何を言っても、聞こえませんし、……そもそも、今はBoB大会中です。ログアウト機能も殆ど停止しているんです。……リュウキくんっ」

 玲奈は、心配そうにリュウキを見ていた。

 このGGOに限らず、ALOでも施されている措置だ。形勢が不利になったプレイヤーの《投げ落ち》を防止する為に、だ。実際に それをやられてしまうと場が白ける事が夥しい。多数のクレームを経て、今の機能を導入したのだ。
 だが、それでも身体に悪影響を及ぼす様な状態になれば、安全装置が働く様にしているから、大丈夫の筈だけど、心配は尽きない。

「大丈夫、です。玲奈お嬢様。……これはアミュスフィア。……あの機械(・・・・)とは違います。坊ちゃんに危険はありません。……それに、坊ちゃんは 負けませんよ。……誰かを守ろうとしている者は強い。私は、それを学びましたから」

 綺堂は 玲奈に微笑みかけた。
 自分自身も、リュウキの事を。……隼人の事を心配しているのに。脱水を起こすのであれば、点滴でも施して処置する方法だってある。血中に直接送り込むのだから、給水よりも余程効果が見えるだろう。
 だけど、それをすれば、あの時に逆戻りをしてしまう。……綺堂にとっても、あの事件は悪夢だったから。

「リュウキ、くん……っ」

 声を殺しながら、リュウキの名を呟く。
 そう、何かを守ろうとする時の彼の強さは よく知っている。

――……ゲームオーバー=死。

 絶対のルールがあったあの世界で、その死さえ、超越し 友に力を貸した。全てを覆して、皆を守ってくれた。……そして 更にその後も 自分を、助けてくれた。……約束を守ってくれた。会いに来てくれた。
 
――……あの時も、今も、何も出来ないのだろうか?

 玲奈は思わず泣いてしまいそうになる。あの世界では最後に見守る事しか出来なかったから。死なないで、と縋る事しか出来なかったから。

 何か、何かせめて出来ることはないか。すぐ隣にいながらも、遥か異世界で誰かを助ける為に戦い続けている彼に、何かを届ける事が。

『お姉さん。ママ。手を』

 不意に、携帯端末から小さな声が聞こえてくる。ユイの声だ。

『お兄さんの手を握ってください。ママも。……2人の手の暖かさなら、きっと、きっと2人に届きます。お兄さんとパパに。 わたしの手は、そちらの世界ででは、ありません。触れられません。……だから、わたし、わたしのぶんも……』

 後半部分は、大きく震えていた。
 ユイも、今の中継を見ている筈だ。だからこそ、同じ気持ちだったんだろう。リュウキとキリトの戦闘も見ているから。死闘と言っていい戦いをしているのは、リュウキだけじゃないく、キリトも同様だった。



























 少し時間を遡る。

 

 死銃《Sterben》 vs kirito

 序盤はキリト優勢だったのは言うまでもない。
 どんな勝負でもそうだが、真剣勝負、それも 戦いにおいては精神状態が勝敗を左右すると言っていい。死銃は リュウキの正体を知ったその瞬間に、酷く動揺をしていた。
 リュウキの現実での 実績、どう言う人物なのかを詳しく知っているのだろうか? とも思える程のものだった。そこをキリトが すかさず攻撃した。
 
 近接戦においては絶大なる威力を誇る光剣(フォトン・ソード)《カゲミツ》だ。故にその一瞬で死神の胴体を斬りさき、HPの全てを散らす。速攻で決着をつければ、1:1が1:2となり、かなり有利となるだろう。如何に死神とは言え 元攻略組であり、最強プレイヤーとしても名高い《白銀の剣士》リュウキを相手にしつつ、リュウキと同じだけの評価をされている、と言われている《黒の剣士》キリトの2人がかりでは、抗えるとは思えない。
 それは、ラフコフのメンバーが誰よりも判っていると思えるだろう。

 だが、そこは腐っても SAO生還者(サバイバー)であり、元ラフコフの幹部だ。

 生死を賭けた、あの世界での殺しを続けていたのだから、精神の強さ その歪な精神力は一線を遥かに超えている。
 数合キリトと打ち合い、時間が立つにつれて、キリトの攻撃を掻い潜り、完全に反撃をするまでに至ったのだ。

「……鬼、が誰であろうと、する事は、変わらない。死銃と、死神で、絶望を与えるだけ、だ。……貴様を、葬った後で、な。黒の、剣士。絶望を、味あわせてやる!」
「ちっ……」

 キリトは、反撃を喰らってしまった為、バックステップをして 距離を取った。
 その実力は、間違いなく《強い》。と称する他はないだろう。

 スピード、バランス、そして タイミング。その全てが完成されている、と言っていい。この世界でリュウキとの戦い、……あの緊張感ある戦いがこの世界ででも、経験していなければ、殺られてしまったかもしれないと思えるほどだった。

「(流石に、一筋縄ではいかない、か。攻略組の中でもこれほどまでの業を持つ剣士はそう、いなかったはずだ……)」

 全員の正確な力量を把握していた訳ではない。
 だが、共に戦い抜いてきた戦友達だからこそ、その実力はよく判っている。……良い気分ではないが、人を殺し続けてきたこの男にも、狂気とも呼べる力が備わっているのだ。
 あの討伐戦の時は、ここまでの実力は無かった筈だ。幹部のプレイヤー達の殆どは、生き残っている筈だが、その中のプレイヤー達は 決して臆さず覚醒した攻略組のメンバー達の怒濤のラッシュを受けて、敗退した。……勿論、その中には死神やPoHはいなかったが。
 それでも、ここまでの実力は無かった。……あの戦いの時は。

 ここで、1つの仮設がキリトの頭の中を過ぎった。

 この男は、いや、恐らく死神も含めて 変わったのだろう。攻略組達に黒鉄宮の牢獄に閉じ込められた半年間。……暗く冷たい牢獄に閉じ込められた連中は 復讐の刃を研いでいたのだと言う事を。
 経験値やコルは 確かに戦いを経験し続けなければ得られない。だが、ソードスキルは、反復練習を只管おこなう事で、得られる強さとなるのだ。……故に、何千、何万と言う動作を繰り返し、行ったのだろう。動揺したとしても、身体が反応し まるで自動防御(オートガード)のスキルが備わっているかの様に。

「殺す、ころす、コロス!」 
「簡単に殺られる訳にはいかないぜ!」
 
 キリトは何とか、その恐るべき剣速を掻い潜っていた。
 相手は狂気の顔をしている事は、掻い潜りながらも、感じた。……一目瞭然だった。その不気味な仮面の奥では、表情がゆがんでいるのだろう、と。そして 赤い目が 一際輝きを増していたのだから。


――……リュウキのような、燃える様な赤い目じゃない。……血の様に、ドス黒い血の様な赤さ。


「ぐっ……!!」

 その目を見た瞬間に、キリトの動きが鈍った。その瞬間を逃さずに、死銃は連続突きを放つ。スラスト系上位ソードスキル《スター・スプラッシュ》。――八連撃だ。
 鋭利な針が次々とキリトを穿ったのだ。
















                                                                                                                                                       



―― キリトくんっ!!

 その瞬間を、キリトの身体に何度も突きつけるその刺剣(エストック)を明日奈も見ていた。玲奈と同じ理由で、限りなく声を殺しつつも、キリトの名前を叫んでいたのだ。

 玲奈と同じく、明日奈も何かしたい。力になりたい、と強く思っていた。それが、リュウキが劣勢に立たされたその瞬間と殆ど同期しているのだ。

 死神がリュウキを、そして死銃がキリトを、手にかけようとしている。……逸その事、アミュスフィアを無理矢理取り外したい、とさえ思ってしまう。だけど、それをすれば、今、守ろうとしている者の命が危険に晒されるのだ。だから、明日奈は懸命に押し殺した。

 でも、何か出来る事はないのか。と玲奈と同じく考えていた時、だった。ユイの言葉が、手を握って、と言う声が届いたのは。

『……わたしの手は、そちらの世界に触れられませんが……、わたしの……わたしのぶんも……』

 その声は、姉妹の端末を通じている。2人にも届いている。後半部分が震えている事も、勿論気づいている。
 だからこそ、取る行動が同じなのは、必然だった。

「ううん。そんなこと、ないよ」
『うん。そうだよ。ユイちゃん』

 明日奈の声が、玲奈の声が、端末を通してユイの左右の耳に伝わる。

「ユイちゃんの手もきっと届く。……一緒に2人を。パパとお兄さんの応援をしよう」
『りゅう……お兄ちゃんも、パパもユイちゃんの手が、気持ちが通じれば、きっと力が出るよ。……きっと、きっと。私も、リュウキくんだけじゃない。キリトくんの事、応援する。ユイちゃんを、伝わって、キリトくんを応援する』
「ん……。私もリュウキくんを。……ユイちゃんの手を繋いで、伝えて。……皆で、家族皆で」
『……はいっ』

 其々の場所で横たわる2人の身体の手に、携帯端末を握らせ、ユイに触れさせた。
 現実世界で、キリトとリュウキの2人に一度に触れられるのは、ユイだけだ。だが、ユイを通じて、明日奈の、玲奈の気持ちが其々、あの世界で懸命に戦い続けている家族に伝わる。


――頑張って。頑張って。わたしは、私たちはいつでも、いつだって傍にいるから。


 2人が思うのは同じ考え。同じ想い。 あの世界の闇が、再び蠢き、活動を始めたと言うのなら、自分達にも責任はあるんだ。今は何も出来ないけれど、せめて、せめて これだけは……。


 2人の手をきゅっと握り締めた瞬間、かすかに、そして確かに ぴくりと震えた。
























 場面は再びキリトと死銃。


 死銃が操る剣、刺剣《エストック》。

 細剣(レイピア)と同じく、刺剣(エストック)には絶対的とも言っていい有利性(アドバンテージ)がある。単純な攻撃力、と言えば他の武器に後塵を拝するだろうが、その鋭利な先端の刃は、獰猛と言っていい。如何に防御力を誇る装備をしていたとしても、容易に貫いてくるのだ。そして、その剣速。アスナ、レイナの双・閃光の異名もその速さから来ている。……防御不可能の攻撃を、目に止まらぬ、閃光の速さで放ってくるのだ。

 だが、ここで敗れる訳にはいかない。自分が敗北すれば、仲間たちが危険に晒される事が判っているからだ。現実世界での自分の肉体にはかすり傷1つ与えられないだろう。……だが、彼女だけは、シノンだけは違うのだ。全ての負担がリュウキ1人に掛かりかねない。

 死神がリュウキを足止めし、そして 死銃がシノンを襲う、とも限らない。

 あの黒い銃で1発でも撃たれれば、現実世界での共犯者がシノンに手をかける。

―― 一瞬で、良い。このラッシュをブレイク出来れば。

 キリトが懸命に弾きつつ、ブレイクのチャンスを伺っていた時だ。狂気と共に勝利も見えてきたと思ったのか、その死銃の赤い目がキリトを捉え、一際激しく点滅した。


 なぜ、だろうか……。この時、この瞬間。 あの世界(・・・・)での記憶がキリトの中に蘇ってきたのだ。







――……それは、討伐隊が出発をする直前のギルド、聖龍連合での事だ。







 最後のミーティングが行われた。……かつてのリーダーの為にも 決して負けられない、と強い意思と覚悟を胸に秘めて。

 その座上では、《ラフィン・コフィン》の陣容に関する情報が改めて周知されていた。
 その首領たる男《PoH》 No.1と畏れられる《死神》。判っている範囲の戦闘能力とその装備情報。そして 脇を固める幹部たちの武装とスキル、……外見。

 それらの情報が公開されている途中だった。不意に、クラインが自分に、いや 自分とリュウキに声を掛けてきたのだ。

『ったく、なんの因果があったのか。似たような色持ちが揃っちまってよ。お前ぇら。其々の《色》の相手と戦うなよ。どっちを援護すりゃあいいか、わからねぇからな』

 真剣に、真顔でそう言っていた。
 そう、幹部の1人、毒ナイフ使いのイメージカラーは黒だ。名前をジョニー・ブラック。
 そして、もう1人の幹部が、《赤》。

 リュウキと言えば銀色、つまり 白銀をイメージする者が多いだろう。だが、最前線で戦ってきた攻略組達からすれば、そうでもない。《もう1つの色》が、リュウキにはあるから。

 仲間達を守る為、自らの負担など顧みずに 何度も《あの眼》をして、戦っていたのだから。……連中が《鬼》と形容する切欠になった程のもの。










 そして、場面は再び変わる。

 周囲の景色が溶け出し、浮かび上げたのは、丘だ。





 そこは、あの事件、圏内殺人事件の最終地点、と言っていい場所、第19層・十字の丘だ。
 そこで、事件は解決をしたんだったが、それまでがある意味大変だった。……その場所にPoH、そして幹部2人が現れたからだ。


『格好つけが……。次はオレが()でお前らを追い回してやる』


 1人の男が、そう吠えた。
 ジョニー・ブラックではない。……その手には、刺剣(エストック)が握られている。


『テメーはオレとキャラがかぶって(・・・・・・・・)るんだよ。……その眼(・・・)、いつか抉り取ってやる!』



 リュウキに、その刺剣(エストック)を、向けていた。

 その記憶の世界で、やけに響いてくる単語に、キリトは気づいた。




――馬、赤い眼、……そして、刺剣(エストック)





 全ての符号が1つになり、1つの事実を導き出す。




















 再び、場面は現代・GGOの世界へと戻る。

「死ね!」

 死銃の刃がキリトの頭を抉ろうとした時だった。

ザザ(XaXa)。《赤眼のザザ》。それがお前の名前だ」
「っ!?」

 キリトの言葉が刃となり、死銃の……《赤眼のザザ》の脳髄を貫いた。この時、剣が止まったのだ。

 それは、……唯一にして絶好のチャンスだった。そして、更に思いもよらない援軍がキリトに向かっていた。


















 そして、場面は再び死神とリュウキの方へと変わる。

 思いもしない一撃を受けたリュウキだった。全く見えない。銃声だけが聞こえたと思えば、もう既に自身の身体に赤い傷をつけていたのだ。

「く、くくく…… やはり流石は、鬼だな……。だが、ここまでだ。お前を殺し、そしてあの女を殺すその瞬間まで、もう直ぐだ。……直ぐに見せてやる!」

 ニタリ、と笑う顔。顔面の十字の傷も不自然に歪み、白目に一瞬だが、瞳が浮かんだ気がした。狂気の目を。

「……お前、頭を狙わなかったな」

 リュウキは、ゆっくりと口を開いた。死神とは対照的、とも言っていい。冷静沈着であり、もっと驚きを見せても良い、と思っていた死神はやや拍子抜けだった。

「くっ、くく……。簡単に終わらせると思うか? 絶望に沈んでいくのをこの眼に焼き付けながら、殺していくに決まっているだろう」

 死神のその返答を訊いて、リュウキは笑みを浮かべていた。
 その真意が、死神には判らない。

「気でも、触れたのか? この見えない鎌、そして弾は お前でも防げない。……くくく、二度目、だろう? 刃と弾丸合わせて。あの世界では、一度見た攻撃の殆どを回避してのけたお前が。……今も、前回もまともに受けたんだ。……その眼(・・・)の状態でも、な。・・・・・・見切るのは不可能だ。死神の刃と弾丸からは」

 勝ち誇るとはこの事、なのだろう。死神は銃とナイフの2つを取り出し、構えながらそう言っていた。今は見える。……だが、その見えない攻撃と併用して戦うと言うのだろう。見えない攻撃と見える攻撃。その2つを織り交ぜられたら、確かに驚異だといえるだろう。

 だが、それでも リュウキの笑みは崩せなかった。

「……馬鹿が。2度()みせたんだ。……もうお前は詰んでいる。checkmateだ」

 リュウキは、そう言うと同時に、再び構えた。右手に握られているのはデザート・イーグル。……そして、左手に握られているのはナイフだ。

 なぜ、だろうか。その握る手、左手に温もりを感じた。……持っているのは、冷たさを感じる金属のナイフだと言うのに、だ。その温もりは心にまで届くかの様だった。

「減らず口を……! もう死ね! 鬼が!!!」

 死神が激高を顕にしたのはしようがない事だ。これが初めてではない。死銃を壊され、そして 挑発を受け、更には3度目。如何に他人の心理の隙をつく事に長けているとは言え、憎みに憎んだ相手にここまでされてしまっては、その沸点が低くなってしまうのも、冷静(クレバー)さを失ってしまうのも無理はない事だろう。

 だが、それでも その剣と銃の腕だけは、驚嘆だといえる。……死銃、ザザ同様に磨き抜いた代物だけではないだろう。この男が使用している武器は銃もあるのだ。持っているククリ・ナイフの扱いと殆ど変わらない精度で攻撃をし続けているのだから。

 つまり、死神もリュウキ同様、何を使わせても使いこなせるだけの器量を持っている、と言う事になる。それだけの事をしてきているのだろう。……間違った方向へとその力を使い続けてきたのが、リュウキとの違いだった。
 
 死神は、リュウキに一気に接近する。

 マントをはためかせ、時折そのマントの中に銃やナイフを隠す様に引っ込める。その中で、二種類、いや四種類の攻撃法を選択しているのだろう。

 銃撃か、ククリナイフによる攻撃か。……見えない銃撃か、見えないククリナイフか。

 それを選択しているとも思える。……直前で放つ為に。

終わりだ(The-End)! クソ野郎(Son of a bitch)!」

 獰猛な獣、いや 鎌と銃を持った死神が迫ってくる最中。
 確かに死神は見た。……リュウキは笑みは止まっていない事を。

「何度も言った筈だ。……お前達は正面からこれない。……使う手段も全て卑劣な手段のみだと。……もう、底が知れてるんだよ!」

 その言葉を聞いた途端、だった。
 まるで、閃光の様な輝きが死神の前で弾きとんだのだった。
 
 
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