異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
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遺跡出現までの10日間【3日目】 その8
【3日目】 その8
「プフゥ……」
巨大パフェを食べ終わったパンダの耳を生やした少女が満足そうな表情をし小さく息を吐く。だいぶ顔色もよくなっており、その柔らかそうなほっぺには少し赤みが差していた。
「さて、とりあえず出ようか」
オウムと魚の切れ端の取り合いをしながら今後の予定を立てていた僕は予定通りに行動するべく4人席から立ち上がると会計を済ませる。とりあえず生計を立てるために集会所で依頼か何かを受けないとな……あ、そのためにはこの子用の装備を買わないと……そう言えば名前も聞いてなかったな……何て名前なんだろう……。
「君の名前はなんて言うの?」
レストランから出るとパンダの耳を生やした少女に名前を聞く。
「………」
少女は無言のままだ。その大きな黒い瞳は揺れており口を堅く引き結んでいる。
「あ、僕の名前は山崎健斗、なんて呼んでもいいよ。こいつは『レバルドオウム』って言う種類の鳥。名前はオウム」
「グギョ!」
少女が黙ったままなので気まずい雰囲気を何とかしようと僕の方から自己紹介をする。すると少女の桜色の唇が小さく開かれた。
「…………ぃ……ア――――です……」
「え?」
パンダの耳を生やした少女の可憐な唇から発せられる声があまりにも小さな声だったので僕は思わず聞き返す。
「名前はないアル……です。物心ついた時から奴隷番に77番って呼ばれてたア―――――です……前の前のご主人様からはクズ、前のご主人様からはイヌと呼ばれてたアル……じゃなくてです!」
少女が大きな瞳をギュっと目をつぶりながら必死の表情で言う。今言い直したけど確かにアルって言ったよね……? パンダの耳が生えているだけに中国人が喋る日本語みたいになってる。
「そ、そうなんだ……」
少女の口調に少し驚きながらも僕は答える。すると少女の表情が暗くなりポツリと小さい声で言葉を呟く。
「ご主人様も……アタシにひどいことするアルカ……?」
パンダの耳を生やした少女の細い肩がぶるぶると震えていた。よほど緊張しているのかアルヨ口調を訂正しない。
「ひどいこと……?」
少女の言葉に僕は戸惑いを隠せない。するとパンダの耳を生やした少女は堰を切ったように一気に喋り始める。
「奴隷商の奴隷番の男はアタシが地元の方言で喋ったら棒で思いっきり叩いてきたアル。前の前のご主人様は暇があれば鞭で、棒で、色んな物で殴ってきたアル。アタシ以外の友達は皆それで死んでしまったアルヨ……。その次のご主人様はアタシを部屋の中へ消して入れなかったアル。暑い日も寒い日もずっとずっと犬みたいに外で首輪を付けられて……機嫌が悪い時はいつもいつも殴ってきたアル……」
アルヨ口調を訂正していたのは奴隷番のせいだったのか……。僕は少女がアルヨ口調を訂正した理由に心を沈ませているとパンダの耳を生やした少女は一度言葉を止め、うつむいて呼吸を整えた。
そしてパンダの耳を生やした少女はその大きな黒い瞳に涙をいっぱい浮かべて泣きそうな表情で僕を見上げた。
「ご主人様は……ご主人様は……一体アタシに何をするつもりアルカ………? こんな立派な服を着せて、あんなに美味しい物を食べさして……一体どんな酷い事をするつもりアルカ……………」
「………」
僕はパンダの耳を生やした少女のくぐもった言葉に戸惑ってしまい声が出ない。この子は……どれだけ過酷な人生を生きてきたんだろう。ずっと……、ずっと酷い目にあってきて―――――――――
「よし決めた!」
「ファッ!?」
僕はありったけの力を込めてパンダの耳を生やした少女を少し赤みがかかった空に向けて高く高く放り投げた。少女は驚いた顔をして自分の身に何が起きたのかがわからず目を白黒させる。
「君の――――――名前は――――――ナナ! いいね――――――ナナだ! それと君は――――――僕の奴隷―――――なんかじゃない!! 」
パンダの耳を生やした少女――――――――ナナを空へ投げ落ちてきたところをキャッチして……という動作を繰り返しながら僕は言葉を続ける。
「僕の……僕の大切な仲間だ!!!」
最後に思いっきり、ありったけの力を込めて高く高く放り投げたナナをしっかりとキャッチする。
「ナ、ナナ…………?」
訳が分からないという表情で少女は僕を見上げる。その瞳には只々困惑が写っていた。
「そうだ、ナナ。77番だからナナ……、いや……まてよ……ななじゅうなな……セブンティーンセブン……?? ええいどうでもいい! 今日から君は僕の大切な仲間、ナナだ!」
「なか……ま……?」
ナナは信じられないという表情と仲間という言葉がうまく呑み込めない表情をする。
そうか、口先だけじゃ信用してもらえないよな………。そうだ――――――――
「こんなもの―――――――」
「!?」
意識すると赤色の光を帯びた奴隷紋が右手の甲に出現する。その途端、奴隷紋を見た少女の方がビクリと震えた。その愛らしい顔を恐怖に染め畏怖を帯びた黒い瞳で僕の奴隷紋を見つめる。よっぽどこの紋章が怖いんだな……。ようし!!!
「こうだあああああああああああ!!!」
「ッ!?」
抱きかかえていた少女を下ろすと僕はありったけの力を左手に込め――――――――――――――――――
僕の皮膚から赤い光を放って出現している魔方陣を僕強く爪で何度も何度も何度も何度も何度も強くひっかき右手にあったその存在を消し去った。
「う……グッ……クアアアアアアアアアアアア!?」
右手の甲の皮膚が裂け、大量の血が噴き出す。焼けるような痛みが頭の中を真っ赤に染め、目にジワリとつい雫が溢れ視界がぐにゃりと歪む。周りにいたエルフたちは関わりたくないのか僕たちからだいぶ距離を取って冷たい視線を投げてくるが全く気にしない。こんな痛みパンダの耳を生やした少女――――――ナナが味わってきた痛みに比べたら……全然大したことない!!!
「ご、ご主人様……何してるアルカ!?」
驚愕の表情を浮かべながらナナが駆け寄ってくる
「これで………いいかな……ナナ………」
顔から、いや体全体から嫌な汗が溢れ出詩ながら言った僕の言葉にナナは泣きそうな表情で言う。
「ご主人様は……ご主人様は大馬鹿アル!」
「ハハハ……」
泣きそうな声で叫んだ少女の罵倒に向けて僕は何も言えずただ力のない笑みをナナに向ける。するとナナは優しく微笑むと僕の真っ赤に染まった右手を両出て優しくつかんで胸の前に持ってくる。
「でも……そんなご主人様について行ってみたい、いやついて行きたいと思ったアタシは―――――――」
ナナが目尻に涙を浮かべて僕の目を見つめながらニッコリとはにかんだ笑みを浮かべ先程までとは比べ物にならないぐらい明るく可愛らしく優しい声で言う。
「もっと……大馬鹿アルネ」
この少女の笑みを、ナナの笑みを僕は一生忘れない。
☆ ☆ ☆
「ハア……ハア……ハアハア……」
荒い息を吐きながら城下町の西門を出たところにある森のあれた獣道を必死に走りながら鉄の鎧を纏ったエルフの兵士は『何か』から逃げていた。筋肉質な体系の兵士の表情には全く余裕はなくその表情には畏怖が張り付いている。高い木から落ちてくる虫や途中にある蜘蛛の巣なども全く気に求めない。
(ヤベェヤベェヤベェヤベェ!)
よく見ると兵士の防具には大量の血がべったりとついていた。右手には折れた槍を持ち、左手にはしっかりとその兵士のものではない左手が握られている。
(こ、ここまでくれば大丈夫か……ちくしょう、目撃証言では群れで行動はしてなかっただろ……なんであいつらの群れがこんなところに……早く報告しなけれ―――――――――――)
グチャ
突然高い木から降ってきた巨大な『何か』に兵士は潰される。
ドスン
ドスン
ドスン
ドスン
……
赤い夕日に照らされながら巨大な『何か』が次々と木の上から落ちてきた。体長は3メートルから4メートルほどだろうか全員が太い棍棒のようなもので武装しており体に刻まれた無数の傷跡が夕日に照らされる。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
『何か』達全員は巨大な牙を剥き出しにしながら黄昏色の空へ向けて咆哮した。
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