俺と乞食とその他諸々の日常
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二十七話:過去と日常
壊れた本棚達もはやてさんとリインちゃんの活躍により無事に修復された。
ファビアちゃんも一端はやてさん達に連れられていくらしいが悪いようにはならないだろう。
謝罪もちゃんと聞けたのでここで一端のお別れだ。
「戻ってきたらまた話しよなー……って、その前に私の体元に戻してぇ~!」
ちっ、ジークの奴このまま気づかなかったら面白かったものを……。
パタパタと小さな手足を動かすジークを尻目にヴィクターとアイコンタクトを取る。
あいつもジークをこのままの状態にしておきたいはず。
俺の視線に気づき無言で頷き返すヴィクター。これで利害は一致したというわけだ。
では……始めるか。
「ファビアちゃんも疲れているよな? だから解くのは今度会った時でもいいんだぞ」
「え? 別に疲れてな―――」
「八神司令も手早く仕事をすませたいでしょうからジークのことは後でよろしいですよ。その間のジークの面倒は責任を持って見ますので」
「別に私はのんびりでもええんやけどなぁー」
くっ、中々に手ごわい相手だな。ごまかしは聞かないというわけか。
ヴィクターに目配せして覚悟を決める。
こうなれば下手にごまかさずに本音をぶつけるしかない。行くぞ!
「こんなに可愛いジークを元に戻すなんて余りにも殺生ですわ!」
「こんなにイジリがいのある状態を元に戻すなんてもったいなさ過ぎる!」
「少しは私のことを考えてくれてもええんやないの!?」
結局ジークは元の姿に戻ることになった。……無念。
その後、ファビアちゃんに裸にされた組が着替えると言ってきたので俺とヴィクターは失意に打ちのめされたまま別の部屋に行って着替え終わるのを待つ。
「まだ、写真を3ダースしか撮っていませんのに……」
「まだ、お子様ランチを食べさせてないのに……」
「あの、単位がおかしいですよね。それとなんでお子様ランチなんですか?」
「子どもじゃないと反抗しながらも結局は美味しく食べるジークをいじるために決まっているだろう」
「そんな、『当然だろう』みたいな顔で言われても……」
裸にされていないコロナちゃんもこちらに来ていたので早速ツッコミを入れてくる。
だが、生きがいを奪われた俺達にとっては些細なことに過ぎない。
ヴィクターなんていじけて体操座りをしているぐらいだ。
スカートの中身が見えそうで見えないというギリギリの防御線は流石雷帝の子孫といったところだろう。
「リヒター、こうなればファビアさんに協力を願い出るしかありませんわ」
「その役目を俺に? 俺もロリジークをいじりたいが流石に面倒―――」
「給料を20%アップでどうです?」
「やります。命を賭けてでも成し遂げさせていただきます。お嬢様」
全力で敬礼してお嬢様の指令を承る。
ロリジークをいじれておまけに給料も増える。まさに一石二鳥の計画だ。
さっき面倒くさいと言おうとした? そんなものは金さえあればノープロブレムだ。
「ヴィクター、コロナちゃん、ロリコン、着替え終わったから来ても大丈夫だよ」
「わざわざ連絡ありがとうな、ミカヤ。それと、さらりと人の事をロリコン呼ばわりとはどういうつもりだ」
「普段のジークは抱きしめないのにロリになった途端抱きしめるのをロリコンと呼ばずになんと呼ぶんだい」
「くっ…! 言い返せない」
仕方がないんだ。言い返さないがロリジークの方が普段より可愛いのは周知の事実なのだから。
ヴィクターですらそう思うのだから俺は悪くねぇ。
「それに君がロリコンだと寝取り辛いじゃないか」
「なに真顔で言っているんだ、お前」
「流石の私も子供を泣かせるのは心苦しいんだ」
「まず、寝取りに対して苦しめよ」
心底真面目な表情で語るミカヤに身の毛がよだつ。
どういう構造しているんだ、こいつの脳味噌は。
一回こいつの頭の中をかち割ってみたい。
「君が私を愛してくれるなら……どういった形でもいいんだ。だから私の全てを君に……」
目からポロポロと涙を零しながら縋り付いてくるミカヤ。
柔らかいおっぱいが俺の胸に押し付けられて何とも言えない甘い香りが漂って来る。
ミカヤ……お前―――
「せめて涙の代わりの目薬を俺の見えないところでつけろよ」
「今思いついたのだから仕方ない」
「お前……いつか本気で誤解されるぞ」
「君に誤解されるのなら構わないよ」
そう言ってニコッと笑うミカヤ。
……女は卑怯だよな、笑顔一つで何でも許したくなる。
まあ、そう思ってしまう男が馬鹿なだけなんだろうが。
「だが、許さない。後ろのジークとアインハルトちゃんが修羅に見えるから許さない」
「おっと、ついうっかり」
「殴りたい、この笑顔」
テヘ、とばかりに舌をペロッとだして笑顔を作るミカヤ。
冗談抜きで殺意を覚えてしまうが今ミカヤに触れる様な真似をすれば瞬間移動のように俺の後ろに回り込んで来ていた修羅達にNice boatされかねないので我慢だ。
「リヒター、エレミアの手記が見つかったからはよ行くで」
「ええ、行きましょう。しっかりと離れないように」
「あの、どうして俺は拘束されているのでしょうか?」
『逃がさない為』
ですよねー。思わず敬語になってしまうがこれは仕方がない。
両サイドの威圧感が半端じゃないからまともに喋れないんだ。
仕方がないので俺は捕らわれた宇宙人のように連行されていくのだった。
子孫であるジークが語り部となってエレミアの手記を読み上げていく。
リッドとオリヴィエの出会いは何でも夜盗から助け出したのが始まりらしい。
実際のところはオリヴィエが出張れば瞬殺だったらしいけど。聖王様パネェ……。
「夜盗から助けたのが出会いなんてロマンチックやねー」
「俺とお前の出会いなんて行き倒れている所を拾うところだからな」
「ちょ、それは言わん約束やって!」
「い、行き倒れ……」
俺とジークの出会いに思わずひいてしまうヴィヴィオちゃん。
このままジークの暴露大会を始めるのもおもしろいが話が進まないと困るので黙る。
何でもリッドはゼーゲブレヒト家の食客、つまりは居候になっていたらしい。
ジークと違ってちゃんと働いているとはいえ居候は遺伝的な物だったのか、エレミアェ……。
「クラウス殿下が出てくるのはいつ頃?」
「結構前の方みたいやね」
アインハルトちゃんの御先祖様であるクラウスと出会ったのはオリヴィエと同じようにシュトゥラに向かってからのようだ。
共に学び、共に競い、お互いを高め合いながら三人は穏やかな時を過ごしていったらしい。
その間にクラウスとオリヴィエは成長し戦地に赴く様になっていったとも書いてあった。
ファビアちゃんの御先祖様ともシュトゥラで出会ったらしく何故かリッドには懐かなかったらしい。
「でも、シュトゥラで四年が過ぎた頃、追い詰められた国々が自らも滅ぼす禁忌兵器を使い始めた。水と大地を穢す猛毒の弾薬。人も草木もすべてを腐らせる腐敗兵器。……なんでそんなもの使わなあかんかったんや」
「お互い感情的になり過ぎて退けなかった。憎しみの連鎖を断つには我慢するのではなく相手を滅ぼすしかないと思った……じゃないか?」
「……リヒターが真面目や」
「明日は雪が降るんじゃねーか」
「お前ら俺を何だと思っているんだ?」
人が折角まじめに語ったというのになんという反応だ。
一体俺のどこがそんなに不真面目に……思い出したら真面目ところがなかった。
今度からはもう少し真面目に生きていこう。
「聖王家はベルカの戦乱を終わらせるために『聖王のゆりかご』の起動を目指した」
だが、それが引き金となり聖王連合の「威嚇による圧制」を許すわけにはいかないと他の諸国が聖王連合へと一斉に反抗し始めたのだ。
泥沼の戦乱は続き、民はゆりかごの聖王に希望を託すしか望みが無くなってしまった。
そしてオリヴィエがゆりかごの聖王に選ばれクラウスはそれを阻止しようとしたが力及ばずに止められなかった。
彼女の笑顔を曇らすことも出来ずに……。
「リッドも軟禁されてクラウスと会う事も出来ずにその間にクラウスが戦死して……二度と会う事は無かったみたいやね」
「はい、私の記憶ともあっています」
話が終わった後はしんみりとした空気になってしまう。
何人かは涙を零しているのでそれがさらに悲しさを誘っている。
俺も不覚にも泣きそうになっている。
「ヴィヴィちゃん……だいじょぶかー?」
「はい……大丈夫です」
「ヴィヴィオさん……」
記憶を刺激されていないか気遣ってジークがヴィヴィオちゃんに声を掛ける。
ヴィヴィちゃんは大丈夫と笑顔を浮かべるがそこにはいつもの明るさがない。
それにアインハルトちゃんも気づいているのか複雑そうな表情を覗かせる。
その空気を変えるためにディードさんが上に戻ろうと提案してくれたので全員でついていきながら小さく呟く。
「恨むぞ、ご先祖様」
俺の呟きは誰にも拾われずに無重力空間に消えていくのだった。
後書き
おまけ~ツンデレおっぱい侍~
「よお、ミカヤ」
「なんだ君か。わざわざ道場まで来るなんて物好きだね。それで何の用だい? 私は忙しいんだ。用がないなら帰ってくれ」
「用はお前の顔を見に来た……じゃ、ダメか?」
リヒターがそう告げると一瞬で顔をトマトのようにしながらミカヤは怒鳴りつけてくる。
「何を言っているんだい、君は!? そんな下らない用で来たのか? 馬鹿じゃないのか!」
「馬鹿で結構。というか、俺が来るのはそんなに嫌だったか?」
彼女の反応をクツクツと笑って楽しみながら彼はさらに弄ぶように如何にも傷つきましたという風に肩を落としながら質問する。
うっ、と息を詰まらせる彼女だったがそっぽを向きながらぶっきらぼうに答える。
「べ、別に嫌とは言っていない。ただ、君の理由がその……う、うれしかっただけだ」
「ん、最後なんて言ったんだ?」
「な、何でもないよ! ……バカ」
ムスッとしてあらぬ方向を向く彼女を見ながら彼は笑う。
不機嫌な彼女はその笑いに矛先を向け彼を居合で一閃しようとする。
「あ、危なっ! いきなり何するんだ」
「ふん、私の訓練中に近づくからだ」
「そもそも昨日行くって連絡してただろ」
「君の連絡なんて私が覚えているわけないだろ」
彼女は刀を収めて道場の脇に置いていた荷を解き中から水筒と弁当箱を取り出していく。
そして、チラチラと彼の方を伺いながら上ずった声を出す。
「オ、オカズを作りすぎたからついでに二人分もお弁当を用意してしまったのだが……も、もったいないから君に食べさせたあげるよ」
「ふむ、確かに食べ物を残すのはもったいないよな」
「ふん、分かればいいんだよ」
いかにも偉そうに言いながらしっかりと二人分のお茶を注いでいるあたりまだまだ注意力不足だろう。
後でお茶は何も言わなくてもくれるんだなといじられることが分からないのだから。
彼はお弁当を受け取りしげしげと眺める。彼女は興味が無さそうに振る舞っているが視線は一秒に一回は彼とお弁当を見ているので感想を聞きたくて仕方がないのだろう。
彼もそれは分かっているので一口食べて感想を言う。
「うまいな。これなら毎日でも食べたいぐらいだ」
「当然さ、この私が作ったのだからね…て、ま、毎日?」
「どうしたんだ、ミカヤ?」
「な、なんでもない。君も変なことを言うな!」
顔を赤くして必死にごまかそうとする彼女が面白くてさらにからかいたくなるが弁当を取り上げられると困るので彼は我慢して話を続ける。
「なあ、また今度弁当を作ってくれないか?」
「はぁ? 君は何を言っているんだい。……と、言いたいところだが。ま、まあそこまで言うんなら作ってあげてもいいよ。き、君が作ってほしいと言ったからだからな! べ、別に私が作りたいというわけじゃないぞ!」
「はいはい」
軽くあしらわれたことに気づいた彼女は彼に突っかかり覗き見ている門下生の前で痴話喧嘩を繰り広げるのだった。
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