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フランの狂気になりました

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第十一話

 
前書き
よろしくお願いします 

 

もはや唯の荒地と化したその場所で二つの雄叫びが木霊する。

片や剣を持った男。
無駄の無い洗練された動きと鍛え抜かれた肉体から生み出される力によって、空を裂き、芸術の様な、舞を踊るかの如く動き。荒く、硬く、重い剣戟を創り出す。

片や槍を振るう少女。
その道を歩む者から見たら無駄だらけで、『お粗末な槍使い』の烙印を押されて居ただろう。だが、その槍には力、速さが有り、無いのは技術。

その為、技術を持って効率的に攻撃を『受け流し』『逸らし』ながら戦う男に部があった。
吸血鬼本来の強靭な身体と他者を軽くねじ伏せるだけの力、これらをフルに使い戦うレミリア。

対照的な戦い方をする二人。

だが、互角……と言う訳でもない。
技術とは相手の力さえ利用して受け流す。力任せに戦うレミリアと相性は最悪、渾身の一撃でさえ受け流される。

二人には攻撃を一度でも受けたらそれが致命傷になってしまう。
レミリアは種族的な弱点、銀だ。掠り傷程度一瞬で治す吸血鬼の再生能力が殆ど効かなくなってしまう。

対して男は人間。吸血鬼の様な再生能力など無く、攻撃を受け付けない様な硬い身体も持っていない、レミリアの攻撃は当たれば確実に助からない。

そんな状況、しかし、レミリアが動く。

身を低くして男の懐に潜り込む、吸血鬼の規格外な瞬発力に加え、小柄な身体だという事も相まって男にはレミリアを捉える事が出来なかった。
そのまま『グングニル』を突き出すレミリア、男は咄嗟に身体を捻り、『グングニル』に剣を添わせ、何とか軌道をそらした。

「ぐぅ………!?」

男が顔を歪めながら呻く。
一瞬とは言え、隙を取られた形になる。その為、威力を流しきれずに衝撃が腕に届いてしまったのだ。

レミリアはここぞとばかりに二撃、三撃と槍を振るう、だが、それも防がれ、空を切った。

「ひゅ?……危なかったぜ……今のは死んだと思った」

レミリアは舌打ちを零す。
確かに男は危なかったのだが、余裕そうにレミリアの攻撃を裁き、あまつさえ余裕そうな笑みを浮かべていたのだ、その言動一つ一つがレミリアの神経を逆撫でしていた。

レミリアは何も言わず、再び男へ襲いかかる。

「おっとぉ……!何だ何だ?話すだけの体力も無いってか?!」

男はレミリアを煽る様に言葉を並べる。
だが、その男も息が上がり、身体中から尋常じゃない汗も吹き出ている。
男にこそ話す余裕なんて無い、人外と同じだけの運動量は人の身には本来は不可能なのだ。

男の顔は真っ青に染まり、既に息も絶え絶え、それでも男は言葉を詰まらせる事は無い。

「さっさと……殺られやがれ!」

そして剣を振り下ろす。





───────────────────────





レミリアも限界が来ていた。
人間とは比べ物にならない程強靭な身体を持ってはいるが、産まれてこのかた、戦闘経験など皆無。
それに、極度の運動すらしたことが無い。

箱入り娘として育てられて来たレミリアはそれでも、吸血鬼としての力は今までの生涯をかけてきた男と同程度だが、レミリアには足りないものがある。

技術?経験? それらは種族の差が、埋め立てる。
足りてないものは────気持ち、メンタル、気力。レミリアにはそれが足りていない。

男がレミリアの動きに今現在ついてこれているのも、それによるものが大きい。
根性論と言われればそれまでだが、男は人、人から外れた動きを行うことすら本来なら出来ないのに、ましてやそれを延々と続ける事など不可能だ。

それなのに息切れで、言葉を詰まらせること無く話し、更にそのまま動くのだから。
少なくとも一般的な生物が行える行動で無いのは明らかである。

ふり降ろされた剣を『グングニル』で防ぐと、なぎ払う。
男も防がれると、同時に跳躍してレミリアと距離を取る。鉄と鉄、武器と武器がぶつかり合う戦闘音が止んだ、訪れる静寂。

周りに居たはずの妖怪達はもう居ない。
逃げたか、二人の戦闘に巻き込まれてしまったのだろうが、当の二人にはそんな事を気にする余裕など無い。

目の前の奴から目を離したら殺される。
これが、二人の共通した思考。

その為二人は妖怪がいない事に気づかない。いや、気づいているが“確認”しない。する必要も無い。

したら死ぬ、だからしない。単純な事である。

ピリピリとした緊張の中、二人は同時に動き出す。
剣と槍、二つが再びぶつかり合う────その刹那、



ブブブ………。



辺りに響く不快な音。
虫の羽音の様な音がレミリアと男の耳に届いた。

レミリアはこの音の正体は解らない、男も同様だ。
二人の目が合う。そして、二人揃って音のする方を“見上げた”





「なっ………!?」

レミリアが狼狽の声を上げた。

それは虫。頭程の虫が何十、何百、何千とひしめき合い空を覆っていた。
不快な羽音に加え、虫の節々がバキバキとなり響き、レミリアの肌に鳥肌が立った。

“ギギー!”

一匹の虫が鳴いた。
それを皮切りに二人の元へ多数の虫たちが殺到する。
いや、正確には男の方へ────

「なっ!何な─────がぁぁぁぁぁ!?」

虫が男へ群がっていく。
男は、最初こそ虫をきり伏せていたものの、先程までの戦闘と数には勝てず、僅か数匹を切った辺りで、押し倒されて、群がる虫に飲み込まれた。

あっという間に男は見えなくなった。
虫が群がり、小さな山みたくなったものから、肉の千切れる音と男の悲痛な叫びが聞こえてくる。

数十秒で、男の叫びは聞こえなくなった。
小さな山からは血の臭いが漂ってくる、レミリアにとっては食料の臭いなのだが、虫の集まった山から漂って来ているため、顔をしかめつつ、その山を睨みつけた。

虫はすぐに飛び立った。
空を覆う虫の群れの中へ戻っていき、群れの中へ紛れてどれがどれなのか、レミリアには既に分からなくなっていた。

目の前に広がる肉片。
さっきまでレミリアと死闘を繰り広げた男だった物。
突如現れた虫に呆気なく食い殺された者の末路だ。

レミリアは空を………虫を見上げて警戒を強めた。

虫は男を殺したとはいえ、彼女の味方だと言う保証は無いからだ。
次の瞬間にも、彼女へ襲いかかる可能性もある。

油断なく虫を見据えていると───突然、群れが二つに“割れた”
虫の隙間から空が見える。そして、小さな───目を見張らないと見えない位小さな『人影』がレミリアの瞳には写った。

そして、その人影が一瞬光った───刹那。
レミリアの左肩を光が貫いた。

「あっ…………がぁぁぁぁぁぁ!!?」

レミリアは突如訪れた激痛。そして、感覚と“重さ”の感じられない左腕。

解っては居るが解りたくない『逃避』
今まで体験した事の無い『痛み』『恐怖』
そして、何も感じない『喪失感』

レミリアはゆっくりと左手を見る。

『無』
何も無い。有るはずの、さっきまで有ったはずの腕が見当たらない。

「あ、ああ……あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

レミリアは声を荒らげる。
突然あったものが無くなる喪失感。それは、初め、月華が体験した事である。
とてつもない気持ち悪さ、体験した事の無い痛み、それらがレミリアの精神を蝕む。

人影が降りてくる。だが、錯乱したレミリアにそれを気にする余裕など無い。

『痛い』『辛い』『気持ち悪い』レミリアの頭の中をそれが埋め尽くす。彼女はまともな思考が出来ないでいた。

「ああ……あああ……」

「……何だ、吸血鬼。貴様、まともに戦った事も無いのか?吸血鬼には強力な再生能力が有るくせに………。まぁ、あの光は聖なる光、吸血鬼には効果絶大だろう。暫く貴様の再生能力は当てにならんだろう」

今度こそ、レミリアの思考が完全に止まりかけた。
その声音に聞き覚えが有ったから、ついさっきまで殺し合い、そして、目の前で食われて死んだ筈の者の声。

レミリアは視点の定まらない瞳で声の主を見上げる──





───それはついさっき、虫に食われて死んだ筈の男だった。
 
 

 
後書き
|´-`)ヨヤクトーコースバラシー 
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