101番目の哿物語
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第六話。魔王降臨?
ツヅリがあらわれた。
どうする?
コマンド
1、殴る
2、抱きつく
3、デートしてデレさせる
脳内に浮かんだ選択肢は……
「って、どれも死亡フラグじゃねえかー⁉︎」
脳内に浮かんだ選択肢に思わず全力でツッコミを入れてしまう。
目の前にいる存在に起こす行動がそれだけって。
おい、どうなってんだ⁉︎
と、一人狼狽えていると。
「んー? 何一人で狼狽えてんの?」
俺の顔を見つめて綴は、
「ま、いいけどー? 自分から話すより喋らせる方が面白いからなー!」
スーッ、とタバコを一息すると、こき、こき。なんか薄ら笑いを浮かべてナナメ上を見つつ首を鳴らした。
あ……アブネーな。コイツ。
まあ、綴がアブネー奴っていうのは解ってるけど。
「さーて、楽しませてくれよな?」
視線を俺に戻し、綴は手に持っていたタバコを俺に向けて投げつける。
ビューン、と。チョーク投げのようにタバコを投げてきたが綴が吸うタバコは僅か3センチほどの背丈しかない彼女が持つもので、普通のタバコに比べるとタバコというより最早針と言った方がいいほどに薄く、それでいて長い品物だった。
ヒステリアモードの俺は迫り来るそのタバコを軽々避けたが……
______ああ、クソッ。
やっちまったぜ!
タバコの投擲は単なる目眩まし。
本命の武器は綴の小さな両手が持つ、黒い筒に持ち手がついたもの。
綴御用達のあれは……
「ん? 何だ? ああ……これが気になるのか?」
俺の視線の先に映るソレを綴は上に向ける。
「小人斧女っていうロアだからな。トレードマークみたいなもんだ。
ようするにこれが私の武器なんだけど」
綴が掲げたもの。
それは紛れもなく……
「斧って……どう見ても銃だろ、ソレ⁉︎」
それは紛れもなく銃器だ。
彼女が愛用する自動拳銃。
グロック18。
それは、グロック17にフルオート機構を搭載したモデルでオーストリア国家憲兵隊に属する精鋭の対テロ部隊GEK COBRAの要請によって開発されたものだ。小型である上にポリマーフレームが軽量なため連射時の反動は大きく、集弾性は低い。そのためカスタムパーツとして折りたたみストックが存在する。
外観はグロック17とほとんど変わらないが、スライドの左後方にセミ/フルオートの切り替えレバーがある。
「ふむふむ……なるほどなー」
その銃器を手にした綴は虚空を見つめてなにやら一人納得した表情を浮かべた。
「アイツが言ってた元の世界に戻る為の鍵ってお前のことか?」
「……アイツ?」
「アイツの手の上で転がされてる感じがするのは気に入らないけど……さっさと帰りたいしなー」
何だ?
何の話をしてるんだ?
「うん、悪いけど……ここでリタイアしてくれ」
一人納得してから綴は呟いた。
「『狂気の拷問者』」
空間に現れたのは、鉄の処女、三角木馬、巨大斧の振り子、水責め椅子……etc。
綴が一言呟いたそれだけで。
俺を取り囲むように様々な拷問器具が具現化した。
「さーて、楽しい時間の始まりだー!」
綴がそう言った直後。
まるで意思があるかのように拷問器具は自動的に作動して俺を傷つけようと襲ってきた。
鉄の処女は内側の血に塗れた無数の刃がチラッと見えて。
大きな振り子斧はビュー、ビューと風を切るように鋭い音を出して。
三角木馬は三角の部分が鋭い刃物のようになっていて。
水責め椅子は体を固定するはずの縄が頑丈な鉄鎖に一瞬で変化したのが見えた。
(おいおいおいおいおいおい……⁉︎)
嫌がらせか! と思える過剰な拷問器具を見た俺は。
(行くぞ! 『潜林』!)
ヒステリアモードの反射神経により、しゃがんで這うように進みながら迫りくる拷問器具の一撃を回避してその場を離脱した。
とにかく逃げなければ!
そう思った俺は全速力で走って。
逃げ込んだ先はお風呂場がある方向だった。
直後。
ザザザザザザザザザッ‼︎
あの富士蔵村で聞いたラジオのノイズが辺りに響いた。
「モンジさん!」
ガチャ、っとバスルームの扉が開き。そこから勢いよく飛び出してきたのはラジオを右手に、左手で自分の濡れた体にバスタオルを巻きつけながら走る鳴央ちゃんだ。
そのセクシーすぎる彼女の格好を見た俺の血流は最早止まらない!
「ちょっ、鳴央っ⁉︎ そんな格好でっ!」
バスルームの奥からはそれを咎める音央の声が響いた。
「音央ちゃん、ですが……きゃあ⁉︎ 早くしないとモンジさんが拷問されちゃいます!
って、モンジさん⁉︎」
俺は背後を振り向かないようにして。
スピードを落とさないまま、音央がいるであろうバスルームへと入ろうとして______。
バスルームから溢れ出た大量の茨の蔦により俺の体ごと、俺を襲っていた拷問器具は壁に抑えられた。
リビング全体に茨の蔦が伸びている状況だ。
「鳴央っ、あの場所に連れて行こ!」
「わ、解りましたっ! 『妖精庭園』!」
鳴央ちゃんが叫んだ直後、辺りは茨の壁に囲まれた美しい広大な庭園に変わった。
花壇には色とりどりの花が咲き乱れていて……ああ、ここは。
『神隠し』の先、音央と鳴央ちゃんの『居場所』だった空間だ。
「はふぅ……これでもう、絶対に取り逃がすことはありません、モンジさん」
濡れたままで、バスタオルを巻いた鳴央ちゃんが声をかけてきて。
その声が聞こえるのと同時に。
巻きついていた茨の蔦は俺を解放し、拷問器具と綴のみを茨の蔦で覆って拘束していた。
鳴央ちゃんの方を向こうとして、すぐに視線を逸らした。
逸らさないといけなかった。
何故なら……
「見たら殺すわよ」
茨の蔦や花でピンポイントで体の大事な場所を隠している音央が、庭園の中央にいたからだ。
「……ああ、うん。悪い……」
裸の美少女が大事な場所を手で隠すその仕草。
それはそれでドキドキする格好だったが、あまりジロジロ見るわけにはいかずに。チラチラっと音央をチラ見しつつ。
視線を綴の方に向けると。
綴は、音央が操る茨に巻き付かれて身動きが取れないでいる。
「やった……のか?」
あの綴を捕獲した……?
こんな簡単に……。
あまりにあっさりと捕まった綴を見て、俺が呆然とする中______
「で、こいつ、何?」
音央は腰に手を当てながら、首で綴を示した。
「あ〜、ソファの下にいたんだ」
「ソファ? だって、『ベッド下の男』なんじゃないの?」
音央の疑問ももっともなんだが……
「あっ、そっか。……会長さんが『ソファにお布団を持ってきて寝ている』って言っていたから……ですね」
鳴央ちゃんが思い出したように言った。
その通りなので俺も頷く。
「だろうなぁ。つまり、こいつにしてみればソファがベッドなんだ」
「小さな女の人? ああ……小人のロアなんですね」
鳴央ちゃんは綴を見て頷いた。
綴が何故小さな姿になっているかは俺にはわからんが……ああ、やっぱり小人のロアというものはいるんだな。
「ベッド下の男……のロアなのに、どう見ても女だよな……」
「それはそんなに珍しい事ではないですよ。〜男というロアでも実際には可愛い女の子とかだった、なんて話もありますし……」
ああ。そういえば一之江も似たような事を言っていたな。ロアは女性がなる確率が高いとか、なんとか。
という事は綴がロア化しても特に不思議ではないという事か?
……いやいや。やっぱりおかしいぞ。
最近、非現実かつ、非日常的な出来事に慣れた生活を送っていたからか、以前よりもオカルトを受け入れられてる俺だが。やっぱり綴がここに存在している事は違和感しかない。
それは……赤マントのロアの時とは前提が違うからな。
赤マントが女性のロアでも受け入れられたのは、俺とは面識がない他人だからだ。
だがこの『ベッド下の男』は違う。
なんたって……綴はこの世界の人ではないのだから。
前世に通っていた学校の教師。
それも犯罪者や生徒に拷問紛いな尋問をするスペシャリスト。
尋問科の問題教師だったのだから。
「んじゃ、サクッとやっつけちゃいましょ」
「そうですね。このまま放置もできませんし、やっつけちゃいます」
サラッとやっつけちゃうという二人。
綴の強さを知らない二人は簡単な感じで言ってるが。
「いや、あのな……二人とも」
止めようと思ったが遅かった。
「それでは、いきますね」
俺が口を挟む間もなく、音央ちゃんの口からその言葉が出た。
「『奈落落とし』」
鳴央ちゃんの口から物騒な言葉が出たと思った瞬間。
茨の蔦に絡まれていた綴の背後から『ピキン』というガラスに亀裂が走ったみたいな音が聞こえ、直後、その音の発生源に黒い線が走り______。
そこには巨大な暗黒の『穴』が発生していた。
「うわぁ、何だよ……あれ⁉︎」
その『穴』は見ているだけで根源的な恐怖が呼び起こされるような、身震いしてしまうような威圧感を放っていた。そう、全てを飲み込み、そして吸い込まれたものは二度と戻って来れなくなるブラックホールのように。
「何って、あんたもあれに落ちたことあるじゃない」
音央の言葉に、我に返った俺はマジマジとその『穴』を見つめる。
______この、『穴』ってもしかして……?
「……飲み込んだ存在を完全に消し去る、『神隠し』の向こう側の世界です」
鳴央ちゃんのその言葉で俺は確信した。
この『穴』はかつてその彼女……今は鳴央と名乗っている音央と共に落ちたあの暗黒の世界の入り口だということを。
「じゃ、落とすわよ?」
「はい」
あっさりゴミを捨てるみたいに、音央は綴の全身に巻き付いた茨を解いて。
解放された綴はそのまま、真下に現れた暗黒の穴に落とされていき。
「ちょっと待て。まだタバコ吸って……うおぉぉぉー」
そのまま黒い穴の奥底へと落ちていった。
「……やった、のか……?」
「あの穴の空間は、自分の存在すら忘れて穏やかなまま消えていくだけの場所。ロアにとっては……最も安息出来る居場所となっています」
「人間の俺にとっては、何も無くて寂しい場所だったけどな」
「はい。貴方が彼処から戻ってこれて、本当に良かった」
俺達が見ているうちに、その『穴』は何事もなかったように消えていった。
本当にやった、のか?
あの綴を……倒せた?
ははっ、やっちまったぜ!
俺だけでは到底敵わない敵な綴だが。
仲間がいればなんとかなる。
いや……それもこれも彼女達だから出来たんだ。
これがあの一之江やキリカが恐れた神話クラスの都市伝説。
『神隠し』の力なのか……。
「さて、早いとこ戻りましょ。鳴央が風邪引いたらアレだし」
「あ……はい。ちょっと……恥ずかしいですね……」
恥ずかしい?
音央のその言葉で、鳴央ちゃんを見れば、彼女はバスタオルを巻いただけという何とも素晴らしい格好で。黒髪清楚ナイスバディな美少女のバスタオル姿。しかもその髪は濡れていて、肌はまだ水滴が残っていた。
首筋やうなじ。そして、水滴が流れ鎖骨などに視線がいってしまい……俺の理性は限界寸前だった。
ああ、クソッ!
ヒステリア性の血流が流れちまう!
と、そんなことを思っていた時だった。
ピシリ。
まるでガラスが割れたかのような『音』が聞こえると。
何もないはずの空間に亀裂が走り______。
ピシ、ピシ、パキン。
まるでガラスが砕け散るかのような『音』が辺り一面に聞こえて。
俺や音央。鳴央ちゃんの目の前にソイツは降臨した。
「______ゲホゲホ。なかなかやるな、『哿』ゥ。
いや、今は『101番目の百物語』と呼ぶべきか? ま、どっちだっていいんだけど……」
空間に突如出来た穴から出てきたのはたった今さっき、奈落の穴に落とされたはずの綴だった。
綴は俺や音央達を一瞥した後、「なるほど……」と呟いて。
「一文字疾風______性格はややお調子者の傾向が見られるも、社交的で特に女子との関わり合いが高い。
しかしその反面、押しが弱いチキンなところもあり、結局は面白い人止まりで終わる傾向が見られる。
ただし、潜在的なカリスマ性を持ち、自身が関わった人物の生き方をも変える可能性をも秘めている。
特にここ数ヶ月の間に性格の変化が見られ、以前より女子や他人との距離を置く傾向が見られる。
……ふーん、ここ数ヶ月で性格が変わった、かぁ。ね……アンタ、なんか怪しいブツでもやってんの?」
コイツ、一文字のプロフィールまで熟知してるのかよ⁉︎
「してない。俺は俺……ですよ」
「ふーん……ま、いいけど?」
「どうやってあの穴から抜け出したのよ?」
音央が綴に問いただすと。
「ああ? あー、あの穴?
なんか真っ暗で気分悪かったけど気合でどうにかなったわ〜」
気合⁉︎
「う、嘘でしょ⁉︎」
「え、え?」
混乱する音央、鳴央の『神隠し』姉妹。
「……というのは冗談だけど〜」
冗談……なのか?
綴なら気合でなんとか出来そうで怖い。
「確かにあそこは嫌な気分になるけど、はっきり言って『軽い』!
尋問のエキスパートの私からしてみたら、軽すぎて準備運動にすらならないわ」
綴のその言葉に鳴央ちゃんは泣いた。
「本当の絶望はあの程度ではないな。
全てを忘れるなんて軽すぎるわ!
私なら忘れられないくらいの絶望を身に染みらせるがな」
「あれが軽いって……アンタ一体」
「ごめんなさいごめんなさい……忘れさせてごめんなさい」
ショックから立ち上がれないのか、音央は呆然とし。
鳴央ちゃんは泣いたまま、謝罪の言葉を吐いた。
「だが……なかなかいい技だ。
どうだ? 私の下に来ないか?
私の配下になれば……。
世界の半分をやろう」
「どこの魔王だよ⁉︎」
思わず突っ込んだ俺は悪くない。
「はっくしゅーん……!」
俺が綴に突っ込んだタイミングで全裸にバスタオルを巻いただけという何とも目のやり場に困る格好をした鳴央ちゃんが大きなくしゃみをして。
いただけない気分になった俺達は鳴央ちゃんに優しく言った。
「服、着ようか?」
「痴女がいるな」
「ちょっ、鳴央⁉︎ まだあんたその格好だったの⁉︎」
「い、いやぁぁぁ______⁉︎」
叫びながら鳴央ちゃんが『妖精庭園』を解除すると。
「おっまたせー!」
丁度詩穂先輩が学校指定のジャージに着替えて出てきたところだった。
「おりょ?」
「あ……!」
先輩の視線の先にはバスタオル一枚巻いただけの鳴央ちゃんの姿があって。
「わあっ、鳴央ちゃんってダイタンだね! モンジくんに裸アプローチ⁉︎」
「えええ⁉︎ あ、いや、これは、その、あの、ちがっ!」
耳まで真っ赤にして、手に持ったままのラジオをブンブン振り回す鳴央ちゃん。
「鳴央ー、あんまりそんな格好で暴れるとー」
「え?」
「あっ」
「ほう……!」
俺、先輩、綴の呟きが聞こえた。
っていうか、綴まだいたのか⁉︎
あれ? でも先輩は気づいてない?
小さくて見えない……のか。
「あっ……!」
暴れたせいか。
鳴央ちゃんの胸を押さえていたバスタオルの結び目が解け……。
ドキドキしながらヒステリアモードが見せるスローな世界で観察していると。
「おぉっとそこまでです」
「なっ⁉︎」
いきなり現れた一之江ボイスと同時に、俺の視界は真っ暗になった!
「なんだ⁉︎ 何が起きたんだこれは⁉︎ いきなり真っ暗になった⁉︎ 鳴央ちゃんの『バスタオルはらり』事件はどうなった⁉︎」
「その紙袋は特注品です。いわゆる闇属性です!」
「くっ、事件は暗闇で起きてるんじゃない。
明るい場所で起きたんだ!」
「死になさい!」
グサッ!
一之江に刺されながら思う。
真の魔王は綴なんかじゃない。
より身近にいたんだ、と……。
「え、えっと……」
鳴央ちゃんの困ったような、安心したかのような声が聞こえるが、きっと今だに彼女はバスタオルがはらりと落ちていて、大変なことになっているに違いない。
「ここは(ヒステリアモードの)妄想力で……」
脳内に浮かぶのは全裸になった鳴央ちゃんと、音央。
大事なところは薔薇の茨がきちんとガードしている。
はらりと落ちるバスタオル。
頰を赤く染めるナイスバディな巨乳姉妹。
肌から落ちる雫がまた印象的で……。
「そういうのいいですから」
ポカッ、一之江に頭を軽く殴られた。
「はい、スミマセン」
「よろしい」
俺はその場に正座して、反省の意を示した。
「ふええ……ともあれ、みずみずいらっしゃい」
「もしもの時の鍵が、こんな形で役立ちましたね」
「こんなこともあろうか、だよねん」
「流石でした」
「どんな周到さなんだよ、それ」
2010年5月⁇日。
ふと目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。
赤い絨毯、何百本とある蝋燭。
山羊や鶏の骨。
分厚いカーテンに遮られた大きな窓。
あたしが寝かされていた部屋の暖炉の中ではグツグツと煮える大きな鍋が置かれていて。
極めつけに床に敷かれている赤い絨毯には巨大な円形に、円の内側に描かれた五芒星の印。
そう。一般的にいう『魔法陣』という物が描かれていた。
まるで物語に出てくる『魔女』の館や黒魔術の儀式を行う……そんな怪しい感じがした部屋だった。
「ううっ……」
呻き声がすぐ近くから聞こえてきて。
恐る恐る背後を振り向くと。
そこには……。
金髪ツインテールの身に覚えがある女の子が床に寝ていた。
「理子? ちょっと起きなさい、理子⁉︎」
驚いたあたしは理子の身体を揺らすと。
「えへへー、キーくんー。そこはダ・メだぞー♡」
気持ち良さそうにヨダレを垂らした馬鹿がおかしな妄想をしていた。
イラッときたあたしがこのあと発砲したのは悪くない!
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