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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第116話 運命の時へ……



 決戦の舞台。

 それは、キリトとヒースクリフが戦ったあのコロシアムよりも広い。円弧を描く黒い壁が高くせり上がっていて、遥か頭上で湾曲して閉じている。その高い天井に響くのは、がしゃ、がしゃ、と音を鳴らせながら走っているメンバーの足音のみだ。

 1秒、2秒……と逆に耳が痛い。と感じる程、静寂に包まれていた。

「……おい」

 誰かが耐え切れないというふうに声を上げた、その時だ。異常な殺気を、尋常じゃない気配を感じた。

 咄嗟に、リュウキは眼を赤く光らせ、身体の反応に任せるままに、上を見上げた。視線をぎゅっと細くさせ、天井部を睨む。

 その瞬間だった。

「上よ!!」

 リュウキが天井を睨みつけたと殆ど同時に、声が上がる。声の主はアスナ。彼女も気づいた様だ。天井部に、その黒い壁に張り付いているモノの存在に。

 アレは、擬態……ではない。

 薄暗い部屋にはっきりと見える。あれは、白く……そして何よりもデカい。とてつもなくでかく、そして長い。

――……百足!?

 恐らく、見た全員がそう言う印象を受けた事だろう。暗闇でもはっきりと判る白っぽい色で構成されたその長い身体には、無数の足がウネっているのだから。だが、その印象は直ぐに消え去る事になる。存在がバレたと思ったのか、相手は動き出した。

 その姿は、虫というより、人間の背骨。

 灰白色の体躯、そして百足の足の印象だった無数の足は、骨剥き出しの鋭い脚。身体の先端にいく程、その骨は太く強靭になっている。最先端部にあるものは凶悪な姿をした頭蓋骨。……明らかに人間のモノではない。

「……この手の相手が多いな。最近は!」

 リュウキは、その瞬間双斬剣を前に構えた。アイツは、天井部から降りてきた。どしぃぃん、と言う凄まじい振動、地震でも起きたのかと思わせる感覚が皆を襲う。……構えたリュウキだったが、降りてきた場所が違った。

 10mは離れた位置で止まる。

 そして、その姿の隣に、イエローカーソルと共に、BOSSの定冠詞が現れた。《The-Skullreaper》

――……骸骨の刈り手、と言った所だろう。

 あまりの大きさ、そして威圧感に見舞われたせいか、全員が度肝を抜かれてしまっていた様だ。

「固まるな! 距離をとれ!!」

 ヒースクリフの鋭い叫び声が、凍りついた空気を切り裂く。
 伝説の英雄と称される男、そのカリスマ性もこの世界のまさに勇者と言っていい男だと拍車をかける。そんな男の声は、放心仕掛けた男達の意識を覚醒させる事が出来た。

 だが、骸百足に比較的傍にいた3名は、初動が遅れてしまった。

「ッ!!」

 リュウキは、敵を正面から見て目を見開かせた。当初は気付かなかった……、否 みせていなかった相手の武器。頭蓋の両脇から鎌状に尖った2本の腕を視て身体が震えた。

――……攻撃力が、異常値を示している。

 それは、75と言う数字がクォーターポイントだと言う事を差し引いたとしても高すぎる設定。
 安全マージンは+10とされていた、そして、そのフロアのBOSSを相手にするとしたら、更に+10程が目安だった。……だが、アレを相手にするには10では少なすぎる。

「こっちだ!! 急げ!!」

 キリトは、慌てて放心している男達に叫び、呼んだ。まるで、百足のが身体にまとわりついているかの様な呪縛。それをキリトの一声で呪縛が解かれた。そして、3人は敵を見ずに、一気に走り出した。

「ダメだ!! 敵から視線を逸らすな!! 直撃を――っ」

 続いてリュウキは、叫び声を上げた。あの鎌の直撃だけは受けてはならない。あれは、死そのものと言える。骸の刈り手が刈るのは、オレ達プレイヤーの魂。
 刈る武器は、凶悪の二文字で出来ているかのようだった。

 リュウキの声よりも、早くに始動したあの骸百足。……その鎌を横薙ぎに振り下ろしたのだ。

 その鎌の大きさは3人を合わせても余りが出来る程の大きさ。3人が同時に、切り飛ばされ、胴体部に赤く太いラインを残した。……男達の断末魔と共に、みるみる内に減少していくHP。それは、5割を切り、黄色の注意域、そして2割を切り、赤の危険域。

 ……そして、いつ訊いても嫌な音。慣れない耳障りな音を放ちながら、その3つの身体は、魂は、青い硝子片となり、四散した。

「っ!? う、嘘……だろ……!?」

 全員が唖然としたのは違いないだろう。正確に敵の攻撃力を見抜けたリュウキは、もう既にあの鎌を見た瞬間に唖然としていた。その理由を皆が判ったのだ。

『一撃で、死亡した』

 スキル・レベル制併用のこの世界では、レベルの上昇に伴い、HPの最大値も勿論上昇していく。だからこそ、幾らアクションプレイが苦手、技能が今ひとつとしても、数値的にレベルが高ければ、それだけで死ににくくなるのだ。今日のパーティは、高レベルプレイヤーだけが集まっている、そして、更に装備している防具も、プレイヤーメイドで現時点で手に入れられる最高級の物を装備しているのだ。……例え、BOSSの一撃でも、数発の連続技なら持ちこたえられる、筈だったのに。

「こ、こんな……っ、こんなのって……」
「無茶苦茶だわ……」

 掠れた声で、呟くアスナとレイナ。彼女たちも歴戦の猛者の1人。これまでの様々な死線をくぐり抜けてきた身だ。それでも、異常過ぎる光景だったのだ。

「まともに近づく事も出来ねぇのか!!」

 エギルも冷や汗が止まらない。

 あの骸百足のたった一撃でも受ければ、……死ぬ。

 そんな相手に安易に近づく事など出来ないだろう。硬直する面々だったが、相手は待ってくれない。その巨大な骸百足は、その巨体からは考えられない程の速度で突進してきたのだ。

『わぁぁぁ!!!!』

 狙われた。
 あの死の一撃。即死攻撃を孕んだ恐ろしい武器が迫る。死が……迫ってきたその瞬間。

「ぎぃぃぃ!!」

 BOSSの巨大な身体が揺れた。
 突如、不自然な突風に似た風が生まれて、それが敵を包み込んだのだ。

「――……円旋牙!」

 双斬剣“上位技”《円旋牙》

 いつの間にか、狙われた集団の前に立っていた男が、その異形な成り立ちの武器を、左右に刃がある武器を右に旋回させた。その次の瞬間、まるで 竜巻の様に風が巻き起こり、あの骸の巨体を足止めしたのだ。

「引け!!態勢を……っ!!」
「ぎぃぃっ!!! ぎぃぃっっ!!」

 その力は、風のバインド効果。
 それは、BOSS相手には心ともなかった。拘束をモノの数秒で看破した骸百足が、竜巻を切り裂き、リュウキに向かって刃を振り下ろす。

「っ!! リュウキ君っ!!」

 レイナは、駆け出した。だが、距離がありすぎる上、リュウキは技後硬直に見舞われてしまい、動けない。

 ……その獰猛な鎌の一撃を防いだのは、巨大な十字盾をもつ男。

 耳を劈く衝撃音と火花を響かせ、散らせながらもあの攻撃を防いだのだ。

「たったの3秒……かっ!!」

 硬直が解けたリュウキは、即座に双斬剣を振り上げた、胴を下から上に切り裂く逆風。それは、コンマレベルだが、骸百足の行動速度を奪った。
 だが、それは身体だけであり、その左の刃は防げない。

「くそっ!!」

 そこに飛び込んだのが、キリトだった。宙を飛ぶように、瞬時に距離を詰めて、轟音を立てて振り下ろしてくる刃を防ぐ。
 左右の剣を交差させて鎌を受けた。


 ヒースクリフが受け止めた時同様の劈く音が響き渡る。如何に即死級の破壊力を秘めていたとしても、武器で、盾で防げば耐えられる。あの3人は、全くの無防備で受けてしまったのが不幸だったのだ。

 ……だが。

 ぎぎぎぎぎっ、と言う金属音。あまりにも大きすぎる音。

「ぐっ……がぁぁぁぁ!! (お、重すぎるっ……!!)」

 途方も無く続く衝撃。だが、鎌は止まらない。
 まるで、プレス機だ。キリトは、潰され、そして斬られていく様な感覚に見舞われた。

「キリト君っ!!」

 その時だ。新たな剣が相手の鎌を押し返したのだ。1人じゃ無理でも、2人なら出来る、受け止められる。……あんな奴には負けない。



「ナイスだ、アスナ!」

 リュウキは即座に、押し返した鎌を連続で攻撃する。度重なる衝撃で、片方の鎌を封じる事が出来た……が。

「っ!!」

 伸びているのは、鎌だけではない。鋭く、尖った無数の脚の様な長い骸の骨がリュウキに迫ったのだ。

「やぁぁぁっ!!!」

 その攻撃をレイナが、防いだ。細剣スキルを存分に活かした連続攻撃で、叩き落としたのだ。

「リュウキ君は、私が守るからっ!! 私が支えるからっ!!」

 細剣をまるで、フェンシングの様に構え、リュウキの後ろに立つレイナ。

「頼む!」

 支えてくれる人がいる。愛する人が直ぐ側にいる。……それだけで、無限に力が湧いてくる気がする。
いや、気がする、じゃない。間違いなく……。


「大鎌は、オレ達が食い止める!! 皆は側面から頼む!!」

 勝機が、光明が見えたキリトは、叫んだ。
 その声に、いの一番に雄叫びを上げるのは、クラインとエギルだった。

 その声に鼓舞された他の全プレイヤーも一気に鬨を上げる。

「――……円旋牙!!」

 その途端に、再びあの突風が骸百足を包んだ。攻撃判定があるのか?と思えた面々は、突っ込む事に躊躇をしたが。

「この風はただのエフェクトだ!! 攻めろ!!」

 リュウキは、旋回させながら叫んだ。この攻撃は、偶発ヒットをしてしまい、ソードスキルや通常攻撃も停止してしまうと言う作用はない。あくまで、一時行動不能の効果があるスキルだと言う事で、風の発生はただのエフェクトなのだから。

 やや大袈裟に発生する轟音と雷光の様な光に、攻撃を躊躇ってしまうのは仕方がない。
だから、リュウキは説明をいれた。

 細かくいう暇はないから簡潔に。

 3秒の拘束は、思いの外、アドバンテージがデカい。その代償に、リュウキの行動がその倍の6秒拘束される。

 それをカバーしたのが。

「やぁぁぁっ!!!」

 レイナの剣技だった。猛攻とも言える脚と鎌の攻撃を、彼女は無心で捌き続ける。そして、キリトとアスナも、無数の脚の雨霰攻撃を掻い潜り、胴体部に連続攻撃を加えた。


 だが、未だに暴れ続ける骸百足。


「大人しくしやがれぇぇ!!」

 エギルの両手斧が背に振りおろり、突き刺さる。

 両手斧スキル:《スマッシュ》
 ノックバックが通常の3倍程発生させるスキルだが、この巨体相手には心ともないが、一瞬隙を作る事が出来た。

「おおらぁぁぁ!!!」

 その隙にクラインが、その身体の真下に潜り込みスキルを叩き込む。

 刀スキル:《辻風》
 スタン発動率50%を誇る一撃。

 だが、運悪く発生させる事が出来なかった。

 その間に敵の反撃がくる。鎌は、5人が防いでいるが、この骸百足の攻撃は鎌、脚、それ以外にもあったのだ。

 長くしなる槍状の巨大な尾。

『うわぁぁぁっ!?!?』

 鞭のように振り回し、エギルと一緒に攻撃していたプレイヤーを吹き飛ばした。
 エギルは咄嗟に防御する事が出来、なんとか踏みとどまれたが、味方の2人がその命を散らした。

「ぐぅぅ! ちくしょおおおおお!!!」

 ……これまで共に戦ってきた仲間の死を嘆く時間もない。
 エギルの咆哮は、あらゆる負の感情を孕んではいた。だが、闘志は全く萎えない。このまま、全てを崩壊させるわけにはいかないから。

「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 クラインも、猛った。
 仲間を目の前で失う事の悲しみを、再び思い返してしまったからだ。だが、今は悲しむより……憎しみを刀に込める。仲間の魂を刈り取ったあの骸に刃を突き立てたのだった。


 それは気の遠くなる時間だった。


 それでも、5本あるHPのバーが少しずつ少しずつ……減少し続け、そして約一時間後。

 誰が最後の一撃だったのか判らないが、その巨体が光り輝き 硝子片となって四散した。無限にも思えた激闘も終わりを迎え、《Congratulions!!》の文字が表示されても、誰一人として歓声を上げる余裕のある者はいなかった。

 皆、倒れるように黒曜石の床に座り込むか、あるいは仰向けに転がり、荒い息を繰り返していたのだ。

 ……安堵感は、勿論あった。最愛の人が、無事だった。

 でも、手放しに喜ぶことは出来なかったのだ。……戦闘に集中する為に、気にしない様にしていたが……、聞こえていたのだ。何度も何度も、硝子が割れる様な……いつ、聞いても不快に思えるあの音が。……だからこそ、確認しなければならなかった。

「何人――……やられた……?」

 ウインドウを操作して、確認していたキリトにクラインは聞いた。エギルも、顔だけをキリトの方に向けていた。聴かなければならない事だから。

 キリトは、ぐっと歯軋りをしながら、答える。

「8人……死んだ」

 キリトは時分で数えておきながら信じることができない。皆トップレベルの歴戦の猛者。
ここ、75層まで共に生き抜いてきた戦友。たとえ離脱や瞬間回復不可の状況とは言え、生き残りを優先した戦い方をしていればおいそれと死ぬような事はない……、と想っていたのに。

 ……認めたくなくても、あの禍々しいオブジェクト破壊音は、確実に響いていた。

 だから……間違いないのだ。

「……うそ、だろ……」

 エギルの声にも普段の張りは全くない。ただただ、その死者の数に驚愕していたのだ。

「まだ……25層もあるんだぞ……? オレ達は……本当にたどり着けるのかよ……」

 クラインも、その絶望的な数字を口に出してしまっていた。誰もが想っていた事なのだ。まだ、何千と言う数のプレイヤーが残っているとはいえ、攻略を目指しているプレイヤーは数百人程度しかいないのだ。……1層事にこれ程の犠牲者を出していれば……、全滅してもおかしくない。

 それに……。

「っ………ぁ………」

 何度も何度も、肩で息をし、震える膝を抑えている男がいた。それは、リュウキだった。これがゲームだとしたら、あのBOSS戦でのMVPは間違いなくヒースクリフを差し置いて、リュウキだろう。

 あの骸百足の行動時間を何度も削ぎ、且つ攻撃を加えていった。サポート面でも、攻撃面でも……。

 だが、これがあの武器使用の後遺症、とでも言うのだろうか?
 当然ながら、双斬剣と言うスキルはまだ、誰も知らない。情報屋(アルゴ)ですら、それは知らないだろう。

 それは、慣れない武器を使ったことへの精神的疲労なのか。

 レイナも、倒れ込んでいたけど、必死に身体を起こし、リュウキの身体をそっと抱きしめていた。……心なしか、少し落ち着く事が出来た様だが、それでも疲労感は誰よりもあるようだった。

 あのリュウキも……ここまで消耗しなければならなかった相手。そんな相手が後25もいる。……これ以上の相手がまだ25も。

「―――……っ」

――最後に残るのは1人かもしれない。

 キリトの頭の中にそれが過ぎった。そして、おそらくその場合、残るのはあの男、だろう。
部屋の中央に佇んでいる男。他の者たちが例外なく倒れ込んでいると言うのに背筋を伸ばして毅然と立つ男。

 ……ヒースクリフだ。

 無論、伝説の男も無傷ではなかった。
 彼のHPカーソルの残は、後6割程まで減少している。あの鎌の攻撃の大部分を1人で捌ききったのだから、数値的なダメージ溜まらずとも、精神的披露が溜まっても不思議ではない。

 なのに、あれは一体どう言う訳だろう?

 同じ様な逸話があるリュウキでさえ、地に伏し倒れかけている言うのに、なぜあの男はここまで出来る?これまでの経験から考えても、直接対決こそ無かったが、互角の技量だとキリトは想っていた。あのタフさは、同じ人間とは思えない。

 ……言うならば、精密機械。

 そのヒースクリフの表情も、あくまで穏やかだった。あれ程の戦闘を経たというのに全く表情を変えない。

 いや、確かあの男が表情を明らかに変えた事は確かあった。それは、リュウキが新しい武器を見せた時。

 勿論、あの場で見せられた皆は、驚きの表情を見せていた。当然だろう、この土壇場の状況で、今まで愛用していた剣を使うのではなく、新武器を使用するのだから。幾ら、練習をしていたって、BOSS相手にいきなり使うのか……とも思えたが、キリト自身も初披露が74層のBOSS戦だったから、それは不思議じゃないか、と納得していた。

 ……話を元に戻すが、あの時のヒースクリフの表情は、何処か違った。単純に驚いている、と言うよりは、驚愕している。と言う感じに近い。


 なぜ、そこまで驚く事がある?
 なぜ、表情を変える程までに驚く?


 そして、キリトの頭は通常よりも冴え、急速に機能した。

――……有り得ない武器に、リュウキの武器に驚いたのではないだろうか?自分が知りえない武器だから驚いたのではないだろうか?
――……あの男の今の表情は、慈しむ様な視線。だが、何処か違う。……何かが違う。
――……そう、言うならば精緻な檻の中で遊ぶ子ネズミの群れを見るかのような表情。
――……更に言えば、あれは傷ついた仲間達を労わる表情ではなく、遥か高みから慈愛を垂らしている。


《神》の表情だ。



「………」

 キリトはゆっくりと身体を起こした。デュエルの際のあの恐るべき超反応。それは、人間の限界を超えているモノ。否……この世界での限界速度を超えていたのだ。

 その壁を破れるとしたら?

 それは1つしかない。

 そして、彼の日頃についても違和感はまだまだある。最強のギルドの頂点でありながらも、自らは殆ど命令を発することなく、ほかのプレイヤーたちに万事を委ねた。
 
 唯一、層の攻略……BOSS戦に置いてを除いて。ある意味ではBOSS戦以上に、消耗した笑う棺桶の事件でさえも、彼は何も言わずに全てを委ねていた。

 その訳は、配下を信頼していたからではなく、一般プレイヤーには知りえない事を知ってるが故の自制。そして、笑う棺桶(ラフコフ)の事件においては、あまりにも未知数な相手で、万が一にでも、自身の秘密がバレる可能性を回避したかったからではないか?

 そう、自分とのデュエルの際、あの男が表情を変えたのはHPが半分を切りそうになった時だった。……リュウキも多くは語らなかったが、そう断言している。

「………」

 キリトは再びヒースクリフのHPバーを確認した。もう、あとほんの少しで半分に、イエローに成る程の量。ほんの刹那の位置。……つまり、あの男は。

「……キリト、くん?」

 アスナは、この時初めてキリトの様子が何処かおかしい事に気が付いていた。激戦のあとだったからと、想っていたのだが、何処か違う。そして、言葉が聞こえてきたような気がした。まるで、自分に謝っているかの様な、謝罪の言葉。
 キリトは何も言っていないのに、何故か聞こえてきたのだ。

 そして、その次の瞬間。

「っ!!」

 キリトは、地面を蹴って飛び出していた。倒れているクラインを、エギルを越えて、レイナに支えられているリュウキを横切って。


 あの男までの距離は、凡そ10m。


 今から使う技は、片手直剣の基本(デフォルト)技。HPを半分以上残しているあの男が、決して死ぬ事は無い一撃。ただ、確認するためのモノだからだ。

 ……その時だった。

 キリトの頭の中にも、言葉が聞こえてきたのだ。

『まて……早いんだ!』

――……それは、誰の声、だっただろうか?

 だが、キリトは考えてられなかった。その言葉の意味も考えてられなかった。敏捷力(AGI)の全てを脚に込め、ヒースクリフとの距離を縮めその胴体部を狙う。この時ばかりは流石のヒースクリフも目を見開いて驚愕な表情を浮かべていた。咄嗟に、左手の盾を掲げてガードしようとしたが、キリトはヒースクリフの防御の癖を覚えていた。

 直線攻撃で、胴体部を狙った攻撃をする際は、胴体部を覆う守りをがっちりと固める。今、晒しているのは、顔、脚。

 ……キリトの真の狙いは、胴体部ではなく、顔面部だった。空中で鋭角に軌道を変えて、守りきれていない部分を突く。


 がきぃぃぃんっ!! と言う音が、周囲に木霊する。

 ……それは、通常では有り得ない効果音だった。

 武器でもなく、盾でもなく、鎧でもない部分を突いたと言うのに、まるで金属に弾かれた様な音が響いたのだ。それは、間違えていなかった。見えない障壁に、キリトの剣は阻まれ、そしてヒースクリフの頭上にとあるシステムカラー・メッセージが表示されたのだ。

 《Immortal Object》

 ……それは、不死存在。
 この世界の死が絶対的なモノである以上、プレイヤー達には持ち得ない属性。そう、ヒースクリフがあのデュエルの時に、見せた表情の意味はこれだった。この神的保護が暴露されてしまうことだったのだ。

「キリトくん、一体何をっ……!!」

 キリトの攻撃に驚き声を上げて駆け寄るアスナだったが、更に驚くべき光景を目の当たりにして、目を見開かせた。ヒースクリフのシステムタグを見て。アスナは勿論、周囲のプレイヤーも、キリト自身も、ヒースクリフでさえ、まるで時が止まったかのように動かなかった。

 時が止まった世界で、動いたのは、システムタグが消滅する所のみだった。

「システム的不死……? って、どういうこと、ですか……? 団長……」

 戸惑ったかの様なアスナの声にヒースクリフは、何も答えない。

「ユイちゃんの時と同じ……っ」

 リュウキを支えていたレイナも、漸く我に帰った様で、目を開かせていた。あの時のユイも、攻撃を遮り、そして不死表示があった。つまり、団長も同じ存在、だというのだろうか……?

「いや……、もっと性質が悪いモノだ……レイナ」

 リュウキは、手で支えながらゆっくりと起き上がる。自分の後ろにレイナを隠すようにし、ヒースクリフを真っ直ぐ見つめた。

「……これが、伝説の正体だ。この男はどうあってもHPが半分以下にならない、と言うな。当然だ。システムに守られているんだ」

 そして、キリトは上空をちらりと見やる。これは、このデス・ゲームが始まって程なくしてずっと想っていた事だった。

「……この世界に来て、ずっと疑問に思ってたことがあった。……あいつは、一体どこでオレ達を観察し、世界を調整してるんだろう、ってな。でもオレは単純な心理を忘れていたよ。……どんな子供でも知っていることを」

 キリトがそこで言葉を切った後に続いた者がいた。……これはずっと、確信していた事、99%の確信があり、だが、1%の不確定要素があった為誰ひとりとして打ち明けたことはなかった事。

「……他人がやってるRPGを傍から眺める事程、詰まらないものは無いよな?……それが、仮想世界なら、尚更だ」

 リュウキだった。ゆっくりとした動きでヒースクリフに近づく。そしてキリトの横に立った。レイナも、アスナのとなりに立つ。

 まだ、信じられないから。

「それって……まさか……っ」

 アスナは息のんだ。
 この世界を調整する者。そんな人物はひとりしか有り得ない。

「……茅場晶彦。それが、この男の真の名前だ」

 キリトの一言ですべてが凍りついたような静寂が周囲に満ちる。あの時間が停止した感じに加え、まるで心臓をワシ掴みにされた様な寒気にも見舞われた。

 ヒースクリフ……、茅場晶彦は、自身の名を呼ばれた所で漸く表情を変えた。その口許はわずかに笑っているようにも見える。

「……なぜ気づいたのか、参考までに教えてもらえないかな?」

 ヒースクリフは、まっすぐにキリトの方を見た。キリトは、一度眼を瞑り、そして開いた後に答える。

「……最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。……最後の一瞬だけ、アンタ余りにも早すぎたよ」
「やはりそうだったか。あれは私にとっても痛恨時だった。君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 ヒースクリフの目線を、スライドされ、リュウキの方へと変わる。

「君も気づいていたのだろう?リュウキ君、君も同じ意見なのかな?」
「……まぁ、な。真の強者同士がぶつかる時に起こる時の矛盾。それは、現実世界でも稀にあるそうだ。……脳でプレイしている以上、ここでもあり得る不可思議現象なんだろう。……だが、両者間ならいざ知らず、他者の眼にまで視せる アレは異常だ」

 リュウキもそう答える。
 それは、じっと2人を観察したがゆえのものだった。並みの動体視力では、遠目の彼らの動きは見れるものじゃない。

「……それに、アンタ、オレの《眼》に異常なまでに反応してたよ……今思えば明白だった。この世界では存在し得ない眼だったから。……創造神である自分自身にも知らない事が起きれば……興奮してしまうのも無理はない。新しい玩具がこの世界で生まれた、とな?」

 そこまで言った所で、ヒースクリフは、朗らかに笑った。

「ふふふ……、成る程、直接対決をしたキリト君以外で看破出来るのは君だけだよ。あの動きを見れる事もそうだし。洞察力も素晴らしい。……予定では攻略が95層に達するまで、明かさないつもりだったのだがな……」

 ゆっくりと、プレイヤー達を見渡し、笑みの色合いを超然としたものに変え、紅衣の聖騎士は、堂々と宣言した。

「――そう、確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つ筈だったこのゲームの最終ボスでもある」

 宣言したその時。彼の右腕、副団長として 共に攻略をしてきたアスナとレイナは、よろめいてしまっていた。信じて、ついてきた男の告白。それが、過去最悪の告白だったからだ。

「……幾ら他人のを視るのが詰まらないとはいえ、いい趣味してるとは思えないな」
「……ああ、最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスになるんだから」
「なかなかいいシナリオだろう?……盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……君達2人は、この世界で最大の不確定因子だと思っていたが、ここまでとは思わなかったよ」

 まるで、今までのプレイを批評している物言い。……当然だろう。この男は、このゲームの開発者にして一万人の精神を虜囚した男なのだから。その、無機質、金属質な気配は、二年前に全てを狂わせたあの無貌のアバターと共通するところがある。

「……今回のBOSS戦でも判るとおり、ここ75層クォーターポイントを超えた先では、それ相応の戦線が強いられる。最終的に私の前に立つのは君達だと予想していた。元々は、リュウキ君を推していたのだが、二刀流スキルを得たキリト君だ。……全十種の筈のユニークスキルの内、《二刀流》スキルは、全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担う筈だった。……まぁ、この想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味というべきかな……」

 ヒースクリフとキリト、リュウキ、アスナ、レイナ以外のメンバーの時間はまだ凍りついた様だったが、ひとりの男がゆっくりと立ち上がる。血盟騎士団の幹部を務める男だ。

 目の前にいる男は、全ての敵。

 だが、それと同時に、自分たちにとっての……。

「き、きさまが……キサマが……!」

 ギリギリ、と歯を食いしばる。負の感情の全てをその武器、両手斧に込められた。

「オレ達の……忠誠……、そして希望を……よくも、よくもぉぉぉ!!!」

 飛びかかり、巨大な斧槍をふり下ろそうとしたが……。
 重量武器を構え、打ち放つ時間より、茅場が指を動かす時間の方が早かった。左手を振り、出現したウインドウを操作したかと思うと、飛びかかった男は、一瞬空中で静止し、そして倒れた。そのHPゲージのグリーンの枠がイエローとなり、点滅していた。

――状態異常:麻痺状態だ。

 茅場はそのまま、指を止めずに動かし続ける。クリックの音が1つ聞こえる度に、1人、1人が倒れていく。最終的には、アスナも。

「き、りと……くん」

 倒れるアスナをキリトは支える。……キリトには麻痺は来なかった。

「ぐっ……!!」
「りゅ……き、くん……」

 キリトの隣にいたリュウキとレイナも殆ど同時に倒れた。……その伸ばした手は、レイナの手を掴むことなく、虚空を切った。

 動けるのは茅場とキリトのみ。
 この男がラスボスであるのならば……、その力はこれまでとは比べ物にならないのだろう。ソロで勝てるとは到底思えない。つまりは……。

「……どうするつもりだ。この場で全員を殺して隠蔽する気か……?」
「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ」

 紅衣の男は微笑を浮かべたまま、首を左右に振った。

「こうなってしまえば致し方ない。予定よりも早いが、私は最上層の《紅玉宮》にて、君たちの訪れを待つ事にするよ。……育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤー諸君を途中で放り出すのは些か不本意だが、……何、先ほどはああは言ったが、君たちの力ならきっとたどり着けるさ。……だが、その前に」

 茅場は言葉を切ると圧倒的な意志力を感じるその双眸でキリトを見据えた。動けることができる唯一の男を。
 そして、右手の剣を軽く床の黒曜石に突き立てる。

「……キリト君。君には私の正体を看破した報酬を与えなくてはな。無論、リュウキ君もそうだ……が、私に刃が到達したのはキリト君の方が早かった、LAの様なものだと思ってくれ給え」

 リュウキの方をチラリと見たヒースクリフは、そう言うと薄く笑った。リュウキを選ばなかった事には、彼なりの訳は勿論ある。

 勇者として設定したのが二刀流スキルだ。魔王との一騎打ち。

 それには勇者がしなければ格好がつかないだろう、そう考えていたのだ。

「チャンスをあげよう。今この場で私と1対1で戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。……私に勝てば、ゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。……どうかな?」

 その言葉を聞いた瞬間、キリトの腕の中で自らの自由にならない身体を必死に動かし、首を振った。

「だめ……、ダメだよキリト君。あなたを、あなたを排除するつもりなんだわ。今は、今は退いて……!」
「そう、だよ!口ではなんて言っても……、何とでもできる、じゃない……っ!こ、こんなのワナだよっ……」

 アスナに続き、レイナも必死に声を上げた。ヒースクリフ、茅場の言葉を完全に鵜呑みにはできないからだ。正体を看破した報酬というが、その前にあの男はキリトとリュウキの事を不確定要素とも言った。
 その片方をここで抹殺するつもりだとも思えるのだ。

 その言葉は、キリトも同感だった。ここは退いて態勢を整えて、皆で対応策を練ること、それが最善の策。だが……。


――……奴は何といった?


 ある想いがキリトの胸の内を渦巻く。


――……血盟騎士団を育ててきただと?……きっとたどり着けるだと?


「……ふざけるな」


 キリトは無意識の内に、かすかな声を漏らしていた。
 あの男は、一万人の精神を閉じ込め、更には三千もの意識を電磁波で焼却せしめただけでは飽き足らず、自分の描いたシナリオ通りにプレイヤー達が愚かしく哀れにもがく様をずっと、そばから眺めていたという訳だ。

 ……同じゲームの中で、不死属性付与と言う特等席に座して。



 キリトは、あの初めて人を愛して、結ばれたアスナを想った。


 アスナが泣いている姿を……脳裏に思い描いた。愛する人を泣かせ、血を流させた張本人がこの男なのだ。……許せる道理があるものだろうか? 否、許せる筈もなかった。

「いいだろう。決着を付けよう」

 だからこそ、理を捨てたのだ。信念に、本能に従って……。

「キリト、君っ……!」
「っ……!!」

 アスナの悲痛な叫び声、そして、信じられないと言うようなレイナの絶句を聞いたキリトは、ゆっくりと2人を見た。

「ごめんな。2人の言うとおりだって判ってる。判ってるんだけど、ここで逃げるわけにはいかないんだ」

 アスナは、何かを言おうとした。否定を、やめるようにと訴えようとした。だけど、それが出来なかったんだ。キリトの目を見たら、その代わりに……今言える言葉を必死に紡ぎ出し、口にする。

「死ぬつもりじゃ……ないんだよね?」
「ああ……必ず勝つよ。買ってこの世界を終わらせる」

 アスナの言葉に頷いた。そして、レイナを見て。

「オレ達4人で戦ったら、きっと圧勝だ。って思うんだがな。……今回はオレの出番の様だ。必ず勝つよ。レイナも見ていてくれ。……リュウキと一緒に」
「っ……!! ぜ、ぜったいだよ? ぜったいに……帰ってきてね……!」

 レイナの叫びにも、キリトは頷いた。次に目があったのはリュウキだ。

「悪いな。……見せ場、取ってしまったみたいだ」
「バカ……言うな。……自信があるなら、……とっとと倒してこい」

 リュウキも必死に今の状況に抗う。1対1ではなく2対1になれば、どれだけ勝率が上がることだろうか。それに、オレ達は漆黒と白銀の剣だったはずだから。

 キリトは言えなかった。

――たとえ、オレが負けて消滅したとしても、君達だけは生きてくれ。
――……リュウキ、オレが消滅したら……アスナを頼む。

 その言葉を飲み込み、キリトは立ち上がった。両手で音高く、2本の剣を抜き放つ。

「キリト!! やめろ……っ!!」
「キリトーッ!!」

 抜いたと同時に、声が再び聞こえた。エギルとクラインが必死に身体を起こそうとしていたのだ。……だが、まるで頭から巨大な手で押し付けられているかの様に、動くこともままらなかった。キリトは、まずエギルと視線を合わせ、小さく頭を下げる。


「エギル。今まで剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたんだぜ?口ではなんて言っても、お前が儲けの殆どを中層ゾーンのプレイヤー育成につぎ込んでいたことをな。」


 そのキリトの言葉を聞いて目を見開く巨漢の男。誰にも言ったつもりはない事だったから。

 そして、次に悪趣味なバンダナの刀使いに目を向ける。クラインは、何度も何度も何か言葉を探すように呼吸だけを繰り返していた。キリトが想うのはこの世界が始まった後のこと。

「……クライン、あの時お前を……置いていって悪かった。……ずっと後悔してた」

 掠れた声でそれだけを言った途端に旧友の両目に光るものが浮かび上がる。そして、たちまち滂沱の涙をあふれさせながら、クラインはもがいた。もがきながら叫ぶ。


「て……てめぇ!! キリトぉ!! 謝ってんじゃねぇ!! 今謝るんじゃねぇよ!! 許さねぇぞ!絶対に許さねぇぞ!! 帰ってメシの1つでも奢ってからじゃねぇと!!」


 ここまでのキリトの言葉をゆっくりと……何度も頭の中で再生する。


 あの男は、なぜこんな事を言う?
 …最初に見せた自信のある表情は嘘だったのか


 なぜ……今になって……、そんなことを……?


 そして、キリトはクラインに向かって、右手を持ち上げぐっと親指を突き出す。

「判った。約束するよ。次は向こう側でな?……OFFをやろう」

 また、約束を言っていた。あの男は死ぬつもりはない。そもそも、死ぬつもりなら、約束なんかしなくていい。

「なぁ……リュウキ」
「っ……」

 キリトは、後ろで倒れふしているであろう男の姿を思い描きながら言葉にする。

「オレはさ、お前のこと、本当に憧れてたんだぜ?あのβテスト時代からずっとよ。……いつの間にか先に行かれ、追いついても、追いついても離されて……離されて……、悔しさも当然あったが、それ以上にお前は、すげぇってずっと思ってた」
「………」

 リュウキは何も言わなかった。

 ……だから、なぜこんな話をする? これじゃあまるで……。

「でも、実際に色々と付き合ってみたら、お前って可愛いところもあって、なんだか世話のやける弟みたいに思える事だってあった。……オレにも色々と打ち明けてくれる様になって、心を開いてくれるようになって、本当に嬉しかった。……こんなオレでも お前の力になれるって思えたからな?……親友」
「ッ!!」

 これじゃあまるで……、走馬灯をみせられているようじゃないか。……自分のものじゃなく、他者のものの。そんな今際の言葉なんか聞きたくない。

 
 アスナは強く想っていた。


「……レイナも、リュウキを救ってくれてありがとう。……レイナがいたから ここまでこれて、そしてアスナも無事で、リュウキも無事だった。オレはそう信じてる。きっと、今まで生き残っている皆も」
「……や、やめてっ。そ、そんなの今、聞きたくないっ……!」


――……話ならこれが終わった後に聞きたい。なら、幾らでも聞いてあげる!


 レイナは、そう言おうとするが、喉に小石が引っかかった様に言葉が中々出てこなかった。

「……アスナ」

 キリトは、最後にアスナを見つめた。泣いている彼女を見て……キリトは胸中ですまない。と呟く。……その呟きは。



「っ……!!!」



 彼女の元に届いた。




 そう、キリトは……特攻をかけるつもりなのだ、己の命を捨てるつもりで……。

 



 
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