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真・恋姫無双〜中華に響く熱き歌

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閑話3 南陽での出会い


これはバサラが赤兎に歌を聴かせる半年ほど前のことである。

(〜ああ、おれはここで死ぬのか・・・それもいいかもしれぬ、な・・・)

ある1人の男がある街の少し離れたところで倒れていた。
その男の身なりは農民のものである。
が、服はボロボロで、身体の方もところどころ傷があるようである。
だが、その体付きは農民のそれでなく、まるで歴戦の戦士のようである。
そして、男の腰には剣があり、身体いや、服には返り血の跡がある。
何かしらの事情があるように見える。

(おれは、いや、俺たちは今まで普通に暮らしてきただけなのに・・・これからもそうして生きていきたいと願っていただけなのに・・・なぜ、なぜあいつらは、死なねばならなかったのだ・・・)

そう心の中で自分に聞いているような、誰とも知れぬものに聞いているのか分からないが、呟いていた。
ただひたすら、ひたすらと。
その眼には生きている気力すら感じられることは無い。
その眼には、ただ大きな絶望と喪失、そして諦めの感情が存在している。
まるで、何か取り返しのつかない物を失ったかのような、そんな感じである。

(俺の生まれ育った村が・・・共に育った友が・・・そして、妻と娘が、なぜ殺されねばならなかったのだ・・・あんな、あんな盗賊共なんかに・・・)

そう、男は心の中で呟く。

(だが、もうそれもどうでもいいことだ・・・村にいた盗賊共は皆殺しにしたし、村の皆は、妻は、娘はもう、2度と見ることも、この手に抱きしめることもできないのだから・・・)

(そして、おれの命もそろそろ尽きるだろう・・・なんせ、3日も飲まず喰わずで歩いていたからな・・・だが、それでいい・・・これで、皆に会える・・・)

男がそう思い、その目を瞑り、永い永い眠りにつこうとした。
だが、

「む?なんじゃ、誰か倒れておるぞ!お〜い、●●〜!こっちへ来るのじゃ〜」
「は〜い、どうなされましたか、●●様?・・・あら、こんなところに人が?」
「うむ、こんなところで寝てて邪魔なのじゃ!●●、なんとかせい!」
「え〜?でも、この人、ただ寝てるわけじゃないみたいですよ、●●様ー。
この人、返り血で服が汚れてるし、何よりもかなり弱ってて、今にも死にそうですし。」
「なんじゃと?!なら、妾が助けるのじゃ!●●!そちも手伝うのじゃ!」
「え〜、どうしたんですかあ、●●様あ?なんか珍しくいいことしようとするなんて、いつもの●●様らしくないですう。」
「いいから助けるのじゃ!妾の目の前で民が死ぬなんて、許さんのじゃ!」
「わあ〜、こんなこと言うなんていつもの●●様らしくないけど、分かりましたー。
親衛隊の皆さ〜ん。ちょっとここに倒れてる人がいるので、城まで運んでくださーい。」
『はっ!』

親衛隊と呼ばれた者たちが倒れている男を担いで城に運ぶ。
その際に
「この野郎、●●様にあんなこと言って貰えるなんて、なんて羨ましいやつだ!」
「おれですら言われたこと無いのに!」
「●●たん、ハアハア・・・」
「おい、今のやつ出てこい。」

とこんなことが聞こえてきたが、親衛隊の者は皆忠義に溢れている者たちである、というのは彼らのためにも書いておく。

それからしばらくして、男は城の一室にて目を覚ます。
体を起こし、周りを見渡すと、立派な装飾やらがこしらえられている部屋であった。
そして、自分の体を見ると、所々に布が巻かれているのを考えると、治療をされたみたいである。
(どこの誰かは知らぬが、物好きなものだ。そして、余計な世話だ。だが、礼は言わねばならない。)
男がそう思うと同時に
「おお!起きたかや。」
「あらあら、あの状態から起きるなんて、どんな体をしてるんですかあー?」

そんな声が聞こえ、男がこの部屋の入り口の方を見ると、2人の女性と子供がいた。
女性の方は短い青い髪に帽子を載せている。
子供の方は長い金色の髪に頭の後ろに黒い布の飾り物をしている。
「・・・あなた方は?」
敬語を使ったのはこの2人がどんな身分のものか知らないからだ。
もしかしたら高い身分のものかも知れない。
そう思っての敬語だった。
「む、妾を知らんのかや?七乃!こやつに妾の凄さを教えてやるのじゃ!」
「あいあいサー♪ここにおわすは名門名族で袁家の出身で、この南陽を治める袁術公路様でーす♪
この愛くるしい容姿とそれに比例するかのような拙い知性を合わせ持つ、この可愛い可愛い美羽様が我が主人でーす♪」
「うわはははは!もっと褒めるのじゃー!はははは!」
・・・この人、今、さらっと主君を貶してませんでしたか?
そう思いはしたが、口に出すことはしなかった。
だが、この人が言ったことについて聞きたいことができた。
「あなた様は、あの名門袁家の袁術様でしたか。
なら、なぜ自分のような農民風情をお助けになられたので?」
そう、口には出したがこれは純粋な疑問だ。
わざわざ自分のような者を助ける義理など無い。
なら、何故?
そう思い聞いてみた。

「うむ、それはの、妾の目の前で、妾の民が死にそうになっているのが嫌だったのじゃ!」
袁術は男に対し、そう宣言した。
(それだけの理由で、おれを助けたのか、この子供は?
なら、なぜあれほどの税をかけていた?)
男は袁術の言葉に驚くと共にこのようなことを言う者があれほどの税をかけていたのか?
そう思わずにはいられなかった。
「・・・それだけの理由で私を助けてくださったのですか。ならば、心よりお礼を申しあげます。」
男は寝台の上で頭を下げ、礼を述べる。
「うむ!ところでお主、どこか行くところがあるのかや?」
「・・・いえ、行くところはおろか、盗賊に村も大事な人を奪われ、頼る人もありません。」
「盗賊、にかや。のう、七乃ー?妾の領内に盗賊なんかおったのかー?」
「はいー、残念ながらわが領内では盗賊がいるのは確かですー。」
「そうかや・・・のう、お主、行くところが無いのなら妾に仕えんかや?」
「・・・私を、ですか?それは、なぜでしょうか?」
「お主が盗賊に村や大事な人を奪われたのなら、お主は1人ぼっちじゃろ?妾には七乃がおるが、そんなの寂しくて、妾なら泣きそうじゃ。
それに、お主を見ていると、父上を思い出すのじゃ。」
「・・・袁術様もお父上を?」
「そうなのじゃ・・・じゃから、お主の話を聞いて、妾に仕えて欲しいと思ったのじゃ。」
そういうことか・・・この子供が言うことに嘘はなさそうだ。
そして、七乃と呼ばれている女性も先ほどまでは笑顔だったが、今は主君の様子を心配している。
どうやら全て本当のことらしい。
ならどうするか。
私は今や天涯孤独の身。
この身が果てるところをこの方に救っていただいた。
ならそれだけの恩を返さなくては。
それに、この2人を見ていると、妻と娘を思いだす。
「・・・我が身はあなた様に救っていただかなくてはただ朽ち果てるのを待つばかりでした。なら、その恩を返さずして、なぜのうのうと生きていけましょうか。
この身、この魂、これよりあなた様のために捧げます。」
そう口に出す言葉は心よりの本心であった。
男にとって命を救っていただいた恩、そしてかつての妻と娘を重ねてしまうこの2人を放っておくことなどできやしなかった。
「そうかそうか!なら、妾のために存分に働くのじゃ!
妾の真名は美羽じゃ!次からそう呼ぶがよい!」
「あら〜美羽様が真名まで許すなんて、珍しいですねー。私の名前は張勲です。真名は七乃です。よろしくお願いしますね。」
2人はそう自己紹介する。
ただ、七乃の方はどこか怖い雰囲気を醸し出している。
なぜだろう?
「私のような者に真名まで預けてくださるとは・・・
我が名は『紀霊』、字は二郎、真名は戩と申します。
これからよろしくお願いします。」
「うむ!よろしくなのじゃ、戩!」
「はーい、よろしくお願いします。」

それから紀霊はわずか半年ほどで親衛隊の隊長にまで登りつめ、周囲を驚かせることになる。


 
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