ソードアート・オンライン〜Another story〜
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GGO編
第204話 BoB頂上決戦
前書き
~一言~
更新が遅くなってしまい申し訳ありません……。ちょっと 忙しくなってしまって……、といいわけを少しさせてください。 すみませんっ!
そして、GGO編の中のBoBももうソロソロ終わりです!! そろそろ、あの絶剣編が近づいてくる~、と思ったら、テンションが上がるのですが!! ……りあるは非情です…… 涙
でも! 頑張ります!
最後に この二次小説を見てくださって、ありがとうございます。これからも、どうかよろしくお願いします。
じーくw
リュウキと死神、2人の間合いは、2~3mと言った所だろう。
落下し、受身をした事により、羽交い締めは解かれたのだ。リュウキは、完全に警戒、戦闘態勢を取っているが、相手は まだ 顔を俯かせていた。
――……今 撃てば決着が付くだろうか?
リュウキが完全に優位に立っているのは 客観的に見ても間違いない。BoB本戦を中継している画面。それを視聴している皆は 『早く撃て!!』のコールが恐らくは響いている事だろう。
それもそうだ。優勝候補筆頭である《闇風》は 敗退し 残っているのは
《死銃=STERBEN》《死神=赤羊》《RYUKI》《kirito》《Sinon》
この5人だ。
共同戦線を張っている事は もう 周りには判っているだろうから(洞窟の1件や これまでの戦いでも)、今行われている《赤羊 vs RYUKI》《STERBEN vs kirito》この2つが事実上の決勝戦とも呼ぶ声が高い。
その次の結果次第で 戦いが行われるのか 或いは……。
「……お前達は毒でしかない。自分達には力がある。……力を持ったと勘違いした、哀れな犯罪者。異常な犯罪者だ。お前達の精神が、浮遊城から 戻ってきてないんだったら、オレが目を覚まさしてやる。……目を覚まして、本当の監獄の中で 今度は 頭を冷やすんだな」
最後のリュウキの一言を受けて、死神はゆっくりと顔を上げた。
落下の衝撃から、だろうか。顔の上半分を完全に覆っていた髑髏の仮面が剥がれ落ちていた。
「!!」
「言いたい事、好き勝手 言ってくれるな……。こっちが黙って訊いてりゃぁ……」
死神から、剥がれ落ちた仮面。
その中に、死神の表情がはっきりと映し出された。
死神の正体は 自分達同様 SAO生還者だ。だが、コンバートしたかどうかは、不明だ。この自動設定されるアバターの素顔は 一部ではログイン時間が決定する要因になっているのでは? と上がっている。だからこそ、キリトやリュウキは この様な不本意な姿でこの世界に降りているのだ。
リュウキは、その顔を見て、多少は驚きつつ 答える。
「………随分と個性的な素顔だな」
「くく、そうか? オレから言わして貰えりゃ、お前も十分個性的なんだがな。いや、お前らも、か?」
「……正直、羨ましいって思えるかもな。オレの容姿よりは良い。……悪趣味だがな」
「くくっ……」
苦笑いしながら 受け流すリュウキ。そして、怪しく笑う死神。
その死神の素顔は隠れた部分には大きな傷跡が残っていた。大きく✖の傷跡があり、その傷は両の眼にも到達している。人であれば 間違いなく眼の中に瞳がある筈だが、そこには何もない。ただの白目だ。こちらが見えているかどうかも判らない。
そしてどこか、頬が痩けている様にも見える。
死神は、髑髏の様な素顔をしている、そう表現されている事が多い。だから、もしもあの髑髏は仮面で、死神の素顔と言うのがあるのだとすれば、この顔なのかもしれない、と思ってしまった。
「お前は、オレの死銃を壊して安心してるかもしれねぇが、 まだ アイツがいる事を忘れてないか? 死銃は1丁じゃない。……腐った空気を吸い続けてきたキリト。オレ達が《鬼》と畏れたお前は例外かもしれねぇ がアイツは 違うだろう」
「キリトを舐めるな」
その瞬間に、リュウキが返事と同時にデザートイーグルを撃ち放った。
正確に死神の眉間を捉えて、弾丸が軌跡を残しながら迫るが、その弾丸は 死神に届く事は無かった。後ほんの数寸の距離、弾丸は火花を散らした。
「いや、舐めている訳じゃないさ。……腐ってもお前らがあの世界を終わらせたんだからな。だが、アイツはお前に依存し過ぎている。他人にも判る程だぜ? 1人じゃなにも出来ない。くくくく、ある程度なら、出来るかもしれないが、真の殺人者相手には何も出来ない。この世界の身体もその精神も殺されて、終わりだ」
「…………」
その言葉を訊いて、リュウキは銃を構えたまま 動きを止めた。初撃目は弾かれたが、決して反らせる事はなかった。
それを見た死神は更に笑う。
「くく 予言だ、死神の予言。……お前らは ただ 何もできずに 無様に地に這いつくばって、あの女が殺されていくのを黙って眺めるしか無い。安心しろ。ちゃんとあの女の最後は、見せてやる。引き摺って、倒れているお前らの前で 死銃が頭を打ち抜き、絶望の中、殺してやる。 ……鬼を畏れた。 だが、もう今はもう畏れた鬼は存在しない。あの世界でだけだ。……何も出来ないのは お前も同じ。死神がそれを教えてやる」
「……馬鹿が」
リュウキは、ガンプレイをしながら、ホルスターにデザートイーグルを収めた。
「お前らが、出来るのは 卑怯な手段のみだ。そして 今回は正面からのみだ。……予言? 『お前らが完全に終わる』 の間違いだろう? それにな」
リュウキは、左手でナイフを抜いた。
「死銃とキリト。……そんなの比べるまでも無い。言うまでもなく、キリトの勝ちだ。お前らに、負ける要素が何1つとしてないんだからな。……お前らは知らないだけだ。キリトの本当の強さを。……鬼と呼ばれているオレが保証する。知っているからな」
「くくく、随分と過大評価している事、だな。現実では 健全、と呼ばれる腐った戦い。《ゲーム》であれば、そうかもしれない。だが、この世界は違う。死銃は命を奪うんだからな」
全身から漲る絶対的な自信。
決して弱気の姿勢、シノンやキリトにみせていたあの姿は 全く出さない。仲間が傍に居てくれているから。実際には、離れているけれど、心は共にある。それだけで 十分。
「く、くくく。直ぐに分からせてやるさ。キリトがどうなるのかを。……そして、貴様の前で あの女を殺してやる瞬間を立ち合わせてやる!」
「何度も言った筈だ。……お前達の存在は毒でしかない。この世界から、さっさと退場願おう。これが、最後だ!」
その会話を最後に、もう言葉はいらない。……2人の銃撃が始まるのだった。
それは、リュウキと死神の戦いではなく、もう1つの戦い。
キリトと死銃の戦いだ。キリトは ラフコフの幹部の中で、刺剣の使い手がいた事は覚えていた。だからこそ、左肩に受けた一撃は疼かせる。まるで氷の針で貫かれた様な痛み。……だが、それは疑似痛覚でも無ければ、錯覚でもない。
……これは《記憶》だった。
かつてのあの世界で、同じ場所を同じ使い手に貫かれた事がある故に、記憶を揺り起こされたのだ。当時から、珍しい武器を持っていると、感じていた。武器に関しての話は リュウキとも何度も重ねており、珍しい武器があれば、必ずと言ってイイほど、話題に上がる。
だが、あの激戦の最中では、とても口には出せなかった。当然だ。突き刺される痛みよりも、仲間を殺される痛みの方が何倍も、何十倍も痛いと言う事を皆が知っていたのだから。
だからだろう。あの時言えなかったことを、1年半の時を経て、キリトは口にした。
「……やっぱり、随分と珍しい武器だな。あの世界でも思った。だが、GGOの世界の中で金属剣があるなんて、な。アイツからも訊いてない」
すると、死銃は深くかぶったフードの奥で、しゅうしゅう、と掠れた笑いを漏らしつつ、切れ切れの声を発した。
「くく、お前らと、したことが、不勉強、だな。まさか、あの馬鹿みたいな、知識量の、アイツ、《鬼》も、知らない、とはな。 《黒の剣士》。《ナイフ作製》スキルの、上位派生、《銃剣作製》スキルで、作れる。長さや、重さは、このへんが、限界だが」
「……成る程、器用に何でも、どんな武器でも使えるアイツとは違うし、それなら残念だが、オレの好みの剣は作れそうにないな」
そう応じると、再び笑い声がする。
「相変わらず、だな。STR要求の高い、剣が、好みなのか。なら、そんなオモチャは、さぞかし、不本意、だろう」
キリトの右手の中で低く唸る光剣《カゲミツ》は、オモチャ呼ばわりされたことが不満だったように、ぱちぱちっと細いスパークを散らした。肩をすくめ、この世界での愛剣の声を代弁する。
「そう腐ったもんじゃないさ。オレだって、昔の映画だってみるし。こう言うのにも一度は使ってみたいと思ってたしな。それに……」
ぶんぶん、っと振動音を響かせながら、低く下げていた剣の鋒を中段に据えた。
「剣は剣だ。お前を斬り、HPゲージを吹っ飛ばせれば、それで十分だ」
「く、く、く、威勢が、いいな。できるのか、お前に」
フードの奥で、赤い眼光が不規則に瞬いている。同じ《赤》と形容するリュウキの目とは本当に違う。言うなら、リュウキの目よりも何倍にも、《気味の悪さ》のゲージを上げれば、ああ言うふうになるのだろう。
「《黒の剣士》、お前は、現実世界の、腐った空気を、吸い過ぎた。さっきの、なまくらな《ヴォーパル・ストライク》を、昔のお前がみたら、失望するぞ」
「……かもな。でもそれはお前だって同じだ。それとも、お前だけは、お前達だけはまだ《ラフコフ》のメンバーのつもりでいるのか?」
「……ほう、成る程。そこまで、は思い出せたか。……くく、くくくくく……」
切れ切れだった声が笑う時に繋がる。何かおかしい、その何かに触れた様に、死銃は笑い続ける。
「なら、遠慮は無用、だな。昔から、知っている事を、……真実を、言わせて、もらう。お前が、あの世界でも、強い。厄介、と言わしめた、のは、《鬼》の存在、があったからだ。あの鬼、は。まさに、オレ達と同じ、だった。あの時、狂いに、狂い、オレ達の、仲間を、5人殺した時。……オレ達は、皆等しく、ヤツの背後に、鬼を、見た。錯覚など、脳内の異常が、見せる程度のモノ、殆ど、オカルトの様な、もの。だが あの場の、全員が、等しく見たんだ。……お前は、鬼に、守られてるに、過ぎない」
「……………」
キリトは、死銃の言葉を訊いて 表情を顰めた。
確かに、その自覚が無かったか? と言われれば嘘になる。あの男、リュウキが隣にいるだけで、一緒に戦ってくれているだけで、安心した。……アイツの情報の1つ1つが、まさに生命線だった。……アイツの眼は 全てを丸裸にし、安心して 皆は攻める事が出来たんだから。
「確かに、厄介な、反応速度を、持っている。が、今の《ヴォーパル・ストライク》で、更に、確信した。お前は、あの時よりも、遥かに、劣化している。くく、そして オレ達、鬼を含めた、オレ達と、お前の、違いも 判る、だろう。同じ殺人者、でも。お前は、違う。恐怖に駆られ、ただ生き残る為だけに、殺した。その意味を、考えず、何もかもを、忘れようとした、ただの卑怯者、だ」
「……………」
その死銃の言葉を訊き、一瞬キリトは言葉を失いかけた。確かに、それはずっと考えていた事だ。隣で苦しむ親友の事を想っていたのだが、それでもその真の意味を理解など出来ておらず、自分自身が同じ境遇になった時に、初めて苦しみが判った。
そこから、逃げてしまいたい衝動だって、ずっと持ち合わせていたんだから。
ぐにゃり、と歪みかけた視界だったが、それを一喝してくれる声が同時にキリトの耳に届く。
――………お前達がいてくれたから、オレがいる。……オレも変わらない。オレも同じなんだ。
声が、聞こえた。……だが、こんな時でさえ、頼ってしまうのは何処となく情けなくもキリトは感じる。そう、もう心配を賭ける訳にはいかないんだ。親友にも、愛する人にも。
「お前らと、アイツを一緒にするな」
その部分だけは、キリトは強調する。数多の命を奪ってきたこのラフコフの連中とリュウキを一緒にするのだけは有り得ないからだ。
「……だが 依存の事はそうかも、な。オレは理解も出来てないのに、支えになってやってる、って勘違いをしていた面もあったさ。だが、お前も、今回のBoB戦においては、殺人者なんかじゃない。もう、バレてるみたいだぜ? お前らが《鬼》と畏れているアイツに。……リュウキに」
「………」
今度は死銃が口を閉ざした。
キリトは尚も続ける。
「《ゼクシード》《薄塩たらこ》……この2人に、実際に手を出したのは、判らない。だが、言えるのは 全ての殺人は その妙な黒い銃の力でも、お前なんかの力でもないと言う事だ」
「ほう? なら、なんだという? くく、相変わらず、鬼頼り。所詮は 鬼のモノ。鬼の手柄かもしれない、が。気になるな。言ってみろ」
「ご生憎、だったな。オレも出来れば自分で解き明かしたかったんだが……、アイツの頭の回転は並じゃないんだ。そのへんは考慮してくれ。それに、比べられる身にもなってくれよ」
キリトは苦笑いをしながらそう言う。
だが、その表情の奥にも動揺の類は決して見せない。決して、臆さずに、顔に出さずに続ける。余裕の表情を見せ続ける。ふてぶてしく笑う。
ラフコフの戦術の1つでもある、心理的隙間をついてくると言う事はよく知っているからだ。
連中は人を殺した。あの世界で数え切れない程の人を殺した。……故に、その歪な精神の強さは 類を見ない。誰しもが持つ、死の恐怖すら、この男たちには無いのだから。
だからこそ、精神に訴えかける揺さぶりは、あの世界の剣にも負けない程に凶悪な威力を秘めているのだから。少しでも弱みを見せたら、その瞬間に殺される、と思える程だ。
「お前らは、その透明マントをつかって、総督府の端末で、BoB出場者の住所を調べた。そして、部屋にあらかじめ共犯者を侵入させ、その黒い銃で銃撃するタイミングを合わせて、眠っている身体に薬品を注射し、心不全による変死を演出した。……だろう? まぁ 自分で解き明かした訳じゃないから、格好つけて、言う。なんて事ことは、したくなかったが、仕方がない」
「…………」
ここでついに死銃が沈黙をした。
キリトが知っている。つまりは リュウキも勿論知っている筈だから。
「お前は知らないかもしれないが、総務省には全SAOプレイヤーのキャラネーム。本名の称号データがあるんだ。お前の昔の名前が判れば、今の本名や、住所、犯罪の手口、計画その全てが明らかになる。……もう終わりにしろお前ら2人。今すぐ ログアウトして、警察に自首するんだ」
これらが全て起こす事が出来るのであれば、もはや剣を交える意味も成さなくなるだろう。剣ではなく、言葉で会話する。もしかしたら、リュウキ達も同じ様に言葉を紡いでいるのかもしれない。……いや、相手が相手。故に言葉は最小限度に後は剣と銃で語っているかもしれない。……だったら、今ライブカメラが捉えている自分達の姿に、不満が盛大にあるだろう。
そして、数秒後の事だ。フードの下から漏れたのは何ら変わらない嗤い。
「くく、くくく……、成る程、成る程。確かに、な。キリト。お前はオレの名前を、思い出せない。が、鬼であれば、別。 お前とは、同感、だ。アイツの、頭の回転の速さについては、な」
「………思い出せないだと?」
「く、くく、こちら側、が オレ1人、であれば。危なかった、な。だが、今回は、違う。……もう、判っている、んだろう? 《お前ら》と言ったんだから、な。 もう1人、いる。と言う事を」
死銃の言葉を訊いて、キリトは死銃が何を言っているのかを理解した。
「………死神、か」
「く、く、く、そう、さ。死神、は。本名を、名乗っていない。そもそも、そんなもの、存在しない。データとやらで、死神を探る、など、不可能、だ。死神とは、常に、傍にある。死と、同じ、だからな」
「…………………」
「鬼は、死神、が。仕留める。そして、お前は、オレの名を、知らない。お前は、あの戦いの後、言った事を、忘れている。『名前なんか、知りたくないし、知る意味もない。あんたと会うことはもう二度とないんだから』と、お前は言ったんだ。……思い出せる、訳がない。死神と同じ。オレの名も、知らないんだから」
それを訊いて、キリトは黙った。
確かに、それでは総務省、防衛省のデータの中で照会して 名前を割り出す事は出来ないだろう。あの世界ででの出来事の全てを残せていない以上、残っているのは自分達の記憶。……記憶の中だけが全てなのだから。自分だけでは、名前を知る事が出来ない。故に、追い詰める事ももう出来ないだろう。この世界で、仮に倒せたとしても、逃げられる可能性が高く、更に殺人を犯す可能性も高いのだ。
そう考えていたのだったが、キリトは 直ぐに 笑みに変えた。絶望ではない。……ふてぶてしささえ、出る笑みだった。
「はは。……こんな時にも、アイツに頼るのは、本当に情けないって思うよ。お前の言う通りだ。……依存、してるよ。オレは」
「………?」
その自虐の告白。だが、 その表情は絶望ではない。寧ろ希望だった。それが、死銃には不気味に思えたのだ。
「オレ達が、いや、アイツ……か。オレは後付けだったから。 第1層で、付けられた侮蔑の名称、覚えているか?」
「なん、だと?」
「……《ビーター》。《元βテスター》それに《チート》が加わった造語、だ。あまり、思い出したくない事だがな」
「それが、どうかしたのか? この世界、では何ら意味を成さない」
「……そして、これは お前らから言わせれば、《チート》。なんだろうな。リュウキは」
「……?」
「お前も、死神に随分と期待をしているみたいじゃないか。……その辺りは、オレと変わらないな。だが、絶対的に違うのはリュウキの力だ。 それは、《この世界》の枠にとどまらない、って事さ」
キリトの言葉。意味が全くわからない、と言わんばかりに 死銃は首を僅かに傾ける。
「《世界一のプログラマー》か。いや、IT部門におければ、この世の誰にも負けない自信があるそうだ」
「!!!」
ここまで、言った所で 死銃はその表情で理解を示した。
「……まさ、か。RYUKI、と言うのは、……そんな、有り得ない。あの、男の、正体が」
「なんだ。お前も知ってるのか。……そっちの業界じゃ、かなりの有名人なんだけど、メディアに晒されるのが何よりも嫌いだったらしいから、代理人ばかりが露出していた筈なんだけど」
《他力本願》とはまさにこの事だろう。
仮に名前が判らなくとも、リュウキの力であれば 時間がかかっても それらを調べ上げる事は出来る筈だ。今回の1件、GGOでのデータ。……ログインしている以上、運営側が必ずデータを控えている筈だ。金銭のやり取りを出来るシステムを構築している以上、それなりに厳重に保管しているだろう。そして、SAO時代の事を照らし合わせる。これだけの情報があり、そして それらを紡ぐ先に答えがある。
――所詮はデジタルだ。
その言葉はリュウキの決め台詞か? と思えていたが、ただ 本心を言っているに過ぎなかったんだ。
さしの死銃も動揺を隠す事は出来なかった。
彼が、プログラマーとしての、いや その枠に収まっていない。最初に始めたのが、プログラミングだから、定着しているだけであって、コンピュータを使わせれば世界最高峰、だと言う事、それを知っている理由は勿論ある。
それは、彼の現実世界ででの絡みからだ。
「そう言う事だ。……だから、お前らがログアウトして、自首する事もないんだったら、オレ達がこのゲームを終わらせる。……終わらせてから、お前達を調べあげる。……こんなオレでも手伝える事だってあるみたいなんだ。それに、ここでお前を止める。倒す事にも意味があるんで、な!」
キリトは、光剣を隙だらけの死銃の胴体に穿った。
幾ら動揺をしているとは言え、それだけで、仕留めれるのであれば世話はない。持っている刺剣が、光剣を阻み、弾き返したのだ。
「っ……と。そんな棒っきれで、この光剣が弾かれるとは思わなかったな。驚いた」
「………」
まだ、精神が揺れている死銃だったが、それでもキリトの攻撃を防いだのは流石の一言だろう。
キリトは知るよしもないが、この刺剣は、この世界で、現時点で手に入る最高級の素材で作製された物だ。故に、市販で販売されている程度の光剣で 斬り飛ばす事は出来ない。……この世界で最弱に分類されている武器《ナイフ類》に匹敵しかねない程の強度を誇っているのだ。
「……お前が、お前達が、まだこの世界にいる以上、シノンには危険が付きまとうんだ。……これ以上、仲間を失う訳にはいかない。ここからは、小細工抜きだ。全力で、お前を倒す。オレの全てを賭けて」
心理的揺さぶりを全くものともしない。
共に戦ってくれている、戦ってくれていたあの男のお陰と言えばそうだろう。だが、それでも 隣で戦えるだけの技量を、強さを持っているのは紛れもなく事実だ。
そして、リュウキ自身も、決して認めない。キリトが自分よりも下である事など、決して認めていない。だからこそ 同じだと何度も言ってきたのだから。
そして、キリトに救われた事もリュウキは多い。……頼ってきた事だって 多いのだから。
互いが互いを信頼している。
依存、と言われれば聞こえが悪いかもしれない。
でもその意味は 《互いに頼り合う間柄》なのだ。心の底から2人は 信頼しているのだから。
2人の戦闘が始まった事。
それは、シノンにも判っている。だが、スコープが壊れた以上、戦闘状態を把握する事が出来ない。……そして、何よりも今の彼女の精神状態が、中々次の行動に移せられない最大の理由だった。
――闇を、封じよう。
その言葉が、彼女の中に、奥深くにゆっくりと浸透していき 心の奥で蔓延っていた闇を封じた。いや、打ち払ってくれた。……見た通りに、粉々に打ち砕いてくれたんだ。
もう、シノンの心の中には、いや 朝田誌乃の心の中にも、 あの男も、あの銃もない。
あの銃、黒星五十一式は、バラバラに分解されており、最早銃の形状すら保てていない。そして、悪夢と共に目の前に現れるあの男。
その 額に黒い穴を開け、目からも口からも、血の涙を流しているかの様な表情の全ても、温もりと共に、消してくれた。闇を払った先にある、光の中へと。
それらを再び認識すると、ゆっくりと、ゆっくりと、シノンは 傍らにある自分の分身とも呼べる銃に手を添えた。
――……へカートは、まだ生きている。スコープが壊れただけで、まだ生きている。だったら、自分も何か出来る事がある筈。
シノンは心の中で強く思った。サブアームであるグロッグも、1発も使用していないから、弾数もまるで問題ない。
だが、相手は死神と死銃。
その強さ。
それは、キリトとリュウキもよく知っている。……今は強気のままに、言葉を発し、攻撃をしているのだが、その力だけは認めざるを得ない程なのだ。
シノンにとっては、悔しい事だが リュウキにも圧倒された以上、スコープの使えない状態ででは、遠距離戦であっても現時点では敵わないだろう事は判る。
あの地獄をくぐり抜けてきた力は本物。……その性質は最悪でも、力は本物なのだから。
――……そんな相手に、一体自分になにが出来る? まんまと容易く背後を取られ、撃たれる瞬間まで、何も出来なかった自分が?
シノンは必死に考えた。
リュウキは、この崖下。そして、キリトは更に離れた場所で戦っている。
2人ともが仲間だ。シノンに出来た、初めて出来た心から信頼する事が出来る仲間。確かに彼の方に関しては、心に深くとどまっているが、今の戦いの場でh、その2人のどちらかを選ぶ事など、出来る筈もない。2人とも 援護を果たしてこその、バックアップだから。
「何か……、何か……!」
シノンは、考える。そして、浮かんできた言葉があった。
あの洞窟での事だ。リュウキが死神についてを 話していた時の事だ。
『神出鬼没。とも呼ばれていたな。死神と言う男は』
シノンの頭に浮かんだ《Phantom》という言葉。それは幻影。実態を持たないという意味だ。
2人を同時に助ける為に、どうするのが最適であり、最善か。
まだ、生きているものの、スコープが壊れ、今満足に遠距離射撃が出来ないへカートと、攻撃力に乏しいグロッグで何が出来るのか。
「っっ!!」
シノンは、この時 思いついた。弾丸を撃つ事は出来ない。撃てば、超接近している2人にも当たる可能性が出てくる。
ならば、撃たなければ良い。……銃を構え、放たれるのは銃弾だけではないのだから。
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