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迷子の果てに何を見る

作者:ユキアン
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第六十二話

 
前書き
ふふっ、彼の将来が楽しみですね。
あの歳でアレだけのことが出来るなら、いずれは歴史に名を残せる位に。
今度は最初から本気でやりあいたいですね。
by刹那 

 
麻帆良武道大会 2回戦




side 刹那


『さあ、2回戦第6試合開始まであと僅かになっていますがレイフォン選手がまだ姿を現しません。やはり怪我が酷く棄権してしまうのでしょうか』

それはあり得ないでしょうね。彼の目的がお金である以上、少しでも戦えるなら絶対に来ます。なぜお金を必要にしているのかを零樹は何かを知っているようですが何も話してはきませんが、1回戦の戦いを見る限り誰かの為に戦っているのはすぐに分かります。その誰かの為に捨て身の特攻すらする心意気には賞賛と嫌悪を送ります。彼は守るということをちゃんと理解していないようです。それを教える必要がありそうですね。

『ようやくレイフォン選手が現れましたが全身に施されている治療の後が痛々しいです。本当に大丈夫なのでしょうか?』

深い傷だけを集中的に治療して来ていますね。見た目はともかく戦闘には然程影響は無いでしょう。

「お待たせしました」

「いえ、試合前に聞いておきたいことがあるのですが」

「なんですか?」

「あなたは何の為に戦っているのですか」

「家族の為です。まあ家族と言っても孤児院の皆なんですけど」

なるほど、あそこで心配そうに見ている同年代の女の子がそうなんでしょうね。おそらく彼女が彼の治療を施したのでしょう。あれだけの傷を治せる位になるまで彼は傷つき続けてきたのでしょう。これは余計に教える必要がありますね。

「一つだけ言わせてもらいます。あなたは本当の強さを得ることは無いでしょう」

「え?」

「そして本当の強さを手に入れることが無い以上、いつか、あなたは何かを失うでしょう。それが何なのかまでは分かりませんが」

「どういうことなんですか」

「それを教えて差し上げます」

腰に差してある舞姫を場外に投げる。

「なめているんですか」

彼がそれを見て怒気を発するが柳のようにそれを受け流す。

「さあ、どうなんでしょうね。それにそんなことはあなたの目的には関係ないでしょう」

「くっ、レストレーション」

彼の持っている錬金鋼が気と音声によって刀の形に復元される。

『さあ、両者ともにやる気は十分なようです。それでは第2回戦第6試合、開始』

開始の合図と同時に彼が瞬動で距離を詰めながら突きを放ってくるのを右に一歩動くことで回避する。そのまま足を払い宙に浮いた身体を舞台に叩き付ける。叩き付けられながらも左手で鋼糸を操り切り私を裂こうとしてくる。それをあえて躱さずに喰らおうとすると予想外だったのか直に拘束する動きに変わるのを見て、逆に鋼糸を捕まえ投げ飛ばす。場外の池に落ち水しぶきが上がる。

『カウントに入ります。1、2、3、4、5、6、7、8』

水しぶきが上がった位置から複数の影が飛び出す。影分身をして10人に増えた彼が飛びかかってくる。

『斬空掌・散、弐式』

両手に込めた気を散弾のように飛ばす。これだけでは障壁などで簡単に防がれるので障壁無視の弐式で放つ。弐式の存在を知っているのか中心にいた一人が刀から気を飛ばして迎撃する。迎撃し損ねた分は散開して躱す。次々と斬り掛かってくる彼の斬撃を紙一重で躱しつつ目を見て観察し続ける。目から読めるのは焦りと苛立ち、そして微かに恐怖が見て取れる。焦りと苛立ちは今の状況から発せられるのが分かるが何に恐怖しているのかがまだ見えない。これ以上は言葉を交えるしか無いでしょう。

「何に怯えているのですか」

「!?急に何を」

本体が斬り掛かってきた時に気による強化から咸卦法による強化に切り替え、手刀で鍔迫り合いを行い、話しかける。

「何を恐れているのです。此所で負けてもあなたが失うものなど無いでしょう」

「僕は恐れてなんて」

「いいえ、あなたは何かを失うということに怯えています。まるで子供のように」

「そんなことは無い」

莫大な気が錬金鋼に流され、分身が時間を稼ぐように動く間に本体は身体を捻り、刀を隠すように構える。
これは素手では無理ですね。舞姫に手を向け手元に来るように念じる。魔法使いが離れた所にある杖を呼ぶのと同じように舞姫が手元に納まり素早く構える。

「うわああああああ」

「斬界剣」

後になって知ったことだが彼が使ったこの技は、彼が自ら生み出した技で浸透斬撃の一種で、一閃として放たれたそれは目標の内部に浸透し、目的の場所で多数の斬撃の雨となって四散する技らしい。それは一瞬の楼閣の如く、敵の間合い内に回避不可能な斬撃の重囲を築き上げる所から霞桜と呼んでいるそうだ。
だが私の放った斬界剣は世界そのものを切り裂く剣。一閃ごと世界そのものを切り裂いたことで霞桜は私と彼の間で斬撃の雨となる。私と彼を巻き込んで。

「「ぐうぅぅぅ」」

二人とも技を放った直後の為、回避することが出来ずに斬撃の雨をまともに喰らう羽目になる。それでも出来る限りの障壁を張り少しでも耐える努力をする。間もなく斬撃の雨が止み同時に距離を取るために離れる。傷の具合は彼の方が酷く観客席にいる彼女は今にも泣きそうな顔をしています。

「はぁ、はぁ、あなたは自分がどのように思われているのかが分かっているのですか」

「だ、だから、一体何、を」

「分からないのなら、言って、あげますよ。あなたは彼女に、どれほど心配、かけているか、理解していない」

私に言われて初めて観客席に顔を向ける。

「あっ」

「あなたが、家族であるということに執着していることは直に分かりました。けど、あなたは自分の家族という輪の中に自分を入れていない。そんな矛盾を抱えている。だからこそ家族に捨てられないかと恐怖する。その恐怖から逃れるために家族のために何か出来ないかと我武者らに動いて傷ついて、それで心配をかけ、心配をかけ続けたことからまた捨てられないかと思い、ループする。それがあなたの根底にあるもの」

「僕は、僕は」

「目を反らすことは許されませんよ」

「でも、僕は、リーリンに、みんなに心配を」

「それで良いじゃないですか」

「えっ?」

「家族に心配をかけたなら、今度は家族を心配してあげれば、それで良いじゃないですか。それが本当の家族なんじゃないですか」

「……何でそんなことがわかるんです」

何故、か。
その疑問に答えるために懐からパクティオーカードを取り出す。

「アデアット」

パクティオーカードのオマケ機能である衣装替えを利用して烏族の戦闘衣装に着替える。アーティファクトであるタケミカヅチを舞台に突き刺し、背中に意識を集中させる。次の瞬間、私の背中に一対の白い翼が生える。その白い翼に何人かが目を見開いている。

「……少し、昔話に付き合ってもらうことになりますが、構いませんか」

「……はい」

「私は……捨て子でした」

「ッ!?」

「勘違いしないで下さい。本当の両親にはちゃんと愛されていた記憶が残っていますから。私が捨て子だったというのは3歳の時、両親が亡くなってからのことです。この羽で私がどういう環境に居たかは分かるでしょう。私が父上に初めて会った時、私は自分の足で立つことも言葉をまともに話すことも出来ない位に消耗していました。それから父上に引き取られ家族として迎えられ、それからは楽しい日々を過ごしました。けれど、ふと思ったのです。私を救ってくれた父上達に私は何を返せば良いのか、と」

「それは」

「ええ、あなたと似た様なものですよ。当時はどうしたらいいのかとバカな頭を必死に使って考えました。辿り着いた答えが姉上や零樹が危機に陥った時に自らの命を投げ出すことでした。そして、それを為す機会はすぐに訪れました。あの日、このちゃんを攫おうと数人の傭兵が私達に襲いかかり、私はこのちゃんと姉上を逃がすために特攻をかけました。私が覚えているのはそれだけです。次に覚えているのは複雑な顔をしながら私の治療を行なっている父上の姿です。目を覚ました私に父上はこのちゃん達がどうなったのかを教えてくれました。その後、頭を叩かれ抱きしめられました」

『なぜ無茶をしたんだ。心配したんだぞ』

「私は正直に、思っていたことを話しました」

『馬鹿だな刹那。そんなことをオレが求めると思っているのか。お前が傷ついて、もし、もし死んだとしたらリーネや木乃香、エヴァやオレが悲しまないとでも思っているのか。そんな風に考えられる方がオレは自分が情けなくなる。オレはそんなに頼りにならないか?』

「もちろんすぐに否定しました」

『親が子を心配するのは当たり前だ。たとえ、血が繋がっていなかったとしても刹那はオレとエヴァの子供で、リーネの妹であり零樹の姉でもあるんだ。だから、自分を大事にしろ。そして、幸せになれ。それがオレとエヴァがお前達に望むことだ』

「それから、私達は自分と向き合い、私は自分の幸せを見つけることができました」

「それは一体?」

「私の幸せ、それは家族と共に笑い続けること。それを為すために力を望んだ。そして、あなたに問います。あなたは何の為に力を求めて、何の為に戦うのですか」

「……僕は、僕は」

「本当の強さを得る為には自分の弱さと向き合わなければなりません。そしてあなたの弱さは私と同じもの。一人は寂しいですよね」

「~~~っ、そうさ、僕は、一人になりたくないんだ。嫌なんだ、誰にも目を向けられないのが。自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなるのが怖いんだ」

「やっと、本音が出ましたね」

「けど、これで僕は一人に」

「なるとでも思ってるのかレイフォン」

舞台脇から零樹が声を上げています。

「自分を見てくれるのが家族だけだと誰が決めたんだ。少なくとも僕はレイフォンを友人として見ている。鋭太郎だってそうだろう。少なくとも此所に二人いる。それにお前は信じることが出来ないのか、自分の家族を」

家族という言葉に釣られて彼は先程、リーリンと呼んだ女性を見る。

「ごめんね、レイフォン。今まで気付いてあげれなくて」

「違う。僕が、全部僕が悪いんだ」

「ううん、本当の家族なら気付いてあげれたはずだもん」

「違う、僕が隠していたから」

「そうだとしても苦しんでいたレイフォンを救ってあげられなかった。今までもレイフォンが孤児院の為に頑張ってくれていたのに、私は怪我を治してあげる位しか出来なかった。それでレイフォンの力になれていると思っていた」

「そんなことないよ、僕はリーリンに助けられてきた」

「だけど心の傷は治せていなかった。だからレイフォン、彼女みたいに自分の為に戦って。私は傍で見ているから」

「リーリン……」

「さて、あなたはどうします。まだ刀を取り、向かってくるも良し。または刀を置き、去るも良し。あなたの好きにすれば良い」

自分の持つ刀に目を向けて考え込む彼を視界に納めつつ、タケミカヅチと舞姫の二刀を構える。時間があるので少し話をしようと思う。私の本来の戦闘スタイルとは異なる二刀流は主に空中戦、つまりは翼を出した状態での戦闘スタイルです。空中では360度全天からの攻撃を受ける羽目になる。だから、私達はそれぞれ地上と空中とで戦闘スタイルが変わることが多いのです。私が選んだこの二刀流も攻撃をタケミカヅチ、防御を舞姫という使い分けによる戦闘スタイルです。
まず、二刀を操ることで地上戦より増える空間を埋める。次にタケミカヅチは刀というよりは大剣に近い。つまりは重いのです。これを有効に扱う為に攻撃は基本的に重力に逆らわずに回転し続けるように斬り続けるといったものが基本です。
正直に言うと空中戦は嫌いです。翼を曝すことは別に構わないが背中を相手に見せることになるスタイルと踏ん張りが利かないというのが好きではない。踏ん張る為に魔力を余分に消費し、足場を作るということも考えましたがそんな余裕は姉弟間では一切無く、それをする位なら背中を見せる方がマシだっ「とっとと戦えや」……無粋ですね。

「こっちは金を払って見に来てんだ。そんなつまらん芝居を「黙っていてもらえますか」

暴言を吐く観客の目の前に移動しタケミカヅチと舞姫をクロスさせハサミのように首筋に当てる。

「な、何を「時間が無いので率直にいいます。邪魔をする者を殺すのは反則ではないのですよ」ひぃ」

刃を少し滑らせて薄皮一枚を斬る。場外カウントが取られているので舞台に戻る。一瞬の沈黙の後に罵声とブーイングが包み込む。更にはゴミなどが投げ込まれる。会場のほとんどが敵に回る。だが、それがどうした。私は自分が間違ったことをしたとは思っていない。なら罵声やブーイングなど、ただのBGM。私の心には一切響かない。そして無知な観客に再び思い知らせる。

『百烈桜花斬、弐の太刀』

観客席には超々硬度の障壁が張られていますが弐の太刀はそんな物を無視してすり抜け、対象を切り刻みます。
私はともかく、彼やリーリンと呼ばれる彼女、そして私の家族を侮辱する観客の髪を残さず切り落とす。例えそれが女性であろうとも。

「殺しますよ」

この大会初の殺気を観客に対して放つ。途端、我先に観客が逃げ出します。逃げなかったのは選手と私達の監視でもしているのであろう魔法先生、それとリーリンと呼ばれた女性、それと審判と他数名程度だ。まあ、こんなことをしたのには訳があります。少しでも彼の決断をさせやすくするため。簡単に言えば自分の幸せを壊せる存在がすぐ近くにいることを分からせる為に悪役を演じただけのこと。

「その目を見る限り、決心がついたようですね」

刀を構え私を真直ぐ見据える目には先程までの焦りや恐怖は消え、決意が見える。

「ええ、僕は刀を振るい続けます。僕にはそれ位しか出来ませんから。リーリンや零樹が僕を見続けてくれるなら、僕はそんな皆の為に戦い続ける」

「良い答えです。ならばここからは本気で行きますよ、レイフォン(・・・・・)」

「!!はい」

初めて名前で呼んだことに驚いたようだが、すぐに気を張り巡らせるのが分かる。それに合わせるように咸卦法で肉体を強化させる。そして驚愕する。
レイフォンが咸卦法を使用し始める。零樹から聞いていたがまさか咸卦法までも覚えられるとは思ってもみなかった。それでもまだ練度が低いのか出力が安定していないようだ。ならばこれ以上時間を与えるのは得策ではない。瞬動で近づき、斬りかかるとレイフォンは逃げに徹する。少しでも咸卦法に慣れる時間を得る為だろう。鋼糸と瞬動、虚空瞬動を巧みに操りどんなことがあっても対応できる距離を保ち続ける。それどころか隙あらば気弾や、斬空掌・弐の拳を放ってくる。
だが、その才能に嫉妬する様なことは無い。そんな才能から最も遠く、努力することで遥か高みに立ち続ける父を持つ身にそんな嫉妬は欠片すらもない。
一時は姉弟の、親友
このちゃん
の才能に嫉妬したことはある。それを素直に父上に告げるとオレも同じ様なことを思ったことがあると言い、記憶を見せてもらった。そこには周りと比べれば強いと言えるも大した強さを持たない男の子がいた。丁度、麻帆良に来た頃の零樹のような男の子が。それが父上だと気付くのに時間がかかった。姿が一緒なだけでまるで違う人物を見ている不思議な感じだった。それから、今の自分と同じ位の強さを持っている父上の姿が映る。そこには成長しきって、大人になっている姿が映るが元から父上は成長を自在に操れる以上正確な年齢は分かりません。それに対して父上はオレが50の頃だと答える。修行を始めて1年も経っていない私が50歳の父上、つまりは40年近く修行した父上と同じ位の強さを持っている?信じられなかったがそれは事実であり、同じだけ生きた人が居るのなら自分はその人たちに勝つことは無いと言っていた。その後に、まあ負けもしないけど、とも言っていましたがね。

「厄介ですが対処法はいくらでもあります」

コピーされるというのならコピーされた上で使えない技を使えば良いというだけのこと。翼の羽一枚一枚に咸卦を通し、羽ばたきと同時に飛ばす。羽としては柔らかい部類に入る烏族の羽も咸卦を通せば投擲武器になる。これを大量にバラまきたいがあまりやりすぎると見た目が悪くなるし、手入れが大変なので、レイフォンが移動に利用している鋼糸を撃ち落とす。体勢が崩れた所に瞬動と翼で加速し接近。それも密着する位に接近し、手刀で斬りつける。斬りつけるというよりは叩き付けると言った方が正しいのだろうがそれを用いてダメージを確実にダメージを与えていく。ここまでの接近戦をしたことがないのか先程より戦いづらそうにしているのを見て、更に格闘技も混じらせる。もちろん距離を離させてしまう様な投げなどは一切行なわず、じわじわと痛み付けるようにしていきます。時間がかかりますがレイフォンが咸卦法に慣れるまでに出来るだけダメージを与えることにする。それからしばらくの間はこの状態が続き、誰もがレイフォンの負けが目に見えていた。それでもレイフォンは必死に咸卦法を制御を完成させる。そして、一気に咸卦法の出力が上がる。

「くっ」

先程とは打って変わり、今度は私が押され始める。力も早さもレイフォンの方が上になってしまい防御に集中する必要があった。少しでも有利な場所として空中に滞空しながら羽を飛ばして鋼糸を撃ち落とし、飛びかかってくるレイフォンを打ち払い、時には躱し、隙が出来る一瞬を待ち続ける。そしてその一瞬は来た。虚空瞬動を使う瞬間に身体がぶれていた。つまり、微妙にズレて目の前に来る。レイフォンが全力で斬り掛かれない位置に来るのならそこに殺さないギリギリの全力の一撃を叩き込む。

「神鳴流決戦奥義、極大雷鳴剣」

全力の電撃による攻撃の前にレイフォンが焼かれる姿を見る。これで殆ど動くことは出来ないでしょう。油断はしていなかったでしょうが、気を抜いてしまった。

「レストレーション02」

だからこそ聞き逃してしまった。見逃してしまった。レイフォンが持っている刀の刀身が消えたことに。次の瞬間大量の鋼糸が私を包囲していた。

「お見事です」

私は鋼糸に切り裂かれ、地に墜ちる。



side out



side 零樹


まさか刹那姉さんと引き分けになるとは思ってもみなかった。現在は両者ともに治療中だ。さてと次の相手はタカミチだけど準備の方は万全だ。タカミチ、先に謝っておくよ。かなり卑怯な手を使わせてもらうね。

『さて、会場が一気に寂しいことになりましたがこれより第2回戦第7試合を開始します。選手の方は舞台に上がって下さい』

少しボロボロなタカミチが舞台に上がり紹介を受けているのを確認してから今いる場所から真下に急降下する。そこは舞台ではなく、場外の池に蹴りを叩き付け大量の水しぶきを上げる。

『ド派手な登場を果たしたのは今大会で圧倒的な強さを見せる天流一家の長男、天流・M・零樹選手。予選では襲いかかってきた相手を投げるだけに留まりあまり印象がありませんでしたが、他の家族の戦い方があまりにも極端過ぎて戦い方が全く分かりません。ちなみにその執事服は普段から?』

「いいえ、僕のクラスの宣伝を兼ねています。まあ、彼女がそれを望むならやぶさかではありませんけど」

『うらやましいな~、その彼女さん。はっ、まさかあなたがアリス選手の』

「そうですが、何か?」

『いいな~、こんな彼氏を持ってて。私もこんな彼氏が欲しいな~』

「ですって、タカミチ。そろそろ身を固めても良いんじゃないですか。」

話しながら細工を続ける。できればこのまま試合が始まる前に終わって欲しい所です。もう少し、もう少し。

「ははは、そう言われても相手がいないからねぇ〜」

「タカミチならすぐにいい人が見つかるでしょう。というより狙っている人って結構いるでしょ」

「う〜ん、そういう人の大半は周りの評価から近づいている人が多いからね、まあじっくりと探すよ」

『では、そろそろ試合を開始します。両者ともに準備は良いですね?それでは第2回戦第7試合開始』

終わった。直ぐさま起動の信号を送る。

「こうやっ」

タカミチが何か言おうとしていたがそれは爆発によってかき消される。なんてことは無い、不意打ち様に用意したナノマシンが起爆しただけだ。空気中に散布しておけば、後は意思一つで起爆可能という優れもの。欠点は若干の違和感とコストだ。後者はともかく前者は舞台に登場する際に巻き上げた水しぶきをナノマシンに浴びせ、水のように認識させることで誤摩化すことに成功している。コストは、どうすることも出来なかったが効果は十分だったようだ。ナノマシンは体内にも浸透していたのでこれで立つことは不可能だろう。案の定、爆炎が消え去った後には予想以上にぼろぼろなタカミチが倒れている。

「むっ、間違ったかなぁ~?」

見たくなかったな〜、デスメガネの裸なんて。うん、ぶっちゃけスーツが全部吹き飛んだ。おかしいな?たしか戦闘用のスーツを着ていたはずなのに。もしかしてガトウさんとの戦いで普通のしかなくなったのかな?まあいいや、これで1、2回戦と無傷で勝ち上がれた。とりあえず手を合わせてから脅迫用の写真を何枚か撮っておこう。きっと役に立つ日が来るはず。
勝者宣言がされてから舞台を去る前にタカミチの下半身に上着を被せておく。ズボンはどうしたって?もちろん破れて、下着も無くなっているぞ。漫画じゃないんだから当然だろうが。うつ伏せだったお陰でアレを曝さなかっただけマシだろう。
さて、次の相手は『殺人貴』か『麻婆神父』
できれば『麻婆神父』が良いな。『殺人貴』が相手だとアーティファクトを使うしか無いな。できれば使いたくないけど。契約者は誰かって?もちろんアリスに決まっているだろう。父さんに教わった両者が主人で従者になる本契約をすませてあるんだ。お互いにヤバすぎる物、父さんの『遊びで造って封印』シリーズを当ててしまった。初めて見たよ『危険性が高すぎるから自己責任で使う様に』ってメモと詳しい取扱説明書が一緒に出るアーティファクトなんて。本当に危険過ぎて1回死んだよ。母さんの血を引いていて本当に良かった。あまり濃くないから再生に時間がかかったけど本当に良かった。再生中にずっとアリスに泣かれていたのも辛かった。まあ、それでも1回死んだことでどれ位まで大丈夫なのかが分かるようになったので良しとする。


何処にいるのか分からない神(作者)よ。お願いだから『麻婆神父』を勝たせて下さい。




side out





ダイジェスト


第1試合 試合前に天流・M・零斗選手がトラック3台分の銃火器を持ち込み会場が騒然となりました。試合内容は開始と同時に片や銃を、片や刀剣類の投擲勝負。開始から24分で天流・M・零斗選手の武器が底を尽き、勝負はこれから。と思いきや、ジャック・ラカン選手が一瞬のうちに頸動脈を絞められK.O.

第2試合 あの大剣から動きは鈍重だと思われた織斑千冬選手ですが、予想と反しアーニャ・ユーリエウナ・ココロウァ選手よりも素早い動きを見せ、またもや相手を大剣で叩き潰しました。

第3試合は荻野邦治選手の棄権でリーネ・M・テンリュウ選手の不戦勝です。

第4試合 こちらも第3試合と同じくクルト・ゲーデル選手が試合開始時間になっても現れずアリス・アーデルハイト選手の不戦勝です。ただ、アリス選手の怪しい笑みが気になる所でした。

第5試合 ベイダー卿のフォースに対し、エヴァンジェリン・M・テンリュウ選手は大量の人形を用いた集団戦を用いましたが、ライトセイバーによってその全てが壊され棄権しました。その勝利にベイダー卿がほっとしていましたが一体何があったのでしょうか?

第8試合 舞台に両者が上がると、突然言峰綺礼選手がリタイアを宣言。『青年よ、もがき苦しむが良い』という言葉を残して去っていきました。神父としてその台詞はどうなんでしょう?
 
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