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第四章

「もう少し来るのが早く。もっと頑張っていれば」
「この方もですか」
「若しかしたら」
「助けられたのかも知れない」
 こう言うのだった。
「そう思ってしまう、考えても仕方ないことだがな」
「ですね、それでも」
「考えてしまいますね」
「もう少し早ければ」
「もっと何か出来たのではないのか」
「そう思ってしまいます」
「どうしても」
 ここでもだ、多くの隊員の人が思うのだった。苦い悔恨と共に。 
 だが救助活動は続けられた、隊員達は雨の中でも働きそれでも多くの人や生きものを助け復興活動にも従事した。雨はよく降り泥にも塗れたが。
 それでもだ、働き続け。
 遂に撤収する日が来た、その撤収の朝だ。
 撤収用意を全て整えてからだ、飯塚は奥羽に言った。
「これで終わりだが」
「はい、それでもですね」
「俺達は被災者の人達を助けられたか」
「どうでしょうか」
 苦い顔でだ、奥羽も応えた。
「それは」
「言えないな」
「はい、とても」
「死んだ人が多かった」
「生きておられる方も困っておられて」
「そんな状況だったからな」
 とてもというのだ。
「役に立てたとはな」
「言えないですね」
「とてもな」
「そうですね」
「本当にな、俺達は何も出来なかった」
 心から言う、そしてだった。
 そのうえでだ、トラックに畳んだテントや他の器具も全て入れてだった。そうしてだった。彼等は次々にトラックに乗り込み。
 撤収にかかった、連隊長はジープに乗り込んだが。
 その時にだ、隣の席にいた若い幹部に言った。
「無力だったな」
「我々は」
「何が出来たんだ」
 苦々しい声で言った言葉だ。
「一体な」
「申し上げてもいいでしょうか」
「いい」
 若い幹部にこう返した。
「何だ」
「何もです」
 若い幹部も同じ思いだった。
「出来ませんでした」
「誰も助けられなかったな」
「犠牲者の人も被災者の人も」
「誰もが」
「私達は何が出来たのか」
「何度自分に問うてもだ」
 出て来る答えはというと。
「何も出来なかった」
「そうですね」
「災害救助に向かったら誰でも思うらしいな」
「我々は無力だと」
「そうな、そして実際にな」
「無力ですね」
「見ろ、何も変わっていない」
 周りの被災地を見た、震災の傷跡が生々しく残っている。彼等から見れば来た時と何も変わってはいない。
「本当にな」
「そうですね、本当に何も」
「誰か助けられていればいいのに」
「誰もですね」
「本当に何も出来なかった」
「誰も救えませんでしたね」
 連隊長も若い幹部もこう言うばかりだった、そのうえで。 
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