黒魔術師松本沙耶香 薔薇篇
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18部分:第十八章
第十八章
「第三の犠牲者です」
「それにしても今回も凝ってくれているわね」
「そうですね。今度もまた薔薇です」
「それも白薔薇とは。趣向を凝らしているわね」
二人は今浴槽の側に立っていた。その中では若い女が全裸で浮かんでいた。長い髪もその水の中に漂わせながら。その白い身体の周りには白薔薇の花びらが浮かんでいる。そして彼女の身体に纏わり付いていた。それが薄気味の悪い美の世界を映し出していたのであった。透明な水の中に白い美女が浮かび、白薔薇の花弁が飾る。美しくも禍々しい、不思議な光景であった。
今度の殺人もまた毒殺であった。しかし黄色い薔薇の時とは趣きが違っていた。
「今度は即効性の猛毒でしたね」
「そうだったの」
二人はまた沙耶香の部屋で話をしていた。テーブルの上でワインを飲みながら話をしている。既に夕食は済んでいた。そして酒を嗜んでいたのであった。酒はロゼだった。二人はその薔薇の色の酒を飲みながら薔薇の毒について話をしていたのであった。
「触れたらそれだけで全身に毒が回り死ぬものです」
「それで命を奪ったのね」
「はい」
速水はそれに答えた。
「すぐに。どうやって薔薇を送り込んだのかはまだわかりませんが」
「案外ローズが入っていて喜んで入ったのかもね」
「薔薇のお風呂ですか」
「そうよ、かなり豪奢なものよね」
「まあ確かに」
優美でもある。それを考えると女性ならば、とも思える。
「けれどそれが仇になったわね」
「美しき薔薇によって命を奪われる」
「これで三人目」
「赤、黄、白」
沙耶香はそれまでに使われた薔薇の色を呟いた。
「何か。引っ掛かるわね」
「薔薇の色がですか?」
「ええ。何かね」
沙耶香は顎に手を置いて考えはじめていた。
「何かあるんじゃないかしら」
「そうですかね」
「まだ実証はないけれど」
そこまではまだわからなかった。だが確かに何かを感じていた。
「薔薇にはそぐわない何かが」
「薔薇にはそぐわない」
「この一連の事件は間違いなく繋がっているわ」
「はい」
これは速水にも予想がついた。
「けれど。それがどう繋がっているのかはわからないわ」
「どうなっていますかね」
「それは」
沙耶香にもそれはわからなかった。
「けれど。それがわかった時に何かがわかる気がするわ。手紙にある通り」
「別の何かが」
「恐ろしいことかも知れないわ。覚悟が必要かもね」
「わかりました。では覚悟を」
「ええ」
二人はまずはその薔薇を回収し捜査に入った。捜査結果はやはりはっきりしていた。速水の言う通りこれは薔薇の花弁に仕込んだ即効性の猛毒であり、これで命を奪っていた。これはわかった。
「水の中に浸して、ね」
「はい」
もう夜になっている。二人はまたあのロゼを飲んでいた。エレナに頼んで何本も開けていた。チーズやソーセージと一緒に飲んでいた。
「やはりそれでした」
「水の中に浮かぶ美女の屍で」
「薔薇に見送られて冥府へ向かう」
「何か文学的な表現だけれど」
「何処か趣味が悪い。次第に犯人の嗜好がはっきりしてきましたわね」
「少なくとも奇麗な女の人が好きね」
「そちらですか」
「ええ。私にはわかるわ」
沙耶香はそれに応えてこう述べた。そしてグラスの中のロゼを飲み干す。飲み干したグラスに自然に動いたボトルがワインを注ぎ込む。沙耶香の魔法であった。
「三人の犠牲者はどれも奇麗だったわ」
「確かに」
それは速水もわかっていた。彼はチーズを一口口に含んだ後でそれに返した。
「素晴らしい美貌の持ち主ばかりでした」
「そうよね。勿体無い位の」
「どの方も好みであられたようですね」
「それは否定しないわ」
自身の好みを隠すような沙耶香ではなかった。
「だからこそ残念なのよ」
「やはり」
「三人。これで三人よ」
「ですがこれで終わりではないでしょうね」
「そうね。手紙にあったのは五人」
沙耶香は述べた。
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