異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
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遺跡出現までの10日間【3日目】 その2
【3日目】 その2
「ふぅ……」
「どうだ、いい場所だろ。俺は毎日通ってる、あんたも常連になるといい」
僕と武器屋のおじさんは僕が元の世界にいた場所だとそう、銭湯と呼ばれる場所にいた。温かい湯に使っていると心も体も温まる。周りには湯気が立ち籠り視界が悪いがミストのようになっており悪い気はしない。少し落ち着いた僕は巨大な浴槽の中でフウっと息を吐いた。
「いい場所です……とても癒される」
目を閉じながら単純な感想を述べる。
「魔法がかかってるからな、気力体力ともに全快になる」
武器屋のおじさんが少し緑のかかったお湯を満足そうに眺めながら言った。
「あんた、よく生きて帰ってこれたな」
「ッ!」
武器屋のおじさんがポツリとつぶやいた言葉に体が勝手に反応する。
「………仲間が……大勢死にました……」
かろうじて言葉を絞り出す。
「「…………………」」
沈黙が流れる。銭湯には僕と武器屋のおじさん以外全く人影がなくひっそりと静まり返っており水が流れる音だけが銭湯内に響いていた。
「こんな物騒な世の中だ、冒険者をやっていればこういうことはよくある、俺の仲間も何人も死んだ……」
5分ぐらい立っただろうか……武器屋のおじさんが口を開いた。
「………冒険者だったんですか?」
頭をよぎった質問をそのまま口に出す。すると武器屋のおじさんは照れくさそうな顔をするとスキンヘッドの頭をなで、少し凶悪な目つきを少しゆるめた。
「あぁ、まだ俺が少年だった頃だがな」
「なぜ……やめたんですか?」
僕の質問に武器屋のおじさんはフゥゥッと息を吐き、カリカリと頭をかいて答えた。
「あの頃の俺は仲間たちの死に耐えきれなかった」
「!」
自分の肩がビクリと震えるのを感じる。武器屋のおじさんはつらそうな表情のまま言葉を続ける。
「俺は初めて仲間が死んだとき、なぜあいつらは死ななければならなかったのか……なぜ自分が生き残ったのか……そんなことばっかり考えて気が狂いそうだった……始めのうちは何とか耐えていたが限界はすぐに訪れたよ」
「……………」
僕の沈黙を武器屋のおじさんはニカッと笑って受け止めると言葉をつづける。
「でも今日あいつらの死の意味を見いだせた……」
「?」
武器屋のおじさんの言葉に僕は頭に? を浮かべる。
「あんた、転移魔法で助けられたんだろ」
「………僕だけじゃなく……生還した人たちは皆シグルズさん――――――聖騎士さんの転移魔法に助けられましたよ……」
『あの記憶』が頭をよぎり、僕はうつむきながら武器屋のおじさんの質問に答える。
「そうか、実はあの転送魔法の下準備は俺と俺の仲間たちが命がけで行ったんだ」
「え!?」
思わず声を上げてしまう。
「聖騎士だけじゃあ遺跡ほぼ全体を効果範囲にいれている転送魔法なんてそうそうできない。あいつは俺たちが設置していた転送魔方陣に魔力を流し込んだだけだ、まあ一人で転送魔方陣を動かしちまったあいつが救ったことには変わりはないが間接的にも若い冒険者たちを助けれたんだ。あいつらも喜んでるだろうさ」
「そうなんですか……」
しんみりとした空気が漂う。
「さ、いつまでも入ってたらのぼせちまう。まだまだ紹介するところはいっぱいあるぞ! さあ早く上がれ上がれ!」
「ハハハ、お酒は飲みませんからね」
武器屋のおじさんと僕はわざと明るい声を出しながら銭湯を後にした。
☆ ☆ ☆
「こ、この果物おいしいですね!」
「そうだろ、これはマーゴンという果物でな……」
僕と武器屋のおじさんは王都に沢山あるらしい屋台を回りながらいろんなものを食べ歩きしていた。武器屋のおじさんが紹介してくれる食べ物はとてもおいしくかった。元冒険者だけあってお勧めの保存食やお勧めのマント、おすすめの道具など色々なことを教えてくれた。
「そういえば防具の整備をお願いしたいんですけど」
本日7本目のアイスル牛の串焼きにかぶりついている武器屋のおじさんに血で汚れてしまった防具の整備を頼む。
「まだ冒険者を続けるのか?」
武器屋のおじさんが驚いた表情で僕を見る。
「はい、ローラさんたちの敵をとらないといけませんから」
自分の心の中で何かが燃え上がるのを感じる。そうだ、あいつらを全員見つけ出してネダヤシニシテヤル。
「そ、そうか……。あ、あの防具は明後日までに整備しておく、暇なときに取りに来い」
武器屋のおじさんが何故か半歩引きながら言った。明後日か……エリザベータさんの言ってた『遺跡』が出現するまでまだ猶予はあるな……。
「は、放してくださいっ!!!」
「「!?」」
突然後ろから女の子の叫び声が上がる。僕と武器屋のおじさんは急いで後ろを振り向き声がした所を見る。あ、あれは……
「いいじゃねぇかよちょっとくらいよぉ」
「そうだって、俺らにちょっくら付き合ってくれるだけでいいんだぜぇゲヒヒ」
「キャッ、やめてください!」
……チンピラみたいな恰好をした5,6人の男のエルフが茶色の髪をポニーテールにした少女エルフを取り囲んでいた。っていうかあれはアカリちゃん……?
「お、お姉ちゃんに近寄るな!」
「うっせぇんだよ! ガキがッ!!」
「ゴボッ!?」
白髪のエルフ君が果敢にとびかかるが目つきの悪い赤色の髪を逆立たせたエルフにお腹を蹴られ、あっけなく吹っ飛ぶ。
「フッド!」
恐らく弟だと思われる名前を叫びながら白髪のエルフ君―――――フッド君にアカリちゃんが急いで駆け寄ろうとするが両腕を掴まれていてその場から動くことができない。ま、周りは何をやっているんだ……。僕は周りを見回すが皆見て見ぬふりをしている。こういうところは元居た世界と同じだな……。
「ちょっとまて」
「?」
アカリちゃんを助けようと前に出ようとすると武器屋のおじさんに腕をパシリと掴まれる。
「あいつら最近暴れまわってるギルドの奴らだ……俺の店も前にちょっかいをくらったことがある、それに見てみろ全員が武装してるぞ、あいつら腕は大したことないくせに装備だけは一人前の物を着てるんだ」
「それがなにか……?」
武器屋のおじさんの言葉に僕は頭をかしげることしかできない。
「なにかってあんた……相手は6人しかも全員武装している。それに比べてこっちは病み上がりのあんたと冒険者をとっくに引退した俺しかいない、しかも非武装って言うおまけつきだ」
「い、いやでも……」
確かに戦況は明らかに不利だ。
「さあ付き合ってもらうぜお嬢ちゃん!」
「キャアッ!?」
顔にピアスを付けた頭に剃り込みのあるエルフがアカリちゃんを抱きかかえようとするがアカリちゃんは体を必死にばたばたさせ剃り込みエルフの手から逃れようとする。
「おとなしくしろよ!」
「ウグッ!?」
先ほど白髪のエルフ君を蹴り飛ばした赤髪のエルフがボディーに思いっきりパンチを入れたのでアカリちゃんの体がくの字に折れ曲がった。その瞬間、僕の中の何かが切れた。
「おじさん……こっちは非武装って言いましたよね」
「あ、あぁ……」
僕の言葉におじさんは何故か後ずさりながら答える。
「武器はあリますヨ」
武器屋のおじさんが手を放したので僕はゆったりとした動作でエルフたちに近づく。両手をきつく固く握りしめる。そしてゆっくりと空気を肺に取り込んだ。
「ここに立派ナ拳ガネ」
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