ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第100話 血盟騎士団・キリト
~第50層・アルケード エギルの店2F~
そして、あの激闘の後の数十分後。エギルの店は、ちょっとした宿泊施設としても機能しているから、その2Fを使わせてもらった。居候の真似事もキリトは何度もしているからだ。それに、ここは穴場とも言える場所であり……、ここの情報は外にはもれない。だからこそ、追われていた時、ここに来たのだから。
そして、今その場所で行われているのは。
「なんじゃこりゃあ!?」
「何って? 見たとおりよ。さっ! 立って!」
「そーだよっ! お披露目しよっ!」
アスナとレイナが殆ど強引に着せ掛けたのはキリトの新一張羅のお披露目会を開催したのだった。これまで、慣れ親しんでいたあの黒一択と言っていいコートと形は一緒のようだが、色はまるで違う。目が痛くなるほど白く、両襟に小さく二個、その背中に巨大な真紅の十字架模様が染め抜かれている。まぁ……わざわざ紹介するまでもないが、キリトが装備しているのは、血盟騎士団のユニフォームだ。普段のキリトのイメージカラーの真逆と言っていいだろうその容姿。
「……じ、地味なヤツって言わなかったっけ……?」
キリトがリクエストをしたのは、あの遠目からでも判る様な派手なユニフォームじゃない色が良いとしきりに言っていたのだ。アスナもレイナもそれは了承していた筈なのだが……、今に至る。
「これでも十分地味な方だよ? 似合うって!」
「うんうんっ! じゅーぶん、とっても、地味地味っ! キリト君似合うって♪」
まるで2人は着せ替え人形遊びでもしているのか?と突っ込みたくなる。それに2人の言う『地味、似合う』は褒め言葉なのだろうか?とも……。
キリトはそんな2人を尻目に、扉の方を向いた。その場所にいる男に向かって、半ば自棄になりそうな口調で聞く。
「……なぁこれ、お前の《眼》からでも、地味に見えるのか? リュウキ……」
キリトは、かなりの脱力感に襲われているのだろうか?ちょっと、自棄になりそう……だけど、それを通り越して、疲れてげんなりしてる様だ。キリトが向けた視線の先、その扉の前にもたれかかっているのはリュウキだ。だが、リュウキは俯いたままでキリトの質問に返さなかった。そんなリュウキの事が気になったのか、キリトはひょいっと身体を起こしながらリュウキの傍に行くと。
「……ってどうしたんだよリュウキ。ラグッてんのか?」
リュウキの肩を二度叩いた。すると流石に気がついたようでリュウキは顔を上げて。
「……ん。あ、ああ。悪い……考え……事を……」
リュウキはこの時キリトの姿を始めて直視し、再び固まるリュウキ。……正直、ここまでのやり取りは全くと言っていい程聞いてなかったし、見ていなかったのだ。キリトは、流石に突然固まったリュウキに不審に思い首を傾げる。
「ん? どうしt「ぷッッ!!」ッんなっ!!!」
セリフから判る様に……明らかにリュウキはキリトの姿を見て吹いていた。さっきも言ったように、3人のやり取りを全く聞いてなくて、その上、考え事をしていてまるで見ていなかった……。
そんな時に、突然キリトが視界に入ってきたも同然だ。
その姿は今までのモノとは違う。真逆だと言ってもいい。……だから思わず吹いてしまったのだろうか?
理由は兎も角、笑った事実は間違いない。何よりキリトは間近で見たからだ。そして、まさかの人物からの恥辱にキリトはいきり立った。
「って、おいぃ!! 何笑ってんだよっリュウキ!!」
「……別に、笑ってない」
「嘘付けっ!」
「嘘じゃない……」
「嘘じゃないなら、こっち向いて言えっての!! コラっ!!」
リュウキは素早くキリトを視界に入れないように、後ろを向いた。キリトがリュウキの顔を見ようとするが、くるっくるっ!と回り、巧みに回避わすリュウキ。その珍妙なやり取り……そんなのを見て笑ってないとか言っても説得力なんかまるで無いんだ。そんな2人のやり取りを見たアスナとレイナは顔を見合わせながら。
「「あははははははっ!!!」」
2人は、堪えきれずに、身体を九の時に曲げ、大声でお腹を抱えて笑っていた。
そして、次第にリュウキも白いキリトに慣れてきた様で。 キリトの姿を見ても笑わなく?なっていた。キリトも、『もーどーでもいーや……。』と言わんばかりにベッドに寝転がった。
そんな静寂も束の間だった。
アスナは、先ほどは大きな声で楽しそうに笑っていたが、その表情は息を潜めていた。
「……ごめんねキリト君、何だかすっかりまきこんじゃって……」
アスナは、キリトに謝っていた。キリトはこれまでもずっとソロだった。ギルドに入る切っ掛けを作ってしまったのは他の誰でもない……、自分なのだから。流石に、レイナは勿論 リュウキもそのアスナの懺悔には何も口出しは出来なかった。こればかりはキリト自身が言うべき事だから。
そして、キリトは、そんなアスナの言葉を一笑する。
「いいさ……。いい切っ掛けだったよ。ソロの攻略も限界が来ていたからな」
キリトはそう返していた。嘗て同じソロプレイヤーだったリュウキも最近ではレイナと殆ど一緒だからソロとはもう言えない。故にソロなのは自分だけ、リュウキならば今の状態でもソロでいってしまいそう気がしたが、もう レイナと言う人を知ってしまったから、ソロで行こうとはもうしないだろう。
だからこそ……、キリトは《ソロで限界》と言う言葉を出せた。
負けず嫌い故に、ここまで来たら簡単には口に出せそうになかったけど、もうソロは1人なんだから。そして、何よりもアスナと一緒にいる時間が楽しくて……、丁度良かったと本人も思っていたが流石にそこまで口には出せないようだった。
「あは……そう言ってもらえると助かるけど……、ねえ キリト君」
アスナはしばみ色の瞳がまっすぐキリトに向けられていた。
「教えて欲しいな。なんでギルドを……、違う他人を避けるのか……。リュウキ君は同じ境遇で、その……ッ色々あって特別だとしても……、元βテスターだから? それとも、ユニークスキル使いだから? ……そうじゃないよね? だって、キリト君、優しいもん」
リュウキの事は、皆が知ってる。その過去に何があったのかも。リュウキ自身は、支えてくれている皆がいるから、もう気にしていない、とは言っていたけれど、あまり妄りに言いたくは無かったから、言葉を濁した。
アスナの言葉にキリトは視線を伏せた。
そして、リュウキも何も言わずに腕を組んだ。……キリトの葛藤を知っている数少ない1人だから。
「……随分昔の事だ。一年以上……かな。一度だけギルドに入ってた事があるんだ」
自分でも意外なほどに素直に言葉が出た事に、正直驚きを隠せないでいた。だが……、続けられた。アスナの眼差しが……溶かしてくれる。そんな気がしたんだ。リュウキも、レイナに話した時、きっと同じ気持ちだったんだと思う。レイナのおかげで……自分の事を話せられたんだって。
キリトはリュウキとレイナを交互に見た。
その時、リュウキと目が合い……、リュウキは穏やかに頷いていた。
『……その気持ちは間違いない』
そう言っているようだった。
キリトは嘗ての記憶。悪夢の記憶の扉に手をかける。その扉は、ゆっくりと音をギギ、と立てながら……開いた。その先にいるのは、5人のギルドのメンバー達の姿。
「迷宮区でな……。偶然だった。偶然、あるギルドに助太刀をして、その縁で誘われたんだ。俺を入れて6人しかいない小さなギルドだった。はは、そう言えば、リュウキにもそこで会って、一応誘ったつもりだったんだけど、あの時逃げられたよな……」
キリトはリュウキの方を見て苦笑いをした。
「……それは悪かったな」
苦笑いには苦笑いで…、と言う事でリュウキも笑っていた。
「はは……、そうだ。名前も傑作だったっけ……。≪月夜の黒猫団≫だったな」
遠い眼をしながらそう言うキリト。アスナも名前を聞いて可愛く思い笑みを零していた。
「あはは……、傑作と言うより凄く名前から仄々してて良いね……」
レイナも、そう言って微笑んでいた。自分が所属しているギルドの名前よりもずっと良いって思っていた。
「そうだな……。レイナのその考え、間違いじゃないよ。本当に良いギルドだって思えた。……その時は俺よりも随分とレベルが低いメンバーだったから、本当のレベルを言えば引き下がったと思う。……でもオレは、自分の本当のレベルを隠してギルドに入ったんだ……。その時のオレは……ギルドのアットホームな雰囲気がとても、まぶしく思えたんだ。羨ましくも思ったんだ……。おかしいよな。こんな、俺よりずっと……ずっと 孤独に耐えていた男だっていた筈なのに……」
この時の言葉……。皆の耳には、キリトが悲痛な叫びを上げている風にしか聞こえなかったのだ。
「キリト……」
リュウキはこれまで何度も言った。『気にするな』と。だが、そんな言葉で気持ちが軽くなる者じゃないって事くらい……、何処かでは、もう解っていたはずなんだ。だから……、この時、リュウキはいつも通りに、気にするなと言えなかった。
「でもある日……」
キリトの表情は更に暗くなる。
記憶の扉。禍々しい風貌で、頭の中に映る巨大な扉、それを意を決して手を翳した。
あの≪運命の日≫
黒猫団のメンバーは殆ど壊滅したんだ。
迷宮区の隠し部屋にあった、宝箱に仕掛けられていた罠にかかってしまい、そして出入り口も塞がれてしまった。
「「ッ……。」」
その言葉を聞いて2人は何もいえなかった。その先で起きたのは、まさに地獄だろう。自分を迎え入れてくれた皆が目の前で……。
アスナは、目を見開かせて……、僅かだが涙を浮かべて。レイナは……口元に手を当てて……唖然としていた。
この事は……リュウキからも聞いていないことだったから。リュウキは妄りに話すことじゃないと、あの時の事は胸の内に秘めていたのだ。
「ギルドを壊滅させたのはオレだ。……元βテスターだと言う事を話していたら……あの時のトラップの危険性を納得させられた筈なんだ。……メンバーを殺したのは……オレなんだ。 あの時……偶然近くにいたリュウキのおかげで、助かった人もいる。だけど……半数以上が……オレのせいで……」
その言葉を聞いて……アスナはすっと立ち上がった。
まだ震えているレイナの肩をリュウキは抱き寄せた。リュウキもその場に居合わせている事を、今知って、そして、キリトが抱えている懊悩も今知って……、あまりの事にレイナは言葉が見つからず、涙を流しそのままリュウキにしがみ付いていた。
――……ただ唯一思ったことはのは何で、この2人なんだろうと言う事。2人とも、皆の為に沢山してくれて、助けてくれて……、なのに、それなのに……。
アスナは……そのまま キリトの方にゆっくりと近づく。そして……。
「私は……死なないよ」
囁くように……だけどはっきりとそうキリトに伝えた。それを聞いたキリトは硬直した全身からふっと力が抜けた。
「だって……私は君を守る方だもん」
アスナは……そのままキリトを包み込むように胸に抱いた。柔らかく、暖かな抱擁。アスナの優しさがキリトを包み込んだ。
――……キリトはこれまでにあの事件を忘れた事など一度たりともない。
あの時……ケイタに、『お前のせいじゃない。』と言われたけど、サチに、『……抱え込まないで。』とも言われたけれど……、それでも あの時の事は脳裏にずっと刻み込まれたんだ。初めて出来た仲間達の断末魔は……ずっと……ずっと……、脳裏に残り、消える事はない。リュウキにだって何度も言われた。自分は頷いていたんだけれど、きっと自分自身を赦す事が出来なかったんだ。当然だ……これは赦される事じゃない。
死者はもう戻ってこれないんだから……、償う事は出来ないんだから。
『……生き続ける事が弔いになる』
そうサチに言っていたリュウキ。キリトにも言える事、と言われたが、それでも……リュウキのあの言葉は、あのギルドの生き残り、残されたメンバー達に込められた言葉として自分自身には受け入れる事が出来なかった。
だけど……この時。
アスナの優しさに包まれたこの時。目を瞑ったその暗闇の中で、キリトは、あの時のメンバーの顔が見えた気がした。
――……テツオ、ササマル、ダッカー。
その暗闇の中で、確かに彼らが笑っているように見えた。初めて見て……まぶしく感じたあの時のままに、光に向かって歩いていく姿が見えた。
そう……、キリトの目には見えたんだ。
「レイナ……、少し出よう」
リュウキはレイナにそう告げる。
無言で頷いたレイナはそのままリュウキの腕に抱かれたまま部屋を後にした。
2Fの部屋の外、廊下に備えられている2Fの窓の前。丁度良くエギルは買出しに言っているのか、店は閉まっており誰もいなかった。
「……リュウキくん、私……私……、そんな事があったなんて知らなかったよ。……何も……知らなかった。……何で、どうして 2人にばっかりっ……」
レイナは まだ、涙を薄っすらと浮かべながらそう言っていた。ずっと、何故? と思っていた。
助けてくれた人達が、一番救ってくれている人達が、何でこんなに苦しい思いをしなければならないのか、と。
「……確かにあったな。あの時の事は……俺としても、辛い記憶だった。……オレ自身の記憶を揺り起こす切っ掛けの事件だから」
リュウキも窓の外を見ていた。そして、あの時のことを思い返す。両手をついて……絶望に顔を歪ませているキリト。その慟哭がダンジョンに響くその場面。
脳裏に浮かんだんだ。
そして、その姿が重なって見えたんだ
――……サニーを失った時の自分の姿と。
「……リュウキ君」
レイナは、まだ、苦しいとまるで言っている様なリュウキの背中に抱きついた。
レイナは、自分が、サニーさんの代わりになんかなれないって判ってる。
でも、その悲しみを、……悲しみ事抱きしめられたらって思いながら。
「私も……私もね。絶対に死なない……よ。そして、私もリュウキ君を守れるくらい強くなって……ずっと、ずっとリュウキ君の隣でいたいから」
レイナはそう答えた。触覚のシステムが働き背中に温もりが伝わる。それは、現実となんら遜色ない。リュウキは、回されたレイナの手を握り締めた。
「レイナは……凄く強い……よ。レイナに言っただろう?大袈裟だって言っていたけれど、レイナはオレの中の闇を掃ってくれた光だって本気で思ってる。そんな事、今まで誰も出来なかった。……ずっと、傍に居てくれたのに、申し訳ないって思うけれど爺やもそう。……オレは、レイナに救われたんだから」
「……リュウキ……君」
抱きしめる力を一段と上げるレイナ。お互いにこの温もりを忘れない。2人はそう思っていた。
「キリトも……きっと今俺と同じ気持ちだって思う」
「……え?」
レイナはリュウキの言葉を聞いて、リュウキの胸に埋めていた顔を離して彼の顔を見た。
「……キリトだって闇を持った。……ここでアインクラッドで、その闇が生まれたんだ。闇は、目を閉じていても、まるで無理矢理砂を目に捩じ込まれる。……息をしても、まるで肺から焼かれる。……そんな地獄の様な闇。……でも、それをきっと……アスナが掃ってくれたんだと思う。……だから、きっと彼女がキリトにとっての光になる。……間違いないよ」
確信がいくように、リュウキはそう答えた。アスナはレイナの姉だ。その事だけでも信じられる。十分過ぎる程に。
「……お姉ちゃん。……そうだね。だと良い……な」
扉の向こうでいる2人を思い浮かべながらレイナはそう言っていた。
「私は……リュウキ君も大好き。お姉ちゃんの事も、キリト君の事も……皆皆、大切だから……」
「オレも同じだよ。……大丈夫。オレはキリトの事、アスナの事、信じてるから。勿論……」
リュウキは、正面からレイナを抱きしめた。背中を何度も摩り。
「レイナの事も信じてる。……大切な、人だから」
「うん……」
そして、翌日の事。
いや、翌日を言う前に、キリト達のその後について。
キリトはあの後ホームである50層のアルケードへと帰っていき、リュウキ・レイナ・アスナも自身のホームへと帰っていった。
アスナにレイナは、『キリト君の所に行かなくて良いの?』って言ってたけれど。『今日はいい』との事だった。それはからかって言った訳じゃなく、今の彼の事を支えてあげなくて大丈夫か?と言う意味だった。
でも、大丈夫だとアスナは言っていた。
多分、まだ恥ずかしい部分もあると思えるんだけど、キリトは笑顔になったからと。それに、これからもずっと彼の事を見ているとも、アスナは心に誓ったのだから。
~第55層・グランザム~
気を取り直して 翌日の血盟騎士団本部。
その場所には、リュウキもいた。キリトの初出勤?となった記念にとの事だ。……冷やかし?と言う訳じゃないだろう。リュウキ自身は、本当にそう言った気持ちは無く……、レイナが行こう!と言ったから来た感じだから。
基本的に、リュウキは血盟騎士団に所属はしていないフリーエージェントの様なものだから、本部に帰る義理はないし、言われた訳でもない。……レイナがいるから来ているだけであり、基本的には、あまり此処には来たく無いから、仮にギルドへ来ては駄目だと、言われてたとしても別に何とも無い。
クラディールの1件もそれに拍車を掛けているんだ。
ただ、レイナが悲しい思いをするのだけは嫌だから、ギルド内では大人しくはしているようだ。
それはとりあえず置いといて……、そこでは何故か険悪ムードだった。リュウキは来たばかりだから、何故なのかは解らなかった。
「一体どうしたんだ?」
リュウキはそう聞いた。どうやら、険悪なムードを出しているのはアスナの様だ。……いや、よく見ると険悪……とは少し違ったようだ。アスナは、何処か落胆している様で肩を落としていたのだ。
「ああ……これから訓練みたいなんだ」
キリトがリュウキに説明した。 キリトの説明によれば、どうやら、幹部の1人ゴドフリーがキリトの腕に信用があまり無いらしく、それを示す為に55層から56層までの迷宮区を突破しに行かなければならないとの事らしい。
その経緯を聞いたリュウキは、理解は出来ていたが。
「……75層まで行っているお前からしたら、肩透かしも良い所だな」
リュウキは、そう言って軽く苦笑していた。確かに、キリトはヒースクリフに決闘で負けた。
その過程は置いておくにしても、その腕は間違いなくここアインクラッドではトップクラスだ。共にBOSS戦を戦い抜いてきているリュウキも勿論思っているし、キリトの事を知っている者なら誰でも首を縦に振ると思う。
ただ、突然余所者がギルドに所属し、それも有名な男であれば良い気はしないのだろう。
そして、リュウキはアスナの表情から大体を察した。恐らく、反対をしたんだけど、押し切られたんだろうと。
「リュウキ君の言うとおりだよ……。それにキリト君は……あんなのに比べたら問題にならない位強いのに……」
今は、落ち込み……というより憤怒で満ちていると言った様子だ。ただ……同じギルドのメンバーであるゴトフリーにに対して、《あんなの》呼ばわりはちょっとどうかと思うけれど。
「はは……」
キリトは苦笑いをして、落胆気味のアスナの方へと向かった。
「あぁ……、今日は一緒にいられるって思ったのに……。わたしもついていこうかな……」
心底落ち込んでいる様だ。今日のアスナはこれと言ってギルドの用事は無い。OFFとも言っていい状態だから。それに、キリトも新人の様なものだから、上司の権限!も使ったりして一緒にいられると強く思っていたんだ。
「あははっ……。お姉ちゃん、キリト君ならきっと直ぐに帰ってきてくれるって!その時……一緒にいれば良いっておもうよっ!ずっとっ♪会えない時もずっと思ってたら……会えた時、一緒になれた時、もっともっと嬉しいんだからっ!」
「「ッッ///」」
レイナの言葉を聞いて、キリトとアスナは一気に赤面をしていた。そう言えば、レイナやリュウキがいるのに、アスナは思わず本音を漏らしてしまったから。今更だけど、恥ずかしくなってしまったんだろう。
「まぁ……それが一番だな。団長殿や、副団長達は兎も角、他の連中が、キリトの腕を疑っているんなら、腕を見せるのが手っ取り早い。それに片手間だろう?キリトならその程度。……さっさと終らせてこいよ。待ってる人がいるんだからな」
リュウキも自分の事の様に……そう言っていた。《待っている人》がいる。これだけで、一日を頑張れる。それもレイナといて学んだんだんだから。
「えへへ……。」
レイナもリュウキの言葉を聞いて、その後のリュウキが自身を見てくれてるのを見て……、嬉しくなったようだ。
「ッ/// りゅ、リュウキも言うようになって……、なんかオレ、ちょっと複雑な気分だ」
キリトはリュウキの変わりようをずっと見てきて……、そう思っていたようだ。他人の好意に鈍感、そして年頃なら誰でも知っている様な知識も皆無。キリト自身も別に経験している訳ではない……だから悪く言えば知ったかぶりだけど、そんな風には微塵も見せずに、信頼をして聞いてくるリュウキがいるのだ。
……そこだけを見たら、ちょっとした兄気分だったんだ。
ただ……手のかかる弟の成長は喜ばしいとも思えるけれど。
「……なんだよ、その目は」
リュウキはキリトのその視線にやや不快だった様だ。よからぬ事を考えているんじゃないか?と疑った様だが。
「何でもないって。……はぁ、まあいいか」
キリトはメニューウィンドウを開きある程度の準備をした。そして、メニューウィンドウを消した。
「2人の言うとおり……直ぐに帰ってくるさ。だから、ここで待っていてくれ」
「う……うんっ♪ でも…、気をつけてね」
アスナはキリトの言葉にやや顔を赤らめたけれど……最後は少し寂しそうにして頷いた。集合は今から30分後。ここでやや時間を使ったから、もう少し推してるようだ。
キリトは、似合わないそのKoBのコスチュームをはためかせながら、出て行った。
「………」
リュウキは笑い必死に堪えていた。慣れた……とは、まだいえないからだ。
「あははは………」
レイナも、リュウキの表情を見て察し……苦笑いをしていたのだった。
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